その21
それまで四つん這いで動き回っていたゴレムが、ここにきて、二足直立の姿勢に。
安定しないのか、ふらついている。
そこへ、
見かけだけなら、銃身が長い銃から、
銃声とは思え無い轟音が放たれ、空気を揺るがす。
近くに居れば、内臓、それも心臓が締め付けられる様に圧迫される重苦しい響きが身体を襲う。
轟音に続けざまに金属塊をぶつけ合う音がして、ゴレムが仰け反る。
上半身の動きに置いていかれた腕が前に出る。
上半身が後ろに傾げた。
遅れて腕が垂れ下がる。
上半身を反らした格好だが、倒れ無い。
持ち堪えたゴレム。
しなった幹が元に戻る様に仰け反った体勢から身を起こす。
再度、轟音。
すかさず、金属塊を金属塊で殴り付ける音と伴にゴレムが横方向へ傾ぐ。
完全に復元する前への追い打ち。
二度目の轟音の発生源は、分遣隊のテドラルド・ラーフグリーフツ少尉の側。
ゴレムが傾いだところをみるに、例の、マーカー・ハストン中尉が工作した「お試し」。
今度は上半身が横方向へ傾いだゴレム。
腕が力無く垂れ下がる。
しかし、これもまた、倒れること無く傾いだそのままの体勢。
ゴレムが姿勢を戻すのを待たない程には卑怯。
第三小隊隊長ハストン中尉は、
「オル!デサーウス!撃て!」
命令を発する。
第四分隊と隊務副長以下従卒隊員達が一斉に引き金を引く。
機関銃、機関砲、小銃が火を吹く。
ゴレムめがけて銃弾を撒き散らす。
向かい合うハストンの側から銃弾を正面で浴びる中で、ゴレムはゆっくり直立姿勢へ戻る。
四つん這い姿勢では回避する様な動きを見せていた。
今は弾雨に晒されても避ける素振りも見せない。
ただ、身じろぎひとつすることも無く、雨霰と降り注ぐ銃弾を真正面で受ける。
痛くも痒くも無い。と云った様子。
ゴレムですから、何か?
その横で、
ゴレムが縦に割った土壁が裂け目を塞ぎ、土壁の役を取り戻す。
伏せていても何も出来ない訳で無い。
呪文を紡ぐこと、詠唱だって可能。
復元した土壁が、伏せているラーシュミィ分隊を隠す。
ゴレムから身を隠す意味とゴレムから跳弾してくる弾を防ぐ意味も。
兎角、流れ弾は面倒。
視界を遮ったと判断した第四分隊は直ちに撤収を行う。
分隊長のラーシュミィにしてみれば、このまま手ぶらで逃げると云うのには思うところが有る。
置き土産を贈りたいところだが、今は掛ける手間すら惜しい。邪魔にならないのを第一に、涙を飲んで撤収に専念。
第四分隊は引き揚げる。
充分に離れたところで土壁は役割を終えて崩れる。
遺したままでは、土壁は邪魔。
ハストンは装甲車の陰からゴレムの様子を伺う。
ゴレムの前面では弾雨を受け止める淡い魔力光が瞬く。
平然としている。
こうなれば石壁だって、もっと可愛気が有る。
空になった弾倉を交換している隊員が、
「駄目ですね!豆鉄砲もいいところだ!」
大きな声で。
隣で、小銃を撃ち続けている隊員、
「なんだ⁇豆は嫌いか⁇やっぱり肉だよな!脂な‼」
こちらも大きな声。
持てる火器が一斉に咆哮している中では隣り合っても、大きな声で遣り取りしなければ伝わらない。
第四分隊が引き払い。ゴレムが取り残されたのを見たハストン。
依然、ゴレムは銃弾を浴びても平然と立っている。
ハストンは左手親指を左耳、左手小指を口許に当てる。クロゾ・ロドエイ曹長の顔を想い浮かべ、
〖支援。始め。〗
合図を送念。
第一分隊隊長クロゾ・ロドエイ曹長と隊員達、
ハストンの命令で、重火力支援、迫撃砲での攻撃を準備していた。
出番。
準備はとうに終え、四門の迫撃砲は、いつでもどうぞで攻撃を始められる。
ロドエイが、
「構えっ!」
号令。
装填手の隊員は迫撃砲弾を片手で掴み、砲口に持って行く。
迫撃砲は、
発射から極端な山形の放物線を描いて着弾する。目標が直線で近距離であるが、目標までの間に高さの有る障害が在るような場合に使用される火器。
砲弾に工夫が有り、主なのは円筒形の砲身部と支える二脚と云う簡単な構造。
