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装甲擲弾兵  作者: kasizuki.s.y
34/34

その34

 装甲擲弾兵第三小隊隊長のマーカー・ハストン中尉が、軽く目を見開いた顔をする。


 ゴレム性能試験責任者であるミルドルト・トロウヤ大尉は、ハストンの表情から、ハストンが何かを想いついたのだと直感で判った。

 だが、しかし、

 手放しで歓迎出来無いのが、予断も出来ず、油断もなら無いハストンの想い着き。

 直面ではかなり有用なのだが、厄介事をも同時に紐付けで引っ張ってくるという難儀なところを併せ持っている。

 薬も過ぎれば毒となる。

 ハストンの場合は薬は薬でも、劇薬だとか毒薬の類。或いは薬の副作用と云うところか。

 良い例なのが、ハストンが製作した件の『お試し』。

 対ゴレム用に、と製作しただけあってゴレムへ、それなりに効果が在る(決定打では無い)のだが、困ったことに想定を踏み越えて世の法術への影響が計り知れない。

 攻撃性法術の現出に対する防御性法術の展開と云う、受動的なそれまでの様式から、『お試し』で積極的、能動的に相手の攻撃性、防御性を問わず法術を無力化すると云う。

 ゴレムのみならず、世の魔法使いや魔術師にとっても脅威。そう簡単に世に広めて良いものじゃ無いシロモノだと判明。


「満月じゃないか。」

 の言葉を口にした後、ハストンは腕を組み、視線を何処とも判らないはすへ遣ったまま黙り込む。

 ハストンから高速で回転する様な唸り声とか、細かい部品が一斉に動作する様な音が聞こえてきそう。

 異様な雰囲気に、声を掛けづらい。


 短く響く呼びりんの音が聴こえて来そうな表情をして、ハストンは組んだ腕を解く。


 ハストンがトロウヤへ、

「大尉。

 あれは『夜目』が利きますか?」

 立てた親指で宙を指し示す。


 トロウヤの目が、ハストンの親指の先を追う。

 明かりの中に浮かび出ているのは、小さな黒い影。試験風景の観察、記録するための観測機。

 現在稼働中。

 統裁所では、今こうしている光景が映像で映し出されているはず。

 トロウヤは、

「『夜目』って?」

 何を訊かれているのか解らなかった。

 ハストンは、

「『暗視機能』付き?」

 言葉を変えて再度。

 観測機が暗闇でも可視出来るのか、と問われたのだと理解したトロウヤ。観測機の仕様を頭の中で想い返す。

「そう云う機能は無かった、に想う。」

 記憶に無いが、忘れている可能性を含めたトロウヤの答。

 その答を聞いたハストン。独り言の様に、

「暗がりだから判りにくいか。いや、月明かりが有るからなぁ。

 .........邪魔だな。」


 何やら不穏。


 ハストンの「邪魔だな」をしっかりと耳で拾ったトロウヤ。嫌な予感が湧き立つ。

「『邪魔』?何だい『邪魔』って?」

 敢えてハストンへ問い質す。


 ハストンは取って着けた神妙な表情を貼り付けた顔をトロウヤへ向け、

「大尉。

 これから不幸な事故が起こって、観測機が不幸な出来事に遭遇します。」

 トロウヤはハストンからの言葉に、

「決定事項なんだ。」

 呆れ混じりで応える。

 ハストンは真面目な顔で、

「決まっていたことです。」

 ハストンから出て来た可怪おかしな言葉に、半目になったトロウヤ、

「『先見さきみ』でも出来るのかい?」

 呆れ半分を滲ませて言う。


先見さきみ』とは、

 所謂いわゆる、未来で起きることを知る術。未来予知のこと。

 そんな法術は存在し無い。したことも無い。

 魔術師や魔法使いだろうと、未来予測や予想は出来ても(魔法使いや魔術師でなくても出来る)、未来の出来事を確実に知る予知は出来ない。

「未来を知っている」、だの言い出すのは三種の人間しかいない。

 詐欺師か本物の人外くらいなもの。残るひとつは、見境を失ったモノ。

 ハストンは、一番目(詐欺師)は対抗。二番目(人外)が穴馬。三番目は大穴だろう。


 ハストンの片眉が上がる。

 その口から出たのは、

「誰が?」

 薄く目を開いたままのトロウヤが、

「誰って。『先見』をした人間だよ。」

『先見』をしたのが、言い出したハストンではないのか、との意を込める。

 ハストンは訝しげな面持ちで、何を馬鹿げた事を言い出したのかと云う風に、

「そんな人間は居ません。」

 言う。

 半目のままでトロウヤが、

「じゃあ。なんで不幸な事故が起こると判っているんだ」

 胸元で腕を組む。

 ハストンは初めて耳にした、と云う表情を貼り付けた顔で、

「えっ!?

 そんなことがおきるんですか?

