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#4 新しい世界


気が付くと、俺は公園で黒いスーツの男の横に座らされていた。サングラスの男と女は少し離れた所に立っている。

隣に座るスーツの男、年の頃は60から70ぐらい、白髪のオールバックでグレイの瞳、髭を生やしたその男が穏やかに話しかけてきた。


「気分はどうだい?」


「…」


「時間がないんで手短に、と言いたいが…一つだけ質問に答えよう。何か聞きたいことはあるか?」


「俺のことをどうして知っている?どうやって能力のことを?」


「そういう能力さ」


—能力?


「アビリティーズ、聞いたことないか?」


—!


聞いたことがある。一時よく耳にした言葉…のはずなのに、何故かそれが何なのか思い出せない。忘れたというより、情報を引き出せない、記憶にアクセスできない、そんな感覚だった。


「まあ、思い出せないのも無理はない。今は特殊な情報統制が引かれているのでね」


男の言っている意味がよく理解できなかった。


「言い換えようか。先ほど何が見えた?君が逃げ出した時に」


思い出したくもない。血だらけで地面に横たわる俺の姿…あれは、あの時見た俺は、明らかに死んでいた。


「インタラプト、相手の脳に強制的に割り込み、特定のビジョンを見せる能力だよ」 


—インタラプト?能力?


「それがアビリティーズと呼ばれる異能力者の力だ」


少しだけ男の言うことが理解できた。俺のように特殊な能力を持つ者が他にもいるということが。


「君の能力、ショートビジョンもいい能力だ。だが、まだ使いこなしてるとは言えない。やっと入口に立ったという所かな」


そして男は、俺の目を見て言った。


「我々ならもっと伸ばせる」


—伸ばせる?この能力にはまだ先があるというのか…


さらに男は続ける。


「さて、ここからが本題だ。我々と一緒に来ないか?」


「来ないかって、どこへ?」


「我々が作る新しい世界さ。我々はこのアビリティーズの力を使って世界を統べるつもりだ」


世界?何を言ってる?この男の言う「世界」とは、この世界のことだろうか。


「テロとか、そういうことか?」


そういうのに関わるのはごめんだ。


「テロか、君の言うテロとは何だ?」


俺が黙っていると、男が口を開く。


「テロとは、政治的な目的を持った破壊行為、犯罪。といったところかな」


そう言って話を続ける。


「そこで質問だが、先の大戦、あれはなんだ?テロか?犯罪か?」


先の大戦…、3年前とある2国間で始まり、瞬く間に世界を巻き込む大戦へと拡大し、多くの国に甚大な被害を与え、その後、唐突に終息した世界戦争。さらに、それだけ大きな戦争なのに今だに、なぜ始まり、どう決着したのか、確かな情報がなく不可解な点も多い。


「答えられまい。そう誰も答えられない」


失望したような顔で男が続ける。


「皆、『ひとたび戦争になれば勝者も敗者もない』そんな悟ったようなことを言って回想するだけだ」


そういう男の口調にはいつの間にか怒気が混じっていた。


「あの時、各国が自分達の正義を語り、そして、殺しあった…。ただの殺し合いを正義だと…。テロとか、犯罪とか、正義とか、悪とか、何の意味もない、ただのラベルだ。都合よく自由に付け替えができるただのラベルだよ」


そして再び俺の目をまっすぐ見て言った。


「正義は偽りの言葉となり、政治は役に立たず、政府は信用できない。だから我々が変えるのだよ。新しい世界で、新しいシステムを構築するのさ」


狂信者の言葉…と笑って否定することはできなかった。「狂信もまたラベルにすぎない」とか言われてしまいそうだった。

しかし本気なのだろうか?もちろん冗談を言ってるようには見えないが…。でも、もしかしたら、異能力者、彼の言うところの、アビリティーズの力を使えばできるのかもしれない。


—だがそうだとしても、俺には関係ない


バイト生活を抜け出し、人気プロゲーマーとして賞賛を浴び、カジノで十分すぎる稼ぎを得ている。これ以上何を…


「それで君は満足か?」


男のその言葉で俺の思考は遮られた。


—まさか、心までも読まれているのか?


男の言葉がさらに追い打ちをかけてくる。


「君はこのまま、その小さなお庭の王様として、安全で退屈な人生を歩むのか?」


からかうような物言いに頭にカッと血が上る。だがその一方で…


「君がいるべき世界はそんな小さくないはずだ。それに…自分でも気づいているのではないか?」


男の言葉が耳でなく俺の心にささやきかけてきた。


—気づいている?


そう、気づいていたのかも知れない…

この一か月あまりの間で俺の中で起こっていたこと。それはあの能力の芽生えだけではなかった。バトルゲームでランクを駆け上がり、ポーカーで金を稼ぎながらも、感じでいた得体のしれない焦燥感、心のうずき…その正体に。


試したかったのだ、自分を、自分の能力を。極限まで高め試してみたい、自分に何ができるのかを。チートプレイヤーのようにこそこそするのでなく、全身全霊で本当の自分の力を試したい。


先ほどの怒りとは違う別の熱いものが、体の中を駆け巡っていった。男の言った「新しい世界」が強烈な磁力を発して、俺の心を吸い寄せていくのがわかった。そこになら俺の力を本気で試す場がある。そう思うと、湧きあがる興奮を抑えることができなかった。


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