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装甲擲弾兵  作者: kasizuki.s.y
8/29

その8

 ······昔、神童。今、凡人。

 十で神童、十五で天才、二十過ぎれば只の人。

 末は博士か大臣か。......これは違う。


 この世界で云う『大賢者』は此方の『博士』に相当なのだから、まるっきり違うという訳でも無い訳で、だからと云って学制が違うのに簡単に同じだと云って良いかと云うとそれも何か...まぁ、良いか...。


 リーリッサ・ペロロペルアは現在進行形で天才と言われている。

 十代になる前に高等科教育を修得し、既に神童と言われ、十代の始めに法術の学術研究機関、最高峰学府への入学を許され、十代の半ばになる前に最高学位である『大賢者』と認められたのである。少なくとも周囲からは天才と認識されている。

 智恵と知識の『大賢者』の号を冠した少女は、以後もその冠に違うこと無く、法術と云う分野に、特にその技術系に業績を刻み続けている。


 そして現在、

 未だ十代。見かけも少女。

 他の人間なら何十年とかけても到達出来るか否かと云う域に到達したと認定された、リーリッサ・ペロロペルア。

 その天才と云われる少女を『技術顧問』として迎えたのが、この世界の軍事産業市場を、後発の新興『双剣と盾』社と同じ位占有する老舗『兜と籠手』社。

 当時、軍事産業市場で急速に拡大、追い上げて来た急成長の『双剣と盾』社に戦々恐々。

 市場で蹴落とされるとの危機感を募らせた『兜と籠手』社は、迫りくる脅威に対抗するには常に技術革新の必要が有るとの観点から法術界隈で天才と名を覇せていたペロロペルアを最恵待遇を以て招いた。

 学院を辞して、『技術顧問』として企業に場を移すことになった『大賢者』を冠したペロロペルアであるが、未だ十代。得た待遇はいきなりの高位役職付き。

 周囲にいるのは自分より上の齢の人間ばかり。表向きは大人として扱われるものの、その裏では子供だと侮られ。人間関係の醜さも堂々と隠すこと無く見せつけられる。

 十代の多感なと云われる時期を、あからさまな称賛と羨望、奇異、嫉妬やらやっかみの目で見られる環境の中で過ごす。聡いことで自身の位置を良くも悪くも理解してしまう。そんなだから、こうも、ひね......、

 生意......、

 ......。

 ......悪い意味で歳の割にな性格を形成してしまった。



 ペロロペルアが学んだ『銀聖獣記念法術科学院』は法術の学術研究機関、最高峰学府と謳われ、他の似たような組織より二週も三週も先を行く存在として周知されている。

「そもそも、魔術と魔法って何?」と疑問に想った魔術師と魔法使いと自然哲学者が集まり論じ合った学集会が起源とされる私塾で、創設も古く、三番手くらいに古い学問所であると云われ、その歴史は二千五百年は越している。

 研究者、探求者、学者の溜り場的存在が故、門戸は広いが、入学の資質を問う筆記試験······識字能力の確認······と面接······何しに来たのか聴きたいんだけど?······を掻い潜る必要が有る。

 特に面接は重要視されている。

 偶に現れる、

「都市を一つ更地に出来る、破壊力が膨大な魔術が使えるぞ、えっへん。」

 とか、

「殺傷力に特化した、多種多様な魔術が出来るんだ凄いだろう。」

 更には、

「泊をつけたい。」

 等という、

「すいません。間に合ってます。そう云うのはどうか他所で。」なのかを見極める為である。

 只、「えっへん。」「凄いだろう。」はそこそこ歓迎されてはいる。


 観察対象や研究材料として。


 法術を使えるか否かは入学の条件には無い。研究をしたいのであれば歓迎される。だが、法術を行使できる事は研究に有利であることだとは考えられている。法術を感覚で捉えることが出来る事の差は大きい。


 極端に云えば、自身を研究材料にできると云うことである。


 何故、法術は事象を現出出来るのか、

 法術式をどうすれば、効率良く事象を現出させることが出来るのか、

 法術と世界はどう係わり、どう影響し合うのか、

 などなど、を解明追究するを自ら任じているのが『銀聖獣記念法術科学院』であり、辿り着いた者に認められるのが各種学位称号である。

 その中でも最高学位称号であるのが『大賢者』。

 それは森羅万象を知り、全ての理に通じていると認められた者に贈られる号である。


 しかし、元より『大賢者』で無い者が『大賢者』を計る。流石にそれは無茶と云うもの。

 なので、


 提出された論文の重箱の隅をつつくのが仕事だと噂され、それが真実だと思われていることを誇りにしていると更なる噂がなされている学院審理会の検証を、異を言わす事無しに突破し、「真正」と認められた研究論文は魔術、魔法だけでなく世界の知識をも広く深く『識る』と認められたことでもある。それを纏め上げた者は、しかも、『真正』の御墨付を与えられたそれを複数発表したとなれば、最高位を得るに相応しい。


