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装甲擲弾兵  作者: kasizuki.s.y
35/35

その35

 満月のもと、月明かりと云ったところで、陽の下とは比べる方が無理。

 陽光は僅かな間からでも、突き刺す様にす。陰を霞ませるほどに強い。

 他方、月光は満月であろうと淡い。

 陰となれば直ぐに届かなくなる。

 人は、主に陽光の降り注ぐ間に活動する方向で発展。眼の仕組みのことも在って、宵闇の中で僅かな明るさで視ることが苦手になってしまった。

 それは、夜陰に乗じて迫る脅威と危険に対して為すすべが無いに等しい。


 これを解決したのが《火》の発見。

 遅れて《火》を生み出す技術の発明。

 《火》は明かりと共に「熱」の存在をヒトへもたらした。その有用性は計り知れ無い。手に出来る益を知ってしまったヒト種は《火》を手にしたことで、生存の機会を増やす手段を手にした、のみならず、他を圧倒する力を得た。

 ヒトは斯くして種としての繁栄への道を歩み出した。


 魔法と魔術が在るこの世界もそこは同じ。

 

 この世界では、

 ヒトが繁栄へ踏み出す黎明期、

 加えて、魔法が少なからず影響を与えていた。

 と、する考察が在る。

 法術系学術誌「驚異と神秘と奇跡」で発表された。


「初めに『光』が在った。」

 魔術の最初は《光》。

 魔法の最初は《火》であったのではないのか。

 或いは、最初では無いにしても、初めてから数えてもかなり初期なのでは。

 と、する考察。


 魔法は、呪文を必ずしも必要とし無い。本来は心象だけで事象を生み出すことが出来る。

 《火》を手に出来た初期のヒト種が、呪文を口に出来たのか否かは定かでは無いが、魔法使いならば、一度でも《火》を目にしたことがあれば《火》を現出させることが出来た筈。

 だとする。


 《火》を知らなければ、心象を作り上げるのは困難なので。


 それまで、自然現象でしか手に入れられなかった《火》。

 観察と経験の積み重ねを経て、摩擦を利用することで火を起すと云う人為的手段を確立した後もその難儀さ故、《火》がまだ貴重な時代。

 心象を想い描く事で《火》を現出させることが出来る魔法使いは貴重重要な存在。重宝されていたのではと推測される。


 《火》の利用を憶えたヒトは活動を日中だけでなく、辿々(たどたど)しくも夜の世界へも拡張。

 《火》が在ることで夜も活動し、夜にも活動したいことで《火》を必要とする、連鎖が形を成す。

 更に活動の範囲を広げ、陽の及ばない闇の支配域へも進出。生存域を切り拓いた。


 ここからは、この世界であり得た話。

 魔術の祖ファアルトゥリエが《光》を顕現させた密やかなる方の逸話は以前に述べた。

 こちらの方が真実であったとすると、その時、顕現させたのが《光》で無く、《火》であったら、この世界に魔術は存在し無かったかも知れない。

 若しくは何時かは分からないが随分と遅くに登場したかもしれない。

 もし、ファアルトゥリエが口にした魔術が《火》であったとする。

 もし、その場の近くに可燃物が在れば、顕現した《火》が引火した可能性が有る。

 そうなれば最悪、最初の魔術師になるはずのファアルトゥリエは、原因不明の失火で歴史に名を遺すこと無く朽ち、伴に最初の魔術も人に知られず立ち消え去って、最後の魔術になっていた。

 と、考えられなくも無い。

 そうだとすれば、

 銀聖獣記念法術科学院も当然に設立されるはずも無く、伴い魔法も研究が遅れたであろうことは想像に難く無いことから、魔法なぞと云うものも未だ怪し気な如何わしい存在としての扱い。

 そうなれば、

 文明の進み具合も足踏みか。

 そうと考えれば、世界最初の魔術が《光》の顕現であったことは幸運だったのではなかろうか。


 創造神へ挑み、敗れて地下の獄へと幽閉された叛逆の天使の如く。

 と、云うのは美化過ぎる。


 掛かったゴレムが陥った落とし穴と取り巻く第三小隊を、夜に無くてはならなかった《火》から取って代わった、魔術で出来た照明光が照らす。

 それらを外から眺める様な本隊側後方、離れた位置で迫撃砲陣地を構える第一分隊へ、小隊隊長マーカー・ハストン中尉が、従卒のクムトルタ一等卒が運転する指揮車で乗り付ける。

