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装甲擲弾兵  作者: kasizuki.s.y
22/33

その22

 副隊長のテドラルド・ラーフグリーフツ少尉に第三小隊の指揮を任せ、オラソイオ・エネネエイナ曹長の下に隊務副長と従卒を入れ指揮系統を整理変更。

 自らは統裁所へ殴り込み.........行儀良く言えば、抗議に赴くという小隊隊長のマーカー・ハストン中尉。


 片手を挙げたデサーウス隊務副長の

「第一分隊は?」

 進言に、ハストンが固まる。

 抜け落ちていたようだ。


 クロゾ・ロドエイ曹長の第一分隊は少し後方で迫撃砲の陣地を構えている。

 連絡と言えば、ハストンの念話での一方通行。遣り取りにもならない。

 先の支援砲撃で大分、迫撃砲弾を消費した筈。残弾が気になるところ。

 連絡要員兼務に従卒のウウリ一等卒を置いてきたが、


 エエレ伍長は第一分隊所属。

 ゴレムに効果が有る火器を使うため、前線組に編入。

 先程まで扱き使われていた。

 これからも多分、そう。

 もうひとり第一分隊から隊員を置いて、一号装甲車の操縦士兼搭載機関砲座に充てている。


 姿を見せないところをみるに、問題は起きていない様。

 通信設備をもう一機用意すれば良かったと後悔しても、遅し。


 ハストンは通信器の向こう側、分遣隊の指揮を執っている副隊長のラーフグリーフツ少尉へ、

「テド、迫撃砲弾は全部クロゾへ持っていく様に。それと、」

 伝える傍から想い着きが出て来る。

「クロゾとの伝令にアンゾとウウリを使う様に。必ずどちらかが手許に居るようにしておけ。」

 脳機能は慣し運転が進むと加速を始める様で、稼働量が増えるのか、想い着きを後出しに吐き出し始める。

「あと、ヤツが這い出て来たら、初手をエルとテッサにやらせること。

 始めにそっちで引きつけてくれ。

『お試し』は躊躇わずに使うこと。」

 第二と第三分隊に攻撃をさせる様に指示。


 母親がお使いを言いつける場面を思い出したのは、通信器の向こうで聴いているラーフグリーフツ少尉。


「ただし、近接戦闘は禁止だ。」

 戦闘方法を限定したハストン。


「そんな!

 俺たちの存在意義が無いじゃないですか!」

 エネネエイナとデサーウスも抗議で進言。通信器の向こうでも不評なのが伝わる。

 ハストンは、

「テッサが危なかっただろうが。」


 ラーシュミィ曹長の第四分隊の爆撃にもゴレムは耐えるどころか平気だった。これで凹みのひとつでもあれば可愛気が有りそうなものだが、お愛想すら無い。

 表情など元々無いが。

 それどころか、今まで反撃らしいことをしなかったのが、土壁を縦割りするわ、ついには球電をぶっ放す。

 ゴレムも攻撃し無い訳では無いらしい。

 迂闊に近寄らせるなぞ出来無い。


 見方を変えれば、ゴレムが第三小隊を「敵」か「脅威」だと認識したのかもしれない。


 それでも譲ら無い第三分隊隊長のエネネエイナ曹長が、

「擲弾兵は『斬り込み部隊』なんでしょう?

