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一夜、そのさん

シンプルにごめんなさい。

投稿したと思ったらしてませんでした(遅刻ー!!!!)(機会オンチー!!!)。

「お前かぁあああ!」


 全身の血がぶわりと上がった気がした。


「あんな統治してたら因果応報だろ」

「お前かこの戦犯め! 悪かったね上に立つのが私みたい頭の悪い奴で! 上手く立ち回りも出来ない一般人でね! それはそうとして何してくれてるの!!」


 叩きのめしたいこいつ! 今の惨状見ても何も思わないの? 臣民は? 私は? 明日死ぬかもって嘆く私を、さっき素知らぬ顔で笑ってたのこいつですか? 私を色恋にかまけた薄情な奴だなという目で見てたのこいつですか? いや薄情ブーメラン!


 黒幕こいつですお巡りさん! 確かにこいつは魔術において天才的だったし、事態に介入するのも簡単だっただろうけど、けどな! 出来るからといって、していいわけじゃない!


「どうでもいいだろ」

「少なくとも私はどうでも良くないよ!? 私死ぬかもしれないんだし!?」

「死なないわボケ」

「はぁぁん??」


 なんて傲慢な奴なんだ。私よりこいつの方が傲慢に決まってる。

 言ってることが支離滅裂だ。私をからかってるようにしか見えない。愛されたい! って喚く私にイラついてたのは何? 大人しく死ねやって意味じゃなかったの?


「······言っておくけど私は逃げられないよ。生きることを望んでみたとしても、実は、昔聖女になるって決められた時に人体実験みたいなのされて、逃げたら追跡されるし、一定範囲を抜けたら心臓破裂する」

「は? そんなの知らないんだけど」

「聖女にそんなことしたって知られたら、醜聞にも程があるでしょう」


 国家機密だし。

 因みに施したのは教会側です。クズだな〜。だからもし逃げ込むとしら教会側なんだけど、逃げ込んだら最後、神格化されて教会に飼われることが決定する。

 色恋どころじゃなく人権喪失まっしぐら。


 魔術師は眉をひそめて憎たらしげに舌打ちした。

 もしかして哀れまれてる? ていうか部外者なのにお前が知るわけないのに、なに計算外って面してんだか。


「どこ」

「首に。······いや、あの、私一応貴族令嬢で」

「さっさと見せろよ」

「ひぃ」


 ひぃ! 何なの何なの。戸惑いながらも髪をかきあげて、おずおずと左の首筋を見せた。見た目的には傷1つない柔肌だ。


 もしかして解除しようとしているのだろうか。私が何度トライしても解けなかったこれを? 解けば解こうとするほど身に食い込むようプログラミングされた、この禁忌呪術を?


 以前調べてみた感じ、この追跡装置は付けるのは簡単でも外すのはほぼ不可能、外そうとすれば激痛どころじゃなく廃人になりそうな感じだった。付けられたのは12の頃。結構前。もう定着しきったそれを外部から外そうというのは些か無理が······。


「ハッ、ただの貼り合わせじゃないか」

「ん??」

「だから、第24式と赤7式の複合に、乗法の性質変化、それを上から禁忌呪術アルファ式で貼り付けてるだけだ」

「ちょ、ちょ」

「アンタかなりの使い手と噂されてた割に、分かんなかったのかよ」


 分かるわけないだろ、解読文字も判明していない禁忌呪術だぞ! 私は魔術、それも光魔術専門だし。生きてて身近に触れられる機会も、学べる機会もないわ!


 途端、硬い指の腹がするっと首筋を撫でて跳ね上がった。顔が近い顔が近い。待って。ちょっと待って。だって前世枯れ女子、今世元彼に暗殺だよ!? 公爵令嬢だよ!? 肌、肌って、ちょっと待って!


 自分でも顔が真っ赤になるのが分かる。息がぐっと詰まって、視界いっぱいに映る黒い布を目を見開いて見つめていた。ルイスの右手は首に、左手は私の二の腕を掴んでいて、背中にはバルコニーの手すりが当たる。本当に待ってまって! 近い!


