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装甲擲弾兵  作者: kasizuki.s.y
13/33

その13

「語るに落ちる。」

「口は災いの元。」

 とは、良く言ったもの。


 因みに、この世界では同じ意味の言い回しは、

「軽い舌で首を失う。」

「饒舌の陥し穴。」

 と云う。


 今回の場合、意味合いが微妙に違うが結果として口に出した本人へ禍として降り掛かる。

 うっかり口を滑らせて、隠していたモノが露見。

 聞き流してしまいそうな言葉から 隠し事を暴くのだから、非凡なのは確か。


 打ち合わせの会合で零れ落ちた、

「ゴレムは砲弾を跳ね返す。」

 という些細な情報。

 そこから見破った『重複集積描法』という秘密。

 どうやら、かなり以上に法術知識があると見透かされたマーカー・ハストン中尉。

 そのハストンが隊長で、指揮する部隊に興味を持った面々。

 如何な連中が集まっているのかと、見学と銘打ち観察に来てみれば、明らかになったのは思いも掛けなかった魔術師、魔法使いの存在。

 これまた、ハストンと隊員の何気無さを装った様な遣り取りから気付かれた。


 易い法術を使える位は、或いは、ならとは考えていたものの、

 よもや、結構な大物が隠れていようとは。

 目星を着けたところでは、質問に立ったあの隊員、

 クーなんとかルラ。

 今のところ、高い力量の持ち主だと目されている魔法使いか魔術師。


 エーエスフ・クゥクフリュラ。階級は兵長。


 技能水準の法術を使える位であれば、民間だと就職先は困らないであろうし、

 陸軍であっても精鋭特殊や工兵などの技術職の連中は放って置かない。

 寧ろ、目の色を変えて我先に獲得へ乗り出す。

 それが、こんな擲弾兵だなんて部署で、下から数えた方が早い階級なのか。


 どうやらそれだけではなさそうで、

 ハストン隊にあと何人の魔法使いや魔術師が所属しているのか?


