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装甲擲弾兵  作者: kasizuki.s.y
27/33

その27

 次々と、引っ切り無しに着弾する迫撃砲弾。

 地上に閃光が次々に瞬き、雷鳴が轟く。雷鳴の正体は重なり合う爆発音。


 破裂、爆発という、瞬時に大きな「力」が解放されることで、急速瞬間に周囲の空気を押しやる。次々に押しやられた空気が波になって耳に届くのが爆発音。一度に押しのけられた空気の量が多くなれば音も大きく、普段は軽く感じる空気が重たい塊となって人の体へ衝撃を与える。


 巻き上がる焔に爆煙に押し包まれてしまったゴレム。目視出来無い。

 自然に銃声はんでいた。

 爆煙に阻まれ、視え無い目標に向け弾を射ち込むのは効率が悪い。

 闇雲に射っても、弾丸を無駄に消費するだけ。

 命中しても、

 障壁効果で傷ひとつ着けられないじゃ無いか。

 と云う意見はむにゃむにゃむにゃ.........。


 それじゃあ、今迫撃砲弾をばら撒いているのは何なんだ。

 迫撃砲弾の無駄使いじゃないのか。

 と言われそうであるが、

 これは「制圧砲撃」と云う砲兵戦力運用のひとつ。

 想定区画に間断なく投弾。弾幕で押し包み、行動を封殺するのを主目的とし、あわよくば相手戦力の減殺を狙う。

 ひとつで二つ美味しいところを期待するもの。

 これをクロゾ・ロドエイ曹長率いる第一分隊に迫撃砲でやらせている。


 狙いを着けられない隊員達の指は、いつの間にか引き金から離れていた。

 顔を上げ、巻き上がる黒煙、立ち上る焔を眺める。

 偶に、爆風に乗って届く土礫や小石が当たる。


 隊員達が発砲をめたことを第三小隊隊長、マーカー・ハストン中尉は咎めない。

 射撃は、ゴレムが姿を現してからでも遅くは無い。


 ハストンは、ほぼ定位置と化した一号装甲兵員輸送車の天板上から、火焔と黒煙渦巻くその場所を見遣る。

 肉眼で全体、双眼鏡で細部。代わる代わる。


 油断ならないゴレム。

 ハストンは想う。

 なにせ、数点(時間)前の先の戦闘では、迫撃砲弾が次々と襲う中で、熱と破片、爆風をものとせず、悠々と「紫電しでん」の魔術を完成させ、球電を射ち出すなんてことをやってのけたヤツ。


 想い返すに、あの時は流石に肝が冷えた。よもや、ゴレムが魔術、それも攻撃魔術。しかも殺傷力の高いのを使えるとは思わなかった。

 ああ云ったことは、幾ら何でも事前に教えて於いて欲しかった。


 生死にかかわることなので。


 悪意が有りそうなんだか、大したことは考えてい無いんだか、今一つな何処ぞの意向と、ゴレムを造った軍事企業『兜と籠手』社のリーリッサ・ペロロペルアの

 第三小隊が、性能に関して事前情報を持っていると云うのは、

「なんか違うんじゃない?」

 の意見が採用されたこと。

 ゴレムに殺傷力の高い魔術を装備させても、試験で使わせる予定は無かったこともあって、ハストン達へは知らせないで於こう。となっていた。

 その結果が、今。


 前例が出来た。また同じことをするのでは、と考えたくなる。警戒もしようというもの。

 しかも、危険な「紫電」の他に「緋焔ひえん」、「氷鏃ひょうてき」の同じくらい危険な手札が有ることが判明した。

 ついでに「麻痺」も。

 以外に比べれば、まだ身体に優しいと思える魔術。


 何時、煙の向こうから氷柱や火球に球電が飛んでくるか判らない。

 警戒するに越したことはない。


 エエレ伍長も長銃身の対装甲銃器に魔力光を纏わせ、照準器から様子を窺う。


 ハストンにしてみれば、

 再び地面の下に沈めてしまいたいところだが、それにはゴレムの位置を視認した上で、魔法が完成するまでゴレムが動かないように同じ場所に釘付けにしなければならない。

 ハストンは、

 前のは、機会に恵まれた。不意打ち的のこともあって、上手く行っただけ。

 自戒を込めて分析。

 今回も同様になんて期待するのは、あまりにも楽観にすぎると考える。

 ともかく、爆煙の陰に隠れてしまって、ゴレムの様子が判らない今の状態では叶わない。


 ならばとハストン、

 いっそ、ゴレムが居る地点を含め、着弾地点一帯を液状化させてしまうかと想い着くが、直ぐ様、それだと地面を柔らかくしてしまうので、砲撃の効果が薄れてしまうという欠点に至り、破棄。

