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ラディッシュ集合!

 栞は真っ白なユニフォームに身を包んで市立奥田小学校のグラウンドに到着した。

 まだ一人も選手が来ていない。一番乗りだ。そろそろ授業が終わり子供たちがグラウンドに来るはずだが。


 栞は設備を見て回ることにした。

 まず、グラウンドそのものだが今日は今年初の活動日で、昨年の雪が降る前から放置されている。つまり、荒れていた。

 

 枯葉が散らばり、雑草が生え散らかしている。地面はぼこぼこだ。


 まずはこれを何とかしないとと思い。倉庫からバケツを見つけ出して、枯葉を集め始めた。ついでにトンボを引っ張り出してバックネット裏に並べて置いた。


 せっせと湿り気のある落ち葉を集めるのに夢中で選手が一人やって来たことに気付かなかった。


「えっと、新しい監督ですか」


 声のしたほうを見ると、小柄な少年が立っていた。ジャージを着ている。


「米澤栞です。よろしく」


 栞は自然と笑顔になって自己紹介していた。この少年とこれから憧れの野球をやっていくのだ。栞はこの時をずっと楽しみにしていた。


「マサノリです。お願いします」


 マサノリは緊張した様子でぺこりとお辞儀をした。そのしぐさが可愛らしかった。

 マサノリは落ち葉拾いを手伝ってくれた。

 

 二三質問して分かったのが、マサノリは昨年たった一人入部した四年生。ちなみに今年の新入部員はゼロになりそうだ。

 ポジションはピッチャー。好きな選手はスワローズの石川選手。


 話しているうちに三々五々選手たちが集まってきた。一人来るたびに自己紹介を交わした。


 総勢十人。吹けば飛びそうな弱小チームだ。チーム名は「ラディッシュ」。この辺りの特産品である。6年生が卒業するとチームの体裁を保てなくなるため、隣町の小学校のチームに吸収される形となる。

 栞は何とかしてこのチームを残せないかと考えていた。


「何歳ですか?」

「大学生ですか?」

「好きなチームは?」


 などと質問攻めにあった。八月で21歳で、スーパーのパートで、ドラゴンズファンである。

 

 そんな中「コーチと付き合ってるんですか?」と質問された。質問したのはハルカ。五年生の女の子で、ポジションはセカンドだ。髪の毛を後ろで一つにまとめている。

 自分で聞いておいて「きゃー」と耳を塞いでいる。恋に恋するお年頃、と言ったところか。

 一見普通だが、野球の道を選んだ彼女を栞はまぶしく思った。


 栞もまだまだ子供に近い年齢。少々むきになって答えた。


「付き合ってません。というか会ったこともありません」

 

 そこで気付いた。コーチの佐倉という人物がまだ来ていない。


「みんな、佐倉コーチ知らない?」


 子供たちはいっせいに栞から目をそらした。


「いつも来ないよ」


 そう答えたのはヒサシ。六年生でエースだ。


「練習には来ない。試合には一応来るけど居るだけ。他に誰もいないから頼まれてやってるだけなんだ」


「そ、そう。野球の経験はあるのかしら」


「昔は良いバッターだったみたいだよ。自分では言わないけど、噂で聞いた」

 別の子が答えた。


「でも練習には来ないし、試合でも何もしないのね?」


 栞のこめかみを冷や汗が伝った。栞は野球の素人である。指導に関してはコーチに大いに頼ろうと思っていたのだ。もちろん自分で勉強もするつもりだ。


「もしかして栞ちゃんさあ」


 いつの間にか「栞ちゃん」と呼ばれていた。親しみやすさには定評がある栞だが、「監督」と呼ばれるのを心待ちにしていた分、がっかりした。


「は、はい」

「素人じゃないよね」

「……」

「あ、黙った」

「図星だ」

「やばくね? このチーム」


 栞は荷物の中からチームの名簿を取り出した。そこには監督コーチ、選手たちの住所氏名、自宅の電話番号に緊急連絡先が記されている。

 

 佐倉の電話番号は携帯番号になっている。栞は佐倉の携帯に掛けた。たっぷり10コール待ったが出なかった。


「と、とにかくグラウンド整備を続けてて。わたしは佐倉コーチを連れてきます。ボールは使っちゃだめよ」


 大人がついていないとボールを使ってはいけない決まりになっている。もしも見ていないところで子供がボールを使っていてケガなどしたら栞の責任は計り知れない。


 そんなことを気にしながら、栞はグラウンドを後にした。


 栞は佐倉の住所を確認して自宅から漕いできた自転車に乗った。

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