その23
統裁所にて、
言うことを聞かず、何を考えているか判らない相手に、正面切って立ち向かわなければならない、
装甲擲弾兵第三小隊隊長マーカー・ハストン中尉。
その、言うことを聞かず、何を考えているか判らない、しかも頑丈な上に、ちょっとやそっとでは止める手立ての無い相手を造り出した、「大賢者」の称号を持つ少女、
『兜と籠手』社のリーリッサ・ペロロペルア。
言うことを聞かず、何を考えているか判らない、しかも頑丈な上に、ちょっとやそっとでは止める手立てが無く、手に負えない相手の対策をしなければならなくなり、最早、試験どころでは無くなった、
軍用ゴレム性能試験責任者、ミルドルト・トロウヤ大尉。
三人は問題の解決、収拾を考え倦ねていた。
問題。
ゴレムが言うことを聞いてくれません。
何を考えているか判らず、止めようとすると好き勝手に暴れて手に負えません。
魔術も魔法も効果が無く、砲弾や爆弾も跳ね返してしまうので困っています。
これから、どうしたら良いのでしょうか。
今現在、確実な、ゴレムに僅かながらも有効らしい打撃手段が、マーカー・ハストン中尉の『お試し』を使った対装甲銃器(二丁)しかなく、手持ちで大きい火力の迫撃砲は直撃したところで効いているのか、い無いのか。
「効いてい無い」に一票。
しかも、
件の粘土細工氏は生意気にも攻撃手段として魔術を使える。
このままいけば、第三小隊は「球電」に「氷塊」と「焔の玉」をお見舞いされるのは、ほぼ確実。
「麻痺」なんて他の三つの魔術に比べれば優しさ溢れるものに見える。
それは錯覚。
そこへ、
「そう言えば、今夜は『満月』。
だったのではありませんでしたか?」
法術にあまり関わらない者が聞けば、
「はい、そうですか。」
で済む言葉も、魔術師や魔法使いには別な意味を持つ。
三人が出処に視線を持って行けば、
関係者な筈なのに、それまで輪に入れず、自然と外様扱いだった『兜と籠手』社のエルムト・ドレトギャンの深刻な顔。
満月の夜は法術の効力、威力が増す。法術を使う者、知る者には常識。
問題解決の難度を嵩上げする追加情報。
投げ込まれたドレトギャンの情報に、三人の気は重くなる。
特に、確実にゴレムとの再戦をするに及ぶハストンは気が滅入る。
あの「紫電」の魔術は、ただでさえ脅威だったと云うのに。
長引けば困難は増すばかり。
使う魔術の効力と威力はどんどんと強くなる。
まぁ、それはこちらも一緒。
只、相手はこちらと違い、休息要らない、寝ない、食べない、文句を言わない。時間外手当もつけなくて良いし、先ず持って武器弾薬の補給補充を必要としない。
〖誰だよ、こんな厄介なもの造りやがった奴は!〗
心の内でハストンが愚痴る。
目の前に居る、少女の姿をしたのがその当人。
このとき、ペロロペルアがハストンの心の声を聞いてしまったのなら、
「軍が欲しがったから造ったんじゃない。」
半目になって言い返す。のは想像に難くない。
それとも、冷たい笑顔.........はし無い。笑顔をすることなぞ無駄だと切って捨て御免。
「あら、そんなこと無い。武器になるなら笑顔だってするわ。」
などとペロロペルアは言うかもしれない。
寧ろ、その方がらしい。
ハストンとしては、大規模火力を有する航空軍の介入も砲兵の出動も、御足労を願い出たいところだが、お願いする以前に身内(?)のトロウヤ大尉から却下。門前払い。
援軍も望めず、第三小隊だけでどうにかするしかない。と云う、
泥棒を見て編む縄にも事欠く次第。
兎に角、ゴレムを止めるの一択だけは揺るが無い。
遠慮忖度しなくて良いのだけが救い。
試験の立ち会いとして、見学に招かれている、ゴレム採用で競合する軍需企業の『双剣と盾』社のソーリッド・シルタとブレダ・ガルダルタ。
ハストン達の様子を見ながら声を潜めて話をする。
シルタが、
「社のゴレムに相手をさせることを申し出ててみましょうか?」
ことを提案。
ガルダルタは、
「移送準備は済んでいるが、まだ、倉庫だろう?
