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一夜、そのいち

以前に別名義で投稿していた作品になります。あの時は削除しちゃってごめんなさい。戻ってきました。

 それはもう、愛されたかった人生だった。


 どうも、愛されたい系女子です。

 この度なんと転生致しまして、それもびっくり、異世界にです。空には龍、陸には魔法使いがいて、地下には未知なる地底人がいるらしい。

 うん、いやごめん。地底人は嘘。


 でも龍なんてファンタジックな生き物がいるのは事実だし、この世界では魔術なるものが一般化している。ヤバいね異世界、ロマンしかない。


 そこで、私。よくある転生もののラノベらしく、テンプレな人生を歩んでみることにした。前世の記憶を取り戻して僅か2日、この世界に生を受けて10年目にしての決意だった。


 だってこれアレじゃない、よくある異世界転生系ラノベでしょ? 知識チートで無双して、魔法バンバン打って無双して、転生の苦悩を乗り越え、最愛の恋人とハッピーエンドにゴールインするテンプレラノベ。勿論主人公は愛されキャラ。

 私、今いるのこのポジションじゃない??


 その証拠として今世の私を紹介しよう。

 その1、生まれは公爵家、その末っ子という立場である。パパママは当然のように私を溺愛中で、国1番の騎士と名高いお兄も、お淑やかな社交界の花であるお姉も私にデレデレなのだ。どや。


 初めはツンケンしてた兄だったし姉とは関わりが薄かったけど、多分ここで既に私の秘めたるヒロイン力が漏れ出てたんだね。記憶を持つ前から既に周りを絆す能力を身につけていた私に、兄と姉は今や骨抜きだ。

 ふっ、ザイレウ公爵家の姫とは私のことよ。この愛され能力はヒロイン要素その2ね。


 そしてその3、持って生まれたこの美貌!

 ぱっちり二重の大きな瞳は宝石みたいなピンク色。血色のいい唇はぷるぷるで、そこから紡がれる声は鳥のさえずりにも喩えられた。髪はサラサラのロングストレート、しかもホワイトブロンドである! 加えて、10歳の時点で既に八頭身に近いモデル体型ときた。


 フフフ、フハハハ! 完璧、完璧としか言いようがない! 立場、容姿、どちらを取っても愛される才能しか感じない!! 素晴らしい!


 次! その4! 婚約者である。今世の私には既に将来を約束した彼氏がいるのである!

 ああ悲しきかな、前世の私はバリバリの非モテ女子であった。遠い記憶すぎて彼氏なんて本当に存在してたかも怪しいレベル。

 それが今っ、10歳なんていうお子様な時代から彼氏を獲得しているのである! 勝ち組か?


 更に更にっ、その婚約者兼幼馴染ともなるのが、この国の第一王子様である! え? いや勝ち組か!?


 つまり、ゆくゆく王太子となる人のお嫁さんポジションですね。ええ分かります、あれですね。王子様とお姫様。この国にまで侵攻してきた龍を王子が倒して、龍のタチの悪い呪いで倒れてしまった私を、王子がキスで目覚めさせる的な。

 ハァー······決まった······。私この世界のヒロインでしょう。分かります。


 だってだって、なんてったって。ヒロイン要素その5! 私は光の魔術適正の才能を持っているのだから!


 シナリオはこうでしょう。王子の倒した龍が二度と復活しないよう、私の光の魔術で封印! 王子と令嬢は幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし!

 もう決定だよ······頭の中で乙女ゲーみたいな展開が見えちゃってるんだよ! ここが乙女ゲー世界なのかは知らないけどっ!


 前世の記憶が蘇ると同時に発現した、この魔術適正のお陰で、国中で私は聖女扱い。魔を浄化する聖なる乙女、見た目も相まってまるで天使だって! いいねいいね、もっと頂戴!

 前世が平凡オブ平凡だった私からすれば、ついホロリと泣けるような話よ。何これ年中モテ期? 私の時代、来ちゃってるってことですかっ?!


 ここまでくれば、誰が私が調子に乗っちゃうのを責められるというのでしょう。公爵令嬢にして美少女にして王子の婚約者でもあり、そしてまたまた聖女なのである。加えて前世知識アリというチートっぷり。この先の未来が明るいと確定した人生!


 調子? ここで乗らなきゃいつ乗る。今、ここで! とことん乗るしかねぇってことでしょう!!


 これはテンプレに乗っかるしかない。私はそう決意した。

 ぶっちゃけ龍とか魔術とか怖いけど、折角恵まれた環境なら精一杯生きないと損! 用意された舞台なら、目いっぱい踊ってやらなきゃ損だ!


 前世持ちの愛されたい系公爵令嬢、今世こそ、幸せな人生の為に奮闘します!!




