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アリハハと40人の女盗賊  作者: 岩ノ森
8/8

アリハハと辛い現実

 「今日のご飯はトマトとナスのリゾットなんてどうでしょう」

 「いいと思う」

 アリハハは日課の夕食づくりのための食材を買いに来ている。一応アリハハは人質だから顔を隠して、ラミアーの団員が交代で見張りのために付き添っている。まあどちらかと言うと普通にアリハハと買い物がしたいっていう人の方が多いかもだけど。

 「じゃあメインはそれで、副菜は瓜を酢漬けにしたものに白身魚を添えようかな、ってヒュロラさん酢の物嫌いでしたっけ」

 「ううん、アリハハのなら大丈夫」

 「良かった、じゃあ出しちゃいますね」

 「うん」

 私は酸っぱい食べ物はあんまり好きじゃない。でも、アリハハが作ってくれたものなら酸っぱくてもなぜか食べれる。なんだろう。うまく言えないけど作る料理全部があったかくて優しい味がする。だから嫌いなものでも食べれちゃう。

 「お、今日も兄妹でおつかいかい?偉いねえ」

 「はい。いつもお世話になっています」

 「ははは、礼儀正しい坊やだ。よし、今日も魚おまけしてやろう!」

 「ありがとうございます!」

 「ありがとう」

 魚屋のおじさんにアリハハが頭を下げたから私も続けて頭を下げる。この市場にはよく来ているので私たち二人を見知った人も結構いる。みんな気のいい人たち。でも兄妹と間違えるのはやめてほしい。あとアリハハも肯定しないでほしい。

 「そういえば坊やたち。あのニュース読んだか?」

 「あのニュース、ですか?」

 アリハハは首を傾げた。

 「何だまだ知らねえのか。結構デカいニュースだからな。向こうの新聞屋で大きな見出しになってるよ」

 「そうなんですか。じゃあついでに見てきますね」

 「おうよ。世の中物騒だから気ぃ付けてな」

 アリハハは頭を下げて魚屋を後にした。私も後に続く。

 「大きなニュースってなんでしょうね」

 「さあ、盗賊団が王族を襲ったとか?」

 「そうだったら怖いですね」

 「私も怖い?」

 「なんでですか?」

 「いやなんでもない」

 とりとめのない話をするような口調でアリハハは喋る。ツッコミどころがあったのに気にしないみたいだ。

 「あ、着きました。すいませーん、新聞一部くださーい」

 「はいよ、毎度―」

 アリハハはお金を払い新聞屋のおじさんから新聞を受け取る。

 そしてその記事を見たとたん目の色が変わった。

 「アリハハ・・・?」

 「・・・・・・・・」

 「どうしたの・・・・・?」

 何度呼び掛けても応答がない。ずっと見出しの記事を見続けている。

 気になって私も横から記事を覗き込んだ。

 そこにはとんでもないことが描かれていた。

 

 

 

 「おう、お帰り」

 買い物からアリハハとヒュロラが帰ってきた。晩飯の買い出しだったが、今日の晩飯が何か楽しみだ。

 「ん?」

 その二人を一目見て何か様子が変だと感じた。何というか出かける前より気持ちが沈んでいるように見える。

 「お前らどうかしたか?」

 「・・・えっ、あっ、いや、何でもないんですよ、あはは」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「いや明らかに何かありそうだが・・・」

 「ホントに何でもないんです。急いで夕飯の準備しますね」

 そう言ってアリハハはいそいそと厨房の方にかけて行った。

 「買い出しの最中何かあったのか?」

 あたしはヒュロラに尋ねてみる。だが相変わらず顔をうつ向かせたまま、一言も喋ろうとしない。

 「・・・・・・・・」

 「黙ってちゃあ分かんねえよ」

 「・・・テュフォンヌ」

 「うん?」

 「ちょっと・・・一人にさせて」

 そう言ってヒュロラは寝どころの方へ行ってしまった。あいつがこの時間にだらだら寝るなんてまず無い事なんだが。

 「何があったのやら」

 副頭領という立場上、少し心配になる。さっさと立ち直ってくれるといいんだが。



 「皆さん、ご飯できましたよ」

 いつも通りアリハハが夕食を作り収集をかけた。いい香りが部屋中に漂っている。

 「ん?ヒュロラは?」

 頭領が怪訝な顔をしてあたしに尋ねる。見渡してみると食堂のどこにもヒュロラの姿が見えない。前はともかく、アリハハが来てからあいつが飯に遅れることなんて一度も無かったんだが。