 尋ねられたハストンは視線を上方に逸らせながら順に指を折り、確かめるようにもう片方の人差し指が追う。


 指折りが二巡目に入り、二本目を折ったところでハストンの瞳と人差指がその指に停まる。


 答を待つ視線がハストンに集まる。


 ハストンは、

「『敵に“ 能力を教えてくれ ”って頼むの?』でしたっけ?」

 ペロロペルアを見ながら。


 ハストンの言葉に、

『双剣と盾』社の二人とトロウヤも少女へ視線を向ける。

 向けられたペロロペルアの表情は変わら無い。

 それでも、外から見て判る位に明ら様に視線を逸らし、忙しなかった指先も両合わせた形で停まる。


 これでお相子。

 ハストンに、ペロロペルアに思うところが有る。のは事実。

 期待はしてい無かったが、やはりと言うか。結局、ゴレムの今以上の性能情報は得られ無かった。


 騒ぎを収めるために、強制的に有耶無耶な形で終わらせた事は含めないハストン。


 当然に、

 競合の『双剣と盾』社製ゴレムの情報についても入手出来ることは無く。

 ペロロペルアのお陰で『性能試験』という『模擬戦』は初見で本番に臨むことに。

 予想の範疇だとしても、やはり、癪。


 軍に『兜と篭手』社と『双剣と盾』社、いずれも自分だけ正直に手札を公開するお人好しとは縁遠い。


 ただ、

 擁護という程では無いが、隠す理由が少しばかり、

 ペロロペルアにすれば、

 ゴレムの性能を隠しておきたいのは悪意からでは無く、企業秘密だと云う理由では無い。

 試験と名は付いても、そこは演習や訓練。

 全て整えて、手順を確認するだけなのは、

「なんか違わなくない?」

 という『思い』から。

 臍やら旋毛が曲がっている。とかからでは無い.........ハズ。


 ガルダルタとシルタ、『双剣と盾』社にしてみれば、

 ペロロペルア、『兜と篭手』社がゴレムの情報を出さ無いのに、自分達が公開するのって、

「どうよ?」

 と云う疑心暗鬼が底に在る。


 ハストンに至っては、

 切り札な面なのは有るにしても、そもそもは、表に出すと色々面倒事が起きる事を懸念して隠している。


 魔法使いや魔術師はその能力、多才な面から仕事を優先的に割り振られることが多い。聞こえは良いが、要は便利使いされるということ。

 意識してか無意識か、

 ヒトは便利だ楽だと判るとその選択肢以外を選ばなくなる。選ばない。その気が無くても使い潰すまで使い続ける。続けてしまう。

 解っているけど止められ無い。

 使い潰してから気付く。後悔する。

「失敗した。」

 と。


 此方側での話。

 帝国は、休日無しの猛烈な特別訓練で熟練の空の精兵を育て揃えて来たるべき日に臨む。

 日頃の成果が試される、その日。

 相手側の準備不足や不手際も在って、計画と準備の許、精兵達の猛攻で帝国が圧倒。

 破竹の勢いで拡大を続け、このまま帝国が世界の勝利者となるか。

 しかし、盛者必衰の理。

 驕りなのか油断なのか、一戦で精兵を多数失う大敗を喫すると、忽ち潮目が変わる。

 猛攻の勢いに隠れていた帝国の短所が姿を見せ始める。


 まだ余力が在る内に、先の負けを取り返すべく始めた戦は、組織の面子優先。同床異夢で仲間内の足並すら揃わず。蟻地獄のような消耗戦。果に、勝ちを取り溢し、徒に精兵の喪失にだけで終る。


 度重なる大出血に後続の育成は間に合わず。

 何しろ、ひとりを『一人前』の域に育成するには二年の歳月と結構な費用が掛かる。

 なれど、怠惰だった訳では無い。

 後続を育成しなければならないのは百も承知。

 出来れば、熟練の精兵に後続の育成を担わせたいところだが。

 状況が許さない。

 と判断したのは上から後ろから口を出すお偉いさんの層。

 準備を整えた相手側の攻勢は熾烈。今にも決壊しそうな穴を塞ぐために、状況を覆すために、眼前の危機に数少くなった精兵を充ててしまう。

 いくら精兵でも数の上から云えば寡兵となった状況。立ち向うに相手の数が多すぎた。結果、精兵から、熟練の順に姿を消し、精兵は更に擦り減って逝く。


 流れを取り戻す事が出来無かった帝国は守勢に立たされる。

 焦燥に駆られての策は負の循環に、失策が失策を招き、呼び寄せ、転げ落ちる様に劣勢へ。

 今更乍に後続育成に重きを置いても遅きに逸し。

 敗勢への流れを変えるは疎か止めることすら出来無い帝国は延命の為だけに、まだ育成も終えていない、羽ばたきを覚えた雛鳥に爪を教えて駆り出す。

 精兵有りきで始めた帝国はそれ以上の人材を使い果たし終焉を迎えた。


 使う側としても失敗を避けるため、下手を打つよりは、前回上手く出来たのだから、の成功体験が意識させるのだろう。


 だとしても、

 使われる側としては堪ったモノじゃない。


 特に、

 軍隊の仕事場は戦場。

 命の遣り取りの場。端から危険なのは当然な場所。

 戦場に立つ魔術師や魔法使いが送り込まれる先が多いのは、

 堅牢堅固な敵陣。

 あるいは、

 敵の猛攻に曝され損耗率と書いて戦死傷率が高い味方の防御拠点。

 普通の兵士なら、絶望的な生還率な場。

 魔法使いだから、魔術師だから、単身で攻撃力が有って生存能力も高い。

 大丈夫だろう平気だろう。何とかしてくれる。


 そんな訳あるか!!