通常の大砲と違い、移動のための車輪や砲身を載せる砲架、尾栓や閉鎖器、発射時の反動を吸収する駐退機が無い分、場所を取らず、持ち運びが容易。
その反面、弾道が山なりの放物線を描くため、射程は短く、横風などの影響を受けやすく命中精度が低い。と云う短所が在る。
ロドエイが、
「撃てぇっ!」
の掛け声に合わせて掌を振り下ろす。
装填手が掴んでいた手を離せば、砲弾は砲身内へ滑り落ちる。
砲口から炎と煙を噴き上げ、砲弾が撃ち上がる。
銃弾に塗れていても平然としているゴレムから少し離れた所に着弾。
爆煙と土埃を巻き上げ、破片を撒き散らす。
クロゾの頭に、
〖修正。左へ。二つ。〗
ハストンからの念話。
クロゾから見て装甲車の向こうにゴレムが居る。着弾を直に視認が出来無い。
クロゾは、
「修正!二を引け!次弾準備!」
迫撃砲の砲口が修正に合わせ指向する。
迫撃砲弾を手に装填手が砲口で構える。
準備が整い、クロゾが、
「撃てぇっ!」
号令に合わせ、装填手が手を放す。
銃弾に晒されているゴレムの真近くに着弾。
銃弾に加え、土と破片、熱と衝撃が襲う。
それでも微動だにし無いゴレム。
ゴレムだもの。それで?
〖照準。そのまま。〗
ハストンは念話を送る。
ゴレムは次々に立ち上る火炎と爆煙に包まれる。見え隠れする姿にめがけて銃弾が吸い寄せられる。
体躯の何処かに直撃した弾頭が在るのか、時偶、爆発の衝撃音に鈍い金属音が混じる。
此方側で、
かつて『鋼の人』と呼ばれた権力者は、
「大砲は戦場の神である。」
の言葉を遺した。
軍隊と云うものの規模が大きくなると、弓を始め、大砲などの飛び道具は、
一発一発、目標に正確に命中させるの
では無く、数を集め、或る区画面積にどれだけの弾を撃ち込めば、どれだけの損害を与える、効果を得られることが出来るか、と云う使い方へ発展。
命中率を暴力的な数で以て引き上げよう、と云う考え方をするようになった。
続く銃撃、巻き上げる土砂、焔と爆煙渦巻く中、ゴレムは腕を広げる。
一瞬のうちに、右腕を途中直角に上向き、左腕は途中直角に下向きへ曲げる。あまりに素早かったので、腕が縮んで見えた程。
重たいものが擦れ合う音をたて、上半身だけが捻れる様に回転を始める。
ゴレムがまた、不可解な行動を始めた。
統裁所で、
『兜と籠手』社のリーリッサ・ペロロペルアを見遣るミルドルト・トロウヤ大尉は黙って映像を指さす。
ゴレムが何をしているのか尋ねているのが表情から判る。
ペロロペルアは無言で首を横に振る。
解らない、のだと言う仕草。
こんなの設計に無い。した覚えが無い。何をしているのかペロロペルアにも解らない。
した覚えがない動きを勝手にするゴレムを見たペロロペルアは混乱していた。
ゴレムの回転が二巡目に。
上を指す右腕、右手指先に光球が出現。
上半身の回転が進む毎に、続いてもうひとつ。更に。
半周もすると六つの光球が。上半身の回転は続く。
光球は帯電しているのが判る。火花が散る。違う。
放電している。雷の玉。
第三小隊の魔術師と魔法使いは驚愕する。
出現したのは「球電」。
「紫電」の魔術。
触れれば焼け焦げでは済まない高温の存在。雷の塊。
二巡の回転を終えるとゴレムを中心に十二の帯電している光球、球電が宙に浮いて取り巻く。
ゴレムの直角に曲げた腕先が縦方向で回転し出す。
合わせて、十二の球電が列を成し環状に回転を始める。
統裁所では、
殺傷力高め、どころか、いやさ殺す気増々の魔術を使うゴレムの姿を見て、誰もが息を呑む。
怪我人が出るのは範疇。仕方無いにしても。
怪我で済むところが、間違いが重なり結果、死者を出す想定外が在ったとしても。
もとより演習とは云え試験で、勧んで殺傷するなど考えてい無い。
だから、ゴレムには殺傷を目的とした
能力を持たせていても、
「今回の演習で使ってはならない。」
ことを命令していた。
筈である。
命令を破る行動を取ったことでゴレムが異常であることは確実。