 「ごめんなさい。寝室に呼びに行ったんですけど今日はいらないって、出てきてくれないんです」

 どうやら夕方のあれがまだ続いているようだ。仕事にも支障がでなきゃいいんだが。

 「どうしましょうか。もう一度呼んできましょうか」

 「いやいい。集まりたくないなら集まらないのもラミアーでは自由だ」

 「そうですか・・・。じゃあ後で軽食でも持って行ってあげますね」

 「そうしてやってくれ」

 ラミアーでは最低限の規律はあるが、大体は団員の自由が優先される。それでも組織として破綻しないのは頭領の統率力とカリスマあってのことだろう。流石、敬服します。

 「早くしないとせっかくの飯も冷めるしな」

 「分かりました。じゃあいただきます」

 「「「「「いただきます」」」」」

 あたしたちはいつも通り全員で手を合わせて食事を始める。アリハハが来てから始まった習慣だ。前は思い思いに食べてたのにな。

 あたしは早速リゾットを口に運び、口に入れる。

 

 そして時間が一瞬静止した。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 「?」

 「ゲホッゲホッ!!!」

 「何だよこれっ!!」

 「しょっっっぱ!!!しょっっっぱ!!!!??」

 一瞬静止したのは他の奴らも同じだったらしい。全員が口に入れたリゾットを吐き出し、水をのどに流し込んでいる。

 「あの、皆さん?どうかなさいましたか?」

 「どうもこうも・・・」

 「この粥、しょっぱすぎですよ!」

 「なんだアリハハ!?とうとう人質にされた恨みをこめて遠回しに我々を殺しに来たのか!?」

 団員全員がアリハハを問い詰める。頭領も口を押えて気持ち悪そうにしている。

 「・・・・・?」

 アリハハが自分のリゾットを口に運び、口を動かした。

 「味付け変でした?」

 「「「「「気づけよ!!!!!」」」」」

 あたしたちは一丸となって突っ込んだ。

 「珍しいっすね。アリハハさんが味付け間違えるなんて」

 「何か心に乱れがあると見える」

 「どうしたの?お姉さんに話してみて?」

 団員の一部がアリハハを心配して話しかける。こいつも買い出しから帰ってから調子が悪そうだったが、未だひきずってるのか。

 「ああ、いや。何でもないんですよ・・・」

 いや、その顔と声の調子は明らかに何かある様子だが・・・。

 「ごめんなさい。お口に合わないのなら片づけますね。代わりに備え付きのパンと干し肉出しますから」

 バツの悪そうに食器を片付けていく。その様子からはいつものハキハキ加減がなかった。

 何か悩みがあるんだろうか。ずっと腐ってないでとっとと吐き出しゃあいいのに。

 ・・・まあ、相談したくても盗賊団のあたしらじゃあ意味がないだろう。カタギじゃないし、こいつを誘拐した主犯だし。

 でも何だろう。そう分かってはいるのに、喉の奥ら辺がつっかえるような感じになる・・・。

 「なあテュフォンヌ。アリハハのやつ何かあったのか?」

 頭領が見かねてあたしに聞いてくる。

 「さあ・・・。買い出しから帰ってからずっとああで」

 「本人が話したがらないんじゃあ原因がわからんな」

 「一緒についていったヒュロラなら分かるでしょうけど、ヒュロラも似たような感じなので」

 「アリハハはともかく、ヒュロラまでずっと腐ってちゃあ仕事に支障が出る。ちょっと無理矢理にでも聞き出すぞ」

 「了解です」

 干し肉とパンを詰め込んだら、ヒュロラにちょっと詰め寄ってみるか。口直しの羊の乳を飲みながらそう考えた。

 

