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装甲擲弾兵  作者: kasizuki.s.y
15/33

その15

「楽にして良い。」


 と、ミルドルト・トロウヤ大尉に言われて楽にする前に、マーカー・ハストン小隊長には、することが有る。

「失礼します。」

 トロウヤ大尉への言葉の後に回れ右、

「集合!整列!」

 の号。


 輸送車脇に整列していた隊員達が駆け足で、ハストンの前に並ぶ。


「気を着け!」

 ハストンの命令一下、小隊隊員並びに輸送部隊員、トロウヤも一緒に背筋を伸ばして『気を着け』の姿勢を執る。

 再度回れ右をするハストン。

 トロウヤに向き直り、

「第二装甲師団、装甲擲弾兵連隊、

 第二大隊、第三小隊。

 到着しました!」

 小隊を背景に、声を大に再度報告。


「了解した。楽にしてくれ。」

 トロウヤの言葉に、

 ハストンが、

「待て!」

 を号令。第三小隊と輸送部隊が揃って『気を着け』の姿勢から、踵を開いて後ろで手を組む『ち』の姿勢。


 到着したハストン中尉へ気軽に声を掛けたトロウヤ。

 それで済むと想っていたが、油断した。見通しが甘かった。これでは、何か言葉を掛けなければならない流れ。

 仕方が無い。


「第三小隊、第八輸送小隊の諸君。

 ご苦労。」

 トロウヤは頭の中で、それらしく組み立て口に登らせる。

「無事、到着したことに安堵している。

 長時間の移動で疲れていることだろうが、もう少だ。

 明日からの試験、期待している。」


 輸送車で長時間、あまり変わらない姿勢でいた隊員達。

 動けないでいるのもそれなりに疲労する。

 疲れているところに、そこでまたエライ人につきものの、横軸に時間、縦軸に有難味を採って右肩下がりになる様な話を聞かされるのはやりきれないところ。

 その点で、労いの言葉が短いものであったことで、トロウヤへの好感度を上げることに。


 トロウヤの言葉が終わったと判断したハストン、

「気を着け!」

 を号令。


 トロウヤを始めハストン以下第三小隊、並びに輸送部隊が一斉に踵を付け背筋を伸ばす『気を着け』の姿勢。


『気を着け』の姿勢のトロウヤにしても、これ以上即興で言葉を紡ぐのは辛い、すかさず号令が掛かったことに内心安堵。繕った、にしても真面目な顔を貼り付けて咎める者はい無い。


「それでは、これより作業に掛かります。」

 トロウヤに告げて、ハストンは回れ右。第三小隊隊員たちに向け、

「小隊、設営、降車作業、掛かれ!

