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装甲擲弾兵  作者: kasizuki.s.y
16/33

その16

 カーディンソン組。

 いつからか、誰が呼び始めたかは知らないが。いつの間にか定着した、第三小隊内での、とある集団を指す呼び名。


「カーディンソン」の『氏』を持つ四人に加え、ディイ・ナイナンセ兵長とをまとめた五人を「カーディンソン組」と呼ぶ。


『氏』こそ同じではあるが、

 その実、血縁があるのは二号と四号。四号が兄で二号が弟。

 何代も遡れば血縁は有るかも知れないが、そこら辺は本人達にも判らない。


 なにしろ、本人達は自らの真の出自さえ知らない。

 親を知らない孤児と云う過去を持つ。 

『氏』の「カーディンソン」とは彼らが過ごした施設の名称。

 施設を卒した時に自分等の『氏』とした。

 ナイナンセ兵長のは養子先の家名。


 番号付けは第三小隊へ配属された順。

 一号は名をアーフ。階級は軍曹。

 二号は四号の実弟。名はベエテ。伍長。

 三号もベエテ。階級も伍長

 四号は二号の実兄。セイ兵長。

 ときに、呼び名がややこしいことになることから、と識別に番号を付けたのがハストン。


 組で筆頭格のアーフ・カーディンソン軍曹を先頭に、その後ろに舎弟格の四人が横並ぶ。

『待ち』の姿勢で揃ったカーディンソン組五人を前にしてハストンは、近くに在った椅子を引き寄せ、

「自由時間は、どう使うかについてはとやかくは言わない。」

 腰を下ろして、片膝を抱え、

「公序良俗に反しない程度、余程やらかすことがなければ。

 という条件は付くけども。」


 黙って聴いているカーディンソン達、 

〖ちっとも、『自由』には聴こえない。〗

 想っても口に出さない。


「まぁ、そこら辺の下手は無いだろうが。」

 ハストンは今までを、記憶から浚ってさして不都合が起き無さそうだと口にする。

 基地では起きてい無い実績(?)がその根拠。

「問題は就寝後だなぁ。」

 自分に問いながら視線が脇へ外れる。

 カーディンソン達に視線を戻す少しの間に考えを巡らせた結果が、

「バレなきゃ良いか。

 演習場外に出ないこと。面倒なことになる。

 万にひとつになっても、その時は引き取りに行く。

 ただし、罰は覚悟しておくこと。」


 カーディンソン一号こと、アーフ・カーディンソン軍曹が、

「肝に銘じます。」

 代表として答え、

 続いてカーディンソン組五人は、

「ありがとうございます。」

 揃って頭を下げた。


 用件が終わったカーディンソン組が天幕を後にする。


「大丈夫ですかね?」

 隊務長のテェエアス曹長がハストンへ尋ねる。

 気にするのは、カーディンソン組がはしゃぎ過ぎて余計な事にならないか。


「こればっかりは。仕方無いです。」

 ハストンの答。

 連中については、抑え込むより発散させた方が多分に増しだと考えている。

 起こすな。起こさせない。は過ぎた。


 階級的には上位のハストンも古参で年上な上に隊経験の長いテェエアス隊務長に敬意を払い、口調も丁寧。

「一応、保険も掛けて於きますけどね。」

 起き無かった。起こら無かった。にすれば良い。


「起床!」「起床!」

 第三小隊営地に強く通る声が響く。辺りはまだ薄暗い。

 テェエアス隊務長とウウリ一等卒組、隊務副長と従卒のアウララウル一等卒組が、手分けして各天幕を回り起床を促す。

 既に起きて身支度の最中の者には騒がしいが、まだ目を覚ましていない者を夢の世界から強制帰還させるべく起こして回っている。


 共用天幕に集められた第三小隊。

 前日の小隊連絡会でも狭苦しい状態。

 そこへ、更に人間が増えた。

 どうして此処に少女がいるのか、

 そんなことを思う事すら無く、

