表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
装甲擲弾兵  作者: kasizuki.s.y
20/33

その20

 今、行なわれているのは、軍が採用導入を考えている軍事用ゴレムの運用と性能の試験。


 だった筈。

 それが揺らごうとしている。


 ゴレムの性能と運用の試験を監督する統裁所で、

 第三小隊が相手する試験対象のゴレムの製造元であり、指揮管制を担う、軍需企業『兜と籠手』社のリーリッサ・ペロロペルアとエルムト・ドレトギャン。競合関係にある『双剣と盾』社から試験を見学する立場のソーリッド・シルタとブレダ・ガルダルタ。

 その四人が、軍の新兵器だと疑い、軍の口車にまんまと騙されたのではないかと、乾いた布を染める並に即効で不信に染め抜くに至った、

 マーカー・ハストン中尉謹製の術装徹甲弾。


 物言いた気な四対の視線を受けた、性能試験責任者のミルドルト・トロウヤ大尉。


 おや?何かありましたか?

 それが通常、普通だと云う風に冷静を装うが、内心では、気を抜いて此処で倒れてしまおうかと想うくらいには驚いている。


 事前の知らせも無く、あんなモノをいきなり使うなんて。これって軍も知らない兵器だし、色々、問題になるんじゃないの。報告書になんて書けばいいのさ。

〖ひと言位、言ってくれ!〗

 泣きを入れたいトロウヤ。


 冷静を装ったことが、却って、四人の猜疑をより深めていることに気付いていない。

 特に、ペロロペルアなんかは、この秘密兵器の実験の為に、態々新型を造らされたのではないか、なんてことまで疑い始めている。

 しかも、

 観ていた、己が技術者であると自負するシルタも大賢者の冠を戴くペロロペルアも、


 銃弾、おそらく実体弾に何かしらの手を加えたモノだろう。


 の予想までしか解らない。

 何をどうすれば、「あんな」になる?