これからじゃ間に合わないんじゃあないか?」
乗り気で無さそうに答る。
移送に時間が掛かる上に、管制制御機材の設置にも時間を取られることは確か。
只、言葉にはそれだけでは無いことを混ぜ込んでいる様にも受け取れる。
「そうですか。
ペロロペルア女史のゴレムと力比べが出来ると思ったんですが。」
あっさりと引っ込めたシルタ。
ガルダルタは、
「力比べの機会なら大丈夫。他でやれば良いし、そうなる。」
慰めでは無い。先の光景を確実視している。
ペロロペルアが、
「それで、」
二つの瞳にトロウヤとハストンの顔を映す。
「現状、ゴレムに効果がありそうなことを隊長さんは色々やっているけど。」
言葉が口から出るに連れ、二人を映す目の色が変わって行く。
「あれは、何なの⁈」
鬼気迫る勢い。
聞きつけたガルダルタとシルタも傍に寄る。
少しではあってもゴレムを押し戻した方法。
同じく軍の採用を目指すゴレムを造った者としては聞き逃す訳にいかない。
何しろ、今後、軍用ゴレムへの脅威になりそうな代物。
知りながら、聞かないでいるのは罪。
瞳孔が最大限に開いているんじゃないのかと気になる三対の目を向けられるハストンとトロウヤ。
ドレトギャンは一歩後で引いているが、曲がりなりにも軍需企業に籍を置く身、関心が無い訳では無い。
「何のことです?」
惚けているのでは無く、言葉の選択を誤ったハストン。
言葉通りに受け取った三人に更に詰め寄られる。
トロウヤは隣のハストンを一瞥、
〖「内線の利」も通用し無さそうだなぁ。〗
軍事理論を想い返し、現実から逃避。
目を逸らす。とも云う。
「内線の利」とは、
軍事学用語のひとつで、
複数方面から敵方の攻撃を受けている状況に於いて、
挟まれた味方側は部隊の配置変更等や連絡線の距離が、外側から囲む敵方に比べて、短くて済み、防御に有利。
だとする軍事理論。
例として、
円周の或る一点から正反対側へは、
周外を移動するには、最短でも円周上(半孤)を移動しなければならないが、円の内では円の直径の距離での移動で済む。
それは扠置き、
ペロロペルアが、
「『何』って!」
小さな癇癪を破裂させる。
シルタが、
「ゴレムを退き下がらせた、あの兵器です。」
割り込み。
同時にトロウヤが、
「ゴレムを退き下がらせた、あの兵器だよ。
どう言うことだい?」
目を据わらせて、追求される側から、する側に。
トロウヤが追求する側に回ったことで、
軍が預かり知らないのでは。
と気づいたガルダルタは俄然、関心を強める。軍需企業、兵器商人の部分の顔が覗かせる。
先程、トロウヤが寄手に転じたことで四方から詰め寄られ、孤立無援に陥ったハストン。
従卒のアウララウル一等卒は外に停めた指揮車に置いてきた。援軍は彼方、望め無い。
まぁ、この場に居たとて、助力になり得るかは疑問符が付きそうだが。
久かたぶりに獲物を前にして興奮する捕食者の群に風前の灯火.........
.........詰め寄る四人へのハストンの印象。
抵抗も、足掻くも、する気以前のハストンは早々に軍門に下る。
腰嚢内を探り、手にしたのは親指先程の大きさの薄い金属箔。
例の「お試し」。
ハストンの指先に乗った現物に四つの視線が集中する。技術畑のペロロペルアとシルタはまだしも、トロウヤも混じり食い入る。
ドレトギャンは引いてしまった分だけ見難そう。
ガルダルタは顎に手を当て、無言で『お試し』を見下ろす。
顔を寄せて『お試し』を黙って見つめていたペロロペルアとシルタは揃って、ハストンの指先から顔へと視線を変える。
見上げたペロロペルアとシルタは何とも言えない表情。
二人が再度、ハストンの指先に載る『お試し』を見つめる。
ガルダルタは顎に当てている側の肘を左手で支えながら、無言で『お試し』を見下ろしたまま。
トロウヤは観察を終えて、今では難しい顔をして、首の後の生え際を掻いている。
ペロロペルアが、
「これを.........どう使うの?」
わけの解らない、と云った顔でハストンを見上げる。
目を細めて、金属箔に描記されている魔術陣回路を見ているシルタは、
「解呪系とお見受けしますが.........。」
困惑を隠さずに、『お試し』から目を離さず告げる。
トロウヤが、
「中尉。こん.........。」
話しかける。
ハストンが一瞬、目を見開く。
〖ゴレム。動き。アリ。〗
ハストンの脳内に突如、自分で無い思考が浮かぶ。念話。
送念元は第二分隊隊長、エル・シッド=ファルファレア曹長。
ハストンはトロウヤの言葉の途中で、
