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可愛い出会いがありまして


 翌日ーー。

 朝食の後片付けも終わり、ナータンから休憩して来ていいと言われ城の中を散策する。

 一応今は昼前だが、城内は薄暗い。

 中庭に出て空を仰ぎ見るがやはり薄暗い。だが決して今日が特別な訳ではない。

 魔界(ここ)は常な暗雲が立ち込めており日の光が射す事はない。


 そんな時、不意に視界に黒い集団が映った。


「あれって、コウモリ……?」


 別段珍しくはない。

 窓の外を覗けば飛んでいる姿を見るの事もある。だが様子がおかしい。

 特定の一匹を他のコウモリ達が攻撃していた。体当たりしたり足で引っ掻いたりしており完全に虐められている。


「助けなくちゃ」


 リーリアは咄嗟に駆け寄ると、コウモリの集団の中へと突っ込んだ。


「弱い者虐めはダメです‼︎」


 腕を大きく振り掻き分ける様にしてコウモリ達を追い払うと、パタパタと何処かへ飛んで行った。


「ふぅ……」


 一仕事終えて胸を撫で下ろしていると、虐められていたコウモリは力なく地面に落下する。


「あ、危ない‼︎」


 慌てて身体を滑らせ手のひらで受け止めた。


「良かったです……大丈夫ですか?」


キュ……。


 他のコウモリよりも小ぶりで身体は傷だらけだ。

 丸く黒いつぶらな瞳が何かを訴える様に見つめてくる。


「もう大丈夫ですよ」


キュルキュル……。


 小さな羽を広げリーリアの指に必死にしがみ付く姿に胸が締め付けられた。



「我々の世界は弱肉強食ですから、良くある事ですよ」


 たまたま通り掛かったベルノルトにコウモリを見せると、さらりとそう言われた。

 まあ魔族の世界だけの話ではない事はリーリア自身がよく分かっている。だが見捨てる事は出来なかった。


「ぽてと」


キュルキュル!


 治療をして元気になったので外に放そうとするが、何故かリーリアにしがみ付いて離れようとしない。

 少し悩んだが思い切って飼う事にした。

 名前はリーリアの好物であるマッシュポテトから取って名付けた。


 少しだけ今の生活に慣れてきたとはいえ、心細さや不安を抱えているのも確かだ。

 そんな中でぽてとの存在はリーリアにとって癒しとなった。

 


 それから暫くしたある日ーー。


「ぽてと⁉︎」


 リーリアが中庭で休憩をしていると、少し調子に乗り飛行していたぽてとがバランスを崩しぶつかってしまった……魔王(かれ)に。


キュルゥ〜〜〜……。


 そして目を回したぽてとは彼の手のひらの上に落ちた。


「……」


 無表情でぽてとをじっと見下ろす彼に、リーリアは息を呑む。


(た、助けないと……でもその前に謝罪が先ですよね……)


「あ、あの! ぽてとが申し訳ありません……でも悪気はないんです! 許してあげて下さいっ」

「ぽてと……?」

「なのでお願いします。た、食べないで下さい‼︎」

 

 勇気を振り絞り謝罪をするとセルジュはリーリアを見て顔を顰めた。


「俺はコウモリなど食べないぞ」

「え……」


 そう言いながらぽてとを指で摘み上げると、リーリアの手に乗せてくれた。


「ありがとう、ございます。あ……」


 予想外の事に目を丸くして彼を見ると、額がほんのり赤くなり血が滲んでいた。 

 ぽてとがぶつかってしまった所為だと理解し、慌ててまた頭を下げた。



 リーリアとセルジュは中庭の段差に横並びに座った。

 魔王が肩が触れそうな距離にいる事態に、緊張が走る。


「便利な力だな」


 あの後、彼に治癒の力を使ったので額の傷は消えている。


「あはは……一応これでも聖女の端くれなので……。でも聖女の中では低能力なんです」


 聖女には聖なる光と称する万能の力が備わっている。傷を癒したり戦闘時には光によって魔物を退ける事も出来る。但しその能力には個体差があり、正直リーリアの能力は高くない。軽い傷くらいなら治せるが、命に関わる様な傷や魔物を退ける力も弱い。

 自分で言いたくはないが勇者の言う通り役立たずだ。


「そんなに卑屈になる必要はない。魔族は自己再生能力は高いが、他者を治す力はないんだ。そんな俺からしたら十分過ぎる力だ」


 そう言われてリーリアは自分の無知さに恥ずかしくなり顔が熱くなるのを感じた。

 慌てて彼に治癒の力を使ったが、あれくらいの傷なら直ぐに治るのだろう。


「私、余計な事をしてしまいました」

「いや、幾ら再生能力が高くても多少時間は掛かるし痛みがない訳でもない。……ありがとう」

「⁉︎」


 セルジュからお礼を言われたリーリアは目を見開き固まった。

 

「どうかしたのか」

「い、いえ! なんでもありません」


 まさかお礼を言われるなど思わずリーリアは動揺する。

 相変わらず無表情だが、以前とは違って怖さは感じない。それに気を抜くと見惚れてしまうくらい綺麗で、色んな意味で落ち着かないので取り敢えず視界に入らない様に俯いた。


「リーリア」

「は、はい」


 暫く沈黙が流れる。

 そんな時、不意に彼に名前を呼ばれ思わず声が上擦ってしまった。


「これは、どうしたらいい……?」

「え……⁉︎」


 意味が分からず恐る恐る顔を上げると、いつの間にかぽてとがセルジュの顔面にピッタリと張り付いていた。


キュ、キュル〜……。


「ぽてと⁉︎」


 心臓が止まりそうな程驚いた。

 食べないとは言っていたが、流石にこれはまずいだろう……。


「何してるんですか⁉︎ 離れなさい‼︎」


 慌てふためきながら引き剥がそうとするが、剥がれない……。


キュ!


 するとセルジュはぽてとを掴むと軽く引き剥がした。そして目線の高さまであげ凝視する。


「フッ……中々見込みがありそうな奴だ」

「⁉︎」


 一瞬だが確かに笑った。

 リーリアの目の錯覚でなければ、だが。

 勝手な決めつけで、魔王(かれ)が笑う筈ない! と思っていた。

 もし笑ったとしても、冷笑の様に人を見下した笑みに違いないと。

 でも優しい笑みだった。


「どうやら俺がリーリアを虐めていると勘違いした様だ。守ろうとしたらしいな」

「ぽてとが……」


 彼はリーリアの手の上にぽてとを置いてくれた。その手付きは優しい。


「いい配下を手に入れたな」

「いいえ」

「?」

「ぽてとは私の友人であり家族です」

「……そうか」


(あ、また笑った)


 その事が何故か嬉しかった。

 

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