 却って、此処にいて大丈夫なのかと、思わせる程度に隊員達に強烈な印象を植え付けたリーリッサ・ペロロペルアの姿と三人の男。

『双剣と盾』社のソーリッド・シルタとブレダ・ガルダルタ。

 ペロロペルアと同じ『兜と籠手』社でエルムト・ドレトギャン。

 同席している男達の姿はペロロペルアより印象が霞んでしまったので隣に尋ねたりしている隊員達が居る。


 天幕にトロウヤ・ミルドルト大尉が入って来る。

 合わせてラーフグリーフツ副隊長が、

「起立!」

 号令を掛ける。

 ハストンを始めとする小隊が一斉に立ち上がる。

 続いて、

「気を着け!」

 号令が掛かり、隊員達は揃って上体をやや反らしながら背筋を伸ばし、踵を付ける。

 トロウヤが隊員達の前を進み、架けた立板の前に立つ。


「着席!」

 ラーフグリーフツの号に合わせて隊員達が腰を下ろす。


 トロウヤは隊員達へ向かい、

「それでは、試験の目的と『状況』の説明を行う。」

 知っていて当然と今更名乗ることを飛び越し本題へ。

「本日、これから行うのは、以前にもハストン中尉から説明を受けた様に、

 軍が導入を予定している新兵器の運用と性能の試験だ。」

 続けて、

「試験は演習形式で行う。これも伝えてある。変更は無い。」

 隊員達に染み込むのを待つように間を置く、

「状況の設定だが、

 敵勢力の侵攻を確認。

 敵勢力の戦力並びに目的地は不明。

 侵攻阻止のため味方部隊出動。

 これを『撃退』、『排除』する。   

 だ。」

 解ったか?と隊員達を見渡し、

「侵攻を阻止したと判断した。

 あるいは、

 第三小隊が交戦継続力を失う、または、敵勢力の侵攻が想定線を越えた時点で本日の試験は終了。」


 ハストンは、以前にトロウヤと語った事を想い返し、

〖やっと、か。

 ゴレムを止めれば『勝ち』。

 こっちが『戦力喪失』かゴレムが動き続ければ『負け』ってことかい.........。

 捻りが無いってのは良いが。

『想定線』って何?何処?〗

 トロウヤの説明に対し、口に出さないハストンの指摘。


 聴いている隊員達はと云うと、

〖戦力不明の敵勢力だって、ゴレムだって判ってるんだけど。知らない振りしなきゃ、いけないの?〗

 胸の内で指摘。


「ハストン隊はこの地点を始点とする。」

 トロウヤは架けた立板に張り付けた地図に差し棒で示す。場所は統裁所近くの道。

「敵勢力はこの方向から侵攻を開始。」

 指した演習場の端から線を引くように差し棒を動かす。


 第三小隊の始点とゴレムの始点には距離が在る。

 遭遇戦を想定しているのは明らか。


 ハストンがまず考えるのは、

 ゴレムが道沿いに移動するのか、無視して最短距離を取るのか。


「二点後に試験を開始。

 ゴレムにはその能力を、第三小隊諸君等には奮戦を期待している。」

 トロウヤは締めくくる。


「起立!」


 説明は終わった。


 試験が始まる。


 開始時間が近づくのに連れて、人の動きが慌ただしくなる。

 統裁所内も著しい。

 軍側区画では観測機の稼働で忙しい。試験開始前から記録を取ることになっている。

 同じく、『兜と籠手』社区画もペロロペルアの指揮で作業員達が計器類を見つめていたり制御盤で調整を行っている。


「記録、始め。」

 トロウヤの指示で観測機が舞い上がり、

 高所から捉えた光景が統裁所内に、トロウヤの前に映し出される。


「動作、問題無し。」

 観測機の管制作業をしている職員が報告。

 トロウヤの後ろでは、ドレトギャンと『双剣と盾』社のガルダルタ、シルタも観ていた。


 始点となる道端で第三小隊が待機。

 路上に指揮車。道脇に兵員輸送装甲車が列をなし、傍らで、実戦同様の完全武装の隊員達がたむろしている。


 装甲擲弾兵は、

 装甲の名が示す様に、装甲を身に纏う兵士。

 今も変わりは無い。


 嘗ては、纏う装甲といえば鎧。