 その正体は、

 軍にも秘密の個人の秘密兵器。

 軍に内緒のハストン御手製実験魔術兵器。

 言う所は物々しいが、ハストンがしたのは薄い金属箔に解呪系術式の魔術陣回路を描記。

 裏面に軽い粘性を持たせて銃口に貼付け、撃ち出される徹甲弾の先にくっつけて、精密一点集中で法術耐性術式にぶつけてみよう。

 と、云うもの。


 ハストンにしてみれば、

 上手く行けば、ゴレムに風穴、までいかなくとも刺さる位はするんじゃないか。凹みでも出来れば良い。

 兵器だなんて烏滸がましい。ちょっとした実験のつもり。それ程、軽い想い着き感覚。


 結果は、

 受け止めきってゴレムが耐えた。

 幾分後退り、押し戻したものの無傷な外見。

 威力が足りなかったと推測。


 それにしても、

 ハストンの『お試し』を受けて以来、ゴレムが動く気配が無い。

 銃弾を受けた格好のまま。四つん這いで体躯を支える姿勢。

 目視の限りでは外傷は確認出来無い。


 崩れ落ちるでも無く、遠目だと変わった造形、

 美術工芸だと奇抜重視で使い勝手は二の次、それでいて良くわからない値段が付いた、

 四本脚の卓か椅子等の家具が置いて在るかの様に在る。


 動か無いなら、動か無いでいるなりに監視を続けなければならないハストン、

「壊れたか?」

 そうで無いことが解っていても口にする。

 左隣の従卒其の一、クムトルタ一等卒から、

「それだったら、統裁所は言って来るのでは?」

 にべもなしな答が返って来る。

 統裁所からは未だ何も言って来ない。試験は続行していると想って良い。

 ハストンは、

「だよな。」

 同意を返す。


 右隣で銃を構えている隊務副長のデサーウス軍曹が、

「死んだふり。とか。」

 ハストンは、

「そこまでするか?」

 クムトルタが、

「わからないですヨォ。悪知恵は回るようですし。」

 自分の兜を人差し指先でつつく。

 欺瞞行動のことを指して言っている。

 よもや、あんな行動を取るなど考えもしなかった。

 なかなかにズル賢い。何処で憶えたのか。教えたのは.........。


 腕を組み、自慢気にニヤつく少女の姿が浮かぶ。

 漣波のように苛立ちが過る。


「確かめるか。」

 ハストンは決めた。

 とは云うものの、ちょっとやそっとの手段では、死んだふりかどうか確かめることが出来無い。

 どうするのが良いか。

 様子見に近くに行って確かめるのは嫌だし、後々のことを考えるに、ここで弾薬をわざわざ消耗するのも嫌。

『お試し』も数を取って置きたいし。


 クムトルタの隣で左手を上げた従卒其の二、アウララウル一等卒が、

「燃やしちまいましょう。」

 これまた、いきなりの二段抜かしな提案。

 不穏な言葉が出て来た。

「死んだふりなら反応くらいあるだろうし、壊れているなら燃やしちゃっても問題無いでしょう。」

 非情に振り切った理屈。


 あれこれ篩にかけて出したのは、

「それで行こう。」

 の言葉。

 ハストンは頭の中に有る魔法使いと魔術師の面子を思い浮かべ、三番目に出て来た魔法使いの隊員を呼び出す。


 技量云々では無く、最初、二番目がテドラルド・ラーフグリーフツ少尉に指揮を任せた分遣隊の方に居る。のが理由。


 個人の名誉に関わることなので。


「見張っていてくれ。」

 ハストンは双眼鏡を隊務副長のデサーウス軍曹に渡し、

「動いたら教えてくれ。」

 装甲車の天板から降りる。


 呼び出されたクゥクフリュラ兵長がハストンの許へ寄る。

 ハストンは兵長に、ゴレムを焼くことを指示。


「焼き加減は如何が致しましょう?」

 クゥクフリュラが給仕よろしく、手に布巾を掛けている様な仕草で問うて来る。

 戦闘服姿で。


 ハストンは真顔で、

「充分加熱して『炭』に。」

 注文を受けた兵長は、

「畏まりました。」

 給仕の仕草を真似、頭を下げる。

 肩が細かく震えている。

 頭を下げる一瞬に、見えたのは我慢するように表情を消した顔。


「なんで我慢するかなぁ。」

 下げた頭を見るハストンの言葉にクゥクフリュラ兵長は噴き出す。


 傍にいた隊員が、けらけらと笑っている。

 寸劇を観ていた様だ。


 なんでそんなに暢気?

 随分と余裕。

 そんな振りでもしなきゃ、やってられない。


 ゴレムには対物理力の防御術式が施されているのは予想の範囲。

 水圧や氷塊は物理だが燃焼は化学反応。


 ゴレムは土塊。粘土の塊。

 焼けば煉瓦、高温で焼けば陶器になるのか?

