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装甲擲弾兵  作者: kasizuki.s.y
11/33

その11

 リーリッサ・ペロロペルアが掌を挙げている。


 この新しく入力された情報にマーカー・ハストン中尉の脳内情報処理は一時停滞。

 その間に次々と入力情報各個が始発線位置に着く。

 情報処理再開が点灯すると伴に、

 始発線に揃い並んだ各個情報は一斉に出走。

 伝達経路を我先に競り合う。

 結果、

 ペロロペルアが掌を挙げているという認識が一着で到着。

 続いて、鼻の差で、掌を挙げていると云うことの意味が二着。遅れて、

「どう云う吹き回しだ?」が三着で終点へ到着。

 停滞から処理に要した時間は刹那。


 身体に鉄、銅、亜鉛が存在しているが、マーカー・ハストンは紛うこと無き生身の人間。


「少し待ってくれ。」

 ハストンは質問者のロドエイ曹長へ保留を伝えると、賓客側に向き直る。

 今度はミルドルド・トロウヤの視線が目に入る。

 トロウヤの頭が縦に動いた様に見えたハストン、その隣で掌を挙げている少女へ、

「どうぞ、ペロロペルア女史。」

 反射的に言葉を出力。

 直後、ハストンの記憶領域から、

 《ペロロペルアが何を言い出すか判らない》

が急速浮上。


 ハストンにしてもトロウヤにしても深く考えず、

 ペロロペルアがゴレムの性能を説明するだろうと漠然と思った。

 問に答える。

 説明を求められて、説明する。

 この場合は、

 ゴレムの性能を訊かれてゴレムの性能について答える。

 当然にして、当たり前。

 そのことを不思議なことに疑うこともしなかった。


 しかし、ハストンに突如として出された脳内警告。人間の『脳』て凄い。

 考え直してみれば、

 ペロロペルアから、こちらが求めているものが易易と出て来るのか。


「ペロロペルアだしなぁ。」

 それ一言が全てを語る、共有されている認識。

 そこから導き出されるのは、


 大人しく、かどうかはこの際問わない。として、


 ペロロペルアの口が開いて出て来るのが、

 ゴレムの性能について、

と云うのであれば取り敢えず問題無くて良い。結構。

 だが、しかし、

 喧嘩目的の売り言葉、

と云うのも考えられる。

 寧ろ、その公算の方が大。

 引火必至延焼間違い無し。


 博打もいいところ。それもかなり分の悪い賭け。


 ハストンはペロロペルアに発言を認めたが、迂闊だったのではと、自分の為出かしを意識。

 一抹の不安、どころか安心の方が一抹も無い。

 傍から後悔が滲み出す。

 