 分隊長、集まれ!」


 ハストンの前面に並ぶ小隊から四人の人間がハストンの許へ向うのに対し、残りが輸送車と搬送車へ向かう。

 手筈は移動中の輸送車内で連絡、確認済。


 輸送車で黙って座って大人しく揺られていた訳では無い。

 市場へ売られてゆく家畜だって何がしかあるもの。


 まぁ、中には車輛の揺れに抗出来ず目蓋がどうしても下がってしまう者も居たのは確か。

 諦めて早々に意識を手放した強の者も居たとのこと。

 仕方が無いと見逃してもらえるのは、車上にて出来ることがあまり無い故。


 搬送車に載せていた装甲車を地上に降ろして稼働状態にするのが降車作業。

 備えて装甲車の整備点検も行う。

 野外で数日続く演習や訓練で寝起きするための野営用の大型天幕を組み立てる。住環境を整えるのが設営作業。

 重量の有る資材を運び込む、組み立てる。本来は力仕事。

 法術が重宝される場面。


 ハストンの許に集まった四人は第三小隊の四つの分隊の隊長達。

 小隊長、副隊長、分隊長。隊務長に副長と第三小隊の言わば首脳が揃い、今日分の残りの予定を確認する。

 設営と降車作業は現在進行中。

 予定で残り主だったのは食事と明日に向けての全小隊への連絡事項を含む打ち合わせ。連絡会。

 その後は就寝まで自由時間。


 自由だからと云って、演習場外に出られないことを周知させなければ。


 自由時間だからと羽目を外すと、いかな未来が待っているか。

 釘を刺して於かなければ。

 警備兵詰所に不心得者を引き取りに行くのは仕方が無いとは思えど。

 警察相手にそれは恥ずかしい。

 場外脱走者にはお仕置きを用意しなければ。

 更に、

 気を付けなければならないのは就寝時間後の脱走。

 部下に少しばかり事情が有る隊員が居る。


 演習場内なので試験期間の哨戒警らの不寝番は警備兵隊にお任せ。

 それだと、隊員達には『眠り』の魔法でも掛けて於けば心配が減るか。


 等と、ハストンが考えていることを、副隊長のラーフグリーフツ少尉も隊務副長や分隊長達も知らない。


 隊務長のテェエアス曹長は薄々勘付いているような。


 いつの間にか、しれっと紛れて、平然な顔をして加わっている何処ぞの参謀大尉は、勿論、知るはずは無い。


 小隊の打ち合わせの区切りが着いた様で、トロウヤが、

「中尉。いいかな?」

 断りを入れる。


『忙しいから、後で。』

 の言葉が全力疾走で横切り、過ぎて、

「はい。」

 了承を返すハストン。


「一緒に来てくれ。」

 トロウヤの注文に、ハストンは後事をラーフグリーフツらに任せ、従卒のアンゾを連れてトロウヤに付いて行く。

 向かうは統裁所。


 その間、ハストンはさり気無さを装ったつもりで周囲に視線を巡らせる。


 辺りを伺う素振りのハストンを不審に思ったトロウヤは、

「どうかしたかい?」

 直球で尋ねる。

 訊かれたハストンは僅かに躊躇ってから、

「ゴレム。居無いんですね。」

 直球で返した。


 ハストンの返球にトロウヤは僅かに視線を外してから、

「あー。こっちには居無い。別で待機だ。

 こっちでは調整出来無い。とかなんとか.........。」

 本当のところはどうか。なのだが、自分もそれ以上は聞かされていないと弁明するように答える。


「大尉は見たんですか?現物。」

 ハストンが訊けば、

「いいや。俺も未だだよ。」

 トロウヤは言いながら軽く首を左右に振る。

「徹底してるよ。」

 お手上げの仕草。


 ひょっとして、もしかして、くらいに期待していたが、期待する方が間違っていたと云う結果にハストンの肩が下がる。


「ここまでとなると、悪意だよな。」

 呆れて物を言うトロウヤ、

「心当たりは?」

 視線をハストンへ投げかける。


「大尉の方では?」

 すかさず投げ返すハストン。


「こっちは特段。やっぱり中尉だろう。」

 トロウヤは省みること無しに断言。


「あー。」

 言われて、ハストンの脳裏に浮かぶ少女の顔。

 〖.........か、ねぇ。〗

 直近の範囲で、真っ先に思い付く。


 掛け合いの様な遣り取りは統裁所に到着で終了。

 トロウヤに続きハストンが仮設建屋内へ踏み入ると、先程思い浮かべた顔が在った。


 機器材に囲まれた一画で、脳裏に登場した リーリッサ・ペロロペルアが誰かと話し込んでいた。服装からして『兜と籠手』社側の作業員。


 今回の統裁所は、これまでハストンが経験したことが無い統裁所になっていた。

 ハストンと伴に統裁所に踏み入れたアンゾも目を見開く。

 ハストンやアンゾの知っているこれまでの統裁所は、地図を拡げた卓を中央にお偉方や参謀、補助職員が取り囲み、審判役は別卓で各種図表や教本を積み上げ、連絡係が周囲にへばり付いているか、合間を往来している。