 当の魔法使いや魔術師が声に出すか心の内で叫ぶか。

 法術が使えるからと、不死でも無ければ出来ることだって限りが在る。

 い些か特殊な事が出来るが、人間である。

 怖いし死ぬし痛いし怪我もする。

 優先的に割り振られるだなぞ有難迷惑。至極恐悦。これは涙じゃ無い、目に汗が入ったんだ。

 便利使いも勘弁だが、使い潰されるのは御免だという魔術師、魔法使いは少なく無い。その為、登録していても明かさなかったり、登録自体し無い者も居る。


 ゴレムの情報が得られない以上、ハストンは隊の情報を教える義理は無いと考える。

 そもそも、ハストンが手にしているゴレムの情報は今までハストン自身が、横でなされている会話を素知らぬ顔で聴いていたりして周囲で零れ落ちたものを拾い集めたもの。

 関係各所からの正式に伝えられた情報は無い。


 ペロロペルアは未だ拘る様だし、ならばで『双剣と盾』組も二の足なのか様子見。

 トロウヤも口止めを強制されているとかで細事は疎か大まかなことさえ教えられない、ときた。

 だと云うのに、

 これ以上のハストン隊が情報を出してしまえば赤字覚悟の大売り出し。


 外からみれば『何処が?』であっても、主観は割増なもの。


〖考えてみれば、此方が持ってる情報も向こうが漏らしたものだし、此方が口を滑らせたやつが向こうに渡ったんだと考えれば損益差無しか。〗

 つらつらと考えながら、不自然に見えない様に、周りの態度を観るハストン。

 ハストンに尋ねたシルタを始め皆残念そう、では有るが、これと云って強く不満だという様で無し。ペロロペルアでさえも大人しい。

 感じられるところ、雰囲気は悪く無いようで、結果良ければに越したことは無い。


 大体のところ、見学というのなら訓練しているところなどを観るものだが、隊内の『事前連絡会』に立ち会いたいと言い出すとは想ってもみなかった。

 隊の何に何処に興味を惹かれて見に来たのか。

 ただ、良く解らない期待を持たれて勝手に幻滅するのは止めてもらいたいと思うハストン。


 参謀本部のミルドルト・トロウヤ大尉はこのゴレム性能試験担当を押し付けられたときからハストンの隊に関心を持った。

 性能試験に装甲擲弾兵のハストン小隊を名指して、

「参加させろ。」

 との命令指示が付いていた、しかも、『重要』という注意付き、

 なのが理由。


 名指しな上に強制。

 如何な部隊かと調べてみると、なかなかに興味深い件が出て来る。

 装甲擲弾兵は謂わば、

 切込み部隊。

 爆弾を文字通り抱えて敵に投げ込むことで、戦列戦陣、戦線を崩す、味方の攻撃の緒を作るのが務め゙の兵士。

 その擲弾兵が今までに戦車十六輛を仕留めたと云う。

 対戦車戦闘の手管を習得していたとしても、そこに「否応無し」と但し書きがついたとしても、戦車というのは擲弾兵がする相手と違う。


 ペロロペルアとシルタの案に乗る形でハストン隊を直に観る名目を作ったトロウヤ。

 ただ、

 訓練を見学したところで、見せられるのは他の部隊と差異が無い、在り来りな、何処でもしている様な部分。

 謂わば、余所行きな姿。

 肝心なところは見せない隠すのも、これは他も変わらない。

 見学者のために、態々差異を見せつけるような特別な訓練を観たところで参考になら無い。それは見せるための訓練。

 隊の普段の姿、余所行きでは無い、いつもの姿。隊の本当の実情が判るというものが観たい。

 トロウヤに想い浮かんだのが、

 上意下達では無い、隊長と隊員の遣り取りをみれば普段の姿が見えてくるのではないか。

 何かの話し合いの場であれば。

 そう考えた。


『双剣と盾』社の軍用ゴレムの設計開発主任ソーリッド・シルタと『兜と籠手』社で軍用ゴレムの開発総指揮を執るリーリッサ・ペロロペルア。

 仕事の都合上、法術は詳しい。しかも、ペロロペルアは法術研究の最高峰学府、『銀聖獣記念法術科学院』出身な上、『大賢者』なる学術大家の号を持つ身。

 シルタとて、充分張り合う事が出来る優秀な技術者。


