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装甲擲弾兵  作者: kasizuki.s.y
19/33

その19 

 ゴレムの不可解な行動。

 体躯を左右に揺らしたり、腕立て伏せをしたり。

 そう見える行動。

 他にどんな解釈があるのか、参考までに拝聴したいところ。

 ゴレムに尋ねれば早いが、生憎とひと(?)の形をしていても土の塊。意思疎通はそもそも可能なのか。


 無理だと想う。


 第三小隊は、

 隊員達は目にして困惑。

 目の前のゴレムの行動はどんな目的、意図があるのか。

 そもそも、意味があるのかどうかさえ判らない。


 ゴレムが未だ攻撃らしい攻撃に出るでも無く、頻りにそんなことを続けることもあって、毒気を抜かれた隊員達。


 ゴレムの行動の意図しているであろうところを、隊員達が好き勝手に推測、意見を交わす。

 その内、

 冗談混じりの暢気な推測がちらほらと披露され、緊張が緩む端が見え始める。

 そんな中、

 隊員のひとりが、

「.........挑発?」

 と言い出した。


 緩みかけた空気が一変。

 発言元の隊員へ視線が一時集中。

 視線を浴びた発言元の隊員は、不穏な雰囲気に気付いて周囲を見渡す。

 周りが皆、感情を無くした表情で自分を見ていることに慌て仰け反る。反対側を向いても似たような表情が並び、また仰け反る。


 口走った隊員へ向けていた、感情を載せない顔が、重いが故にのろのろと回転する石臼の様に、一斉にゴレムへ向きを変える。

 その殆どが向きを変える内に険しい形相、怒りを湛える表情に変えていた。


「ゴレム風情が生意気な。」

 誰が言ったか、そんな声が挙がる。


 隊員達の想いがひとつになった瞬間。


 小隊隊長のマーカー・ハストン中尉、ゴレムの姿を収める双眼鏡から眼を離せないでいるが、そんな隊員達の盛り上がりを傍で感じている。

 ただ、士気が上がるのは結構なのだが、素直に歓迎できない思い。

 感情の乱高下が激しくないかとちょっと心配。


 双眼鏡に映るゴレムの動き、言われてみれば、成る程、『挑発』に見える。


 それまで、左右に体躯を揺らしていたが、今度は、そのままの四つん這い姿勢で、横這いで(ゴレム基準)数歩分右へ、かと思えば左へ同じ姿勢で横這いで(ゴレム基準)数歩移動。

