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一夜、そのに

「どうしよ!?!?!?」


 はい! ということで、私は思わず隣の奴に叫んだ。これが叫ばずにいられるか? いやいられない。


 国に関してはもう半分諦めている。聖女の権力も剥奪されそうで、今更私が一国を救えるとは思っていない。

 だがしかし、だからってここで死んでもいいものか。折角の第2の人生だ。

 でも、私1人生き延びるというのも、民に対して大概失礼だ。


 実はこれ以前のぼやきもお隣さん宛てだったんだけど。あまりにも無視されてるだけで、別に独り言で「人生うまくいかないもんだね······」とか黄昏れる女じゃないです。


 無視はどうでもいいとして、私これからどうしようっていう。私にこれからの将来を選択する権利なんてあるのだろうか。生きることを望んでいいものか。


 もう、叫びたくもなるよ······私これから消されるのかな。まだ花の17歳なのに。前世で生きた年齢も超えてないのに!!


「どうしよう!」


 なんか焦りに焦って、叫んだその流れで、バルコニーの手すりに親の仇かという程の凄まじい頭突きをかましてしまった。

 あ、両親健在です。これからこの騒動で殺されないかは分からないがな! 私が生まれ変わったばかりに、パパママ兄姉、使用人達もごめん! 民もごめん!


 頭突きでゴンッゴンッ! って凄い音がした。

 私の貴重な脳細胞が今ここで死に絶えた気がする。


 当然の如く、すごい痛い。王城の手すりはそれはそれは頑丈であったことが分かった。色々とギリギリな今の状態が、夢じゃないことも分かった。うん······。

 すぐさま光の魔術で治癒にかかる。

 そんな私を嘲笑う声が1つ。隣の男だ。


「もう良いじゃないか。国民みんなに愛されて幸せだったろ」


 当て付けか? 愛を仇で返す私への。

 やっと無視を止めたかこの野郎。他人事のように言ってくれるなこの野郎。事実他人だけど。ついさっき会ったばかりの他人だけどっ!


 横目でじろりと男を睨む。

 男、青年と言っていい風貌の奴は真っ黒だった。今の時間が夜というのも相まって、上から下まで全身真っ黒の「どこの黒ずくめだ」っていう格好は見事闇に紛れている。それから髪や目の色も、前世日本人を彷彿とさせる真っ黒な色をしていた。


 今日出会ったばかりなのに、ここまで打ち解けられた理由は色に惹かれたというのもあったのかもしれない。懐かしい色に警戒心より好奇心が勝ったというか。

 それで、近日死ぬかもしれないという身で、私は今見知らぬ男に愚痴を吐いている。


 だって、西に位置するこの国は、黒を不吉な色としているその黒髪を隠すことなく堂々とここ城内に存在するだけで、充分に怪しい。


 でもまあ、いっか。何処の誰だろうがどうだっていいか。怪しくても、私を殺しに来た敵側の人間かもしれなくても。

 今の崖っぷちの状況を幸せだろうと宣う青年に、私は声を張り上げた。


「違うんだよー。愛されたいとは言ったけどさ、もっとなんか永遠の愛っ、もうお前を離さない! 的な感じが良かったんだよ。1人のビッグラブで良かったんだよ!」

「殿下からは殺されそうになるくらい、重たいもの貰ってるじゃないか」

「ああそうだなビックな殺意をな······!」


 それ愛じゃねぇ! と俯いて尚叫ぶ。


 これだけ叫んでて、もし誰かに聞かれたらまた違う意味で死ぬな、とぼんやり思った。けど大丈夫、ここ現在進行形で防音の結界貼ってるから。並大抵というか、多分この国の魔術師如きでは1000年経っても解けやしない、王子を殺しかけたオート魔術と同じくらい複雑な結界あるから。

 ······うん、いやごめん1000年は嘘。100年くらい。


 弱冠17歳で広大な国域全土に結界を巡らせた、聖女様だ。魔力量も操作技能もとんでもないし、それをやってのけるだけ結界系魔術に精通している。

 私の結界が例え低難易度の防音結界でも、誰かに破られるほど粗いわけがないんだよね。一生分の時間をかけて研究したら解けるかもってくらい。


 はあっと大きなため息を吐く。


「このままじゃ、もし逃げ延びれたとしても愛されルートはないんだよ。だって逃がしてくれるとしたら教会だろうし?」

「国から独立していて、且つ資金もあって大陸中に信者がいるからな」

「そう。だから逃げるならばそこなんだけど、でも『神様は人と添い遂げないでしょ?』みたいな雰囲気でスルーされちゃういそうなんだよね。愛というより信仰心······? 百歩譲って聖女様でしょ。なんでそこ神様扱い?」