 幾度か目にした光景。


 しかし、

 今、ハストンが目にしているのは、人はともかくとして、地図を拡げた卓もまだ見慣れたものだが、機器材類がとにかく多い。普段なら、在っても通信器機材くらいのもの。

 こんな、機材が其処彼処を占めているのが統裁所と云うには違和感が在る。


 〖.........あぁ。研究施設に似ているのか。〗

 思い当たったハストン。


 自失はしていないが、呆然としている二人へトロウヤが、

「向こうは、『兜と籠手』社。こっちが軍。」

 手差して説明。


 ペロロペルアが視線を一時、三人へ向けたが、すぐに戻し、隣と話を続けている。


「ゴレムの管制装置なんだと。」

 トロウヤの頭が目の向きに続いて『兜と籠手』社側の区画へ動く。

 続いて軍側区画に視線を移し、

「此処のは通信装置に、新しく導入された観測機器材と記録装置。映像表示機器なんだ。」


 説明では、

 観測機を上空、全体を見渡せられる高度位置に浮かべて俯瞰で光景や様子を捉え、地上に居ながら映像として観ることが出来、同時に記録も行う。


 説明しているトロウヤは、

 〖技術も進んだものだ。〗

 聴いているハストンは、

 〖実現出来たか。〗

 アンゾも、

 〖何だか、取り敢えず凄い。〗

 と、感心しきり。


「それで?」

 ハストンは機材から視線を離さず、

「機材や設備を見せびらかしたいので?」

 トロウヤへ、

 〖さっさと、本題と用件を言え。〗

 の副音声付きで尋ねる。


「そうそう。」

 ハストンの言葉にも特に変わること無く、気安い間柄での調子でトロウヤは、

「『状況』の説明をする。

 第三小隊は明朝、七点に共用天幕に集合。

 同日、九点に『試験』開始。」

 内容は重要なことなのだが、口から出て来ると、然程、重要で無い様に聞こえる不思議。

 ちょっとお使いを頼む位の気安さになっている。


 第三小隊が設営作業をしていた場所では、『隊員村』が出来上がっていた。

 兵員輸送装甲車も無事地面に降り立ち、駆動系、制御系、搭載火器の点検整備も終わり、何時でも稼働できる待機状態。

 分隊毎の天幕と小隊本部の天幕の設営も終え、これで試験期間中の雨露を凌ぐ屋根と風を遮る壁も確保。


 張られた天幕内へ隊員達が入って行く。

 自分達の寝場所を確認するため。

 怠ると、知らぬ間に不便な場所に追いやられてしまう。

 これから暫くの間、天幕内の割り当てられた自分の寝床が唯一の自分だけの空間。


 要領の良い奴は自分の寝床の周囲に結界を張ったりする。


 基地営舎とはまた勝手が違う。

 場所が決まれば自分の荷物装備を置いて一息。

 この後、時間までに自分の装備の保守点検と整備をする。


 何故か?

 実自由時間を少しでも多く取るため。


 陽が稜線の下に隠れる。

 統裁所と第三小隊営地周辺を照明が照らす。施設、各天幕内も灯が点される。

 昔は法術が有難がられていたものだが、昨今は機器による灯火が幅を利かせている。


 何故か?

 誰が一晩中、法術で灯りを点し続けるか揉めて遺恨を発生させない為。


 設営も終わり、寝場所も確保。装備荷物も置いて落ち着いたところで、

 軍隊生活で最大の楽しみ。

 とも言われている食事時間が近づく。


「軍隊は胃袋で進む。」

 それは、皇帝だったか大王だったかの言葉。


 法術が使えるからと云っても、人を超越した訳では無い。

 魔術師や魔法使いだって生身の人間。

 従って、雲や霞で腹が満たされる訳も無く、炭水化物、蛋白質や脂質と云ったシロモノを腹に入れたい。

 兵士、軍人は職業であって、生物上の分類では無い。


 かつては大型の金属缶を棒で叩いて合図にしていたものだったそうだが、今では、余程の限りそんなことはしない。


 嫌がらせでもない限り。


 各分隊天幕に従卒が向かい、糧食を取りに来るように伝える。

 伝令に来た従卒と伴に各分隊から二、三人づつの隊員達が、いつの間にか姿を現していた新たな輸送車へ集まる。

 輸送車が運んで来たのは糧食。

 文字通り、前にして垂涎の物品。


 欲を言えば、煮る、焼くの機能を持つ炊事車を引っ張り出して、出来たてなのが出て来るのが望ましいところ。


 出来たての食事を望むのは、此方側もこの世界も変わらない。

 食に五月蝿い、こだわる国の軍隊はこの傾向が強い。

 軍上層部が、食事が、しかも「美味い」が付くものが士気を維持する上で必要、その割合が大きいと認識している。


 此方側の、

 合理的だ科学的だと印象の彼の国では、

 腸詰と麦酒の品質に一家言持つ国民性も在ってか、嘗ての時代の軍には生きの良い食肉を手に入れる為に、畜獣を引き連れ、屠殺と解体精肉する為の部隊が編成されていたと云う話。