 相手が相手なので、どうしても目立たず隠れがちになってしまうが、


 何しろ相手は『大賢者』の肩書を持ちその業界で注視されている。


 元々、急成長著しい『双剣と盾』社に怖れをなした業界老舗の『兜と籠手』社が回勢の手段としてペロロペルアを鳴り物入りで招いた位。

 その事実からでも軽視出来る相手では無い。


 ともあれ、

 この二人が興味を持ったのが、ハストン小隊長。

 切っ掛けは言わずもがな、『重複集積描法』の件。


 軍に籍を置く魔術師や魔法使いは結構な数。


 読み書き算術と同じ様に魔法、魔術が当たり前に存在するのが、この世界。


 隊を率いる指揮官で法術を使える者は多い。

 ただ、そうしたのは揃って、殺傷力、破壊力の高さ大きさ方面を重視しがち。

 命を、取る取られる、をしなければならない職業では仕方が無い。


 身も蓋も無い言い方だが、

 そっち方面で熱心な方々の数は多く、

『此処』を『こう』すると『こう』なる「使い方」の話は出来るが、

『何』が『なんで』、『どう』して『こうなる』

 と云う、

 原理とか根源的な専門的学術的な話が出来る、で括ると数は極端に減る。

 しかも軍の中でもかなり限られる狭い範囲に集中。

 そういったのは技術系の部署。


 そうでは無いのに、浅くは無い様でまだ底までの深さが判らない法術知識を持つハストンは珍しい存在だとシルタとペロロペルアに認知された。

 大賢者を冠詞に付けるペロロペルアが魔術知識を注ぎ込み死角無しと宣うゴレムに、

 売り言葉に買い言葉であったにしても、

 勝てると平然と言って除けるハストン。それなりの手も有ると匂わせている。

 これだけでゴレム製作に携わる二人が興味を持つには充分。


 困った事に、

 ハストン自身は「勝つ」等と明言した憶えは無いのだが、シルタは兎も角、ペロロペルアは『在った事』だと勝手に刻み着けている。

 人間の悪い部分。


 そうなると、次に来るのは普段の生態。

 法術知識量が見え隠れする、ゴレムを向こうに出来ると言う指揮官。

 それが隊長だという部隊はどんなものなのか。


 斯くして今回の品定め、もとい見学と相成った。


 見学者達の帰路を見送ったハストン。姿が完全に見え無くなった事を確認して、息を大きく長く吐き出しながら肩を下げ、身体の強張りを解く。


「明ら様過ぎです。」

 それを見ていた従卒のハンリ・アンゾ一等卒が苦笑混じりに隊長のハストンへ話しかける。


「言うてくれるな。

 二重も三重も余計に張ったんだ。結構、重いんだぞ。」

 ハストンが草臥れを滲ませて返す。


「えー.........。」

 返されたアンゾは不信を表す細めた目を寄こしながら、

「一応、訊きますけど、緊張してたんですか?」

 そんな訳が無いと確認する様に尋ねる。


「してた、してた。

 何時やらかすか、気が気で無かったんだぞ。」

 真顔のハストンの言い回しは軽い。


「嘘くせー。

 って、どっちがですか?

 隊長が?」

 想っていたのと違う上に言い回しが軽いことも有って、アンゾは思わず指摘。


「そう言うのは、口に出さず、内に留めて置くのが人情ってもんだ。

 それに『俺』が、じゃ無い、『あいつら』が、だ。」

 今度はハストンが目を細める。


「.........えーっと。

『あいつら』呼ばわりして良いもんですか?」

 心配する様な物言いになる従卒。


「誰の話だ。

 ..........分かっていて言ってるな?」

 ハストンは軽く睨む。

「と、い云う事は、だ。

 何か、やらかすと思った訳だ。

『あいつら』で無く、『あっち』が。と言う事になるぞ。」

 ハストンの片方の口角が僅かに上を向く。


「うぅわっ、しまった。」

 言葉の行く先が自身に返り、眼を見開いたハンリ・アンゾ一等卒。


『饒舌の陥し穴。』

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