「近い!!」

「······ほら解けた」

「え、あ······?」


 そんなまさか。

 ばっと押さえた首は初め同様、傷跡もない肌で、しかし体の中から探って見れば確かになくなっていた。首から根を張るように、足の先まで広がっていた異物が。私の体を蝕んでいた呪いが。

 そんなまさか、禁忌呪術にまで精通しているなんて!! 誰だよ、こんな世界滅亡級のチート魔術師を手放した貴族は! 目の前の男の実力を肌で感じて、思わず怯む。


 どうしよう。どうなってるんだろう。国を愛して、国の為にってことで体を犠牲にして、国の所有物になって教会に使い潰されて。受け入れていたものから解き放たれて、まるで迷子にでもなったような気分だった。


 結局、この人の言う通り、愛する人の為にって偽りだったのかもしれない。愛してるから愛されたいんじゃなくて、愛されたかったから愛してる振りをしたのかもしれない。

 前世に囚われて今を見れなくて、愛されてる自分が疑わしくて、信じられなくて。愛されたい系女子を自称してる時点で、私は愛されない自分にアイデンティティを持ってたのかもしれない。

 この人にイライラしたのは図星だったからだ。


 でももう手遅れだ。

 今を生きなかった報いか、王子からは憎まれ、エゴの代償に殺されかかって、愛してる人も、愛してくれる人もいなくなった。


 自業自得の今、呪いが解けたって、目が覚めて仕舞えばどうにもならない。生きたいって思えない。

 こんな私が国を立て直すことは初めから諦めてるし、愛されたかったというのも所詮はただの愚痴のつもりだった。


 無視してくれても良かったのに。ここまでしてもらっていいんだろうか。解いてくれたのは嬉しいけど、何て言ったら······。


「凄いね、稀代の魔術師様······」

「当然だろ」

「あの、やって貰った手前申し訳ないけど······。私、別に人生楽しんだし逃げるつもりないよ。死ぬのは合理的じゃないけど、この国の地下にでも身を潜めて結界を維持し続ける。敵に見つかったら潔く死ぬけど」

「だから、死なせないって言ってるだろ」

「話を聞け?」


 いざという時は死ぬつもりでいるんだよこっちは。

愛されたいだけで人生上手くいかないみたいに、願望だけで人は息はできないのだ。


 さてはお前コミュニケーション苦手だな?私は片眉を上げて伺う。それともわざと噛み合わせないようにしてるの? 切実にやめろ?


「他の男には愛を乞うておいて、いざ俺がやってきたら死ぬ気でいるって? 巫山戯るなよ。アンタは愛されてたし、これからもそうだ。愛されてたんだから過去もこの場所にも未練を残さなくていい。この国はアンタを捨てた。だからアンタも国を捨てろ」


 ちょっと混乱してフリーズした。

『巫山戯るなよ』? どういう意味?

 死なせないとも言ってたし、本当にこの人は私を連れ出すつもりなんだろうか。私に国を捨てさせて。過去を捨させて、この場所を捨てさせて。


「······じゃあ、貴方が国の代わりに私を愛してくれるわけ?」

「だから、アンタはこれから愛しされるって言ってんだろが!」

「······え? 正気?」

「当然だ」


 当然なの!? 私に怒ってたんじゃないのか。


「え? え、え······? い、今何て」

「頭だけじゃなくて耳も悪いか? ······足りないのなら幾らでも言ってやる。愛されたいなら死にたくないと言え。助けて欲しいと言え。王子を愛してたなんて言わず、死ぬつもりだなんて言うな。アンタの目の前にいるのは誰だ? アンタが今いるのは、龍もいる魔術もあるこの最高な世界で、アンタの目の前にいるのはこの俺だ」


 びっと親指を自分に向けて、彼は傲岸不遜に顎を持ち上げた。


 今までの彼の言葉がリフレインする。

『もう良いじゃないか。国民みんなに愛されて幸せだったろ』当てつけにしか思えなかった言葉も、全部私の未練を断たせる為で。

『愛されたいなら悲劇の主人公ぶって被害者面をすればいい』被害者ぶってれば自分が逃がしてやると言っていて。

『例え生きても、誰にも愛されようとしない癖に』自分が、愛してやると言っていて?