 指揮車には、ゴレム性能試験責任者、ミルドルト・トロウヤ大尉が同乗。

 到着した指揮車を第一分隊隊長のクロゾ・ロドエイ曹長が出迎える。

 陽は完全に落ちて、周囲は暗い。

 落とし穴上空には照明用の灯りが浮かぶものの、後方に陣を構える第一分隊までは、殆んど届かない。


 後方から支援を行うことを任務とする隊は、相手から位置を把握されるのを避けるために、灯火を制限する。

 暗闇の中の灯火は目立ち、良い目印。

「此処に居ますよ」

「攻撃してください」

 と、言っている様なもの。

 攻撃を始めれば自然に把握されるのだから、その前に進んで攻撃なぞされたくない。

 これで主力本隊が戦闘を始める前に支援部隊が先に損耗するなど、弓手や槍手が素手で戦うのと同じ。

 軍記、歴史を辿れば宵闇と灯火にまつわる彼我の失敗談はいとまが無い。

 穴底のゴレムに、

 しかも集中爆撃の洗礼を受けている真っ最中の

 離れた位置の第一分隊をどうにかできるとは考えられ無いが、そこは念の為。


 ロドエイにしてみれば、

 暗闇の中、態々、指揮車に乗って、責任者の偉いさんまで連れて来るなんて、何か有ったか、やましくなくとも不安がもたげる。

 内心、構えながらロドエイが、

「そろそろ閉店時間と、いきたいんですが。」

 状況確認を暗喩で仄めかす。

 事態が終息に向かっているのか、終わりが見えないのか。

 ロドエイの言葉に、全く以って同感のハストン。それでも無情な事実を伝えなければならない。

「いや。延長、終日だ。しかも未定になりそうだ。」

 ハストンの告知にロドエイの眉尻が下がる。


 たむろしている第一分隊の隊員達へ視線を遣るハストンがロドエイへ、

「『三号』はどうしてる?」

 尋ねる。

 姿を探すが見当たら無い。

『三号』とは、カーディンソン組のベエテ伍長のこと。同姓同名で階級も同じなのがもう一人、分遣隊の方に居る。

 しかも、小隊にはカーディンソン姓が四人、籍を置いているので区別のために番号呼び。

 ロドエイは苦笑気味に、

「そこら辺を走り回っています。」

 夜空へ視線を遣り、

「ですので。」


 ロドエイ曹長の視線に気付いたトロウヤが、ロドエイが向ける先を確かめる。

 浮かぶ観測機が《灯り》に照らし出されている。

 トロウヤに湧く疑問。

 〖観測機で、何故、走り回る?〗

 因果関係が解らない。

 それに、

 走り回っている?この暗い中を?

 しかも、ハストンもロドエイも伍長が持ち場を離れることを当然の様に許容している。


 ハストンの

「『三号』を連れて行きたかったんだが。」

 の言葉に、ロドエイはハストンが何を意図しているのか瞬時に察する。


何時いつ頃、戻って来そうだ?」

 ハストンの確認に、

「えーっと.........。」

 ロドエイが言い淀む。

 その内に戻ってくるだろうと気軽に考えて、カーディンソン『三号』へ許可を出したものの、そこら辺の範囲を把握してい無いことに気付いた。


 二人の遣り取りの傍らでトロウヤは、

 幾ら自由だとか今時とかでも、規則とか規律とか有るだろう。

 と、口に出さずに想う。


 眉間に軽く皺を寄せたハストン、

「帰って来たら、『三号』に分遣隊側、テドの所へ出頭しろ。と言っておいてくれ。」


 しくじった。と云う顔のロドエイが、

「了解です。」

 応える。


 そう言った傍から、『三号』ことベエテ・カーディンソン伍長が姿を表す。

 折角の準備やらが徒労に終わる、理不尽なことは、よくある事。


 ハストン達の傍をそのまま走り抜けようとしたカーディンソン伍長へ、

「『三「ベエテ伍長!」号』!」

 ハストンとロドエイが同時に声を掛ける。

 走り続け様としていたカーディンソン『三号』ベエテ伍長は気付いて、急停止。しかし、勢いを落としきれず、ハストン達から距離を空けた所で漸く停止。直ぐ様、身を翻し駆け寄るベエテ伍長、