 此方側の全身甲冑に近い形状。


 全身を、文字通り鎧で覆う。

 目がけて飛び来る矢玉、投槍、礫、から身を守りながら、

 爆弾を敵に投げつける距離まで接近するために。


 しかし、

 全身鎧尽くめは、兎にも角にも動き辛い。

 人間の関節の柔軟性に鎧の可動部が追いつかない。しかも、全身を覆うとなると鎧の重量が馬鹿にならない。視野も問題。

 機敏な動作を期待するのは無理な話。必然、出来る動作は単純なものが多くなる。

 隊伍を組み、壁となりながら近づくのが典型な戦法。


 弓矢から火器へ、火器の火力が、貫通力と爆発力が向上。更に速射性と連射性も上がる。

 鎧も厚みを増すことで対抗するが最早限界。これ以上鎧を厚くしてしまえば重さもあって、身動きすら出来ない。

 鈍い動きの鎧集団は良い標的に。


 それまでの鎧は時代に置き去りにされた。


 新しい時代には新しい鎧。

 否、新しい装甲。

 四方八方、頭から爪先まで、何も全身を覆う必要は無い。


 と誰が言い出したのかは判らない。


 敵は前面。背面も同様なのは絶対なのか。

 必要な場所、要所要所、急所を守る。補強では足りないのか。代用は。

 打撃に強い素材。軽い素材。割れ無い破れ無い。

 色々、都度、要求を解決すれば、

 現代の装甲擲弾兵の出来上がり。


 新しく纏う装甲は、

 弾力と硬さを特殊繊維生地に詰め込み

 跳ね返すのでは無く、威力を減殺し受け止める。


 今の時代の装甲擲弾兵が、

 談笑していたり、うろうろ、行ったり来たり。始まりを待っていた。


 統裁所で、

 トロウヤは時計を見る。

 統裁所は硬貨を落としても肩が跳ねてしまいそうに静まる。

 九点を表示しているのを確認し、

「状況を開始する。」

 静かに告げる。


 トロウヤの合図に『兜と籠手』社区画では、

「動作確認。異常無し。」

 作業員の声。

 ペロロペルアがゴレムの制御作業を見守る。

 軍の通信手から、

「演習場外郭に接近。」

 の報。


 第三小隊では、

 気付いた隊員が見上げる。

 それに釣られた周囲が次々に顔を空に向ける。


 まだ小さいが耳に響く風の音。


 空に点が現れる。

 見つけた隊員が宙を指差す。


 指揮車の屋根に胡座で座るハストンが、

「あれか.........。」

 手持ちの双眼鏡を覗く。

 飛行物体の姿を捉えた。飛行輸送機だろうと当たりを付ける。


 肉眼では未だ点。


「隊長。始めます。」

 エエレ伍長がハストンに告げる。


「了承した。

 これで片付けば、試験終了だ。後は自由時間になるぞ。」

 ハストンの言葉は励ましなのか。

 眼前に褒美をぶら下げる様な物言い。

 しかし、これが他の隊員を刺激する。

「伍長、任せた!」

「お願いしますよ!」

「頼んだぞ!」

「やっちまえ!」

 聴いた隊員たちが、励ましているのか圧を掛けているのか、境界が曖昧な言葉をエエレに掛ける。


 圧なのか応援なのか、そんな声を掛けられながら伍長と続いて二人が装甲車を登り天板部に上がる。


 空に現れた点は、先程より未だ、それ程大きくなっていない様に見える。


 この世界では、

 遂に『回転翼』、それに似た推進手段が登場することは無かった。


 水を操る法術が在ったことがその原因のひとつ。

 水を操る法術は、割りと早いうちに発見、発明され、

 ·········光を点す法術に次いで·········

 技術として確立されていた。


 逸話によれば、

 古代期前期、古代沿岸都市国家群のひとつに暮らしていた賢者が、

 風にたなびく布生地か、風をはらむ帆を見て、


 風が起こる、風が吹くというのは、

 水が流れることと同じではないか?

 魚が水の中に居る様に、

 実は、我々も何かの中に居る。その「何か」が動くのが、流れるのが風なのではないか?