 どんだけ不器用なんだ、と私は笑いながら涙が出てきた。


「いいか、アンタの知識や力は全世界が欲すものだ。この国の中枢にしか知らされない国家機密情報、およそ千年は進んだ知識、その光の魔術の適正、世界を救う結界魔術の技量」

「······うん」

「およそ人ひとりに背負わされる価値というのを、ずば抜けて持っている。持ちすぎるのは危険だ。アンタは、知識を漏らさぬ死体になるか、或いは人の為、その力を行使すべきと多くの人から望まれる存在だ」

「······」


 それが私だ。それが元次期王妃、それが聖女だった。そうなるように仕向けた、そう求められ続けようとした。愛されたかったから。


「そんな中、アンタは望まれる使命を放って、愛の為に逃げ出すんだ」

「貴方と?」

「俺と」


 国を捨てるんだ、と言ったルイスの瞳に、きらっと月光が差した。


「面白いだろ。エゴだ、自分勝手だ。家族から、国から教会から、ありとあらゆる組織から、民の希望や期待からも、全てから逃げ出して1人の人間になって、愛に生きようっていうんだ」

「義務を投げ出すの? 振り回された民も放って?」

「背負いすぎるな。アンタは天才じゃないし、聖女じゃないし、もう第一王子殿下の婚約者でもない。他でもないこの国がお前を捨てたんだ」

「······やむを得なかった人もいるよ。捨てようとして捨てた人なんて一部だけだよ」

「でも結果、今、お前を救いに来てくれる奴が俺以外に居るのか」


 ······よく言う。自ら王子を唆し、私を孤立させておいて。もう婚約者じゃない? 解消を仕向けたのはこの人だ。私を1人連れ出す為に国をめちゃくちゃにした戦犯だ。

 とんだマッチポンプ。この人の思い通りの結末。この人は愛されたかったなんて言う女の子に漬け込んで、呪いを解いてみせて、死ぬな、国を捨てろと何度も唆す。酷い人だ。


「十分役目は全うしただろ。聖女として、次期王妃として、今、この瞬間最後まで全うしようとした。まだ臣民に身を砕く気か? もう呪いは解けた。俺が解いた。アンタがいなければ何年も前に龍の襲撃で潰れていたこの国に? 今やアンタを殺そうとしている国にか?」

「······」

「アンタ、本当は他人なんてどうでもいい癖に。綺麗事を言い訳にするなよ」


 本当にこの人、私のこと分かったように言う。『どうでもいい』なんて、言い方が悪い。口が悪くて、でも口が上手い。私の味方が、本当にルイスしかいないような錯覚に陥る。ルイスの描く未来が、過去も今もめちゃくちゃにして夢見る未来が、とても良いものに思える。


「反論するなよ? 俺を初対面なんて言ってた時点で、分かってるんだからな」

「······」


 ちょっと笑ってしまった。

 受け入れてもいいかと思った。自分の弱さを、逃げを、愛へのコンプレックスを。

 悔しいけど彼の提案を、確かに面白いと思ってしまった。


 だって聖女だ。国の要だ。今張ってる結界は少なくとも2年弱は持つにしても、千年近く生きる龍達が相手だ。それを全部無視して逃げ出すなんて、それって本当に、もしかして、私が理想としてた愛そのものなんじゃないの?


 愛されたかった。どうしようもない程狂おしく。国と愛する人を天秤にかけて、愛する人を選んでしまえるような。リスクもペルソナも代償も省みない、それって最高の愛の形だったりしない?

 ぶわわっと血湧き肉躍る。


 受け入れる。愛せないこと。王子も、家族も民も、この人のことだってきっと愛せない。愛されることを知らないから人を愛せない。

 でも、知らなくても理解できなくてもいいから、受け入れたい。受け入れよう。


 この人と未来を歩んでみよう。

 一緒に生きてみようと思うのは、確かに愛ではないけれど、では愛ではないなら何だろう。愛があって漸く成し得ることを、愛がなくとも成そうと思えるこの感情は、それはもう、最高の愛の形に限りなく近いんじゃないだろうか?


