その25
統裁所で、
軍需企業『兜と籠手』社の若き、
女性に年齢の話は、
地獄への片道切符が無料発給される。
発給元が女性か地獄なのかは不明。
と云われている、とのことなので詳しくは記さない。
「十代後半の少女」とだけは表記して於く。
技術開発責任者、リーリッサ・ペロロペルアは、自ら開発、設計を手掛けた軍用ゴレムを破壊あるいは活動停止にしなければならないと云う問題に懊悩していた。
無敵。
と云ってしまえば、
いくら何でもそれは過大評価
だとの誹りを受けかねないが、
砲弾を撥ね返し、法術を撥ね除け、有する高い攻撃力で敵や障害を排除出来るゴレム。
弱点になりそうなものを丹念に潰して死角無し。
強いゴレム。
ペロロペルア御自慢の軍用ゴレム。
これが味方であるままなら頼もしいこと、この上ないが、
そんな存在が、いざ敵方になるとこれほど脅威になるとは考えもしなかったペロロペルア。
ゴレムも何だかんだと云ったところで所詮は道具でしかない。
道具は使用者を選ば無い。是非の判断もし無い。
与えられた役割をただ熟すだけ。向ける相手を選ば無い。
ペロロペルアの空回り気味に加え、余計な雑念
「大賢者」の号を送られた自分が創り出した存在を、「大賢者」の自分ではどうにも出来ないとは。
「肩書に似つかわしくない」、「生意気、傲慢、不遜」、「『大賢者』号は早すぎた。」
などという、嘗て投げかけられた心無い声が蘇り、感情が漣立つ。
が絡みつく頭では、
上手く考えをまとめることが出来無い。どうすれば倒せるのか、考えもつかない。
有効な手立てを想い着け無い。
それが更に漣を大きくさせ、もやもやした苛立ちと焦りを生み、余計に思考を目一杯に空回りさせる。
内に懊悩するペロロペルアを、知ったこっちゃ無いと、男四人は四人で話し込んでいる。
「よくも、まぁ、こんなもの想い着いたものだ。」
軍用ゴレムの性能試験責任者、ミルドルト・トロウヤ大尉は小さな金属箔を手に、かざすようにして眺める。
「こんな子供の工作みた.........。
失礼。立場が無いですよ。」
『双剣と盾』社のブレダ・ガルダルタがぼやく。
最新鋭の技術と資材料で、ひとつ辺りが高価な製品(当然、兵器)を生み出す軍需企業にしてみれば、ハストン中尉の「お試し」など比べようも無く、子供がそこらのガラクタから組み上げた工作にも等しい。
安っぽい原材料の薄い金属箔に解呪系の術陣を描記してあるだけの、至って簡素な代物。
ガルダルタと同じ『双剣と盾』社の技術主任、『双剣と盾』側の軍用ゴレム開発責任者のソーリッド・シルタは、
「見かけだけだと騙されますが、この描記されている術式。
書き込まれている情報量が多いのに、こんな小さく描記すれば、記号なんか潰れて現出に支障が出そうなものです。
多分、これの製作にも法術を使っているんじゃないかと。」
感心と呆れを混合した言葉を口にする。
『兜と籠手』社のエルムト・ドレトギャンは腕を組んで、
「何処からこんな発想が出て来るんでしょうね。
あの方、随分と法術に詳しい様ですし、知識も何処から仕入れたのか。」
頻りに頭を左へ右へ傾げる。
第三小隊隊長マーカー・ハストン中尉の事が耳に入力されると。ペロロペルアの漣が三角波へと増幅する。
そこら辺の並の兵隊なんかでは蹴散らされるのがいいところ。戦いに臨めば
向かうところ敵無し。歯が立つ訳が無い
と、ペロロペルアが豪語した自慢のゴレムをどうにか足止め出来ているのがハストン。
以前の試験の打ち合わせ説明会で、
堂々
「なんとか出来る」
との言葉の通りに、実現している。
未だ、完全に活動停止はもとより行動不能にも出来た訳では無いが、まだ手札が有るようなことを言っていた記憶をペロロペルアに思い起こさせる。
天才などと持て囃されている自分に出来ないこと、想い着か無いことを、言葉だけで無く実際にやって見せることが出来る存在へ抱く感情。
ペロロペルアも人の子。歳以上に大人びた精神を持っているにしても、負の感情が燻ぶることに年齢制限は無い。
流石に、感情に囚われて為すべきを疎かにする訳にはいか無いとペロロペルアは想い直す。
感情をそのままに棚上げしても取り組まなければならない。
このままゴレムを止めることが出来無ければ、やがては演習場の外へ出てしまう。
もし、そのまま都市部へ入り込んでしまったりすれば。
ゴレムに、「兵士」と「民間人」を区別する識別する手段も方法も組み込んでい無い。思い着きもしなかった。そんなこと。人間でも難しいのに。