 肉迫しなきゃ斬り込め無いじゃないですか!」


 眉根を上げたハストンは、

「き。ん。し。」

 一音一音区切って強調する。

 取り付く島を粉砕するハストン。

 通信器を「閉」にして、

「統裁所へ行って来る。」

 無理矢理切り上げ、有無を言わせず話は終わり。

 指揮車の運転席側扉に手を掛けるハストン。

 それに、隊務副長のデサーウス軍曹が、

「待って下さい。」

 ハストンが出発しようとするのを押し留める。

 装甲車へ向かい、

「アウララウル!」

 大声で名を呼び、腕を振り招く。ハストンへ向き直り、

「従卒を連れて下さい。規則です。」

 隊務を司る者として譲れない事だと迫る。

 そう言われてしまえば従うしかない。

 程なく現れたアウララウル一等卒。


 ハストンは運転席側扉に手を掛け、

「乗れ。」

 いつゴレムが這い出てくるか、気が気では無いが故に、部下達の言動に苛つきが募り、語気が荒っぽくなっているのが滲み出る。


 従卒のアウララウルが、

「隊長が運転するんですか?」

 と、疑問形。

 ハストンは当たり前の事を何故聞くのかと考えつつ、

「そうだ。」

 返す。


 黙って自分を指差すアウララウル。

 続いて運転席を指差す。

 ハストンの視線がアウララウルの指先を追いかける。


 時間が過ぎるのに、「する」ことだけは多い。焦りと苛立ちで頭に血がのぼり、独り勢い込んでいることを自覚させられたハストン、

「統裁所へ最短で。」

 運転席側を離れ、後部座敷側扉に手を掛ける。


 統裁所へ着くなり、

「殺す気かぁっつ‼」

 怒鳴り込むハストン。


 そんなことをすれば、当然、統裁所内の視線を集める。

 中の人間達が一斉に入り口に顔を向ける。


 踏み鳴らしながら統裁所内へ踏み入るハストン。


 ハストンが統裁所へ向かっていたのは映像から解っていたようで、

「あれは何⁉」

 鼻息荒く出迎えたのは「大賢者」の号を持つ少女、『兜と籠手』社のリーリッサ・ペロロペルア。

「あれは何なんだい?」

 落ち着いている様で、血走りそうな眼を向けるのが性能試験の責任者、参謀将校のミルドルト・トロウヤ大尉。


 興奮した人間を相手に、自分も反応して激昂するのと、逆に冷めて冷静になるのとが居る。

 鼻息荒く統裁所に乗り込んだハストンもこの出迎えにあっては頭が冷える。

『兜と籠手』社のエルムト・ドレトギャンは後ろで、「どうしよう」と狼狽。

『双剣と盾』社の技術者ソーリッド・シルタは話に入りたいと書かれた顔を向けている。

 同じ『双剣と盾』社のブレダ・ガルダルタは落ち着いた様子を装うが、伺う視線は隠しきれていない。関心、興味が有ることが傍目でも判る。

 周りの職員やら作業員は遠巻きに、迂闊に係われば、どんな流れ弾が飛んでくるかと、今いる場所に縫い止められている。


 ハストンは気圧され気味ながらも、

「そんなことは後回しだ、猶予が無い。」

 切り捨てる。話を戻して、

「殺す気か!