 ことに想い至る。


「空気」と云う存在の認知。

 未だ存在の予想の段階では在ったが。


 証明は難しかった。

 なにしろ、

 目に見える訳で無し、水の中での程動きを阻害する感触も無い。色も重さも認知出来無い。

 当然に異論も反論も懐疑論も生まれた。


 それでも、何かの中に居る、取り巻く何かが在る、と考えた方が色々と説明が付きやすい。理屈が通る。

 その観点に立てば更に先に進むことが出来た事も大きい。


 究明を置き去りに、利用法が先に歩き出した。


 中でも、


 空を自由に飛ぶことに憧れる者はどこにでもいるようで、

 風を操る法術を使えば可能ではないか。

 と考える人間が現れるのは、そう不思議なことではない。

 寧ろ、自然な流れ。


 強い風が吹けば、受けた人は後退る。人が吹き飛ぶ位の風を連続して起こし続ける事が出来れば飛ぶことが出来る。

 かもしれない。

 という発想をしたのは誰か。


 魔術陣、術式回路の発達が実現を後押しするまでの時間を経て。


 セララセイリラの名を残す興行師が、円筒状の物体を引っさげて、見世物を開いた。


 円筒は中空で、空洞には紋様が刻まれていたとある。


 円筒の内側に刻まれた紋様は、風を操る術式の魔術陣、術式回路だと考えられている。

 円筒内側に、風を操る術式回路を付設。回路は円筒の開口部の一方から他方へ空洞部を風が一方向へ通過する術式。

 円筒の一方から空気を取り込み、他方から爆風並みの風を送り出す。


 少なく無い数の野次馬が取り囲む中、

 セララセイリラが術式回路に魔力を通すと、

 周囲から円筒に向かって風が流れて数拍、猛烈な土煙を巻き上げ円筒が浮き上がったかと思えば、目を瞬く間に空の一点になった。

 円筒の行方は誰も判らない。


 噴出式推進機関


 此方側で云う「ジェット」機関に似たもの。


 の誕生。


 当日に見物していた野次馬の内の幾人が日記に記述。

 歴史に残された。


 日記に残した見物人達の一人は魔術師。

 見世物の一部始終を見ていた魔術師は想う。

 手を加えれば、もっと上手く行く。自分になら出来る。


 人が吹き飛ぶ位の風を起こす事が出来れば、連続して起こし続ければ飛び続けることが出来る。

 かもしれない。

 しかし、

 それでは、滞空時間と飛行距離は伸びても、直線をすっ飛ぶ事以外出来無い。

 魔力の供給を止めてしまえば魔術式の稼働を停止するが、飛行最中でそれをした場合は何が起こるかは想像したく無い。


 憧れたのは、あの空を自由自在に飛び回ること。

 何かが足りない事は解っていた。

 それが何なのか。


 暫くの間、あちらこちらで円筒、あるいは何かの塊が飛び交い、あちらこちらに墜落することとなる。


 足りないものは何か。


 空を見上げれば、易易と自由自在に空を飛ぶ鳥の姿。


 当の本人(?)達からすれば、

 ⁽⁽ これでも結構大変なんだぞ。⁾⁾

 の声が返ってくるかも知れないが。


 この世界にも、鳥を研究すれば空を飛べる謎が解き明かせると考えたのが居た。


 野外で空を舞う鳥を、

 生け捕りした鳥を、

 何ひとつ見逃すまいと観察し続け、

 ひたすら、翼の形状、構造、使い方を詳しく調べた。


 その過程で、

 鳥の翼、羽根の構造から気付く。

 形状に意味があるはず。


 風が、

 水が流れるのと同じく空気が流れるものだと考える。

 翼の上面の風の流れ方と下面の風の流れ方に違いがあるのではないか。

 この違いが翼を持ち上げる力になる。

 未だ実証されていない空気と云う存在が、「揚力」の発見を導く。

「飛ぶ」のでは無く、「浮く」方法を見つけた。


 そして「空気」が実在することを確認。


 遂に、この世界の人間は大空への進出を果たす足掛りを得た。


 その後は、

 翼の位置、噴出式推進機関の位置に試行錯誤しながら、


 時には、何故こんな姿形?なものも登場したり。


 最適に向け淘汰され、

 翼と噴出式推進機関を備えた飛行機が登場。

 この世界は、空を望むままに行き来出来る手段を手に入れた。


 それから幾年月を経て今、


 空から演習場へ近づく姿形が大凡に判別できる位になった。

 伴に音も、耳に痛い高音域へと変わってゆく。

 その飛行機、

 丸みのある、ずんぐりした機体。

 軍所属の飛行輸送機が第三小隊、ハストン達に向かう。

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