敵側へ、そんな配慮が必要だろうとは一片も考えもしなかったペロロペルア。全ては「敵」としてひと括り。
簡単に考えていた。
そして今、こちらがその「敵側」なんだ。
思い至ったペロロペルアに、苦くて気分が悪くなる様な悪寒が内に広がる。
兎に角、
演習場の敷地から出さず。演習場内で片付ける。ゴレムを完全に活動停止にしなければならないこと。
外に出す訳にはいか無い。
ペロロペルアは湧いて出る雑念を頭から追い出し、今しなければならないことへ意識を向ける。
一号指揮車の車中で、
ハストンは念話で、第一分隊隊長クロゾ・ロドエイ曹長へ、分隊を集合させて於く様に、と事前連絡を入れる。
分遣隊から第一分隊まで大した距離ではない。指揮車での移動となれば僅か。
それでも指揮車が到着するまでにはロドエイ分隊隊長と第一分隊は整列を終えていた。
過載積をある程度解消した指揮車が到着。
アウララウル一等卒が運転席側窓枠から頭を出し、
「お届け物でーす。」
軽く、明るい物言い。
必ず言わなければならない決まりは無かったと思う。
無かった筈。
車外に出たハストンは隊員へ、指揮車に積んである迫撃砲弾を運び出す様に指示。分隊隊長のロドエイへは事態を、
ゴレムは暴走状態で、平気で殺傷力の高い魔術を放って来る事。
何を目的にしているか不明。
最悪を想定すれば完全に活動停止、言い換えれば破壊しなければならない事。
迫撃砲の効果は気休め。それでも無いよりは必要だと、婉曲も飾るも無しに、
説明する。
最後のは、存在意義の考察が必要なんじゃないかと全力駆け足で脳裏を掠め去ったクロゾ・ロドエイ。
その上に、ロドエイの口から隊員達へ説明して於くようにと、
急を要するから。
を、どこぞの「やんごとなき」家紋の御旗を使う様に、押し迫られて受け容れさせられた。
上官命令にしとけば?
積んで在った砲弾を降ろし終われば、ハストンは、
用は済んだ。
と、すぐさま指揮車へ乗り込み、慌ただしく出発。
猶予が無く、急がなければならないのは事実、確かではあるが、
実情は、
余計な指摘をされないうちに逃げた。が正解。
本隊に到着。
運転席のアウララウル一等卒は制動を掛けつつ、指揮車から外へ向かい、
「ただいまー。」
変わらず、明るく軽い口調。
助手席でハストンは、
〖「お届け物でーす。」じゃ無いんだ。〗
アウララウルが到着の度に発していた、決まり事みたいな言葉では無かったことを内心で指摘する。
おそらく、アウララウルはハストンが指摘を口に出すのを待ち望んでいると思われる。ハストンとしては期待に沿う義理は無いので素知らぬ顔でやり過ごす。
指揮車が停止するや、本隊の指揮を任せていた第四分隊隊長のオラソイオ・エネネエイナ曹長が早足で近づく。
「隊長。手が咲きました。」
真顔で報告するエネネエイナ。
単語の取捨選択が可怪しな具合になって、意味が解らない。
何か動きが有った。
と、だけは理解出来たハストン。急ぎ、装甲車列へ向かう。
ハストンは一号兵員輸送装甲車の天板上に登り、隊務副長のデサーウス軍曹が差し出した双眼鏡を覗く。
焦点を合わせて彼の場所を見遣る。
掘り起こした様な地面から突き出た四本の太さのある棒が、放射状に広がったり、閉じたりを繰り返している。
見ようによっては、花が咲いたようにも見える。
無理筋か。
人間で云えば手首から先の部分が地上に出てきた。
ゴレムなのだと瞭然だから良いものの、これが人の手にそっくりであればちょっとした怖話。通報案件。
諦めることなど、端っから持ち合わせておらず、教えられたことも無いゴレムは、ひたすら自分の上に積もる土を持ち上げたり、掻き分けたりして少しづつ可動域を広げているのだろう。
装甲車天板の上に立ち上がり、隣の四号装甲車を掩体にしている第四分隊へ向かいハストンは、
「魔法使いと魔術師は集合。」
声を張り上げる。
装甲車から降り立ったハストンは、待ち構えていたエネネエイナへ、
「急いで弾薬を降ろしてくれ。
あまり猶予が無さそうだ。」
伝える。
聴いたエネネエイナが強張る。
すぐさま、エネネエイナは声を張り上げ、数名を呼び寄せる。
クゥクフリュラ兵長をはじめとするエエレ伍長ら隊員達がハストンへと寄る。
ハストンは、集まった隊員達へ、
「並んでくれ。横並びで良い。」
言葉に従い列をなす隊員達へ、
「限定を解く。」
予期していたのか、隊員達に驚いた様子は無い。
ハストンは、