**


 ······。

 ············。

 ··························、············などと、思っていた時期が私にもありました!7年前くらいかな!


「いやぁ、やっぱ人生そんな上手くいかないものですねえ!」


 かつての理想と今の差に泣きそうです。


「私ほら、属性過多だったといいますか。才能が溢れすぎた、といいますか······」


 泣きそう、いえ、もう泣きました。泣いた。既に泣き疲れたよ。

 詰まるところ、やり過ぎたのだ······。


 明るい未来ルートから決定的に脱線してしまったのは、記憶に新しい1週間前の出来事。私が通う学園の、卒業パーティーでの事件だ。

 その、ついうっかり色々やり過ぎて、婚約がなかったことになってしまったのだ。婚約解消。いや、正しく言うとそれは正式に決まったわけではないのだけど、もう決まったものというか、もうそうするしかない状況になったと言いますか。


 やらかしました。

 件の彼氏様、私のこと憎んでるらしいんです。


 その憎んでる理由については、事の次第が決定的になったかのパーティー以前に、実は色々やらかしてまして。彼氏、いや元婚約者殿が恨む理由が分からなくもないのですよ。


 王子よりも民の忠信を集めてしまったり。

 学園の成績が、正式に公表はされてなかったと思うけど、王子より私の方が上だったり。

 王妃修行のつもりがやりすぎて、王子より政治に深く関わっていたり、王子より女王様に気にられてしまっていたり。

 極めつけは、王子が剣を奮って国を守るより先に、光の魔術で国に巨大な結界を張って、実質国の最重要人物になってたりとか。

 ちょっと、他にも前世知識チートで色々やりすぎちゃったといいますか。


 ············うっかり、王子が嫉妬して私を殺そうとしてきてしまったわけである。1週間前の、学園の卒業パーティで。

 うわーん。イケメンの嫉妬とか、愛されたい系女子からすればとっても美味しいのに、それが恋情由来じゃなくプライド崩壊から来る殺意だと思うと胸が痛いよ。まじ泣ける。7年間の婚約者付き合いは王子との仲を深めることにはならなかったのだ。


 王子はどうも、自前の呪術で私を殺そうとしたらしいかった。更に皆の前で見せつけるようにして私を殺したかったみたいなんだけど、またそれがまずかったわけで。


 私が護身用で付けてたオート型の魔術が思わず、こう、ズゴーーンっとね、呪術を攻撃と見なし、反撃してしまってね。王子のあれは正しく攻撃で、術式は何にも悪いところはなかったのだけど。正当防衛なんだけど!


 術者を絶対的に守るようプログラミングしていた魔術は······けっっこうな威力で、王子に向かって。こう、ズゴーーーーン!!!

 一瞬にして静まり返ったパーティー会場に、鼻血を放射線状に吹き上げた王子がパタリと倒れる。

 あの居たたまれなさと言ったら!


 いや、言い訳させて! 正当防衛ですから! 王子だって殺す相手のリサーチ不足でしょ! 幾ら私が並大抵の魔術師には気付かれないよう、巧妙にして徹底的にオート魔術を隠していたとしても、毎日掛ける術式をちょいちょい変えて、他人には決して解けないよう暗号化していたとしても!

 やってくれたな、あの王子〜!!


 私の身につけてるオート型魔術は、呪いであろうが何であろうが、攻撃してきた相手にそのまま威力を跳ね返すタイプである。つまり王子にこう、人を死に至らしめる威力で呪いが跳ね返ったのだ。

 王子、白目剥いて気絶しました。······パーティの最中、公衆の面前で。学園に留学に来てた隣国の王子御一行他、国の重鎮たちや、国の行先に関わるような来賓たちの前でだ。立場的にも絵面的にも色々ヤバい。


 その騒動で事の次第は瞬く間に発覚しま。曰く、王子が聖女暗殺を企て実行し、逆に聖女が王子を手酷く懲らしめたと。まあ大体合ってる。


「······あーっとね? ちょっとテンプレに乗ろうと愛され系目指して、媚び売りすぎちゃったといいますか」


 やりすぎたんだよねぇ。

 実は、これだけじゃないみたいなんです。これはあくまで表面的な話で、元婚約者殿のただの単独暴走ではなく、色んなところから恨みを買って狙われてた私の敵対者、全員の暴走といいますか。


