裏の道具の自由研究 3
恰幅のいい店主が元気よく返事をする。眼の前で薄く生地が焼かれた後、大理石の上に置かれた。
その上に保冷庫から取り出したホイップクリームと南国の食べ物『バナナ』砕いたアーモンド、メープルシロップを乗せて包めば完成だ。
「うわーすげーいい匂い」
クレープを受け取るとムツヤがはしゃいでいた。そして広場の空いているベンチに座り、ヨーリィはその隣にピッタリとくっついて座る。
「それじゃいただきまーす」
「いただきます」
ひと口かじった。ホイップクリームが口の中に広がって、その中からバナナの柔らかさと砕いたアーモンドのカリッとした食感が絶妙に相まって最後にはメープルシロップの風味が鼻を抜けていく。
「うっめええええ!!! 何ごれめっちゃ美味いぞ!」
ムツヤはそう言いながら2口3口と食べていった。ヨーリィは主人を横目で見ながら両手でクレープを持ってもしゃもしゃと小さな口で食べている。
味の感想もリアクションも無いヨーリィを見て少しムツヤは不安を覚えた。
「あ、あのーヨーリィ? 美味しい?」
心配そうな顔をしてムツヤは思わずそんな事を聞いてしまった。するとヨーリィはゆっくりと頷いて話し始める。
「うん、甘い物ってあまり食べたこと無かったけど、美味しい」
「そっか、良がっだ!」
ムツヤは笑顔になってまたクレープを食べ始め、ヨーリィよりも早く食べ終えてしまった。
「あっ、モモさん達にもお土産に買っていこう!! ちょっと行ってくるねヨーリィ」
「わかった、お兄ちゃん」
クレープ屋に走るムツヤを見てヨーリィは思う。ムツヤは何でいつもあんなに楽しそうなのだろうと。
楽しそうなムツヤと同じ行動をして同じ景色を見て、同じ物を食べた自分はもしかして楽しいという状態なのだろうか。
答えはわからない。大昔にはそんな感情もあった気がしたが、楽しさや悲しさを思い出そうとしても頭がぼんやりとしてしまっている。
「ただいまー、それじゃ髪の油と石鹸を買いに行こうか!」
ただ、ムツヤとは一緒に居たいと思う気持ちはあった。それは前の主人であるマヨイギを人質に取られているからだろうか、それもわからない。
「うん」
一言だけそう言ってヨーリィはムツヤの手をギュッと握った。