 

 

 「ヒュロラー。ちょっといいか?」

寝どころのドアをたたき、ヒュロラをたたき起こす。ヒュロラはまだハンモックに突っ伏して寝ていた。というか何かから目を背けるように顔を押さえているようだった。

 「テュフォンヌ、頭領・・・・・何?」

 「お前ら帰ってきてから様子が変だぞ。何があった?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「いつまでも一人で腐ってないで早いところ話せ。こっちは実害が出てるんだ」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「一人で腐ってても解決の糸口は見えんと思うが」

 「・・・・・ここじゃなくて頭領の部屋で」

 

 

 そう言ってあたしら三人は頭領の部屋に移動した。三人で作戦の概要なんかをよくここで纏めている。

 「これ、見て」

 そう言ってヒュロラが広げてきたのは新聞だった。

 「この見だし」

 そう言われてあたしと頭領は一番デカい見出しを見る。

 「アラヴィナイト家、新当主に成り代わる・・・?」

 アラヴィナイト家はアリハハが当主として回していた家だ。

 「アリハハがいつまでたっても戻ってこないから、新しい当主を立てたみたい」

 記事には前当主つまりアリハハの叔父が新当主になったと書いてある。

 「ねえ、頭領、テュフォンヌ」

 ヒュロラがじっとこっちを見据えてくる。その瞳は涙で潤んでいた。

 「私たちが、私たちが、アリハハを誘拐したせいで、アリハハの居場所を奪っちゃった」

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 「もう私、アリハハに合わせる顔がない」

 ヒュロラがずっとふさぎ込んでいた訳が分かった。

 団員の中でも特にアリハハを気に入っていたからな。

 そしてアリハハもこれならふさぎ込む訳だ。自分の実家に居場所がなくなったんだからな。

 原因はもちろんあたしらにある。流石のあいつでもあたしらを恨んでいるだろう。

 「確かに問題だな」

 頭領は重々しく口を開いた。

 「これであいつをもう人質として使えなくなった」

 「・・・・・・・・・・・・・・え」

 ヒュロラが信じられない物を見るように頭領を見てくる。

 「頭領、何言って」

 「何言ってるも何も、あいつは元々アラヴィナイト家の資金目的で誘拐したんだ。新当主になったのならもう使い物にならないだろう」

 それを聞いたヒュロラは目にも止まらぬ速度で壁にかけてあるレイピアを握り、頭領の首元に向けてきた。

 「ヒュロラ!やめろ!!団員同士のぶつかり合いはご法度だぞ!!」

 「テュフォンヌ、黙って」

 ヒュロラは冷たく突き放したように言う。瞳にも暗い炎が宿っていた。

 「何をしている。ヒュロラ」

 「頭領に剣を向けてる」

 「何でだ」

 「言ってることが鬼畜生だから」

 この状況はまずい。よりによってヒュロラが頭領に反旗を翻すとは。最悪、ラミアーが空中分解しかねない。

 「なあヒュロラ。私たちは何だ?」

 「・・・・・・・・・・・・・・」

 「私たちは盗賊団だ。正義の集団でも、仲良しグループでもない」

 首元に剣を向けられても、頭領はいつもと変わらぬ声で淡々と話す。

 「欲しいものは、自分の力で奪い取る。それ盗賊ってもんだ」

 ヒュロラも頭領の目をじっと見据えている。

 「アリハハが欲しかったら、自分たちの力で無理やりぶんどるんだ」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「もう人質としては使えないが。飯炊きとしてはめちゃくちゃ役に立つ。こちらとしても失うのは惜しいからな」

 「・・・・・・・・頭領」

 ヒュロラが剣を下げた。

 そう。これがラミアーを一人でまとめ上げる、頭領エキドナのカリスマだ。

 でも、冷たい口調で言ってるようでも、頭領もアリハハに居なくなってほしくはないと見える。

 それに居場所を失ったアリハハを置ける場所なんてここくらいだろう。

 人をまとめ上げる立場上、素直になれないんだな。

 