 それはたいへんだ。」

 台詞の棒読み。


 ハストンとトロウヤの会話を耳にした隊員が、

「なぁ。隊長達、何の話をしてるんだ?」

 ハストン達の会話が理解不能だと、そばの、同じく耳にしているだろう隊員へ小声で尋ねる。

 訊かれた隊員は、

「『深淵』でも覗けば、解るんじゃないか?」

 ハストン達が交わす話の内容の馬鹿馬鹿しさ加減に、投げ遣りな応えを返して寄越す。


 返された投げ遣りな答に、尋ねた隊員は納得したのか、

「そっかぁー。覗いちゃったんだぁー。」

 の言葉と伴に腕を組み、

「覗いちゃったかぁー。」

 沁み沁みと云った風に、目を閉じて何度も頭を縦に振る。


 周りの、ハストン達の会話を聞いていたのだろう別の隊員達も、知ってたと訳知り顔で腕を組み、他と同様に一緒になって頷く。


 その仲の一人はエデッタ一等卒。

 第四分隊でクゥクフリュラ兵長と並び、高位な魔術が使える魔術師格を持つ。

 エデッタは未だ『深淵』を覗いていないらしい。


 何処の何に得心が行ったのか。

 しかも、どうやらハストンにとってしてみれば、不名誉な方向での得心の仕方。


「お前ら!準備は良いのか!出番が来るぞ!」

 第四分隊の軍曹のお叱りが飛ぶ。

 それまで、妙な共感が生まれて頷き合っていた隊員達が慌ただしく散る。


 あまり褒められた方向で無い評価をされていることを、知ってか知らずかのハストンは蠢き.........では無く、動き始める。


 ハストンの閃きに在るのはカーディンソン組の存在。

 在ってこその閃き。

 ハストンの脳裏に浮かび上がる、カーディンソン組の五人。

 〖連中、大人しくしているだろうか?〗

 おそらく今頃、昂りを抑えているのではないのかと想像する。

 分隊隊長は苦労していることだろう。


 関連して、「第一分隊の扱いをどうするか」へ思考がうつる。

 カーディンソン組のひとり、カーディンソン三号ことベエテ伍長が配属。

 連れ出せば、その穴埋めを考えなければならない。

 第一分隊はクロゾロドエイ曹長の指揮の許、後方で迫撃砲陣地を構えている。

 今現在、ハストン指揮の第三小隊の内、第二、第三、第四の各分隊は「火山神」信仰よろしく、

 落とし穴底のゴレム(と書いて「邪神」或いは「疫病神」と読む)を

 鎮める(この場合は破壊する)ための

 捧げ物(集束手榴弾と云う爆弾の塊)をしている儀式(攻撃)の

 真っ最中。

 第一分隊は待機状態。迫撃砲攻撃を控えさせている。なので、現在、第一分隊は手持ち無沙汰状態。

 カーディンソン三号を連れ出すには都合が良い。


 ハストンとしては、目論見が上手くいかなかった場合を考えると、順次休養を取らせるための交代に充てた方が良いのかとも想う。


 この案件は後回しでも良いか。

 ハストンが頭の中を御破算。


 新たに考えるのは、観測機の扱い。

 これから起きる事に観測機の存在は色々と不都合。

 はっきり言って「邪魔」。正直に言って「邪魔」。

 仕方が無いので、観測機には不幸な事故に遭ってもらわなければならない。


 何が、どう仕方無ければ、

 ――順序とか段階とかを蹴り飛ばして――

 不幸な事故に遭遇しなければならない。

 ――論理の飛躍も生温なまぬるい――

 謎な理屈。


 〖もう、トロウヤへ告げてあることだし。〗

 結果在りき(?)なハストン。

 観測機の不幸な事故については、漠然としているが考えが在る。

 適当な理由付けだとして、それでも無理無く、極めて自然になる様な形、

 観測機にとっては不運が重なった結果として。

 に収める。

 こちらにとっては不自然に都合の良い事が、立て続けに起きるのであるが。

 其れ、人為的、作為的、と云う。


 残る最大の問題は、トロウヤの目。

 これが一番悩ましい。

 最大の問題なので。


 ハストンは視線をトロウヤへ遣る。


 このままでは、トロウヤにこれからのことを見られてしまうのは避けられない。

 さっさと統裁所へお引き取り願えば良かったと想えど、後の祭り。


 〖いや、避けさせることは出来無くは無いか。〗

 ハストンは考え直す。

 見られられない様にすることは出来る。文字通り目隠しするとか。


 〖あー、でも、〗

 否定材料が主張。


 それだと、目隠しさせる理由を説明せずに受け入れさせるのは難しいか。

 敢え無く撤回。


 それとも、有無を言わせず無理矢理にでも拘束して軟禁。片付くまで何処かに放り込んで於くか。

 直ぐ様、代案が登場。


 それなら、丁寧に梱包でもして統裁所へ送り返しでもした方が良いな。

 妙な方向へ変わる。


 しかし、これもまた直ぐ様、否定する考えが浮かぶ。


 これだと、終わった後で釈明しなけりゃならない。釈明は誤魔化すことは出来ても、してもしなくても処分は避けられない。何しろはたから見れば(身内からでも)立派な(?)上官への無理無体。叛逆行為認定されてもおかしくない。