 更に、師団に行き渡らせる量のパンを造る専門部隊も有り、そのための特別仕様の装備も在ったとか。


 恐るべしは食への執念。


 斯く云うこの世界でも、

 魔術、魔法と云ったものが在る上に、技術の進歩が玉突きした結果、温かく美味い食事が難無く摂れる。


 賄う人間の数が少ないのに炊事車を出すのは贅沢だ。無駄。

 と言われたとか無いとか。

 ともかく御出陣は叶わなかった。

 残念。


 各分隊から集まった隊員達は、親鳥の如く、腹減ったと合唱する雛.........では無く、隊員分の糧食を受け取り、巣.........では無い、各分隊の天幕に持ち帰る。


 今回の糧食の献立は、

「豆と家禽肉の煮込み」

 植物性と動物性の両方の蛋白が摂れる主菜。まろやかな塩味。

「芋の蒸焼麩」

 すり潰した芋を主体の練り生地を蒸し焼きにしたもの。少し甘味あまみが有る。

「汁物」

 葉野菜を中心とした具材入り。

 飲料は、即席の「煎豆湯」か「香味湯」。


「悪く、無いわ。」

 判断に困る感想なのは、糧食を口にしたペロロペルア。

 ひね.........

 .........性格を加味して、辛い採点で

 好評なのか、ただ単に合格圏をどうにか掠った方なのか。


 ハストンが、

『高給取りでしょ。普段から良いもの食べてるんじゃ。』

 トロウヤは、

『若いうちから美食とは。羨ましい。』

 こっそりと小声で話を交わす。


 どう云う訳か、統裁所で一緒に食事をする事になったハストンにトロウヤ、ペロロペルアそれにアンゾ。

 何故に、こうなった。


 〖何か、居た堪れない.........。〗

 想いながら、アンゾは黙々と糧食を口に運ぶ。


 食事も終え、共用天幕に小隊隊員が集められる。

 共用天幕は試験本部の持ち分で、普段は食堂や会議に用いられる。大きいとは云え、五十人からの人間を入れるとかなり狭苦しい。

 ここで小隊連絡会が開かれる。


 隊員達を前に、ハストンは予定を伝える。以前に説明した内容の繰り返し、

「今日はこの後、二十一点に消灯。

 それまで自由時間とする。」


 聴いて表情を輝かせる隊員。


 見て見ぬふりのハストンは続ける。

「明日は六点、起床。

 七点、此処に集合。」

 説明しながら、人差し指を下向きで指差す。共用天幕で、と示唆する。

「『状況』の説明を受ける。

 九点に試験、演習開始。

 十八点頃に試験終了の見込み。

 その後は.........」


 聴いていた隊員達の表情が曇る。


「注意として、

 試験期間中は演習場外へ出る事を禁じる。

 違反者には素敵なご褒美をくれてやろう。受け取り拒否は、当然、無い。

 心して待つように。」


 絶望に染まる隊員達。


「解散。」

 副隊長のラーフグリーフツ少尉の言葉に、

 鈍い動きで腰を上げ、天幕を出て行く幽鬼の列。

 この世の終わりを目にした表情で、光を失った瞳の隊員達。

 目指すは地下奥底の亡者溢れる永遠の獄だと云うのか。


 生ける屍に職替えした隊員達が重い枷を引き摺るような足取りで天幕の外へ出て行くのを余所に、カーディンソン一号、もとい軍曹を始めとするカーディンソン組がハストンへ向かう。


「隊長。」

 声を掛け、数歩の間を開けた距離で『気を着け』の姿勢を執るカーディンソン軍曹とその後ろの同じ『氏』を持つ者達。


「楽に。」

 ハストンの言葉に『気を着け』の姿勢を解くカーディンソン組。

 カーディンソン達の言いたいことは予想がついている。


 これから夜は長くなる。


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