 国は今や、私によって大部分を支えられているのだ。

 結界は勿論、前世知識で売り出した物が思わぬブームを巻き起こして、私名義で支援した商会が国の経済にくい込んでたり。国どころか他国まで及んでたり。

 この国に元々あった宗教は、私を聖女どころか神と崇め出すし。図らずとも宗教乗っ取りしちゃったらこの近辺国の多くは宗教国家だし。

 外交官の父の元、他国のオトモダチにお強請りして同盟を組み、国は安泰、民は万歳。国中で私の名を知らない人はいないという。

 女王陛下は私の外見がめちゃくちゃ好みらしいし。


 国一番の剣士である兄(王子は一番になれなかった)と、龍の生体について研究している、賢者名高き姉。敏腕外交官の父。王家の血筋を引く母。などといった家族を筆頭とし、民から宗教からオトモダチから、国までもが皆、私を支援しているという······。

 ここに更に、私がもしや次期女王になるのではと、時勢を読んで媚びを売ってくる王侯貴族も存在する。

 これが私派の人たち。


 そして反対に、私を恨んでた王子を筆頭とし、今まで聖女のいなかったこの国に、高く商売していた隣国の聖女一派や、私が上に立ったらヤバい汚職常習犯が、かなりの規模で団結し、あわよくば私を暗殺し隊となって潜んでる。······今更ながら超怖いな?


 端的に言うと、この1週間、私の味方側VS敵側で国が割れた。表面的な事実の水面下で、腹の探り合いと化かし合いが始まっていたわけである。

 そして結果をいうと、敵側が勝ってしまった。


 超重要人物たる私を殺そうとするだけあって、王子は呪い系魔術に精通してた。呪い系魔術の耐性もあったのだ。

 だから、私を殺す威力のものが跳ね返ってきても、王子は気絶するだけでギリギリ生きてて。だからまあ、敵側からしたら色々小細工する余裕が出来たのだ。あのパーティーから今までの1週間で。


 先手必勝というべきか、こっちがもたもたしている間に向こうはまことしやかにとんでもない嘘を広めだした。曰く、暗殺を企てたのは私であり、そして殺されかけたのは王子である、と。


 いやいや、いやいや、ふざけんな。逆! 逆! 暗殺しかけられたの私!


 加害者と被害者のひっくり返った図式に、事態は見事混乱を極めた。関わる人数が多いだけに、そして目論む人間の多さだけに情報が錯乱していく。今まで水面下で牽制し合ってきた均整が崩れ、目まぐるしく情勢は移り変わる。


 そうして1週間後の今、私が王子に殺されかけた事実は隠蔽され、完璧に私が次期国王を狙った悪女に仕立てあげられている。

 歴史は勝者が作るもの、ね。うわー胸糞。


 敵側からしたら初めからこれが狙いだった可能性もある。うん、あの王子だもんね。成功しないと思うよね。それに、幾らなんでもこの1週間の対応があまりにも早すぎた。

 完全に出遅れた。

 私、窮地に立たされている。


 本当に馬鹿だった。

 自分の影響力を把握しなさすぎだったし、迂闊に知識チートして、この世界の培ってきた価値観をぶっ壊してしまった。上層は私の扱いを見誤った。


 そして、強引に私を失脚させようとした王子一派も大馬鹿だ。

 このままだと、誰が私の代わりに結界を張るわけ? 世界規模の宗教に喧嘩売って、それにそこそこ大きいこの国が荒れたら、周辺国も影響ビシバシ受けるんだよ? 国内レベルの問題じゃないんだよ?


 もしかすると、私と一緒にいくつかの貴族も没落して、他国に侵略の隙を許すかもしれない。その場合一番初めに被害を受けるのは中〜下級層で、政治に口を出せない巻き込まれた側の人間である。


 ごめん、マジでごめん。こんなことなら無理やりにでも身分差改革進めとくべきだった······。直接民主制は流石に出来なかったかもしれないけど、何とか種でも蒔いておくべきだった。


 責任と罪悪感で泣きそうだ。混乱に混乱を極め、国内では暴動が起きている。既に何人もの民が死んだ。国が終わると悟り、国境を越え逃げていく人もいた。

 けど、逃げたとしても戦争の火種ともなりそうな移民を、どこも受け入れてはくれないだろう。私の結界の外から出られたら龍から身を守れないし。


 人生イージーモードかと思いきや、私自らハードモードにしちゃってるじゃん。私、バカなのか。多くの人を巻き込んで、本来関係ない人たちが何人犠牲になった? え? ふざけんな脳内お花畑! 何が愛されたいだ!


 ぶっちゃけ、早ければ明日、明後日······私もう消されちゃいそうっていう。

 この騒動で一番扱いが危ういのは私。ほらあの『お前は知りすぎてしまったんだ〜』的な。国の中枢に潜り込みすぎている私を、消さないでいるメリットが敵側にない。


 ······ここからどう転んでも、ハッピーエンドのテンプレに乗れるルートが見えないんですけど。

 愛されたい系令嬢の人生、17歳で、なんか既にヤバいんです。






明日も更新するのできてね!

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