 どうなっている?」

 言葉使いを置き忘れているハストン。


 殺傷を目的とする魔術を、躊躇いもせずに向けられた。

 危うく「人死」を出すところ。

 実戦同様とは云え、性能試験は人死にを出す前提では無かった筈。

 動揺と恐怖を元手に怒りが込み上げている。


 ハストンの語気を荒げた物言いを気にも留め無いトロウヤは片手を挙げ、

「それについては私から。」

 説明を買って出る。

「簡単に言って、ゴレムは今、『暴走状態』にある。」

 説明は簡潔。

 ペロロペルアが視線を外し、

「こちらからの命令を受け付けてい無いわ。」

 感情を持たない声音で状況を語る。

 トロウヤ、

「無視しているらしい。」

 翻訳する。


 結論は似たようなものでも、視座が違うと、こうも印象が違うものか。


 ハストンは眉間に皺を作り、目を閉じて、どういう訳か重量が増えた気がする頭を、これ以上前に傾げ無い様に自分の額に自らの中指を当てて支える。

「なんでそうなる。」

 思わず口から漏れ落ちる。


 ペロロペルアが伏し目がちに、

「考えられるのは........。」

 下唇に軽く指を添え、想い着く原因を挙げ様とする。

 ハストンは、

「それは後。」

 ぶった斬り、

「喫緊は、アレをどうするかだ。」

 映像を一瞥、指さす。勿論、映像自体のことでは無い。

 映像からは未だ動きは無い様。猶予は未だ有りそうか。


 トロウヤ、

「動きを止める。一択だ。」

 尽きる、と断じる。

 ならば、とハストンは、

「勝利条件を達成させれば停まるんじゃないか?」

 手を下さなくても勝手に停まるのでは。


 演習、試験の終了条件は、

 ハストン達、第三小隊がゴレムを行動不能にすること。

 または、

 第三小隊が継戦能力を喪失する。

 あるいは、

 ゴレムが想定線を越える。

 こと。


 ゴレムを行動不能にすればハストン達の勝利。

 今や、勝利だとか試験だのは別にして、第三小隊が難としても達成を求めらている条件。


 第三小隊が継戦能力を喪失する。

 と云うことは、暴走状態のゴレムを抑えることが出来無いことを意味し、

「想定線」への到達は、


 そう云えば、「想定線」って何処?


 条件達成の成否判定は、統裁所の権能。トロウヤの決定次第。しかし、

 ゴレムは此方の命令や信号を受け付けない。

 ということは、


 更に、

 ペロロペルアが、

「殺傷力の有る攻撃性魔術の使用を禁止していたのよ。」

 最早、言う事を聞かない相手、何を考えているか解らない存在に期待をするのは賭け。

 そこに、

「放って於くと外に出るんじゃないですかね?」

 恐ろしい可能性を、零すように発言したのはガルダルタ。

 トロウヤが反応、

「あんな危ない物、外に出せるか‼」


 ハストンは、

「航空軍は要請出来ない?」

 なりふり構わない。初っから期待できる戦力投入を問う。

 提案にトロウヤ、

「無茶言うな。まとが小さい。精密爆撃どころか、下手すりゃ『絨毯』だとかの話になる。」

 火力密度を考慮して戦術的理由で不可能事だと言う。


 聞いたハストンは自嘲気味に、

「演習場を耕作地に出来そうだな。」

 口許を歪ませる。直ぐに、

「砲兵くらい要請してくれ。」

 真顔で口に出す。

 トロウヤは真正面で受け止め、

「それも無理だ。要請理由は何てする?」

 砲兵を出動させる、それなりの理由が必要だとする。言い訳が想い着か無い。

 可能に出来る答を教えろ、と返す。

 ハストンは、

「『ゴレムが暴走して、手に負えません。』でいいだろ。」

 他に何がある、で応える。


「こ、困ります!」

 割って入ったのは、それまで絵に描いたように狼狽えていたドレトギャン。

「社の醜聞になります。傷が.........。」


「「事実だ‼」」

 ハストンとトロウヤの声が揃う。


 素知らぬ顔でトロウヤとハストンの遣り取りを耳に入れているガルダルタ、

 〖「軍の手に負えないゴレム」。ふむ、「軍を蹴散らすゴレム」。「悪名は無名に勝る」か.........。〗

 頭の中で、軍需産業ではの利益に考えを向ける。


 軍需会社は、その利益を得る商売品と使い道から、得手して、その二つ名に

「死の商人」

 の名を贈られることで知られている。


「砲兵も珍しいまとが射てて喜ぶんじゃないか?」

 ハストンは、まともなら取り合わない理由を言い出す。

 これに、トロウヤは

「よく考えろ。『紫電』を使えるんだぞ。

 砲兵が、」

 言葉を切り、軽く挙げた拳を上に向け花開く様に開く。

「に、なっちまう。」

 言葉に出せない理由を仕草で語る。

 航空軍も同じ目に遭うかもしれない。

 経験者のハストンが渋面を作る。

 同じく渋面を作るトロウヤは、

「兎にも角にも、今あるもので解決しなければならん。」

 責任者として断を下す。


 アレも駄目で、ソレも出来無い。

「弾薬の補給を。

 いくら消費するか見当も付けられない。」

 ハストンの注文。

 発注を受けたトロウヤ、

「解った。書類はこっちで。」

 弾薬その他、必要な物資の予定外調達には申請と決済が必要。

 軍と云えど、そこは武装した官僚組織。手続きは大事。

 面倒な書類仕事を請合うと言う。


「「で、だ。」」

 ハストンとトロウヤの声が重なる。

 同時にペロロペルアへ振り向く。

「この際だから、ゴレムの能力、性能を洗いざらい吐いて貰おう。」

 ハストンが言い。


「ペロロペルア女史。宜しいな?」

 答はひとつだと言うトロウヤ。


 何か忘れてない?

