その18
運転席の隊員が起動器の鍵盤を押し込む。
引きづる擦る様な回転音の後、続いて装甲兵員輸送車の動力、魔導機関が動作を始める。
魔導機関とは通称で、正式には、
「循円環式発動機関」
と云う。
「魔導機関」とは、
魔術によって運動力を得る仕組みから付いた呼び名。
この世界の人間も車輪を発明し、物を運ぶ労力を軽減する手段を得た。
ただ、それだけでは未だ足り無かった。
人間というのは欲深い存在。
車輪は労力を軽減すると言っても軽減するだけ、動かすための「力」と云うものは別に必要。
この、動かす力から解放されることに人は知恵を絞る。
誰だって重たい荷車、荷台車を動かすなんて重労働はしたくない。
順番が自分に回ってくるのは御免。極力回避したい。
答のひとつが、
畜獣での牽引。
暫くの間、この方法が主流となる。
完全無欠だから。
という訳では無い。
他の方法で有効なものが見当らないと云う選択肢の数が少ないと云う事情。
問題点が在るに、目を瞑ったとしても他の方法よりマシ。なだけが理由。
問題点のひとつに、
獣畜がそれなりの動力になるまで時間が掛かる。
が、在る。
育成する必要と云う問題。
育成を省いて、野良の成獣を捕獲して使役する。
と云うのも在ることは在るが、捕獲自体が難しい。「無傷」でという揺るがせない前提が在るため。
まだ、その後も。
運良く捕獲出来たとしても、今まで野生に生きてきたのを人馴れさせるだけでもこれまた、ひと苦労。
仕事として費と益の差が小さいのは魅力に欠ける。余程、後が無いなんて理由でも無ければ勧んで関わろうとは思わないだろう。
血を濃くさせ無いためにも野良の捕獲は必要であるが。
食用で無い動力専科の畜獣は、どうしても、それなりの重量を牽引出来るまで個体が成長するのを待たなければならない。
食用は成獣以前でも食肉に出来る。極端な話、生まれてすぐにでも可能。
自然、動力となる成獣は貴重品。
そう簡単安易な消耗品という訳にはいか無い。
高嶺高価。後生大事。取り扱い注意。
一方で常に新しい個体の獣畜を繁殖させ育成し続けねばならない。
需要を満たす数を揃え続けるためには手間も暇もカネも必要。
これを個人でというには負担が大きい。
結果、大きな組織に出番が回る。
そんな問題が在る獣畜を動力にしない方法とは?
この世界は法術が当たり前に存在。
当然、法術で何とかしようとする連中が登場する。
筋力的に非力でも、身ひとつで物体を動かす事が出来るのが法術。
しかし、法術で物体を移動させている間は法術を使い続けなければならない。
途中を放ったらかすことは出来るが、目を離した一瞬の隙の惨事は結構多い。後悔は起きてから。
使い続けている間は法術に集中しなければならず、その間、緊張を強いられ、精神的疲労に陥る。
筋力と精神力の違いは有れど、疲弊するのは同じと気付く。
動力と云う問題、
獣畜以外の有効な解決策を見つけられず、涙を飲んでの敗退が続いた。
それでも、往生際の........。
違う。
.........諦めの悪い連中は居る。
「歴史上の偉業は諦めの悪い人間が起こすもの。」
とある作家が自身の作品中の船医に語らせた言葉。
此方側で、
結果生まれたのが、蒸気、及び内燃機関。
どちらも基本的には往復運動を回転運動へ変換する仕組み。
因みに、これらとは全く違う、電磁気の作用で直接に回転運動を取り出すのが、「電動機」。
この世界で、
動力の問題を解決したのが、「循円環式発動機関」、
俗称『魔導機関』。
開発者のひとりに名が挙がるサーフガンナフと云う名の人物が、
同時代に同じ様な仕組みの着想を得て『魔導機関』の開発を行っていた人物は複数人が存在していたことが伝えらている。
サーフガンナフはその複数人の内の一人。
当時の、情報通信手段が未熟な時代では、どうしても情報伝達は時間が掛かる。隔地ならばなおさら。
開発者達は其々が個々に勝手に研究に勤しんでいる状況で居ることが多いこともあって、競合する存在を風の噂で聴いたことがあるのは未だ良い方、
全く知らないでいるなど、ざらだった。
その中で、
サーフガンナフは一歩先んじて世に公表出来たことで発明者として名が知られた。
後に明かしたところによれば、
川辺りの水車小屋。水車を動力に石臼で粉を挽く光景を見て着想を得た。
と述べている。
サーフガンナフが考えた仕組みは、簡単に云えば、
機械に法術の詠唱をさせる。
と云うもの。
この当時の技術では機械に喋らせるだなんて方法はまだ無い。
そこで代替詠唱法である。
いくつもの音を連ね重ねることで詠唱の代わりにしようと想い着いた。
張った弦を弾くと音がする。
