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装甲擲弾兵  作者: kasizuki.s.y
12/33

その12

 隊長マーカー・ハストン中尉による司会進行と第三小隊四十七名総出演による、

 事前連絡会という寸劇の幕を下ろそうと。その時、

 トロウヤ・ミルドルト大尉が掌を挙げ、

「中尉。」

 ハストンの注意を自分に向けさせる。


〖『駄目。』って、言ってみたい。〗

 言えない相手に抱くハストンの偽らざる想い。

 トロウヤが何をしたいのか、予想はつく。

 それを含めて好き勝手、振り回されるのは懲り懲りのハストン。

 大人しくしていて欲しい。

 特にペロロペルア。

 否、主にペロロペルア。違う、ペロロペルアが。


 下位者が腹の内に抱えている想い。

 本気から冗談、悪戯気茶目っ気まで、幅は広いが一度で済まない数を経験したこと、考えたことがあるだろう。

 出来無いから、やってみたい。

 今、正にその一人がこの場のハストン。トロウヤも同じ様な立場であれば同じ様な事を想うだろうか。


 出せる答はひとつしか無い。

 上下関係が煩い組織に籍を置く者としては仕方が無いことである。


「どうぞ。」

 ハストンには受け入れる以外の答は出せない。

 出しても良いが始末書で済むか懲罰か。

 給与の減俸は勘弁して欲しい。


 了承を取付けたトロウヤは立上がると演場中央のハストンに近づく。

 ハストンは立ち位置を譲り、少し退く。

 聴講席側を正面にしたトロウヤは見渡し、

「今案件、『新技術性能試験』の責を預かる、ミルドルト・トロウヤ大尉だ。」


〖あれって、そんな名前が付いていたっけ.........?〗

 トロウヤの一歩後方でハストンは思い返す。

 最早、『演習』だの『模擬戦』だので染み付いてしまった認識。それで通じる様になってしまった。『性能試験』なんて語は置き去りもいいところ。


〖大尉の名前と一緒に周知させとかないと。〗

 後ろでハストンがそんな事を考えていることを知らないトロウヤは正面の隊員達に、

「第三小隊諸君等の戦績は知っている。」

 間を置き、

「今度の対手は少しばかり勝手が違うだろうが、

 諸君等にしてみれば、

 違いと言えば『履帯』であるか『二本脚』であるかぐらいだろう。」


 トロウヤのこの言葉に、

 それまで眼を瞑って聴いていたガルダルタが一瞬、右目だけでトロウヤを見る。

 ペロロペルアは、

「一緒にするな。」

 と言いた気な睨むような眼をする。


 背にして気付かないトロウヤ、

「ゴレム一機が相手だからといって、この性能試験が楽なものだ。と言うことでは無い。

 また、

 諸君等には、これがいずれ自身の将来にも影響を与えるものだと気に留めて於いて欲しい。

 試験では、その持てる技能を充分に発揮してくれるものと期待している。

 以上だ。」


 話が長くなるかと身構えていた隊員達。

 偉いさんの話は長くなるのが相場。

 と想っていた。

 説諭する側は上から目線で、話が長かろうが、とても有難い訓話を与えてやっている。しかも話が長ければ長い程、有難味が増加すると想っている。

 だから下っ端は黙って聴くのが当然。

 要は、自分に酔いしれている。

 自分は偉いんだ。

 を証明する為に話が長いのか。長くないと偉く見て貰えないのか。


 幾ら旨いと云っても続けば飽きる。薄めてしまえば旨味は飛んでしまう。

 其の辺が判らない。

 偉いさんとは、そういう人種だと認識していた。


 これは、個人の感想であり、

 実際のものとは違う場合のものもあります。


 誰の?