 それに、そもそも、対象を視認しながらでないと、中途半端に終わる可能性が大きい。

 最低でもゴレムの体長高の二倍、いや三倍の深さには埋めてやらないと。


 懸念するところは、

 前回のに味を占め.........では無く。

 ゴレムが前回のを学習し、回避したり、早期に対処することで脱出にかける時間を短くしてしまう。などで足止めにならない、失敗する可能性。


 しかし、このまま何時までも砲撃を続ける事は出来無い。手持ちの砲弾が尽きてしまえば、それで終い。

 砲弾が無限に湧いて出る壺が切実に欲しい。鍋でも大釜でも可。


 ハストンの思考がいつの間にか分岐点をおかしな方向へ進み始め出す。

 そんなものが実在すれば、世界の軍事均衡が崩壊しかねない。下手すれば戦争を呼び寄せる。


 此方側での話。

 複数の民族を内に抱える旧い帝国の第一位皇位継承者が、民族問題絡みで暗殺されたのを切っ掛けに帝国主義列強による世界戦争が起きる。

 戦争が始まった時、

 夏に始まった戦争は冬くらいには終わり、「聖誕祭」は家族で祝うことが出来る。

 期待も込めて、そう予想されていた。


 旧い帝国と同盟関係にあった新興の帝国はその地理的位置から、敵対する列強協商に包囲され、海の道も閉ざされていた。


 当時、列強協商を含め、火薬に必要な硝石は海外からの輸入に頼っていた。他の入手手段は考えられ無かった。

 戦争が始まり、列強協商は硝石産出国に

 同盟陣営に硝石を売るな。

 と圧力を掛ける。

 しかも、海の道を閉ざされて新興の帝国は硝石を入手出来無い。

 三〜四ヶ月もすれば火薬を使い果たした新興の帝国は白旗と両手を挙げて和を申し出るに違いない。

 列強協商はそう考えた。


 当初から猛烈な砲弾の射ち合い合戦になった世界戦争。

 このままの消費量を続けていれば新興の帝国の弾薬はもう直、底を尽くと予想された。

 我慢比べの様相

 しかし、秋を迎えた頃から、

 何かおかしなことが起きている。

 列強協商の上層部が気付く。

 そして、予想では戦争は終わっているはずの冬を迎える。

 新興の帝国は変わらず砲弾を使い続ける。戦場は拡大したのに。

 既に底を尽きているはずなのに。

 未だ衰えることなく砲弾を射ち続けている現状に、列強協商の責任者達、特に軍関係者は揃って首を傾げる。

 密輸、第三国経由、幾ら調べても判らない。

 もしかして、新興の帝国は、火薬が湧いて出る壺を持っているのではないか。

 そうとでも考えるしか説明がつかない。そう思い悩むまでに。


 新興の帝国が持っていた秘密は、不思議な壷では無く、魔法や魔術に見える化学技術。


 触媒と熱と気圧の力を借りて、無尽蔵ともいえる大気中から、火薬の原料に必須な「窒素」化合物を取り出せる技術。これがあれば、大気を使い切るまで火薬が造れる。

 そんな技術が在ることを列強協商は知らなかった。

 知ったのは、戦争が終わった後。


 斯くして、列強協商の目論見は外れ、世界戦争は四年の歳月に渡ることになる。


 もう少し続けるか、一旦区切りをつけて、もうめるか。悩むハストン。

 悩む間も砲撃が続く。

 もう少し、もう少しと引き伸ばすことと消費量が変わらないことに、気がついていないのか、無意識下で避けているのか。

 まだ手持ちが充分に残っている内に止めるのが最良。しかし、止めた途端にゴレムが行動を起こす可能性に躊躇。


 ハストンの左手が動く。

 左手親指を耳許、小指を口許に当てる。双眼鏡を持ったままの右手の人差し指を立て、動かせる範囲の小さな円を宙に描く。

「〖総員。構え。〗」

 大きな声で口から出すと伴に念話で全隊員へ送る。


 隊員達は照門から覗き込める高さへ銃を持ち上げる。照星の先は煙の中、漠然としか狙いを着けられない。


 ハストンは耳許と口許に当てた左手を離すことなく、クロゾを思い浮かべ、

 〖砲撃。め。〗

 伝える。


 着弾。

 轟く雷鳴。一斉に火柱が噴き上がり、土砂と破片をまき散らし、爆煙が空へ巻き上がる。

 続きは無い。砲撃が途絶える。

 立ち込める煙。

 重く響いた爆発音の残響が次第に小さく遠ざかる。


 緊張の一瞬。

 まだ晴れぬ煙の向こうから、「何か」が飛んで来るかも知れない。

 神経が逆立つ様な、得もし知れ無い感覚。


 煙が薄れる。少しづつ顕になる。

 緊張感が増す。


 見えて来たのはむやみやたらに掘り返され荒らされた着弾の跡地。

 それだけ。


 ハストンをはじめ隊員達は沈黙。

 周りを支配するのは静寂。

 動くものの姿が無い。気配が無い


 ハストンはゴレムの姿を探す。

 潜んで隙を窺っているのかも知れない。

 相変わらず悪知恵の働くヤツ。


 隊員達も目が彷徨う。

 在る。だろうと想っていたものが、無い。何処に消えた?