 また右へ、左へ。


 ゴレムの動きに既視感を覚えた隊員の頭に浮かんだのは『甲殻類』。

 川辺や磯辺に居るヤツ。


 ゴレムが見せる新しい動作。

 新たに怪しい行動を追加したことに、またも、『我』を何処かに置いてき放りにしかけた隊員達。

 その中で、いち早く『我』が追い着いて再起動した隊員が、

「ありゃ?」

 ゴレムの動作を見て、

「あれって、ちょっとづつ動いてませんかね?」

 気付いて指摘。


 ハストンがゴレムの位置に注意して動きを見れば、指摘の通り、僅かづつだが、分遣した副隊長のテドラルド・ラーフグリーフツ少尉達との間を詰めている。

 ラーフグリーフツ隊へにじり寄る様に這い寄るゴレム。


「小癪な真似を。」

 眉根を寄せたハストンが呟く。

 ゴレムのくせに欺瞞行動だなんて、性格なんて無いハズなのに造ったやつに似て性格が悪い。

 顔なら、今、統裁所に行けば見られる。


 耳にした隊員が、

「太ぇヤローだ!」

 言い出せば、


「えっ?男!?」

「雄なのか?」

 食いつく所がおかしい反応が上がる。


 統裁所では、

「信号発信は正常。

 依然、ゴレムからの応答無し。」

 作業員の報告。声が涙声。

『兜と籠手』社ゴレム発令所区画ではリーリッサ・ペロロペルア女史の指揮で管制制御の回復復旧が図られてはいるが、芳しく無い。

 正直、両手を速やかに挙げたい状況。

 発令所の装置を幾ら点検、確認しても故障、不具合は発見出来無い。最後の一手で再起動させても、結果は変わらない。

 原因が解らない事態。

『もう、泣いていいですか?』

 作業職員の顔に心の内が現れている。


「こちらの命令は届いているが、ゴレムが無視していると.........?」

 性能試験責任者の立場から現状況を言葉に確認するミルドルト・トロウヤ大尉。


「そう言うことになるわね。」

 年相応の反抗期に有りがちな態度の様に、認めたく無い事実を不機嫌そうに認めるペロロペルア。


 ペロロペルアとトロウヤの遣り取りを聞いているエルムト・ドレトギャンの顔が段々と強張る。


 この場にはペロロペルアとドレトギャンが属する『兜と籠手』社と競合関係の『双剣と盾』社のブレダ・ガルダルタとソーリッド・シルタの二人が見学者として同席。

 不都合な情報は流したく無い。

 シルタとガルダルタは素知らぬ顔をしているが、耳を傍立てているのは当たり前だと想って間違いない。

 二人の顔は映像に向いているが、ちらちらと様子を盗み見ている。


 映像の中のゴレムは、役割を思い出したのか、横這いで右へ行ったかと思えば左へ折り返し。また右へ左へ反復を繰り返す。


 トロウヤは映像を横目で見ながら、

「ゴレムの方に問題が起きている?」

 率直な答を求める。

 それに、

「現時点ではなんとも.........。」

 ペロロペルアは断定を避け、

「ただ、そう考えた方が説明は着く。」

 目を伏せて答える。

 誤魔化しているようにも見えるが、

 決定的な確証が得られるまで、明言をしないのは研究者らしいところなのか。

 映像の中のゴレムを横目で追うトロウヤ、

〖んん?〗

 ゴレムの動きに違和感を抱く。暫く観察して、

〖移動している?〗

 違和感の正体に気付いた。

 ゴレムが反復を続け、少しづつでは在るが位置を変えている。


「ゴレムは勝手に動いている?」

 トロウヤが映像を指差し、確認のために尋ねれば、

 ペロロペルアも認める他は無いが、

「発令所の装置に故障とか、異常は見つかってい無いわ。」

 ゴレムの制御が『手』から離れていることを違う言い方で伝える。


 目を閉じて、首裏の生え際辺りを掻くトロウヤ、

「発令所からの命令が無くてもゴレムは動けるものですか?」

 疑問を口に上らせる。


 視線を合わせずペロロペルアは、

「.........『初期命令』に従っていると考えられるわ。」 

 想い着く所見を答える。

 トロウヤは、

「いえ。そうでは無く。

『ゴレムが自分で判断して行動している』のかと言う意味なのですが。」

 言葉を変えて質問が意図するところを説明。


 トロウヤの尋ねに、ペロロペルアは眉間に縦方向へ筋を作る。


 ペロロペルアが想い返すゴレムの内部設計。


 ゴレムには、

 体躯機能、動作を効率良く円滑に行う為の命令制御するものと、

 周囲状況を知覚、判断して最適解の行動を導く、

 二つの情報処理演算機構を搭載。

 全てをひとつの情報処理演算機で一元処理させるのを止め、


 一発で最悪、機能停止になりかねない。の事態を避けるも含め、


 状況判断と動作命令を分離、それぞれに専念させると共に双方対話型並列処理させることで、情報処理速度を高速化、状況に合わせ素早い反応と柔軟な対応を行わせる。


 ゴレムは与えた目的を遂行しようとしているのだろうか。


 ペロロペルアが与えてい無い動きを勝手にはじめるゴレム。


 一連の不可解な行動がその為だとして、どう云う判断が動きを導き出したのか。

 情報処理演算装置は正常な判断をしているのか、

 支障が故の行動だとすれば、答は簡単なのだが。

 応答を返さないので解らない。

 それすらも演算装置が異常をきたしている故なのか。


 設計では、本来の移動姿勢は直立二足歩行。両腕を補助で使いながらの移動(それが前提で腕部は長い)はあるが、四肢全てで体躯を支えて脚として使って移動する設計はしていない。