 問題が起きたときはトロウヤが許可を出したから、

 等と誤魔化す様にかなり酷い事を考え眼前から逃避。


 方やトロウヤ、

 これから起きるであろう事態を想い描く。

 一先ずは、ペロロペルアの暴走にでもすれば良いか、

 等と、此れまた碌でも無い考えを始め、様子見。

 問題の先送りとも云う。


 ハストンに名指しされたペロロペルアは立ち上がると、聴講席を見据えて僅かに背を反らし、胸の辺で腕を組む。


 それを見たハストンは、

〖こりゃ、駄目だ.........。〗

 負けたことを認識。

 トロウヤは、

 〖戦略的撤退か.........。〗

 後始末と云う撤退作戦立案へと自然に視線がペロロペルアから離れ、脇へ向く。


 ハストンは目立た無い様に後に退き、壁面を背に立つ。

 自身の左手親指を左耳近くに、小指を口許近くに当てる。


  ペロロペルアは、起立して答を待つロドエイに向かい、

「あなた達は、攻めて来た敵に、

『能力を教えてくれ』って、

 言うの?」


 溢れて溢れんばかりの既視感。

 ハストンとトロウヤをはじめ、賓客の男連中、あの場に居たドレトギャンやシルタ、ガルダルタの脳裏に、不機嫌そうに言い放ったペロロペルアの姿が再生される。


 実際とは細かい部分で違うのだが、記憶に補正がかかっているという事で。


 質問に質問で、返した質問も喧嘩安値販売なペロロペルアの発言に、静まり返る議場。

 ややあって、


「今のって.........。」

「.........だろ?」

「.........だよなぁ。」

 始め、一滴、二滴と地面に滲む雨粒のように、

 聴講席のあちらこちらで、

「だからと言って、そ..........」

「.........そう言うことだな。」

「正気か。」

 声を潜めて交わされる遣り取りから聴こえて来る断片。

「おいおい、そりゃあ..........」

「.........幾ら何で.........」

「いえいえ、何をお.........」

 次第に本降りになる雨の様に増えて議場全体がざわつく。


 賓客席では、

 《言ってやった。》感の満足気なペロロペルアの隣、ドレトギャンは動揺して落ち着かず、視線を彷徨わせている。

 ペロロペルアを見るガルダルタとシルタの半目は、

 〖どうするんだ、この状態。〗

 を語る。


「それって、『教えない』ってことですか!」

 聴講席、質問に立ったロドエイ曹長とは別の何処から、嵐に瞬く稲妻さながらに質問が飛ぶ。


「そうね!」

 稲妻が落ちたかの様なペロロペルアの即答。

 同時に、

「許可してないぞ!」

 ハストンからの落雷。

 許可を得ていない質問、発言は本来、不規則発言。注意が飛ぶ。


 ざわめきが止まらない。

 感情が昂っているのか、

「つまりだなぁ.........。」

「..........そう言うことだろうがっつ!」

 潜めているつもりの声が幾分大きくなっている。

 声が重なり合って雑然とする中で、

「すれば良いってこ.........。」

「.........うなる?ちが.........。」

 切れ間から零れ聞こえる言葉が拾えても意味が認識出来無い。


 収拾が着かない。

 自然に鎮静するのを待つとなると、何時になるか判らない。

 待つつもりで無いとなれば、能動的に消火に出る。


〖仕方無い.........。〗

 ハストンは演場中央に進み立ち、

「マーカー・ハストン発、 『傾注』。権限、『青』、『黒』、『青』、『黄』、『赤』。」

 議場に行き渡る位の、やや大きめの声量で口にする。


 ざわめきが一瞬で止み、一斉に向き直った隊員達が隊長を注視する。

 同時に、

 トロウヤとペロロペルアは怪しいモノを見る目で、


 トロウヤは『傾注』を知っているはずなのだが、ペロロペルアと同じ目になっている。

 ハストンにしてみれば甚だしく心外であろう。


 ドレトギャンとシルタとガルダルタは意外だと驚く。


『傾注』を発動して、思いかけず賓客席からの視線をも集めてしまったハストン。

 向けられる視線を察したが如何な対応が最適か分からない。

 ならば、

 対応しなければ良い。に至り、という事で、賓客席に視線を合わせること無く聴講席側へ、

 気付いていない振りで、

「と、言う事だ。

 有り難う御座います。ペロロペルア女史。

 ロドエイも済んだろう?」

 なんとも強引に締めへ持って行く。


「有難う御座いました。女史。」

 謝辞を述べて着席するロドエイ曹長。

 ペロロペルアは黙して席に戻る。

 目で追っていたドレトギャンが息を抜く。


 強引に場を収めて、

「次の質問を受け付ける。」

 強引に仕切り直しへ持って行くハストン。

 挙がる掌がかなり減った。

 一番の関心事が兎も角解決したと云うこと。


 解決.........したのか?

 引っ掻き回して、騒いで終わったような........。


 掌を挙げている中から、

「あー。スイムウス二等。」

 ハストンの名指しに、

 返事と伴に起立。発言の姿勢を取るスイムウスは、

「状況設定がありますか?」


 これに対し、ハストンは、

「決まっているようだが、」

 トロウヤを流し見る。

 そのトロウヤといえば前方を見据えて視線を合わせようとしない。


「本官にも秘密にされている。」

 肩を窄めるハストン。

「現地で直前にお知らせがあるだろう。期待して待て。」

 素っ気無く締めくくる。


 期待?「覚悟して待て。」では?