 懲戒処分は確実。


 ハストンには、今の環境、生活はどちらかと云えば居心地が良い。これを捨て去るのは惜しいし面倒臭い。


 ハストンにふと、脳裏をぎるのは、頻繁に使う様になった

 不幸な事故。

 と云う言葉。


 観測機も不幸な事故に遭うのだし、トロウヤが不幸な事故に遭っても今更。不幸が二つ三つ続いたところで、

 三つは流石に続き過ぎか。


 昏い闇の奥底から、

 反しの付いた尖った尻尾やら、皮膜の翼を装備しているかは知らないが、

 囁やき呟く。


 尤も、囁やきがあまりに小声だったのか、呟きが聴き取り辛かったのか、ハストンへ届く事無く、心を動かすまでのことは無かった。


 さて、どうするか。


 ハストンの視線に気付いたトロウヤ。

 しかし、視線に載ったハストンの考えを読み取ることは出来無かった。

 個人的な怨恨以外の理由で上官へ害意を持つなどとは、頭の片隅にも置いてい無い。

 この時気付けなかったトロウヤは鈍であっても、危機意識が無いとまでは酷な評。

 トロウヤは、ハストンの視線が意味するところを探る様に、少しの間、視線を合わせる。


 少しの間。

 短い、と云っても、外野が観測する客観的な時間経過の流れと、当事者の主観的な感覚時間の流れの速さは必ずしも同じでは無い。

 当人達の感覚からすればそれなりの時間が経過。


 お互いの視線が相手へ真っ直ぐに刺さる中、戦略的撤退を決めたのはハストンの方。

 それでも、ただ撤退するだけなのも面白くない、

「統裁所へは戻らないので?」

 トロウヤへ告げるのは、今ならまだ間に合うと云う期待を込めた最後通告。


「勿論」がも当然に付くくらいに気付かないトロウヤ、

「責任者として、連絡線は短い方が都合が良いからね。」


 ゴレム性能試験の担当部署は、試験中に「異常事態」や「万が一」の事態の発生を想定すらしなかったと云う、叱責ものの失策に加え、統裁所に通信設備を備えていながら、統裁所と第三小隊の間に恒常的な意思疎通の為の手段を構築すること自体を考えすらしなかった。

 大失態。

 おかげで、「伝令」と云う現代からすれば時代遅れも甚だしい手段しか、統裁所とハストン小隊との間に効果的な連絡手段が存在し無い現状。


 想定外なのでは無く、怠惰と言われても仕方無い程に、考えることすらしなかった「万が一」な現況が今以て現在進行中。

 事態の悪化を拡大させないためにも素早い対処が求められる。

 現場との密な遣り取りを必要とする。

 それなのに、

 統裁所に構えてハストンとの意思疎通に、

 伝令なんて、間取まどろっこしいことしていられるか

 と、トロウヤは判断。


 ハストンの淡い希望を、合理的な判断からこれでもかと、捻り砕いて潰したトロウヤ。

 ここに至り、ハストンは腹を括る。


 トロウヤには尊い犠牲になって貰おうじゃないか。


 ハストンは明後日へと視線を外し、暫し無言。

 その間に頭の中では、急ぎ、大まかながらの段取りが出力。

「オル!」

 第四分隊隊長、オラソイオ・エネネエイナ曹長へ呼び掛ける。


「はい!」

 返事と伴に顔を上げたエネネエイナ。

 エネネエイナへ向かいハストンは、

「向こうへ行ってくる、」

 ハストンは親指を分遣隊へ指し示す。

「連絡は一号指揮車へ繋ぐように。」

 エネネエイナは右手を挙げ、了承の合図。


 ハストンはトロウヤへ振り返り、

「大尉も同行しますか」

 念のために確認。

 トロウヤは、

「行くともさ。」

 即答。

 顔に、

 面白そうだから付いて行く

 と、書いているのが読める。


 ハストンが指揮車へ向け踏み出そうとしたところで、

「.........おっ!?とっとっと.........」

 足が絡まるように固まる。

 無意識下からの強制制動。

 頭に警告が、

 隊長の移動時には従卒を随伴すること。

 後追いで浮上。

 半目になったテェエアス隊務長が胸元で腕を組み、観ている気がした。


 テェエアス曹長からの説教が、既に「確定事項」であることを思い出す。

 延長は御免被るハストンは連れて行く従卒を選ぶ。


 ハストンは装甲兵員輸送車一号車の天板上へ人差し指を向け、

「ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な」

 一音毎に交互に指差す、

 隊務副長のデサーウス軍曹は留守番で除外。

「お・ぼ・し・め・し・しゅ・く・ふ・く・あ・れ。」

 指先が停止。

 指先に在るのはアウララウル一等卒の姿。

「あれ?」

 ハストンは思い出す。

 〖あの時は、アウララウルを付き合わせたな。〗


 思し召しを覆し、

「クムトルタ!」

 従卒のクムトルタ一等卒を呼ぶ。




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