弦の長さを変えて弾くと違った音を発するのは昔から知られていた。
これを使って各種の音色を複合的に発生させようとすると各種弦楽器に行き着く。
弦楽器の演奏で、響きが人が喋っているかの様に聞こえることが在る。
そんな記憶が片隅に在ったのかもしれない。
さて、
櫛の歯を弾くと音がする。
櫛歯の長さを変えると弦でと同じく音色が変わる。
サーフガンナフは弦を使うのを止め、代わりと薄い金属片で出来た櫛歯を使った。
呪語と符合させた音を響かせる長さの櫛歯を爪が弾く。
これを詠唱に聞こえる様に音色の櫛歯を弾くように爪を配し、連続させることで詠唱の代わりにした。
サーフガンナフは当初、円筒の表面に爪を付けたもので櫛歯を弾く仕組みを考えていた。
円筒が回転。表面の爪が櫛歯を弾いて車輪を回転させる呪文を代替詠唱する。
円筒と車輪を同軸で繋げれば、車輪の回転で爪を着けた円筒も回転。一連の詠唱が終わっても、また始めに戻って来る。
円筒の回転で、爪は櫛歯を弾き続け、詠唱を続けることになる。
これは同じ呪文を延々と繰り返すのと同じ。
なれば、車輪も回転を続ける。
車輪と円筒は一緒に回転を続ける。
しかし、ここで行き詰まった。
当初想定していた円筒の大きさでは付けられる爪の数、情報量が想ったより少ない。車輪を回転させる術式を全て構築させるには足りなかった。
増やすには円筒口径を大きくして、表面積を大きくする必要がある。
だが、円筒を大きくすれば図体がでかく、重くなる。
問。こんなものを荷台車を始めとする車体に積み込むとどうなるか?
答。何処に荷物やら人とかを乗せるんだ?
なものが出来上がる。
それはそれで、使い道がありそうだが。
もっと小さくまとめる必要があった。
想い悩んでいたサーフガンナフが粉挽きの水車小屋で、石臼を見て想い着いたのが、
円筒を止め円盤にする。
ことだった。
円筒部を円盤にして盤面に爪を付けた。一回転しても頭に戻る。終始の境が無く回転を続けることに変わりはない。
更に、円盤と櫛歯を組として同軸上に複数の組を並べれば情報量が増える。
複雑な術式でも構築出来ることを意味した。
気づけば、生まれたばかりだった子供が青年になる年月を経て、
安定的に運動力を生み出す、
繰り返す「循」、円のように繋がる「円環」、方「式」で運動力を生み出す「発動」、仕組み「機関」。
を完成させた。
サーフガンナフは「循円環式発動機関」と命名。
元々、循円環式発動機関、魔導機関は主に車輛の動力が目的で開発。
サーフガンナフは魔導機関を取り付けた荷台車を造り、走行を実演。
魔導機関一基でも、荷台車を一輌動かす力が有る。
何よりも、
荷台車を動かす間、詠唱をし続けなくて済む。
畜獣のとは違い、重量物を載せて走らせても、幾ら高速で走らせても、長時間走らせても疲れることは無く。文句も言わ無い。
多くの興味、関心を引く。
動力専科の獣畜を繁殖育成する業者からは目の敵だったとか。
斯くして、この世界は自走機械、自動車交通時代の第一歩を踏み出した。
各分隊を収容した装甲兵員輸送車の車列は道なりでは無く、目的地まで直線で移動。本来なら警戒陣形での移動だが、先手に出るため速度を優先。
第三小隊隊長マーカー・ハストン中尉が陣を構えることにした地点は、ゴレム墜落地点(予想)である森と、道を挟んで向かい合う高台。
ハストンは手許に第一、第四分隊を残し、装甲兵員輸送車を並べて掩体にする。
少し先の銃火を交差出来る位置へ副隊長のテドラルド・ラーフグリーフツ少尉に隊務長のテェエアス曹長と従卒一人を随行させ、第二、第三分隊を陣取らせる。
第一分隊から編成した斥候班が既に森に入り、今はゴレムを捜索している筈。
ハストンは斥候班を出した第一分隊隊長クロゾ・ロドエイ曹長に残りの分隊員で重支援任務を命じる。
装甲兵員輸送車の天板に張り付いたハストンと分隊長達が森の様子を伺う。
異変を見逃すまいと、舐め回す様に森を見遣る。
.........訂正。
森の異変を見逃すまいと、注意深く監視する。
単発の乾いた破裂音。
銃声。
木々が揺れている。
狭い間を無理矢理通り抜けようとしているのだろう。
木が傾く。
つっかえた木をへし折りながら進んでいるのだろう。
そんな事をするのはゴレム。姿を見せずとも断定。
再度の単発の銃声。
姿を未だ見せてい無いが、木々を圧し折り薙ぎ倒し続けている方向はハストンへ向かっている。
連射音。
隊員達も近づいて来るのが判る。
命令されるまでも無く、装甲車の影から揃って同じ方向へ銃口を向ける。
ハストンが覗く双眼鏡には、
斥候班の隊員がひとり、森の外へ、木々の間から走り出る姿。
隊員が部隊に気付いた様子なのが判る。