 斯様な、審理会が「真正」と認めた論文は『驚異と神秘と奇跡』誌の初頭頁を飾るのが伝統だとするのは同誌編集部の弁である。


 ペロロペルアの論文も結構な数が『驚異と神秘と奇跡』誌に掲載されているのだが、ハストンは内容に興味を示しても、執筆者には殆ど関心が無い。それ故に、ペロロペルアの名を聞いても「誰?」であったし、「それで?」であった。


 ドレトギャンから正体を明かされても、特段の感情が湧くで無く、

「それは、凄いですね。」

 特に意味が有って、無いような、取り敢えずは相手を持ち上げているかの様に聴こえる使い勝手の良い言葉で、俗に云う『大人の対応』をするハストン。

 外面は平素を装っているが素性を告げられ、

 〖どうしろと?〗

 困惑する。


 対応態度を変えることを求められているのか。崇め、奉れ、祈れ、平伏せとでも言うのか。

 判断に迷ううち、ハストン本人にもよく解らない内に苛立ちが勝手に加算されていく。


 そんなハストンを余所にトロウヤは『お澄まし』。

 今案件、性能試験の責任者である。当然ペロロペルアの素性を知っていた。

 知っていたトロウヤにしても、

「だから何?」と言う扱い。

『大賢者』だろうが技術顧問だろうが、いち軍事産業企業の人間と言う認識。

 上官じゃ無いんだから。


『双剣と盾』社組も競合相手のことである。見知った間だと云った処。

 昨日にペロロペルアとガルダルタはお互いに自社ゴレムを自慢していた仲である。

 今では、シルタが書き付けていた内容をガルダルタに説明している最中。聴いているガルダルタは偶に、ハストンと『兜と籠手』社との遣り取りを一瞥している。


 初見から態度が傍若無人、今以て、傲岸不遜のペロロペルアが、

「隊長さんは、専門教育を受けたの?」

 見極め様とする目付きをし乍ハストンへ質問。

 ペロロペルアの疑問に、

「教養くらいまでです。」

 しれっと答えるハストン。

 事前に用意されていた回答の様に滑らかに出て来た。

 トロウヤが疑惑の眼差しを向けて来るがハストンは素知らぬ顔。

 聞いたペロロペルアもハストンの答えを真に受け無い。

 〖そんな訳無いでしょうが。〗

 脳内で指摘する。

 教養と言う括りの範疇ではハストンが披露した情報量が可怪しい。


 一気に、『頗る怪しいひと』認定されるハストン。


「教養......。

 ......それだけ識っているなら、ゴレムに傷ひとつ付けるのは不可能だとも解ったでしょ。」

 そんなことを口にするペロロペルアの自慢気な様に、毛先程の苛立ち···本人申告···を覚えたハストン。記憶領域の片隅に発令所への攻撃という選択肢を刻む。


 大人気無い。


 ただ、ハストンにとってそんな事は最早些細事。

 今、ハストンの脳が最優先事項として充てているのは、今度の『兜と籠手』のゴレムに掛けられているであろう魔術とその破術方法。


 ゴレムにでは無い。土塊をどうこうする趣味は無い。


 物理弾のみならず、術装弾をも弾き返す(仮)······まだ、未見なので(仮)が付く······『重複集積描法』。理論は識っているものの、現物となると未だ見たことが無い。如何な構造なのか。

 ハストンが予想するところでは、『障壁系』、『抗法術系』、『増幅系』の術印が使用されている、との読みがある。何を於いても構成術印を自分の眼で直に見分したいところ。

 蒸すような暑さの中で湧き立ち育つ積乱雲の様に興味を掻き立てる。


 試験という模擬戦では、法術の使用が可である。しかも、小隊の全火力をぶつけても良いと云う話。あれやこれや、試してみたい事案が次々に湧き出して来る。


 脳内に湧き出しているのは事案だけでは無い様だ。多分、快楽系とか報酬系とか、

 蛇口全開で流し続けるのは危険である。


「楽しみです。」

 はじめ、気乗りのしない対ゴレム戦だったが、ここに来て前のめりな程に乗り気になったハストン。先のペロロペルアの言葉も『やる気開閉器』が『入』に入った理由の一つ。


 ペロロペルアとしては、どうしてその言葉が反って来るのか、理解が出来無い。

 話の流れからすれば異議か反論が相当だろうと想う。


 答えたハストンを凝視するトロウヤ。

 ハストンの目の色が「活き活き」の域を踏み越えて過熱、暴走しかかっているのでは、と思えて仕方ない。そこに一抹の不安は在れど、ハストンが如何な手札を出して来るのか、面白いことになりそうだと期待しているのも自覚している。