 これは動作演算に異常が有ることを示しているのではないか。

 そうなると、異常動作が動作演算由来なのか、判断処理演算由来、最悪その両方.........。


 ペロロペルアの思考は迷路へ踏み出してしまった。


 統裁所でそんな遣り取りをしていることなど知る訳も無い、

 第三小隊では、


 ハストンは左手親指を左耳近くに、小指を口許近くに当てる。

〖えーっと。テドは.........〗

 ラーフグリーフツ少尉を想い浮かべながら、

『テド。攻撃。始め。』

 の念を送る。


 返事代わりか、念話が届いたことを証明する様に、右手ラーフグリーフツ隊側から、硬質な物同士を短間隔で打ち衝け続ける音。複数の連射音が入り混じり、ゴレムの側面へ銃弾がぶち撒けられる。

 合わせて、水滴が水面を穿つ波紋の様に魔力光が明滅する。

 防御術式が働いているのが判る。


 火力の主軸は装甲兵員輸送車搭載の機関砲と分隊支援火器の重機関銃。

 端から小銃でどうこうは期待していない。あれは対人用。数合わせ。

 支援機関銃は小銃よりやや大きい弾丸を使用するがこちらも基本対人向け。同じく数合わせ。

 装甲車搭載火器の機関砲は家屋建屋の壁、自動車やら装甲車を相手にぶち抜くのを想定していることもあって、どうにか。

 戦車相手は余程薄い部分でなければ流石に貫通は無理。

 今回のゴレムもそう。


 機関銃をはじめとする連続発射する火器は、

 射界内での短時間、それこそ早口で十数える間に、四十発前後もの数を連続してと云う圧倒的な投弾量で、対手の行動を封じる。

 対手を近寄らせない為のもの。

 行動を封じられ近付くことも、身動き出来無い対手は攻撃も出来無い。


 これを業界用語で

「射竦められる」または「射竦められた」状態

 と、云う。


 破壊殺傷は副次な産物。

 目的が殺傷でも結果は同じ。だと云う意見も在る。


「動くと撃つ」(警告)から「動くと当たる」(威嚇)そして「撃ち続ければ(対手は)動け無い」(示威)へ。

 機関銃は弾丸を撒き散らし続ける。


 機関砲で穴だらけに出来れば良いが、それを想定した仕様のゴレムが相手では無理な話。

 兎に角、投弾量と云う圧力で以てゴレムを抑え付ける、と云う意図。


 ゴレムが『ヒト』と同じ感情や思考を持つ、とした目で見れば、今、ゴレムはまるで右往左往、慌てふためいている様に見える。

 しかし、相手は最新式とは言え『泥人形』、『粘土細工』。

 ヒトと同じ感情や思考を持ち合わせているか甚だ疑問。

 そんな『シロモノ』が「右往左往」だなんて、無駄な事。


〖回避運動かよ!〗

 今更ながらに気付くハストン。


 ゴレムとしては目的地がその方向に在るのか、ただ単に状況を突破出来ると判断したのか、

 ともかくラーフグリーフツ側へ進みたいらしく銃弾を浴びては後退り、向きを変えて銃弾を回避しながら前進。そこでまた銃弾を浴びては後退り。を執拗に繰り返しながら、じわりじわりラーフグリーフツ側へ近づいて行く。