「呼びました?」

 何故だか嬉しそうに見える。

 呆れを滲ませた顔のハストンはカーディンソンへ、

「来い。出番だ。」

 告げる。

 輝く表情をするベエテ伍長、

「はいっ!」

 勢い良く返事。

 ハストンはロドエイへ、

「『三号』を連れて行く。」

 続けて、本隊との連絡手段、休息等の幾つかを言付け、出発しようと振り向く、

「ん?、『三号』はどうした?」

 気付けば、カーディンソンの姿が消えている。

「走っていきましたよ。」

 答えを知っていたのは従卒のクムトルタ一等卒。

「あ・い・つ・はー!」

 ハストンが思わず、唸りの様な低い声でいち音毎に搾り出す様に発するのは、その都度、上昇しそうになるのを外へ逃がし、平常を維持しようと抑える為。

 カーディンソン伍長は待ち切れなくて、先に出発したのだろうが、ハストンには何処へ行けば良いのか伝えた憶えが無い。

 気が付いて戻って来るにしても、何時いつになるのか判らない。

 と、なれば、此処で待つのは勿体無い。先に手筈を整えるが良。

 との結論へ至るハストン。

 ロドエイへ再度、

 分遣隊、ラーフグリーフツ副隊長のところへ出頭しろ。

 とカーディンソン『三号』への伝言を言付け、ハストン達も分遣隊へ向け出発。


 トロウヤが疲れた様に呆然として、

「で、当然に居る訳だ.........。」

 何かを諦めた様に口にした言葉を、すぐ隣で耳にしたクムトルタ一等卒は、

 〖誰へ向かって.........。俺?。俺へ話し掛けているのか?〗

 トロウヤの独り言なのか判らず、答を返して良いものかどうかと困惑するも、そんな胸の内を、おもてに出さずに素知らぬ振りの澄まし顔。

 ハストンはハストンで、

「うがぁああーっつ!」

 意味を為さない声を上げながら、腕を振り上げ振り回す奇行に及ぶ。

 これで、遣る瀬無い怒りにも似た苛立ちを発散させている。

 少し距離を空けた小隊副隊長テドラルド・ラーフグリーフツ少尉と隊務長のエーザ・テェエアス曹長は、

 仕方無いなぁ。

 と苦笑するだけで放置。


 そのうち、放出仕切って基底状態に戻るでしょ。


 誰へ八つ当たりするで無く、自己消化してくれるのだから放って置くに限る。


 ハストン達がラーフグリーフツ少尉の分遣隊へ到着してみれば、そこには既にカーディンソン『三号』の姿。

 そこで、

 ハストンが、

 行く先を伝えた憶えが無いのに分遣隊に居るのは何故か?

 と、カーディンソン伍長(三号)へ問えば。

「出番って、隊長が言ったんじゃないですか。」

 と、返って来る。

「俺へ出番って。それって、俺たちの出番てことでしょ。

 だったら、皆のとこへ行かなくちゃ。と、思って。」

 結構、考えていた。

 後から追い駆けて来るだろうと考えていたハストン、手間が省けて喜ぶべきなのは解っている。

 しかし、何処か納得出来無い腹ただしさ。どうにかしなければ落ち着かない。それが、ハストンの今現在の奇行へと繋がる。

 子供の癇癪か。


 周囲へ八つ当たり散らさないだけ大人と云うべきか。


 第三小隊内部では暗黙で通じていても、外部のトロウヤには訳が解らない。

 視線はハストンを捉えたままのトロウヤがクムトルタ一等卒へ、

「中尉は、君らの隊長は、()()なのか?」

 問いかける。

 クムトルタにも、今度は自分へ向けられたのだと判断がついた。

 が、困る。どう返答しよう。

 いつもより大人しい方だと答えるのが正しいのか。

 それとも、

 いつもなら、 地面や大岩を殴り割ったり、目に着いた大岩や木樹を蹴り飛ばすやら、薙ぎ切り倒す。引っこ抜いて放り投げる、の森林破壊とか自然破壊に及ぶ

 だとか答えたほうが良いのか。


 どちらで答えてもハストンの評判は、あまり良いものとは云えない方向へ受け止められるのではなかろうか。


 しかも、後半の答だと、ハストンはまるで人ならざるもの、災害扱い。


 クムトルタもそうだが、第三小隊の隊員達はハストンがどう評価されるか、頓着が無い。


 隊務長のテェエアス曹長が、

「隊長!。揃いましたよ!」

 未だ発散中のハストンへ呼び掛ける。

 呼び声が届いたのだろうハストンの動きが止まり、

「応。」

 と返して隊員達へ向き直った顔は、普段と変わらない。


 あれだけ騒いで於いて、まだ満足していないのか。

 発散したのであれば、もっと晴れやかだとかすっきりとした顔をすれば良いのに、燻っているのか不完全燃焼なのか判別出来無い顔をしたハストンが歩み寄る。

 その先にはラーフグリーフツとテェエアス以外に、トロウヤが見知らぬ顔の隊員達とつい最近知ったカーディンソン『三号』が固まりで居る。

 固まりで居る隊員の一人が、

「出番だって、聞きましたが?」

 ハストンへ。

 発言したのは『一号』ことアーフカーディンソン軍曹。カーディンソン組のまとめ役、かしら的存在。

 トロウヤは以前に一度、カーディンソン軍曹(一号)を目にしているのだが、既に記憶の抽斗ひきだしの奥底に仕舞いっ放し。

「応さ。嬉しかろう?」

 ハストンは両手を腰に充て、胸を張り応える。

「涙が出るくらいに。」

 カーディンソン軍曹が返す。

 涙云々は大げさで、言葉程に感極まるとか歓喜しているのでは無いだろうが、嬉しいのは本当な様。

『三号』もそうだったが、軍曹を始めカーディンソン組の連中は皆高揚しているのか、落ち着きが無く浮き立っている。

 トロウヤから見ても、嬉しそうであることが判る位に。


 ハストンがこの選抜集団 ――カーディンソン組―― に何かの任務を与えるつもりであることはトロウヤにも判った。

 何かに特化した面子なのは推測できる。

 ただ、特別な任務の為の選抜集団なのだろうが、それにしては付き物の魔法使いが居る様には見え無い。簡単な魔術位は使えるだろうが、魔術師という訳でも無さそう。

 何か法術では無い特殊な技能に秀でた集団なのだろうか。


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