 頭の隅を横切る。


 素焼きの土偶になるのでは。


 クゥクフリュラは、立てた右手人差し指と中指の間で挟む様にゴレムの姿を視界に捉え、

は導きに従い赴く処にあらわせ。息を吸い熱を吐くものよ。舞うが如し、踊るが如し。きらめき灰にするものよ。たけり.........。】

 呪文を紡ぐ。


 ゴレムの胴体部に近い箇所に小さな火が出現。

 瞬く、火は数を増やしながらゴレムを取り囲む。

 火は空気を取り込み炎になり、火焔へと成長する。


 ゴレムは動か無い。

 観ていたデサーウスが、

「壊れて.........。」

 言い終わらないうちにゴレムの頭部が動く。


「あ~ぁ。あ〜ぁ。あぁ。」

 残念だと云う、言葉にならない声が上がる。


 やはり、死んだふりだったか。


 焔に包まれるゴレムの頭がゆっくり回転、途中で傾く。また回転を始め途中で傾くを繰り返す。目覚めたばかりで寝惚けていると云った仕草。


「動きました!」

 見張っていたデサーウス軍曹が声を潜めて報告。

 隊員達が揃ってハストンを見る。


 ハストンは命令の順番を急いで組み立てる。優先順位を付けながら装甲車天板へ、向こうに気づかれ無い様に、目立た無い様に身体をにじり、上る。


 デサーウスから双眼鏡を受け取り、上がる焔を見遣る。


 焔に包まれているゴレムは左腕を一歩(?)前に出す。


 念話を送るため耳許に左手親指、口許に小指を当て、残りの指を畳み形を作る。左手指の折り曲げと口許耳許に当てるところまでが念話の代替詠唱儀式。

 ハストンはゴレムを観つつ、

「あー。テドっと。テドは.........。」

 小声で呟きながら、ラーフグリーフツの顔を思い浮かべ様とするが、考えることが多く印象が定まら無い。

 念話は送る相手を思い浮かべ特定する必要がある。

 為に、雑念が入ると途端、不通になり易い。

 念話の欠点。

 ひと呼吸置いて落ち着けてから、

 〖テェエアス。指揮。テド。通信。〗

 隊務長のテェエアス曹長に指揮を任せ、ラーフグリーフツは通信器を使え。の意を送念。


 単語に切るのは、送念相手が理解し易くするため。

 長文での送念は一枚の紙に単語の上に単語を重ね書きするようなもの。送られた側は読み解くのが難しい。


 ゴレムを捉える双眼鏡から目が離せられ無いハストン、

「エエレは、命令まで待機。

 オル。デサーウス。銃撃始め!」

 声を大で命令。


 ゴレムは藻掻くように動いている。

 また、欺瞞行動のひとつだろう。


 本当は、あの中に人間が入っているんじゃないでしょうね。


 それくらいに人間臭い動きをするゴレム。


 ハストンの命令に、

 第四分隊隊長と隊務副長が、

「「撃てっ!」」

 声が重なる。

 隊員達が指を掛けていた引き金を引く。

 装甲兵員輸送車に搭載されている機関砲が見た目より軽快な連打音をたてる。

 比べて支援機関銃の連打音は荒々しい。

 大きな声で命令を出さなければ、かき消されてしまう。

 ハストンは念話を維持。肉眼で第四分隊隊長オラソイオ・エネネエイナ曹長を探す。見つけて、

〖オル。合図まで。継続。〗

 念を送る。

 対象を目にすれば指向もし易く、顔を思い浮かべる手間が省ける。

 エネネエイナ曹長が拳を軽く挙げる。


 続いてエエレ伍長へ。姿を捉え、

〖ゴレム.........。〗

 条件を説明しようと想ったが、

〖近づいたら。『お試し』。撃て。〗

 漠然とした心像を送念。

 漠然とした心像でも共有できるのは念話の利点。

 エエレも拳を軽く挙げ、了承の合図。


 まとわりつく焔を振り払い、動き出すゴレム。頭から弾雨を浴びる。

 銃弾を避ける様に向きを変え前に出ようとする。ゴレムを追う銃弾の雨。

 避け様と移動し、追う様に弾丸が襲う。

 何度か繰り返し、轟音が響き、押し戻され振り出しに戻る。

 やり直し。


 手許の部隊へ指示を与えたハストンは指揮車に駆け寄る。

 装備されている通信機を稼働。

「テド。居るか?」

 呼びかければ、


「《.........此方、ラーフグリーフツ。》」

 通信機から声。


 機関銃、機関砲、小銃が銃弾をばらまく音を伴奏にハストンは、

「テド、そっちから仕掛けてくれ。注意はこのまま、こっちが引き受ける。」

 近接攻撃を掛ける様に伝える。

「《了解。》」

 ラーフグリーフツから即時に返って来る。

 途切れず続く射撃音を気にしつつ、ハストンは、

「どれくらいで始められる?」

「《.........。》」

 返答に間が空く。

 ラーフグリーフツの側で遣り取りしている気配がする。

