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記念写真

 栞は雪解け後の荒れたグラウンドを整備していた。


 授業が終わって五年生になったマサノリが現れた。

 続いて、最高学年になったコウタロウ、カズヒロ、ハルカが来た。

 そして、三四年生の新入部員たちが続々とやって来た。まだユニフォームが無いのでジャージ姿だ。


 統合の危機にあったラディッシュだが、昨年の学童甲子園の優勝により、多くの新入部員を獲得することができ、存続するに至った。


 そのおかげで栞も監督を続けることができた。

 佐倉はコーチを退くことができると思っていたと言っていたが、皮肉にもラディッシュを優勝に導いたのはほかならぬ佐倉自身である。

 それに本心から出た言葉ではないだろう。彼が野球から離れられないのを栞は知っていた。


 優勝メンバーで卒業していった彼らは全員が同じ中学校に進学した。そして全員が野球部を志望しているそうだ。そう、かつては陸上部を志望していたヒデノリもだ。

 今日にでも部活見学があるだろう。

 彼等ならば他の小学校からきた選手に後れを取ることはないだろう。


 しばらく全員でグラウンドの手入れをしていたがいつまでたっても佐倉が現れなかった。


 まさか、冬の間に気持ちがリセットされたのか。そう思った栞はボールは使わないよう選手たちに言い含めて、自転車に飛び乗って佐倉の自宅に走った。


 佐倉は玄関ドアにカギをかけない。それは一年前から変わっていなかった。

 栞はドアレバーを下げて勢いよくドアを開け、佐倉の部屋に飛び込んだ。


「呼び鈴は押して?」


 居間から出てきた佐倉が苦言を呈した。きちんとユニフォームを着ている。二日酔いということもなさそうだ。


「もうっ、遅いですよ。お日様が沈んでから来る気ですか?」


「ちょっと買い物に時間がかかってな」


 そう言った佐倉は片手にビニール袋を提げていた。

 中から棒状のものがのぞいている。


「なんです? それ」


 佐倉は棒を取り出すと、先端のキャップになっている部分を取り外した。中からはマトリョーシカのようにだんだん細くなっていく棒が出てきた。


「釣り竿」


 詳しくはきかないことにした。子供たちが待っている。彼らの前で話してもらうのがいいだろう。

 また佐倉の新しい練習法がラディッシュにもたらされる。

 そのことを想像すると胸が弾む。


「さ、行きましょう」


 栞は佐倉の腕をつかんだ。


「おい、待て引っ張るな。行くから」


 無視して栞は佐倉を引っ張っていった。

 早く子供たちに練習をさせてあげたい。その思いが彼女をはやらせた。

 目指すは今年の学童甲子園の制覇、連覇だ。


「佐倉さん、今年もお願いしますね」

「ああ、わかったわかった。だから離して?」


「そうはいきません。優勝目指してファイト、おー!」


 栞は佐倉を伴って駆け出した。



 

 さて、静かになった佐倉の部屋、靴棚の上にはスタンドに入れられた写真が飾られていた。

 昨年の学童甲子園で優勝した時のものだ。


 メンバーの誰もが笑顔で映っていた。

 あのクールなカズオも、写真に写りたがらないというセイヤも、皆が満面の笑顔だ。

 

 涙の跡を残している栞も、あの飄々とした佐倉でさえも。 

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