「各自、左手を出してくれ。」
ハストンがこれからすることを解っている隊員達が、言われるままに左掌を出す。
ハストンは自身の左右の人差し指と中指で、先ずは隊員二人のそれぞれの左掌に印を同時に描き、続いてハストンの両の親指と人差し指に小指を隊員の左掌へ当てる。
そのまま、
【自が身が鍵。彼に施した錠を解く鍵。今、解き、放つ。課を棄て、為すがままに。意のままに。自らが持てる........。】
呪文を唱える。
隊員の左掌に薄ぼんやりとした光が乗る。
詠唱を終えてハストンが両の人差し指と中指で隊員の掌を軽く突く。
薄ぼんやりした光が掻き消える。
終えると次の隊員へ。
今、本隊側に居る魔術師と魔法使いが少ないからこそ出来たことで、これで数が多ければ、分遣隊で行った儀式をここでもしていた。
制限の解除を終えたハストンは、息をひとつ吐き、大して使っていなかったにもかかわらず両の肩関節を回転させるように動かし、首も回すと両腕を肘から上に向けた格好で開く様にして、胸を突き出す。
一連の動作を終えたハストンは、指揮車から弾薬を運び出し終えたのを見計らい、
「オル!」
呼びかけると伴に手招き。
エネネエイナが寄るとハストンは、
「指揮系統をを戻す。分隊指揮に戻ってくれ。」
告げる。
エネネエイナは「気を着け」の姿勢を取り、
「第四分隊指揮に戻ります。」
命令を確認。
ハストンは何度目になるのか、
「其れと、近接戦闘は禁止だ。と徹底してくれ。」
間近、眼の届くところに居ると云うのに態々、口にする。
ハストンは執拗いくらいに頑なまでに注意する。
命令だと言われてしまえば不承不承でも承服せざるを得無いエネネエイナ。
とは云え、不満であることを表情を消すことで表す。
ハストンは鼻から息を軽く、そこそこ長く吐き、
「俺達しか、居ないんだ。」
出て来た台詞は、聴き様に依っては、
自己犠牲や英雄的行為、はたまた選民意識などの色彩っぽい意味合いの様なものであるが、
ハストンの意味するところは、実のところ、もっと単純。
「増員も、補充も、支援も無い。」
現状をただ語っただけの話。
無い無い尽くしの話。
「離脱者を出す訳にいかない。
替えは居ないんだ、少しだって戦力を減らす訳にはいかないんだよ。」
悲壮感すらある。
続けて、
「『特例昇進』なんぞ、させる余裕は無い。」
「特例昇進」と云うのは、
職務遂行中に職務が起因で死亡した場合、死後に死亡時点の階級から昇進させ、顕彰する制度。
通常の昇進とは違い、
功績を立てながらの死亡と云う特殊事例による昇進。
だから「特例」昇進。
主に軍人の戦陣での死亡などの殉職者に適応されることが多いことから、「戦死」の隠語的に使われる。
信賞必罰は組織の肝心。
失策や違反には罰。功績を立てたのならご褒美
この場合、財貨や身分など、嘗ては貴人との婚姻なんていうのも。
を以て報いなければ組織の秩序維持の背骨な勤労意欲を削ぐ。
働き甲斐の無い組織は腐って行く。
軍という組織は、死の影が多かれ少なかれ見え隠れする危険な職場。
不幸にも、手柄を立てたものの本人が死亡とは特異な事例では無い。それでも、
死んでしまったら御褒美をあげても仕方無いから何もしないでおこう。
だなんて、
死者にとって優しく無い。
そうなると、死ぬだけ無駄になるので保身ばかりが先行。そんな組織の行き着くところはどうなるのか。
組織の秩序を維持するには、死者にだって信賞必罰。
そこで、最早、褒美を受取ることが出来無い本人に代わり、浮いてしまった褒美を遺族に補償という形で報いようと云うのが「特例昇進」。
現在は最終階級に合わせての金銭による補償が制度化されているので、階級を引き上げることで遺族への補償を増額することになっている。
眼を据わらせて口にしたハストンを見たエネネエイナは、
〖それって、「死なせない」って、言うことなんじゃ?〗
笑いをこらえて作っていると判るくらいの真面目な顔をする。
そんなエネネエイナの表情が、
「解ってますよ。」
と言わんばかりに、考えていることなんか見透かしているように見えたので、ハストンは気恥ずかしくなり、視線を合わせることが出来無くなる。
ハストンは、
「兎に角、そういうことだ。」
それで終いだと伝える。
目上は話が続か無かったり、不都合で続けられなくなると、それまでの文脈をぶった斬りにした、考えれば意味が特に無い言葉を持ち出して話を終えるやら切り上げる。
この場のハストンがその典型。