 質疑応答が続く。数は減ったが続く。

 聴講席を見渡し、

「次は.........、クゥクフリュラ兵長。」

 ハストンが名を呼ぶ。

 クゥクフリュラが返事。起立。

「雨天決行ですよね?」

「天候操作するなよ。」

 質問との間に一毛の入る隙間も無く打ち返す。


 ハストンの答に賓客席の全員が反応。

 ドレトギャンとシルタが目を見開く。

 一方、

 ガルダルタとトロウヤ、ペロロペルアは揃って薄目。



 天候操作の法術は影響を抑える為に事象監視当局への事前申告と許諾が必要。


 法術には、局地的に天候を改変する類のものがある。

 任意の場所の天候を望むままに自由に書き換え出来る。

 重宝な法術だと云われているが、使う為には、その筋への事前申請と許諾が必要。そのこともあって使用される事が稀。

 実のところ、

 法術で局地的な天候を改変すると、連鎖の余波による影響が、要らない『おまけ』として現出することがある。

 しかも、それが何時、何処でどんな形で現出するか予測が難しい。

 が為、於い其れと簡単に、安易に局地的天候改変を行うと後が怖い。


 この世界が経験した苦い歴史から得た教訓。


 戦争が起こると、戦争中に気象操作が、それが当たり前のように実施されて来た。

 極局地的なものから大規模、広域なものまで、戦術的なものから戦略的なものまで、

 味方の都合に良い様に、少しでも有利になるように。

 法術で天候を書き換えた。


 近世の、

 指揮官個人の才能が戦場の、引いては戦争そのものの行方を左右していた、所謂『技巧的な戦争』の時代では始まってから終結するまでの間、戦場は局所的であり、実際の戦闘も掛かって数日と云ったところ。

 その事もあってか、《おまけ》については直接的に当ったことが無ければ余所事、大して顧みられることは無かった。


 しかし、国の抽斗の数と仕舞ってあった中身の量に、個人の才能が埋没する戦争の時代になると話が変わった。

 局所的な点で収まっていた戦場が連なり、線で押合い圧合いする様になると天候改変の回数と規模が段違いだった。


 戦争手段のひとつとして仕方無いと当時は黙認同然だったが、戦後になって後悔することになる。


 それまでの使い放題していた気象操作の清算が始まった。

 既に始まっていた。

 という方が正しいか。


 理不尽なことに宛先は戦争で天候の書き換えを行った当事者では無い第三者へ。

 それも、局地的で長期な気象異常という形で。


 単発的な異常気象が、数十年、何百年に片手で数えられる位に有るか無いかと云うのであれば、偶々だとか珍しいとかで済んだかもしれない。

 しかし、これが戦争終結後、僅か、間も無く連続して頻繁に起きるとなれば、疑われるのは戦争中に行われた気象操作。

 なにしろ戦中は常日頃、其処彼処と云って良い位に、気象操作が行われていたと言っても過言では無い。


 当然、現在進行系で気象異常に悩まされている側は責任を追及。対策と改善を求める。

 ところが、

 戦争時、軍事目的で天候改変を行なっていた連中は、戦争中の気象操作と戦後発生した異常気象の因果関係を否定。追及に白を切り続けた。


 その間も局地的異常気象は止む気配無く続く。


 責任回避のみならず、知らん顔な態度に怒りが頂点を超えたのは、異常気象により諸々の被害を受けている面々。

 周囲が危惧する中、

 被害をもたらす異常気象を解消し、例年の天候を取り戻すために大規模な法術による気象改変を敢行。


 因果関係を否定するのなら、

 我々が行う気象改変だって今後起こるであろう気象異常とは因果関係は無いよね?

 責任?