 ドレトギャンは割って入りたいのだが、ハストンとトロウヤの厚い圧の前に出来無い。

 ペロロペルアは毅然とした態度、

「ええ、どうぞ。」

 腕を組んで胸を張る。

 真正面で迎え撃つ姿勢。

 見た目は少女の姿をしていても、

 歳相応なのだが、

 あれだけの攻撃を受けて平然としているゴレムを生み出した。

 共に神経が太く鋼で出来ているに違いない。

 ゴレムは粘土だが。



 早速、ハストンは、

「使える魔術は他には?」

 ペロロペルアを見据えながら質問。


「『氷鏃ひょうぞく』、『緋焔ひえん』、『麻痺』ね。」

 ペロロペルアもハストンを見据えて答る。


『氷鏃』は、

 氷塊を成製現出して対象へ飛ばす魔術。

 氷塊と言ってもそれなりの大きさな上に先の鋭い氷柱つらら。生身では命中せずとも掠れば切り裂かれる。

『緋焔』は、

 火球を作り出し撃ち出す。攻撃性法術では定番。

『麻痺』も、

 その名の通り、対象を麻痺させて行動を封じる魔術。これも定番。


 聞いたハストン、

「『麻痺』.........。なんでそんなもの。」


 ペロロペルアが、

「軍の要望。

 なんでも、模擬弾の代わりに使う、だとか。」


 ハストンはトロウヤを見遣る。

 ハストンの視線に今、気付いたと云う仕草をするトロウヤ、

「らしいよ。」

 知っていたものの口止め。

 そもそもハストンには仕様どころか一切の説明すらされてい無い。ゴレムの情報とは切り離されていた。

 トロウヤは記憶の中に在る書類上の文言をたぐり寄せ、

「被弾判定に使うんだったか。

 よく揉めるじゃないか、『当たった、当たってない』って。」

 言い訳がましい。


 対人戦闘を含む訓練や演習で、実弾を使えば、問題を生ま無いで済むのは難しい。

 そこで模擬弾を使って命中被弾の有無を判定する。

 模擬弾でも被弾すればそれなりの衝撃が有る。

 しかし、演習や訓練中は熱中し過ぎたり集中するで感覚や配慮など忘却の彼方であることが少なく無い。

「当たった。当たってい無い」の

 これが、揉め事が数を減らさない理由のひとつ。


 いざこざ.........、では無く、

 揉めるのを解消する目的で、命中被弾すると塗料が塗り着けられる模擬弾が登場。


 しかし、塗料塗れになったとしても、実際に死亡した訳では無い。

 被弾箇所やら審判が「死亡」判定するまで、故意か作為か、文字通り「生ける屍」よろしく徘徊、ときには攻撃までする兵士が少なからず現れる。

 それならば、面倒だから本当に動けなくしてしまえと、被弾すれば痺れて動けなくする「麻痺」を実験的に導入してみようと相成った。


 これで上手くすれば、余程でなければ、然して痛い思いもさせずに対手の身体の自由を封じることが出来、「暴れる」民間人相手に使用しても、外聞も悪くはならないだろう。

 との隠れた思惑も。


 ひとつの石で何羽を狙う気なのか、

「欲多くして、掌に残らず。」

 の言葉も在るのだが。


 ハストンの額を支える指に人差し指が加わる。

 追い打ちでペロロペルアは、

「本来、使うのは麻痺だけの筈だったの。」

 裏を説明。


 ところが、ゴレムが使ったのは実戦で使う殺傷性増々の「紫電」の魔術。

 禁じ手だとか云うのは通用し無い。

 このままいけば、尖った氷塊や焔の玉を目にするのは間違いない。


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