「······」


 いや、そもそも教会に逃げる以前に障害が幾つかあるんだけどね。実は。

 ぶつぶつと文句を呟いて、その時私は敢えて気付かない振りをした。あれ? 何か感じるぞ?と思ったけど頑張って見て見ぬふりをした。


 ······何か、隣の青年から何か含みのある視線を向けられたんだけど。······あれ?初対面ですよね? そんな剥き出しの感情をぶつけられても分からないんですが。

 しかし青年のそれは一瞬で、すぐに相槌を打ちだした。


「へぇ誰が言ってたんだ」

「教会で仲良くなった1人だよ。ていうか既にスルーされてる」

「ハッ」

「笑ってんじゃねぇ······」


 愛されたかっただけなのに。

 ただ1人、一生愛してくれる人に出会いたかっただけなのに、このままだと結婚相手どころか恋人もできないで死ぬ。

 そういう思いをつらつらと吐き出していたら、遂に青年が言った。


「強欲にして傲慢な女だな」


 エッ怖。

 圧にビビって触れなかったら、中々の毒を落とされてしまった。しかも笑顔で。おっふ。

 え? その笑顔どういう感情? さては感情を表現するの苦手だな? 笑顔は楽しい時にするものぞ。


「この期に及んでまだ愛されたいなんて言うのか?」

「だってその為に生きてきたんだし」

「理解できないな」

「じゃあ死ねって言うの? 民の為には死ぬべきなんだろうけど、どう考えたって合理的じゃないじゃん」

「どういう風に?」

「だって、私が死んだところで国の暴走は収まらないし、結界を維持できなくなって1番初めに死ぬのは国民だよ」


 男は黙ってる。


「理解できないとか、そもそも違う世界で生きてる人間に理解されるような、薄っぺらいものじゃないよ」


 ずっと愛されたかった。

 我ながら肝座ってるなーとは思った。嫌悪されてる言動をそのまま貫くって、中々嫌な奴だね私。


 こいつの言ってることは分からなくもない。初対面でズケズケ言われる筋合いないけど。自覚が足りない、開き直るな、今することかよ男遊び、みたいな。これだけ国を人を引っ掻き回しておいて、当事者がこれだもんね。

 ペラペラ捲し立てたことを少し反省した。


「『違う世界』か」

「信じてない? 私が他の場所で生きて、死んだ記憶」

「そして公爵令嬢に生まれ変わり、明日2度目の死を向かえる訳か」

「あくまでも予定! ここ大事だから」

「例え生きても、誰にも愛されようとしない癖に」

「······」


 何なんだろう、この男。私のこと知ったように言う。


「気持ち悪っ!」

「は? それはないだろ」


 口調が雑になった。眉根を寄せて『は?』とか、人を威圧することに慣れた人間ですね。怖いやめて。

 私は肩を竦めて見せながら、内心でまた叫んだ。気持ち悪い! 怖いよ!!


 だって、だってそうだろう。忘れそうになるから何度も言うけど、相手は初対面だし、会って1時間程度しか経ってない人間だ。何故そんなことが言いきれる。


「愛されたいんだから、そんなことないでしょ」

「じゃあ本当は愛されたくないんだろう」

「貴方は憶測で私の気持ちを量ろうとするの?」


 この人は私の何を知ってるの?


「そもそも矛盾してるだろう。愛されたいなんて言って、今までの敬われる立場、愛でられる外見に生まれ変わってチヤホヤされてた今までに、まるで満足してない。まだ愛されたいなんて言う」

「······」

「そもそもアンタは外から向けられる視線に頓着しない。言動に媚びる所がない。端的に言うと人に興味がない」

「ストップストップ」

「それに頭も悪い」

「ストップって言ってるじゃん!? あとそれ関係あります!?」


 ナチュラルな悪口だよね?

 私以上に捲し立てる様子に仄かな怒気を感じストップをかけるも言い切られてしまった。にしても、よりにもよって『頭悪い』で締め括る?! やめて今の私にそれは効く!