 知ったことでは無い。因果関係は無いのだから。


 開き直ったのである。

 結果は言わずと知れたもの。

 力尽くの異常気象解消はなされるも、危惧は現実となる。


 異常気象は他の地域に飛び火。拡大。

 或る魔術師は言った。

「もつれた糸を解かずに余計にもつれさせたんだ。元に戻すにはどれだけ掛るか解らない。

 .........そもそも戻せるのだろうか?」


 普段、降水量の少ない乾燥地帯で連日長期の豪雨が発生。幾つかの町が押し流される豪雨災害が発生。

 それは手始め。


 ある湿潤地域では、

 年間降水量の記録更新が常態化。

 年間で発生する暴風雨の数も威力も毎年右肩上り。水の力が地形を変える災害が続発。復興が終わらない内に新たな災害が発生。復興もままならない悪循環に。

 かと思えば、

 それまで水量豊富な地域での降雨量が激減。乾燥化。

 底が見える元は水源が数を増やす。暮らす人の数を減らす。

 中でも深刻だったのが穀倉耕作地帯への打撃。或る処では育成に必要な水が得られず、或る所は雨が降ったで豪雨が押し流す。

 歳の実りに人々は表情を曇らせる。


 不良から不作へ、そして不足へ、飢餓への不安が生む苛立ち。

 余裕を失う社会。

 陽が傾くと伸びる影の様に、不穏の影が忍び寄る。


 戦争で本格的に使い始めてからを含めて、各々が自らの都合勝手で気象操作を続けた結果、

 異常気象以前の平年の天候を知る世代の全てが世を去り、

 生まれる前から異常気象が当然。引き起こされる災害が当たり前。

 平年の天候を昔語りに伝え聞いたことしか無い世代が二代続く、

 という歳月、

 この世界は異常気象と付き合わされている。

 異常気象は、

 現時点で大分落ち着いた、と看做されているが、未だ、完全な終息宣言は出されていない。



 ハストンがクゥクフリュラ兵長からの質問に間髪入れず『駄目出し』を撃ち込む。

 掌が挙がる中でクゥクフリュラが腰を下ろす。

 挙がる掌の内からハストンは、

「エエレ伍長。」

 名指す。


「はい!」

 返事の後、立ち上がり、後ろ手を組みやや上体を反らす。視線は宙に据えたままの姿勢を執るエエレ伍長。

 その質問は、

「間食の菓子は二百までですか?豆は菓子に含まれますか?」


 幼年や初等教育の遠足じゃあるまいし。笑いを取るための冗談なのか。

 発言に冷え冷えとした眼差しを寄越すペロロペルア。これには普段、牙を突き合せているガルダルタも同調している。

 横のドレトギャンは信じられないものを見たとばかりの表情。

 聴講席でも苦笑している兵士が散見している。

 トロウヤは眉間に皺を浮かせ。シルタも困ったとばかりの顔。

 ハストンも苦笑しながら、

「四百でもいいぞ。なんなら、果実も一緒にどうだ?」

 エエレに付き合いハストンも増額した上で更に品数を増やす答。

 景気の良いこと。


「有り難う御座います。」

 にやけ笑いをする周囲の中、エエレ伍長は礼を述べて着席。


「カーディンセンいちご.........軍曹。」

 うっかりして普段の呼名から訂正したハストン。

 呼ばれた当人は気にした様子もなく立ち上がる。一連の儀式を経ての質問は、

「夜間も行うのでありますか?」


 ハストンは軍曹からトロウヤへと視線を移す。

 視線で有無を問われたトロウヤは軽く首を横に振る。

 それを見たハストンは脇に視線を外した後、カーディンソンへ向き直り、

「今の処、予定は無い。」


「.........。

 有り難う御座います。」

 ハストンの答に、カーディンソン軍曹は間を置いてから淡々と礼を述べ、着席。

 その隣りの隊員がすぐ下の席の隊員と二言三言交わしている。


 聴講席を見渡すハストン。

「.........取り敢えず、終いだな。」

 挙がる掌が無くなったのを見届け、

「思いついたことがあれば。来てくれ。それでは..........。」


「中尉。」

 挙手で発言を求めたのはトロウヤ。


〖終わったと想ったのに.........。〗

 内心でがっかりなのはハストン。

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