立ち止まり、一度、森を見返し、隊に向かって手の動きで合図を送る。
合図を目にしたハストン、
「お出ましだ。」
双眼鏡から目を離さず、誰へとも無く言葉にする。
先に森を抜け出した斥候の隊員のその後方、続いて、もうひとりの隊員が姿を表す。
外に走り出ると、直ぐに向き直って森に向け銃を連射。
終えると身を翻し、隊へ直線では無く、脇へ迂回する経路へ向かって走り出す。
先程まで銃弾を撃ち込んでいた場所。藪を掻き分ける様に、比べてはるかに太さの違う森の木々を薙ぎ倒しながらゴレムがのっそりと這いずり、その姿を表す。
別の場所から森を抜けた斥候班の隊員がラーフグリーフツの方へ駆けて行く。
統裁所で、
映像を通し、現れたゴレムの姿を見たトロウヤ、
「あー、.........斬新な?.........造形.........ですな?」
言葉を選ぶ。
聴いたペロロペルアは、
〖そんな訳有るか!〗
の想いを視線に載せてトロウヤを睨む。
第三小隊で、
「.........随分、変わった造形ですね。」
統裁所でのと、似た感想を違う言葉で口に上らせたクムトルタ一等卒。
適当な言葉が見つからなかった。
隣で双眼鏡から目を外さないハストンも感想は同様。
木々を掻き分け、森から「這い出る」の言葉通りに姿を現したゴレム。
基本、二足歩行だと云うことだったはず。
しかし、今は四つん這いで移動。
その姿は動物、昆虫を想い起こさせる。
人間で云うなら腕に当たる部位の構造もまた人では無い、を強く印象付ける。
胴体部、胸部らしき付近から伸びる腕は履帯状、一片づつを繋ぎ合わせた形状。
その先に掌と云うべきか、大きく長く太い指が放射状に拡がり、地に着く。
脚も同じ様な形状。こちらは腕らしきに比べ半分程度だろう長さ。
それらが二対四本で身体を支えている。
森から出てきたゴレムは森から出ても這ったままの姿勢で、立ち上がる様子も無く、そのまま。ハストン達をじっと見詰めている様にじっとする。
静止画の如き光景。
統裁所では、
送られてくる光景に誰もが見入る。
映像に動きが無い。
観測機の不調を疑う作業員が確かめる。
異常は検出されていない。
第三小隊では、
「隊長。」
ハストンの隣で銃を構えたクムトルタ一等卒が声を掛ける。
それに我に返ったハストン、
「未だだ。」
つぶさにゴレムを観察するのに夢中だった。
第三小隊の前に姿を現したゴレム。
頭部らしき部位をぎこち無く、ぎくしゃくとした動きでもたげる。
動きに不自然さというか。
それが普段のなのだろう位置にまで頭部を持って来る。
しかし、維持出来無いのか少しして頭部は力無く垂れ下がる。
すると、また頭部をぎこち無くもたげ、維持出来ずにまた垂れ下がるを繰り返す。
様子がおかしいのでは?
と、ひと目で判りそうな状態であるが、トロウヤもハストン始め第三小隊も目の前のゴレムは初見。
散々っぱら邪魔されて挙げ句に今の今まで相手をするゴレムから遠ざけられていた。
当然、正常に稼働している姿を知らない。
疑念は在るが、これが通常だと判断するに否定する材料が無い。
そして、正常だろうが異常だろうが、ハストン達第三小隊にとって対手で在ることに代わりは無い。
暫しの間、首振りを続けていたゴレムが、今度は体躯を揺らし始める。
ゴレムが「腕立て伏せ」を始めた。
「あれ、なんの意味だ?」
ハストンは心底、理解不能だと誰へともなく溢す。
ハストンの言葉を耳にした近くの隊員達、
「さぁ?ー」
揃って言葉にして、揃って首を傾げる。
統裁所でも、
映像を見ているトロウヤ、ゴレムの動きに、
「あの行動はどんな意味なんです?」
ペロロペルアへ向いて尋ねる。
訊かれたペロロペルアにしても、
〖知る訳無いでしょ!〗
の言葉を喉奥に引っ込め、代わりに、
「あれは.........。」
の言葉を絞り出すが、後が続かない。
ペロロペルアにしても困惑。
こんな動作は設計に無い。
ゴレムは腕立て伏せをしたかと思えば、今度は左右に体躯を揺らす。そしてまた腕立て伏せに戻り、飽きたのか再度、体躯を揺らす。
そしてまた、一連の動きを反復する。
暫くゴレムの体操、準備運動でもしている様な動きに、
「不気味だねぇ。」
「何かの儀式とか?」
隊員達がそれぞれに想うところを言い出す。
「呪詛の儀式か?」
の言葉に、
言葉を拾った隊員が、
「くっ。変な踊りに目が離せねぇ。呪にかかっちまったか!?」
真面目臭った言い方で。
耳に届いた隊員が噴き出す。
忍び笑いをするのがちらほら。
肩を震わせながら堪えている者も居る。
緊張感が薄れる。
その中で、
「.........挑発?」
隊員のひとりが溢す。
耳にした周りの隊員達が、思わず発言元の隊員へ振り向く。