 案外にあっさりと終わった。

 長くなると覚悟していたハストンも含め第三小隊は、それだけで、この大尉が珍しい類だと認識する。


「大尉。御言葉、有り難う御座います。」

 トロウヤの話が終ると、隙を与えない内に謝辞を述べ、そのまま散会へ持って行くハストン。

 賓客席の残っている面々に向い、

「皆さん、連絡会は終了です。

 部屋に向かいます。」

 声を掛ける。

 これ以上、厄介なシロモノをこの場に置いて於く訳にはいかない。

 特にペロロペルア。

 否、主にペロロペルア。違う、ペロロペルアを。


「テ...。ラーフグリーフツ少尉。」

 副隊長に呼びかけ、

「連絡会は終了、散会。

 皆さんを御送りする。後を任せる。」


 副隊長のテドラルド・ラーフグリーフツが、返事と伴に起立。一度、『気を付け』の姿勢を採った後、演場前に進み出る。回れ右。

 聴講席側に向き直り、

「起立!」

 の号令。


 号令に従い、聴講席の隊員全員が起立。

 座っていた、賓客の面々も合わせて立ち上がる。

 ラーフグリーフツは続けて、

「気ぃを付け!」


 第三小隊隊員が一斉に同じ姿勢、

 中空に視線を据えて、背筋を伸ばすと共に胸を張り、手を指先まで伸ばし揃え、踵を合せる。

 を採る。

 その前を、従卒を先頭にハストンが率いる形で議場から退場する五人の「来客」達。

 最後尾のシルタの背を見送り、扉が閉まるのを見届け、「気を付け」の姿勢の隊員達へラーフグリーフツが、

「楽にして良い。」

 告げる。


 隊員達は張っていた身体を弛める。

 途端、湧き出るのは、

 〖結局、何だったの?〗

 細部の違いはあれど、議場の大多数の感想。

 少数は〖今日の献立は何かな?〗並びに〖訓練、休みになんないかなー。〗


「連絡会はこれにて散会。各員は予定に従う様に!曹長と軍曹は集合!」

 ラーフグリーフツが指示を出す。

 議場がにわかに騒がしくなる。

「それから!」

 ラーフグリーフツは声を一段張り上げて隊員達の注意を集めると、

「隊長から通達。本日は『協議』付きだ。」

 副隊長の告知。

 隊員達がどよめく。


 第三小隊を、良く言えば視察、言い換えれば「品定め」に来たトロウヤを始めとする来客一行を引き連れて、応接室へ途上のハストン、


〖裏の意味有り有りだよなぁ。〗

 議場でトロウヤが隊員に向けた言葉を思い返す。


 ハストンの後ろに会話が無い所為か。

 一団の前後に位置する従卒は任務中であるから必要無ければ話しかけたりしない。

 周辺に物音が少ない事もあるか。


 ハストンの後にトロウヤ。

 その後ろを四人がお互い微妙な距離を取りながら緩やかな纏まりで続く。

 前を追う視線。

 落ち着かず彷徨う視線。

 眼を合わせないように、前を進む人の足元に向ける視線。

 我関せずと気の向くまま周りへ遣る視線。

 視線が交わる訳が無い。

 小魚が群れる、雛鳥が親鳥の後を追いかけるように、ただ後をついて行く。

 言葉も無く、黙って歩き続ける。

 静々と誰もが無口。


『歩く』というのは血を巡らせるのを促進するのだと云う。

 当然、栄養と酸素を携えた血液は脳に次々と送られ活発にする。

 考え事で、うろうろ歩き回るのは血の巡りを良くするためだとか、

 あるいは、脳に血が送られ活性化するから考え事をするのか。


 トロウヤの言葉に副音声があると考えるハストン。

 当の本人はすぐ後。

「何食わぬ顔」に見える顔でハストンの後を歩く。


 歩くハストンは応接室へ向う中、手持ち無沙汰。頭の中で、解読作業を始める。


「期待している。」

 は、まぁ、取り敢えずは文字通りか。

 ちゃんと仕事しろって事だよな。

「戦績を知っている。」

 俺達がやらかした数々を知っている。って言う脅しなのか。

 いや『脅し』とは違うか。