ペロロペルアもここにきて、ようやくゴレムが異常であることを認める。
ゴレムが球電を生み出したことで、ハストンも警戒。腰嚢を探り、呪符の束を手に。
「魔術師と魔法使いは、警戒!」
部隊全体に聴こえる様に大声で伝える。
ハストンに言われるまでも無く、「紫電」の魔術を知っている、法術を使える隊員達は身構え、防御系法術の構築を始める。
今だ砲弾が降り止まぬ中、ゴレムの頭上を環状に回転する球電列は回転速度を増す。
ハストンを始め、魔法使いとか魔術師、法術知識が有る連中、ペロロペルアはもとより『双剣と盾』社のソーリッド・シルタも含め試験責任者のトロウヤも緊張。ブレダ・ガルダルタもエルムト・ドレトギャンも予想が着くくらいにはゴレムが次に何をするか、判っている。
回転していた球電が円環の軌道を離れ、次々に飛び出す。それは「射出」と云う言葉が当て嵌まる。
手にしていた呪符の束をハストンが腕を振り抜く勢いで投擲。
呪符が散乱。
乱れ舞い散る中へ球電が突入。
呪符に接触。
触れた球電は霧散。
爆発音がひしめく空間に、新たに大きな乾いた破裂音が加わったところで目立た無い。
掻い潜って通過した球電は二つ。
ひとつはクゥクフリュラ兵長がなんとか間に合い、残りひとつは、掩体にしていた第一分隊の装甲車が晒していた横っ腹に命中。それでも穴を開けずに済み、装甲車の意地を見せる。
ゴレムが再び上半身だけの回転を始める。
爆煙の合間に見たハストン、
エエレ伍長は構える火器が他と違い、見分けるのが楽。
「〖エエレ!撃て!急げ!〗」
大声を上げると同時に送念。
撒き散る呪符の中で球電が弾け消えた光景を眼前に、緊張を解き呆けていたエエレ。
唐突にハストンから念話を送られ慌てる。
既に銃口に「お試し」の呪符は張り付けている。
ただ、爆煙が邪魔でゴレムの姿を捉えるのが難しい。そうなると「魔弾の射手」の魔法が使えない。しかも、詠唱している暇が無い。魔法の構築は却下。
出来ることは。
銃に魔力を通す、仕込まれている「加速」の魔術陣回路を始動。
精確に狙いを付けられず大凡で、引き金を引く。
兵員輸送装甲車の側面から轟音と火焔が生まれる。
眼前では爆発音が引っ切り無しに続く。今更、轟音がひとつ増えたからと気にもし無い。
命中したのかは目視出来無い。解ったのは立ち込める爆煙の中で、はっきりと青白い閃光が二つ三つ瞬いたこと。何か飛んで来る様子は無い。
余裕を稼げたか。
ハストンは更に、エエレへ、
「〖続けろ!視認次第。撃て!〗」
大声を口に出しながら念話を送る。
兵長は開いた掌を振る。
途端、火焔を生む。腹に重たい轟音。
エエレに伝わったのを見届ける。
上からの砲弾。正面からの銃弾。平然と、術式の構築を邪魔されても淡々とやり直すゴレム。
その気になれば、自由自在に横行闊歩出来るところを、する素振りも無い。
場所に縫い付けられた様にとどまる。
これは好機。
ハストンは指先で地面に印を描く。
印に親指先、人差し指先、小指先を立て、
【踊れ、踊れ。右に左に。前へ後へ。拍は微に細に。律動せよ。縦に横に。上へ下へ。旋を成し、返す.........。】
呪文を発する。
魔法の効果はゴレムの足元に現出。
ゴレムの足が地面にめり込む。
足が呑み込まれる様に地面に沈む。
逃れようと地面に手をつく。
その手も先から地面に呑み込まれる。
手も足も抜け出せ無くなったゴレム。そのまま地面に引きずり込まれる様に沈む。
やがて、頭部すら地面の下に。
ゴレムがいた場所は土が盛り上がって小山が出来た。
ハストンは大きく深く息を吐く。
どれだけなのかは判らないが、これで時間を稼ぐことが出来る。
することは多い。
先ずは、
左手で念話の式を構築。右手人差し指で宙に円を描きながら、
〖攻撃、中止。〗
念話で拡散。
ゴレムの代わりに出来上がった土山を半分ほど消し飛ばしたのを最後に銃声も爆発も途絶える。
なんだか、あっさり片が着いた......