「《十五刻(分)ください。》」

 答が返って来た。


 轟音。鈍い金属音。

 ゴレムが距離を詰めた模様。対法術呪符が一枚減った音。

 押し返しただろうか。


「このまま銃撃を続ける。出来次第始めてくれ。

 それと、

 渡してある『お試し』は遠慮無しに使ってくれ。使い所は任せる。」

 ハストン御手製対法術耐性術式呪符。

 例のブツの件。


 ラーフグリーフツから、

「《了解です。》」

 ハストンは、

「以上だ。交信終了。」

 返して、交信を切る。


 分遣隊で、

 小隊副隊長ラーフグリーフツ少尉は第三分隊隊長のラーシュミィ曹長へ「近接戦闘」を指示。

 ラーシュミィ曹長は配下を二つの班に分け、軍曹をかしらに五人を先発として準備させる。

 先発班は手榴弾を()()と抱え合図を伺う。


 第三分隊の一等卒が地に片手を着けて地の一点を睨み、

【意に従い、想うなりを成すべし。其は個、其はむれつどい寄せよ積めよ重ねよ。整い並び.........。】

 口に上らせる。

 地面が盛り上がる。押し寄せる波の様に進み嵩を増す。


 ハストンの側からの弾雨を頭から浴びるゴレム。鬱陶しいとばかりに数歩(ゴレム基準)下がり、避けようと向きを変え前に出る。

 そこに銃弾の洗礼。

 また鬱陶しいとばかりに数歩(ゴレム基準)下がり、避けようと向きを変え前に出る。

 銃弾が降り注ぐ。

 繰り返し。


 ラーフグリーフツはゴレムの動きを読み、

「今だ!」

 合図。

 ラーシュミィが、

「行け!」

 号令。

 装甲車の間から走り出る五つの影。


 ゴレムの左手側に盛り上がった土は土壁へと急成長。

 駆け付けた先発班が土壁に身を隠す。

 正面から弾雨を浴びているゴレムは反応していない。

 察知してい無いのか、その必要が無いのか。

 取り付いた隊員達は土壁を障害に、陰から次々手榴弾を放り投げる。


 軍が制式採用している手榴弾は柄付。

 遠心力の作用で他と比べ、遠くへ投げられる。

 また、柄があることで束ねるのが容易なこともあり、臨機で爆発力を高めることが出来る。

 束ねて威力を強めて、戦車相手に使うことも有る。

 破壊出来る所は履帯や機関部周りの排熱口などの薄い部分。

 くらいなものだが。


 土壁の陰から次々に投げ込まれる手榴弾がゴレムの下へ転がる。

 次々、閃光を放ち炸裂。落雷の様な轟きに轟きを重ね、爆煙と土煙、火炎と熱がゴレムを包む。


「行くぞ!」

 ラーシュミィが後発を率いて駆け出す。


 爆発音の余韻が消えるも、

 土煙と爆煙が晴れるのを待たず、未だ立ち込める中へ続いて第二弾の手榴弾が次々に投げ込まれる。

 黒煙の中で連続する閃光。間隔を重ねて繋がる爆発音。爆煙と土埃が舞い上がり、砂礫を巻き上げる。

 土壁は襲い来る爆風と混じる砂礫から隊員達を守る。


 ゴレムが爆煙と土煙に紛れたことで、狙いが付けられなくなり、銃撃が止む。少しでも姿が見えれば再開。隊員達は引き金に指を掛けたままの態勢で待ち構える。


 擲弾と云う由来の役目を終え、土壁を掩体に身を隠していた先発班は、土壁が射線を邪魔する経路で撤収を図る。

 同じ土壁を障害に、射線から逃れるため姿勢を低くしながら進むラーシュミィ班は距離の半分程に差し掛かる。


 突然。

 実の詰まった硬質の大重量物が落下衝突した様な衝撃音。地が軽く揺れる。

 土壁が縦に切り裂かれ、割れ目から三本の太い棒状のものが生えている。


 土壁を背に、撤収する隊員達は何が起きているか解らない。振り返って確かめる手間が惜しいことを本能が知らせている。脇目も振らずにひたすらに隊を目指す。


「伏せろぉっ!!」

 向かい合うラーシュミィが絶叫にも近い声を上げる。


 煙が晴れ、見えてきたのは、土埃を被り、少し煤けた様な姿のゴレムとその腕が土壁に刺さっている光景。

 土壁からゴレムが生えた、と想うのはどうか。

 ゴレムが手刀で土壁を叩き割ったと解釈するのが正しい。


 爆煙の残滓も薄れ消える。

 ゴレムは土壁から手を引き抜く。

 ぎくしゃくと腕で支えながら身を起こす。

 ゆっくりと、それまでの四つん這いから二足直立へ。

 赤子が初めて自力で立ち上がった様に危なっかしく、ふらつきながら立ち上がる。

 足だけで体躯を支え直立、未だ平衡が安定しないのか、ふらつきが治まらない。


 これが本当に、赤子の「たっち」なら祝い事。感動ものだろう。

 土壁を手刀で縦割りする相手ではそう云った感情は起きない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