 何しろ戦車十六輛を「狩った」連中の隊長である。戦闘詳報ではそこのところを暈すように叙述しているが、どんな卑怯な手を使ったのか。五輛の撃破なぞ、余程悪辣な方法に違いない。


 ハストンとその小隊四十七名が聞けば、

「不当評価だぁっ!!我々は断固、抗議するぅっ!!」

 の大合唱であろう。


 ゴレムを向こうにハストン隊がどんな立ち廻りを見せるのか期待しているトロウヤ。

 つい先程まで押付けられ仕事な今回の性能試験に大した意欲が有るでも無く、事務的に粛々と、兎にも角にも、と片付るつもりであったのが、俄然、興味が湧いていると云う変わり様に自身も気付いてい無い。


 人は忘れ易く、身勝手な生き物である。


 それはそれとして、

 先程まで性能試験に不承不承乍だったトロウヤとハストンの二人が揃って、乗り乗りの遣る気に転じた。これは、


 歯止め、或いは制動の効き目が弛くなった。または故障状態で機能し無いことを意味する。


「さて、」

 周囲の耳目を集めるために声を上げたトロウヤ。五人分の視線が集まるのを待ち、

「大分、横道に...。」

 言葉が途切れる。

 口を閉じること無く、トロウヤの瞳が左手から天井付近を経て右手に到達、正面に移った後、

「軌道を...。」

 言葉を選び直し再開したが、またも中断。

 数拍の沈黙。

「明後日に逸れてしまいましたが、」

 再度、言葉を修正し乍、ペロロペルアとハストンに視線を遣る。


『双剣と盾』社のシルタとガルダルタの二人が「本当に」、「然り」と云う様な顔をしている。

 ペロロペルアとハストンは関せずと澄まし顔。ドレトギャンだけが恐縮している。


「話を戻すとして...。

 あぁ...。」

 トロウヤは、納戸の奥深くに仕舞い忘れて埃を被った荷物を引張り出す様に、記憶から『その時』を掘り出す。

「発令所の件からでしたね。」

 脱線地点は遙か遠く。気がつけばあまりにも離れてしまった。

「それでは改めて。

 各社、必要な機材を運び入れて貰う訳ですが...、」

 今度は順調に遣り取りが進む。


 軍の側から先に枠を提示し、企業側が提示された枠に押し込むのが従来なのだが、

 今回は、先に企業側に機器材設置に必要な敷地の広さ、関係者の予定人数等、必要数を見積り゙計画させ、要望とまとめて軍へ提示する形式とした。


 次回開会の予定期日を伝える、を最後に、今回の会合は散会。

 前日同様、逃げ損なったハストン。居残りが確定。

『双剣と盾』社組はお行儀良く退出。

 通り過ぎる際、シルタがハストンに向け僅かに頭を下げた。

『兜と籠手』社も変らず、

 退出するペロロペルアは途中ハストンを一瞥するが、その口元が上がっていた。昨日と違い機嫌は最悪では無さそうである。

 その後を、何度も頭を下げながら追いかけるように退出するドレトギャンの姿に既視感を覚えるハストンとトロウヤ。

 そのはずで、昨日も似た姿を見送った。


「勝算はあるんだろうね?」

 二人きりになった途端、トロウヤの第一声。

 言葉に確認以外の然したる意味は無く。


「勝算も何も、何がどうすれば『勝ち』なんです?

 未だ『状況』も知らされていないのに。

 決まったんですか?」

 トロウヤが聴きたい事に、何と無く察しは付くが、倍返しで撃ち返すハストン。


「それなんだが、」トロウヤは自身の耳の後ろ、生え際辺りを掻く。

 公平を期するという建前上、何処まで公開するのか考え、

「かなり自由度が高い。いや、制限が低いものになる。予定だ。」

 トロウヤが寄越した答は、どちらの視座からに依って微妙に意味合いが変わる。


 最早言葉遊び。


「うちらとしては、何処まで。

 幅が広いんですが。

 足止めで良いのか。破壊まで求められるのか?」少しばかり低い温度の横目でトロウヤを見る。


 トロウヤは他所を向き、

「全部だな。」

 声量小さ目、無駄を承知で足掻く。


 聢り、声を拾ったハストン、

「強欲だ。」

 口を強くへの字に結び、顎に皺が寄る。


 トロウヤの足掻きは違わず無駄に終わった。

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