..............................様な。
しかし、
終わった訳では無い。
ハストンにしてみれば「中休み」だという認識。しかも、いつ再開するか気を抜けない中休み。
この隙にしなければならない。
第四分隊隊長のオラソイオ・エネネエイナ曹長へ、両の掌を口に添え、
「オル!」
声を張り上げ、呼び掛ける。
気付いたエネネエイナが顔を向ける。
ハストンは手招きの仕草。
指揮車へ向かうハストン。
副隊長のラーフグリーフツの顔を想い浮かべ、
〖通信。〗
を送念。
指揮車に装備されている通信器を稼働。
「テド。居るか?」
呼び出す。
返答が無い。再度、
「テド。居るか?」
呼び掛ける。返信を待つ。
エネネエイナが傍らにやって来る。
手振りで待たせる。
焦りに苛つきが高まる。
もう一度、念話を送るか、と考えたとき、通信器から、
「《.........隊長、居ますか?》」
ラーフグリーフツ少尉の声。
ハストンは、
「ハストンだ。」
応答に続け、
「テド、聞け。先ずは、
警戒は解くな。維持で。
それと、
一時的に小隊の指揮を任せる。分遣の指揮をテェエアス曹長へ。」
傍のエネネエイナへ視線を遣り、聞こえる様に伝える。
「此方の指揮をオルに任せる。通信を四号車に繋げて連絡を取り合え。
解ったか?」
ラーフグリーフツから、
「《.........。
了解しました。
小隊指揮を受任。分遣隊指揮をテェエアス曹長へ移譲します。
通信を第二指揮車と四号車に繋ぎます。》」
内容を咀嚼したラーフグリーフツからの命令確認に、ハストンは、
「良し。それから、」
第四分隊隊長のエネネエイナへ向かい、
「オル。こっちの指揮を任せる。デサーウスを付ける。......あぁっ‼」
想い出す。慌てて、
「デサーウス!こっちへ!」
装甲車へ向かって声を張り上げる。
呼び出すのを忘れていた。
再度、エネネエイナ曹長へ、
「アレが出て来るまでに弾薬の補充を済ませておいてくれ。」
エネネエイナは、
「出て来るんですか⁉」
信じられ無い、と尋ねで返す。
デサーウス隊務副長が到着。
先のエネネエイナの問にハストンが、
「大分、深く埋めたつもりだが、時間の問題だな。」
通信器の向こうのラーフグリーフツにも聞こえる様に返す。
聞いたエネネエイナとデサーウスは揃って眉根を寄せて舌を出す。
ラーフグリーフツも通信器越しに、同じ様な顔をしている気がするハストン。
ハストンはデサーウス軍曹へ、
「デサーウス、こっちの指揮をエネネエイナ曹長に任せる。
小隊の指揮はラーフグリーフツ少尉だ。
アルララウルとクムトルタと一緒にエネネエイナの指揮へ入れ。」
「俺は統裁所へ行ってくる。」
ハストンは告げる。