「将来.........云々。」

 なんて、もろに『人員削減』のことじゃないか。それ以外考えられないだろ。

 確かに、影響するよな、転職活動をお勧めする、しておけ。.........か。

 勘付いたのは居ただろうけど、ゴレムの試験を人員整理に結び付けるのは多く無さそうではあるだろうな。

「勝手が違う。」とか「履帯。」

 なんかは、『お前等なら出来るよな?』と言う意味だよなぁ。あれは.........。


 等と、

 裏に隠されているであろう意味を読み取ろうとする。

 有れば、だが.........。


 そのつもりが無くても、相手が勝手に深読みするから物事はややこしくなる。

 有ったら有ったで、これもややこしい。

 なまじ知恵を着けてしまった宿命か。


 硬い背もたれに座面。

 硬い椅子というものは、

 長時間、と言わず、それなりの時間座り続けるのはなかなかに苦痛。

 それしか無いのであれば仕方が無いがやはり何かの拷問を受けているのかと錯覚しても不思議では無い。

 法術で解決する事も出来るが、座る度に法術を使うのも意外と面倒。

 もてなす姿勢を見せるのには格好が良いが。

 ひとりや数人ならばまだなんとか、数が多くなると負担もそれなり。

 ならば、

 この苦行、では無く拷問。違った。

 苦痛から逃れるために考え出されたのが、

 布地を袋状にして、中に羽毛や獣毛、綿(の様な植物)とか生地等、弾力になりそうな物を詰めて封じた、

 所謂『布団』。

 これを身体と椅子の間に挟めば座り心地が改善される。

 事実改善され、それなりの時間、座り続けても快適に。

 更に手を加え工夫を凝らす。

 背もたれ、座面に直に厚手の布団を貼り付け、

 更には弾力が有りながら強度のある素材で椅子を作り、

 遂には座ったまま、うたた寝さえ出来るまでになった。


 相手をもてなすならば、椅子はゆったり寛げる方が良い。柔らかく座り心地が良い方が良い。

 応接室の椅子は軽く身体が沈む程度の弾力が有る。


 招いた訳でなく、押し掛け、押し入りもいい所。

 かと云って、

 相手は上官を含む来客御一行。嫌であっても、礼を失する対応は、あまり、したく無い。

 渋い顔をしそうなところを押し隠し、官舎の応接室で、ハストンは一行に席を勧める。

 接客業では無いので無理な笑顔を貼り付ける必要は無いものとする。

 通常価格の三割引き位と云ったところか。


「飲み物を用意しました。好きな方をどうぞ。」

 従卒が声をかけながら、飲食器を持ち込み、支度を始める。

 用意したのは香味湯こうみゆ煎豆湯せんずゆ


 香味湯こうみゆ煎豆湯せんずゆはこの世界で、普及している飲料。

 前者は香草や薬草種を乾燥させた素から煮出したもの。

 煎豆湯は薬効が有る豆を焙煎、粉末状にした素から煮出した飲料。

 他に、

 やや高値な果汁水。廉価な人工果汁水も有る。


 その昔、

 果汁水が貴重品で贅沢だった頃。

 ただの水や白湯に味気無さを感じた誰か


 薬学知識の有る人間だったのだろう。でなければ飲食への安全性と云う点で問題が起きる。

 薬と毒は紙一重。過去には残念な事になった事例も在っただろう。

 良い子は真似をしてはイケナイ。


 が、手近な香草や薬草で味や香り、薬効を湯に移す事を始め、拡がる。

 家毎、人毎に使用する香草、薬草の種類、配合が違うため風味は千差万別。違いを楽しむ趣きも現れる。

 煎豆湯はこれとは別系統。

 始め、薬として広まった。

 後の経緯は似たようなもの。

 苦味は有れど仄かな甘さと、なにしろその香り。魅入られた人間が増殖。世に広まる。


 ある食品製造企業が初めて瓶詰で煮出し香味湯を廉価で販売して以来、続く食品製造企業は、競って独自配合の香味湯や煎豆湯を売り出し、それまでの果汁水類が加わり、今や販売される飲料は百花繚乱状態である。