「エエレ!『お試し』、撃て!」

 ハストンが合図を飛ばす。

 隣の装甲兵員輸送車の側面から火球の様な火焔が巻き起こり、伴に周囲の音を塗り潰す轟音。

 直後、鉄塊を鉄塊で殴り付ける音がしてゴレムが真正面から押し戻される。


 証拠に、地に残った引っ掻き傷は、ゴレムの地に着けている四本の四肢へと続いている。

 力尽くの勢いで、ゴレムは四つん這いの姿勢のままで押し戻された。


 見方を変えれば、ゴレムはあれだけの力を受け止めきった。

 ペロロペルアが胸を張って言うだけのことは有る。


 統裁所で、

 映し出された、ゴレムが力押しで押し戻される光景。

 トロウヤはどういう訳か酸っぱいものを口にした顔をしていた。

 見ていた『双剣と盾』社のガルダルタとシルタの眉間に皺が寄ると伴に目が細まっている。

 映像を指差すドレトギャンは目と口は開いたままでペロロペルアを見る。

 ペロロペルアも眼を瞠る。

 製作途上で実験したときには難無く砲弾を跳ね返していたのに。

 小銃弾より大きいとは云え、銃弾一発の力で押し戻された。


 まともな代物で無いことは明白。


 トロウヤ以外の人間に過ぎったのは、

 軍が秘密裏に開発していた兵器

 なのでは?だということ。

 ゴレムの性能試験は表向き、実際はこの銃弾の試験が本命。


 トロウヤへ視線を向けながら、難しい顔でガルダルタとシルタが周りに聞かれぬ様に潜めた声で会話。


 事前告知もされず、いきなりの登場。あまりに予想を超える衝撃的なことで疑心暗鬼に陥る。

「深読み過ぎ」も仕方無し。


 身に覚えも無い疑いを向けられているなど気付いてい無いトロウヤには、あの銃弾の出処に思い当たる節が有る。


 第三小隊で、

「いまひとつか。」

 一発の銃弾がゴレムを押し戻したのを見たハストンの感想。

 件の銃弾の出処。


 ゴレムは固まったのかの様に動かない。

 茫然自失といったところなのか、妙にヒト臭い仕草をする。ヒト並に感情や思考が在ると勘違いさせる。これも動作命令の内なのか。


 機能停止、行動不能判定も届いてい無い。

 試験続行中らしい。そのうち動き出すのだろうか。


〖試験終了だと良いなぁ。〗

 おそらくは多数意見。陽は見れば、まだ途上。


 ハストンはここ最近、ゴレムの法術耐性術式への攻略に八対二位で気を置いていたので、


 気を置いた『八』がどちらかなのは言うまでも無い。


 書類仕事に支障を出して、副隊長のラーフグリーフツ少尉や隊務長のテェエアス曹長から責付かれたのも懐かしい。

 気がする。

 後云えば、降下中のゴレムに使用したのもこの弾丸。


『重複集積描法』が施されているであろうゴレムには物理力と法術への耐性術式の二つ、または、それ以上を持っていると予想される。


 法術耐性の術式は他の術式と同時展開するとなると結構厄介で、法術耐性術式が干渉して他方の術式の効果を弱化させる可能性が在る。

 法術耐性術式の中で、特に解呪型はこの傾向が強い。

 また、抵抗反撥型は上回る強度の法術には耐えられ無いと云う弱点が在る。

 攻撃強度が上回れば突破が可能。

 ハストンの読みでは、ゴレムの法術耐性術式は抵抗反撥型。


 閃いたのは小用を足している最中。

 法術耐性術式を精密集中で穴を開ける、無効化してしまえ。

 間を置かずに開けた穴から物理力をぶつけてしまおう

 と、云うもの。


 最初に考えたのは徹甲弾弾頭に解呪術式を刻み込むこと。

 だが、

 弾丸本体に解呪系魔術陣を描記すると、銃身内で働く加速の魔術を無効化する可能性が有る。となると、本来の火薬量の威力しか得られない。

 不採用。


 ならば、銃口から飛び出す瞬間に解呪系術式を纏わせられれば良い。

 これを如何に解決するか。

 想い着いたのは、休息時、銀紙で個別包装された菓子を口に放り込んだとき。

 薄い金属箔に解呪系魔術陣回路を描記。裏面に軽い粘性を持たせて銃口に張り付ける。

 発射された徹甲弾は銃口で解呪術式を描記した金属製呪符を先端にくっつけて、目標へすっ飛んで行くことになる。

 魔術で加速と云う物理力を得た後でなら徹甲弾は全面に展開する解呪の影響を受け無い。


 子供の工作。


 金属箔の解呪系術式を描記した面と目標の対物理力、法術耐性術式と正面で接触すればどんな反応が起こるか。

 その直後に高速の運動力量を持つ徹甲弾が本体の硬度と勝負。


 結果は、

 ゴレムを力尽くで後ろへ押し込んだものの、外見無傷な様に見えるところから、勝負はゴレムにあった模様。

 しかし、勝ったはずのゴレムは沈黙したまま。身動きひとつしない。


 統裁所は未だ、何も言って来ない。

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