 愛せなくてもいいから、もう、どうだっていいから、この人と一緒に生きてみたい。


「私のこと好きなの?」

「初めっから口説いてたつもりなんだけど」

「貴方、ちょっと不器用すぎ」

「············一目惚れなんだよ」


 不覚にもキュンとした。

 けど、待て待て、思い出せ。口説き文句が崩れ落ちる国を前にしての逃避行だなんて、一見ロマンチックなようだけど用意周到さがちょっと怖いよ。一目惚れの一途さで国ひとつ崩壊させる手腕が怖いよ?

 平常心に戻ろうとするけど、真っ赤な顔は一向に戻らない。


「私、ルイスのこと好きじゃないし」

「知ってる」

「愛せる気がしないし」

「知ってる。誰かを愛せる奴は、仮にも愛そうとしていた相手から実は憎まれてたって、暗殺されかけた後で気付いたりしない」

「うん。それに多分、私が誰かを愛せる人なら、ルイスから好かれてるって、きっともっと早く気付いた」

「······」


 押し黙ったルイスに、私は声をあげて笑った。


「あはは! いいよ、行こう! 私はルイスを愛していない。でも、これからの人生、ルイスと一緒に生きていいってくらいには、国も民も、決意も全部捨てて逃げてもいいくらいには、今、最っ高にワクワクしてる!」

「充分だ」


 ルイスは笑った。

 ルイスに着いていけばいつか本当に、誰かを愛せるかもしれない。王子を唆し、国を傾かせ、そこまでして私を連れ出そうと、私を愛してくれるルイスなら。


「利害の一致だろ? 俺の完璧な計算通り。お前は愛されたい。俺は愛したい。俺は愛されなくったって上等だ。お前が俺以外、誰1人として愛さないならそれでいい。お前が俺以外に目を向けるよりかは、断然」


 ルイスは手すりの上に立ち、私を見下ろした。


「俺を愛さない代わり、誰のことも愛すなよ」


 愛し愛されてみたかったけど、ルイスが絶対的に私を愛してくれるならそれでもいいかと、私は頷いた。


 私はこの国を去る。

 ルイスは自分の立つ手すりの上へ私を引き上げる。体を預けたまま、私は胸を高鳴らせる。


「行くぞ」

「どこへ?」

「何処へでも。家は魔術で移動させられる。ペットは呼べば来る」

「ペットって龍?」

「名はハートレイ」

「可愛い名前。色んな人が私たちを追いかけてくるかな」

「そりゃな。それでも、袖にしてやるのが最高に気持ちいいんだろ」


 爽快感。何もかもを投げ出す。それだけに堪らない気持ちになった。

 愛してもいないのに、こんなとんでもないことをし出来そうとしてしまうって、それって何て素敵なんだろう!


 子供騙しに付けられた魔術封じの足枷を私は破壊する。国も当然、私がこれを壊せない筈も無いと知っている。これは壊される前提のものだ。壊した瞬間、劈く甲高い警報が鳴った。

 少しの間も置かず、警備隊員が5人程部屋に乗り込んだ。


「さあ行くか。国と俺ら、逃亡劇の初まりだ」


 ルイスは呟き、私を強く抱き締めて手すりから真っ逆さまに飛び降りた。

 一瞬の浮遊感の後、景色が変わる。一変する。警備隊の叫ぶ声が途切れ、気温さえ変わる。重力が変わる。


 転移魔術。大陸に使い手が1人いるかどうかの幻レベルの魔術じゃん······。


「逃亡劇というより、逃避行じゃない?」


 いや、やっぱり駆け落ちかもしれない。




 目を細めてみた朝日は、どこまでも眩かった。









読了ありがとうございました!


愛され女の子と逃避行が性癖です。凄みのある男の子好き。最高。何個でも書く。


最近書いた愛され+粘着ヤンデレ→『悪役令嬢ヨル・ソマリア被害者の会』よく叫ぶギャグ。

ちょっと前に書いた逃避行+くるいんちゅカプ→『脱獄ハネムーン』最高にばか(らぶ)。



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