「『動き』が有った様です。」
伝える。
唐突に告げられたトロウヤは、かけた言葉の続きを飲み込み、ハストンの告げた言葉の意味を理解するのに一拍弱を要した。
考えてみれば、
ハストンはどうしてその情報を得たのか、不思議だと思うところだが、情報内容はそんな意識を吹っ飛ばす威力が在った。
自然と映像に向かうトロウヤ。ハストンも続く。
釣られてペロロペルアやシルタ達も、職員らも足を向ける。
映し出されたままの画像を前に人集りが出来る。
衆目が見つめる映像の中では、
装甲車を掩体に、天板上から、間から銃器を一点へ向ける第三小隊の隊員達の姿。
隊員達が銃器を向ける先の場所、ゴレムが埋まっている場所が、掘り起こした様に盛り上がっていた。
従卒のアウララウルが飛び込んで来た。
「隊長!副隊長から通し.........。」
視線を集めたことに気づくアウララウル。
急ぎ取り繕い、背筋と手を指先まで伸ばし上体をやや反らした『気を着け』の姿勢を取り、
「隊長。副隊長より通信。
『動き、有り。』とのことで有ります。」
改めて報告。
統裁所の映像を見ていたハストン、
「了解した。」
トロウヤへ向き、
「大尉。戻ります。
弾薬をいただいて行きます。」
告げられたトロウヤは、
「二人、中尉に付いて手伝え。」
ハストンへ指先を向けて職員へ命じる。
ハストンとアウララウルに職員二人の計四人はトロウヤへ向け、『気を着け』の姿勢を取った後、出入り口に向かう。
向かい際、
ハストンが『お試し』の金属箔をペロロペルアに差し出す。
差し出された金属箔を手に載せてもらったペロロペルアを見ていたシルタの顔に「羨ましい」と書いて在るのでシルタにも一枚。
ハストン達の後ろ姿を見送ったトロウヤは現地の光景を映す画像に目を転じる。観測機管制職員へ、
「もっと、寄せてくれ。」
画像が拡大される。
焦点はゴレムが居た場所。今は地中。
埋設されたゴレムの体積分隆起した地面。
今その上に、湧き出たかのように土が盛り上がっていた。
ゴレムが地表に出ようとしている。
ハストン達は、
統裁所から距離を開けて設置されている弾薬集積保管所に寄る。
小銃用弾倉や機関銃弾に機関砲弾の弾帯、手榴弾に迫撃砲弾。隊に必要な弾薬を片っ端から指揮車に積めるだけ積む。
ハストン自らも加え四人での作業だったが、ハストンが要所要所で、
梱包されている弾薬を、保管所から指揮車まで「氷上の舞踊」の魔法で滑らせて。
荷の上げ下げには「起重」の魔法。
「鏨」の魔法で固定。
魔法を使い、作業は円滑に進み完了。
ハストン、縦横無尽の大活躍。
作業を終え、
迫撃砲弾を納めた箱を抱えるだけ抱えたハストン、
「行くぞ。
これから弾薬の配送だ。」
職員二人と別れ、指揮車に乗り込む。
職員二人を距離の有る統裁所へ送り返したいところだが、
指揮車の後部は満載。屋根にまで載せ、助手席でもハストンが抱える状態。
過載積もいいところ。同乗する余地が無い。
止むを得ず、徒歩で帰路に着いて貰う他無い。
只、今の指揮車は、
「走る火気厳禁」状態。
何かあれば、周囲を巻き込んで甚大な被害は確実。
そんなものに同乗する気にはならなかったであろうが。
この指揮車で、そのままゴレムへ体当たりすれば良いのでは?
この時、四人の誰ひとりも想い着かなかった。
とは、後の弁。
助手席へ乗り込んだハストンは膝の上に迫撃砲弾を載せ直し、
「先ずはテドのところだ。」
運転席のアウララウル一等卒へ、目的地はテドラルド・ラーフグリーフツ少尉の指揮する分遣隊だと指示。
弾薬を届けると伴に指揮系統を変更する必要が有る。
「了解です。」
アウララウルは魔導機関を始動。指揮車を出発させる。
ハストンは左手で荷を押さえ付け支えながら、右手の親指を耳許に小指を口許に付けラーフグリーフツの顔を想い描き、集中。
〖三人。用意。補給。〗
更に、
〖限定解除。集める。〗
送念。
指揮車は分遣隊が展開する地点へ急ぐ。
助手席で膝上に荷物、後部に荷物。しかも中身は銃弾砲弾の危険物に囲まれているハストンは想う。
トロウヤが錯乱でもしていなければ、却下するのはほぼ確実なので、あの場では言わなかったが、
最終手段として、そこそこの質量の小遊星を呼び寄せて、ぶつければ幾ら何でも、流石にぺちゃんこにはなりそうな気もする。
その際、一帯更地な上に、世界規模の天候不順と寒期が続くかもしれないが、
一方で、衝突後の大抉孔に、ぽつねんとゴレムだけが突っ立ている光景が浮かぶのは何故か。