 一部に、破壊したのではないか、との期待も持ち上がったが、直ぐに立ち消え泡と消える。

 まかり間違えて、破壊出来たとしても、残骸位は在りそうなもの。

 残骸すら残さず、文字通りの「木っ端微塵」など、幾ら何でも楽観に過ぎる。

 微かな期待は、冷徹な説明の前に「粉微塵」に粉砕される。


 そんな遣り取り、

 隊務副長デサーウス軍曹とクムトルタ一等卒の連帯した説明の前に、軽はずみに希望を口に上らせてしまったアウララウル一等卒は、

「い、言ってみただけじゃないか........。」

 薄皮一枚の効力も無さそうに言い訳をする。


 傍での、隊務副長と従卒二人の他愛も無い遣り取りを聞くで無しに、耳から耳へ通過させたハストン、

「そうか。」

 閃きが舞い降りる。


「中尉。」


 反射的に振り返るハストン。

 〖なんで居るの?〗

 目にしたのは、

「やぁ。」

 似つかわしくない微笑みを浮かべて、軽く片手を上げたミルドルト・トロウヤ大尉。


 ハストンはデサーウスに監視を任せ、急いでトロウヤの許へ行く。

「何、やってんです。」

 語気荒目でトロウヤへ詰め寄る。

 にこやかにトロウヤ、

「追加の砲弾を持って来たついでにね。

 それと、」

 真顔になり、ハストンを正面から見据え、

「先に謝らせてくれ。」

 姿勢を正すと、

「すまない。」

 深く頭を下げる。

 いきなりで、文脈を把握できないハストンの眉間に浅く皺が出来る。

 トロウヤは上体を起こし、

「思い直して、色んな方面へ『支援』を頼んだんだが、」

 それまでのハストンへの視線が一瞬、逸らされる。

「駄目だった。」


 聞いたハストンの方は、

 〖あ、そう.........。〗

 と、特に表情を変えること無く、言葉も返さない。

 ゴレム相手に頭がいっぱいで、他からの助力などという考えは置く場所が無い。期待など忘れていた。


「隊長!」「構えっ!」

 ハストンを呼ぶ声に被って、

 第四分隊隊長オラソイオ・エネネエイナ曹長が声を張り上げる。

 ハストンは直ぐ様、左手を念話の型にすると右手人差し指で宙に円を描くのを繰り返しながら、

「〖総員。射て!〗」

 全隊員に聞こえる様に叫ぶ。


「それでね、中尉。」

 トロウヤがハストンへ話し掛ける。

 規則正しい連打音が始まり、適当な間隔で続く弾ける音を塗り潰す。

 トロウヤに構わずハストンは早足で装甲車列へ向かう。

 そのあとをついて行くトロウヤ、

「ここいらで本業をしようと思ったんだ。」

 ハストンの直ぐうしろから話し掛け続ける。

 トロウヤの話に反応をし無いままハストンは、掩体にしている装甲兵員輸送車の傍らへ。

 二輌の装甲車では、車輌の上部、前後と云った陰から、隊員達が構えた火器で弾雨を降らせている。

 ハストンは装甲兵員輸送車の一号車と四号車の間から射撃を行う隊員の背後から様子を窺う。

 トロウヤも覗き込む。

 放たれる銃弾という銃弾が一点へ吸い込まれていく。

 迫撃砲弾が着弾を始める。

 焔が立ち上り土砂と破片を撒き散らす。


 一点を見つめているようで、焦点が合わない目をしたハストンは念話の型にした左手を顔に添えている。

 七つ目の火柱と煙、土礫を巻き上げたのを最後に砲撃が止む。

 続くのは弾丸を射ち出すための薬莢をひたすら撃ち続ける機械音と破裂音。


 トロウヤは金属の礫が向かう先へ視線を据えたまま、

「案があるんだ。聞いてくれ。」


 視線の先では、銃弾を浴びているゴレムが謎の行動を始めている。


 ゴレムの動きを注視したまま、トロウヤへ振り向きもしないハストンは、

「『遊星』を召喚して、ぶつけよう。ってんじゃないでしょうね。」


 銃弾が飛んでいく先のゴレムは、手を地に着き伏せるかと思えば、体躯を起こして起立する。暫くすると、また伏せようと手を地に着く。と云った行動を続ける。

 起立した方が良いのか、伏せた方が良いのか判断に迷っている様に見える。


 トロウヤは予想もしなかった言葉が返って来たことで、ハストンへ顔を向ける。

 反射的に、

「違うよ。」

 即座に否定。

 後から追い付く様にハストンの言葉が意味するところを理解したトロウヤ、

「何、その、おっかない案。」

 目を見開く。

「と云うか、出来るの!?」

 衝撃に思わず口走る。

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