 もしかしてこの人、今晩以前に私を見知っていたんじゃないだろうか。私の言動や振る舞いに詳しすぎる。彼の語った『私』が真実かどうかは置いといて、随分綿密なフィルターで私のことを見ている。

 ······うん。何で? 怖いな。


「大体、言動に地に足がついていない。何だよ『違う世界』って。アンタが今生きてるのはその『違う世界』だろうが。生まれて十数年アンタ生きてきたのはどこの世界だよ」


 うっ、と言葉に詰まった。


「今だって、愛されたいなら悲劇の主人公ぶって被害者面をすればいい。精々可愛い子ぶればいい。アンタが媚れば誰かが助けてくれるだろ。聖女だろ?」

「······そんな同情を買って喜べる性格じゃないし。聖女は主人公ぶる役職というわけではなくてですね······」

「そもそも、愛して貰いたい相手が王子だったなら、何故相手の嫌がることをする。本当は愛されたいだなんて思ってなかったんだろう。愛して貰いたい相手が自分を嫌っていたと暗殺されるまで気付かない奴がいるか」

「はぁ?」


 そこまで言われたら私だってムッとする。ムッどころじゃない。はぁぁん?? だ。


「私は愛してた、婚約者も、民も家族も、全人類! 愛してるから愛されたいの。知識も魔力も体も全部明け渡すから応えて欲しいの。私のことを理解しなくてもいいけど、その代わり否定もしないで。何度も言うけど初対面だから私たちー!」


 ああもう、頭に血が登ると普段より舌の回転が早くなる。昔からそうだ。ばんばん悪口が飛び出す。駄目駄目、相手にするな! 初対面の人に分かってもらおうとするのが無理があるのだし!


 いや、初対面?

 そこでピンときた。ああ分かりました、検討がつきました。なるほどそうか。この男が何者なのか、よくよく分かったぞ!


「そうだ、答え合わせをしましょうかっ?」


 私はぐいっと顔を寄せて真正面から彼を見た。黒いフードで覆われた黒髪黒目、どこまでも真っ黒なその容貌は、確かに見覚えがないといったら嘘だ。

 そうだ。私はこいつを見たことがある。

 分かってしまった。荒れている城に容易に潜り込むことが出来たのも、私が張った結界を壊さずに入ってこれたのも。


「害意がないのは見て取れたし、敢えて名前も教え合わずお喋りするロマンチックに浸りたかったのに、本当台無し! ──貴方ルイス・ヴァーハールでしょう」


 王子が権力という名の圧力で城に招いた、野良の魔術師だ。元貴族出身だというそいつは、どういう手を使ってお貴族様から勘当してもらったのかは知らないけど、貴族社会はおろか、魔術師ギルドにも所属しない変わり者だとか。

 うん。勘当してもらった、だ。今目の前にしてよく分かる。気に入らないもの全てに突っかかるこの態度見てたら本当に!


「ハッ、お見知り頂き光栄ですよ、聖女様」

「こちらこそ。噂はかねがね稀代の魔術師様。ところで光栄だなんて顔してないぞ!!」

「思ってないからだ」


 そもそも初めからタメ口だしね、この魔術師。思ってないのも不思議じゃない。睨みつけても、ふいっと黒い目は逸らされて、表情も変わらないし、全くふてぶてしい!


 実際の技量を見た事はないが、噂は知っている。1人で飛龍を倒しただとか、ましてや龍を使役したとか、気に入らない国の城に雷を落として、木っ端微塵にし ただとか。おまけに、魔術師ギルド界隈では指名手配扱いされているかなりの嫌われようだ。黒髪黒目ルイス・ヴァーハールを見たら避けて通れ! ギルド内の常識らしいですよ!


 どこまでが真実かは知らないが、飛龍を倒すなんて本当なら化け物だ。まさに主人公級。

 龍というのはそれだけでも脅威なのに、飛龍となれば通常の龍の2倍近い体躯とパワー。千年近く生きる長寿だ。

 しかもその災害レベルを使役してる、この世界の常識からしたらかなり頭がおかしい奴だ。世界をぶっ壊そうとしてる龍と仲良しこよしするつもりだっていうんだから。


 ん? あれ、そういえば、よくよく思い出して見ると暗殺騒動のパーティーの時にも居た気がする。

 野蛮人だとか超危険人物だとかで表にはいなかったけれど、王子の我儘で招いた手前、パーティーにも招待されて居たんじゃないか。


 私は常時結界を通してテリトリー内の気配をある程度把握出来るんだけど、そういえば、本当に僅か、王城の結界内に居た気がする。

 あれ? こいつが城に来たタイミングとか、事情の把握具合とか、私に話しかけてきた感じとか、直感でしかないけど、あれ?


「もしかしなくても、王子を唆したの貴方······?」

「あんなの、俺が手を出さなくとも近い内に実行してた」


 お前かぁあああああ!!!




next→今夜22:00を待て!

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