 それもこれも法術という狡い技術が有ったればこそ。


 冷した果汁水類を出そうかとも想ったが、子供扱いしてと不機嫌全開も面倒なので、めたのは機密事項。

 勤務中なので酒精の有るものは勿論不可。香り付けという理由ならどうかというのも面倒事にしかならないので、以下同文。


 席に身体を沈める様に座る客人達に会話は無い。偏に、互いに距離を意識したことが、意図し無い平衡状態を生み出した。

 暫く、食器が触れる音だけが耳に付く。

 その中で状況を打ち破る強者つわのものが現れる。


「あのー。」

『双剣と盾』社のソーリッド・シルタが遠慮がちに掌を挙げる。


「どうかしましたか?」

 応えたのはハストン。

 気を引くことの出来たシルタは、

「こちらの、隊長殿の隊には、何人の登録者が居られるので?」

 自分よりかなり歳下のハストンへ丁寧な口調で質問する。


 ペの付く誰かさんに是非見習って貰いたいもの。

 提案すれば、賛成四、反対一、残り棄権。で通過の見通し。


 登録者とは、

 行政機関に魔術師、魔法使いであることを申告、受理された者のことを云う。

 登録は任意であるが、すれば公的機関の身分保証と技能認定が受けられる。就職活動で履歴に項目をひとつ書き加える事が出来る。


 それはそれで、

 事は機密扱いにしても良い様な内容。

 ハストンが見て来たので、トロウヤは頷きを返し、

「自分も知りたいところだね。」

 許可を出す。

 トロウヤ自身も登録済。


 〖ヤッツチマッタカー。〗

 はハストンの心境。

 調べれば判ることだから。

 としてハストンは上に報告を上げていない。意図的に。

 隠していた訳では無い、という言い訳が通じれば良いが。

『尋ねられたら、ちゃんとお答えしてますよ。今までそれが無かった。と言うだけです。』

 戦闘詳報も其処らは濁してある。

 説明抜きに本省へ呼びつけられたハストンが、露見したと危惧した隠し事。

 シルタと同じ会社のブレダ・ガルダルタも興味が有るようで答を待つ。

 ペロロペルアは視線だけ向ける。

 関心が無い訳では無いようだ。

 組んだ指先が忙しない。

 ドルムド・ドレトギャンはそんな周囲を見渡す。


 シルタが存在に気付いたのは、ハストンの

「天候操作するなよ。」

 の答。

 天候改変が出来る人材が、少なくとも、ひとりは居る。確定。だから驚いた。

 質問した、あの隊員。

 魔術師か魔法使いかは判別出来ていないが。第一候補。

 あの場で一緒に聴いていたトロウヤもガルダルタ、ペロロペルアも同じくその可能性に気付く。

 ドレトギャンはどうだか分からない。


 更に言えば、ハストンのあまりにもなあの即答は、それ以上の数が潜んでいることをも疑わせる。

 あの『答』は質問に立った隊員以外の魔法使い、や魔術師へのものだった、という可能性。

 

 あの議場で目前にしていた隊員達のなかに法術を使える者が居る。

 それ自体は珍しいと云う程では無い。  

 小さな火を出したり、光球を出現させたり。口腔を潤す程度の水を生み出したり。中には、配るのが面倒で手元から書類を飛ばす。等と云う法術を使える者も居る。

 法術は、この世界ではありふれて居る。

 ただ、天候改変が出来る程の技量の。と云うとこれは話が違って来る。

気象を書き換える法術類は難易度が上位の部類。この法術を扱えるとなると魔術師、魔法使いの階級も上位。

 ハストンは知っていながら、その事実を隠していた。黙っていた。

 とんだ隠し玉である。 


 高い『技量』の有る魔法使い、魔術師は強い攻撃力、殺傷力、破壊力を有することと同意義でもある。

もしかすれば、身一つで、ある程度の部隊に匹敵する隊員が居る事を秘匿していた。

トロウヤを始め、ペロロペルアのみならず、ガルダルタもが眼を細めてしまうのは仕方が無い。

 

 トロウヤはハストンが法術を使える事を知っている。

 となれば、この第三小隊には少なくとも二人。多くはないが、意味は大きい。

 魔法使いや魔術師の出来ることは多岐に渡る。生存能力に戦闘能力は段違い。

 最精鋭部隊でも、特殊任務部隊でも工兵でも無く

 装甲擲弾兵。

 しかも小隊戦力にしては過剰戦力?


 トロウヤとしては内緒で聴くことも出来たが、シルタがこの場で尋ねてしまった。情報の共有という建前からトロウヤも許可を出してしまった。

切り札を捨て札にする事になる。痛いところ。ハストンは勿体無いと想いつつ、


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