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魔王討伐失敗、囮にされまして


 この世界には人間が住む人界とは別に、魔界なる場所が存在する。そこには魔族と呼ばれる魔物達が住んでいる。

 魔物は時折、人界にやって来ては人間を傷付け時には喰らう凶悪で邪悪な生き物だ。そんな魔物達の頂点に君臨しているのが魔王だ。

 

 聖女リーリア・メルシェは、これまで魔王を倒すべく勇者や仲間と共に旅をして来た。そしてようやく魔王の住む城へと辿り着き、今正にリーリア達は魔王との最終決戦を迎えていた。だがーー。


「あー最悪だ! こんなの勝てる訳ないだろう⁉︎ 反則だろう⁉︎ 何だよ、何であんなイケメンなんだよー‼︎」


(え、そこですか⁉︎)


 全身ボロボロになりながら床に這い蹲り叫んだ彼は、勇者アベル。


(確かに稀に見る程のイケメンですけど……)


 アベルも金髪に青眼、顔も整っており一見爽やかに見える中々のイケメンだが、魔王には到底及ばない。寧ろ比べるのが失礼なくらいだ。だが今は全く関係ない。

 それよりこんな絶対絶命の状況でそんな事を気にする余裕がある事が驚きだ。

 元々アベルは自尊心が恐ろしく高くナルシストなので悔しくて仕方がないのだろう。


 アベルのみならず他の仲間の剣士や魔法使い、僧侶までやられてしまいこれ以上戦闘を続ける事は困難を極める。

 残すはリーリアのみだ。

 アベルからは何時も戦闘時は「無能は邪魔だから端っこにでも立ってろ!」と言われているが、今こそリーリアの出番だ。


(これでも私も聖女の端くれ……。何時も無能とかブスだとか役立たずとか言われてきましたが、ようやく私もお役に立つ時がきたようです!)


 リーリアは真っ直ぐに前を見据えた。

 息苦しくなる程の威圧感に息を呑む。

 漆黒の艶やかな髪と鋭く貫く様な紫の瞳、端麗な顔……恐怖で怯みそうになる一方で、その美しさに思わず見惚れてしまう。


(綺麗……でも凍えてしまうくらい冷たく寂しい目……って、今はそんな事考えている場合じゃありませんでした!)


 リーリアは我に返り気を取り直すと拳を握り締める。


「勇者様、皆さん、ご安心下さい。私が必ず魔王を倒して見せ……」


 魔王へ立ち向かうべく前へと足を踏み出した瞬間だった。

 勇者達は一斉に立ち上がり魔王に背を向け走り出した。

 突然の事にリーリアは呆気に取られる。


「え、あの! 勇者様⁉︎ 皆さん⁉︎」


 剣士が横を擦り抜け、魔法使い、僧侶と続き最後に勇者がリーリアの横を通り過ぎた。

 反射的にリーリアも踵を返したがーー。


「お待ち下さい、え、あ! きゃ‼︎」


 振り返った勇者に足を払われ転んだ。


「じゃあな! 精々、時間稼げよ! 無能‼︎」


 予想外の出来事に受け身など取れる筈もなく、勢いよく地面に頭を打ちつけた。

 朦朧としながら逃げていく勇者達の背に必死に手を伸ばしたが、彼等が振り返る事はなかった。


「っーー」


 コツコツとゆっくりと足音が近付いて来るのが聞こえる。

 きっとこのまま魔王に殺されるのだとリーリアは諦め、そのまま意識を手放した。




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