  

 

 「アリハハ、ちょっといいか」

 「はい?」

 アリハハは机の上の汚れを拭いていた。居場所を奪ったあたしらのアジトを掃除している。ホント、馬鹿なくらい優しい奴だ。

 「どうしたんですか?お三人方揃って。あ、やっぱり夕食足りませんでしたよね。待っててください。簡単なスープなら作れますから」

 「ううん、違う」

 キッチンに去って行こうとするアリハハをヒュロラが呼び止める。

 「どうしたんです?」

 「アリハハ」

 そう言って頭領はアリハハに、光る短剣を差し出した。

 「?」

 「これで私らのことを好きなだけ刺せ」

 「・・・・・・えっ?」

 アリハハが動揺している。流石にいきなりこんなこと言われたら、仇相手でも動揺はするか。

 「なっ、なんで・・・・・?」

 「貸し借りなしにするためだ」

 頭領が蛇のように鋭い目でアリハハを見据える。

 「私らとしても、お前を失うのは惜しい」

 「・・・・・エキドナさん」

 「これくらいじゃ気が済まないことくらい、私にも分かってる。でも盗賊団としてのけじめだから」

 「ヒュロナさん・・・・・」

 そうだ。これはけじめだ。

 そしてこっちの勝手なエゴでもある。

 普通ならそんなのご法度だろう。でもここでは構わない。私たちは盗賊だからだ。

 「まあ、二人とも面と向かっては言えねえけどよ」

 まだ動揺しているようなのでさりげなくフォローを入れる。

 「アリハハ。どんなことをしても、お前にここにいてほしいんだよ」

 「テュフォンヌさん・・・・・」

 ちょっとくさくなっちまったか。まあいいや。柄じゃねえけど。

 「・・・皆さん、ありがとうございます。僕が元気がないからって気を使ってもらって」

 仇相手のあたしらに感謝をしている。それでこそアリハハだな。でも何故か、胸が鉄の鎖で締め付けられるようになる。

 「でも大丈夫!おかげで立ち直りました!」

 そう言っていつも通りの屈託のない笑顔をあたしらに向けた。

 こいつはあたしらを許すつもりらしい。

 誰よりもつらい思いをしてるのはこいつなのに。

 「そうは行かない。ちゃんとけじめとして、あたしらを刺せ」

 「ええなんで!?そんなことできませんよ!!」

 「ダメ。アリハハ。優しいのは分かるけどそんなに軽く済ませちゃダメ」

 「ヒュロラさんまで!!」

 「そうだ。憎らしい相手にはちゃんと報復しとけ」

 「何の話ですか!?」

 アリハハは優しい。でもこれはそんなことで済むような問題じゃない。後腐れがないよう、けじめはしっかりつけとかないとな。

 「そこまでしてもらわなくてももう大丈夫ですよ!もう引きずるのはやめました!」

 「んなことねーだろ。あんなに辛い出来事を知っておいて」

 「それはそうですけど・・・いつまでも引きずってはいられませんから」

 「アリハハ・・・」

 「千夜戦士アランジーナの主演が引退したことくらい」

 「ん?」「え?」「は?」

 今、こいつ何て言った?

 「アリハハ・・・何の話・・・?」

 「何って、今日の新聞に出てたじゃないですか。人気舞台演劇のアランジーナの主演の人が一身上の都合で引退するって」

 あたしらは急いでさっきの新聞を見る。そうしてよく見ると、アラヴィナイト家の大きな見出しの下の方に、小さくそんなことが描いてあった。

 「アランジーナを演じられるのはあの人しかいないと思ってたんでショックでしたけど、役者の人にも人生がありますし、それに新しいアランジーナも楽しみなってきました」

 あたしと頭領とテュフォンヌは、アリハハと新聞を交互に見る。

 「あの・・・アリハハ・・・。アラヴィナイト家の新当主が決まったって記事の方は・・・」

 「え?ああ、そんなことも書いてありましたね。叔父さんが上手くやるならそれでもいいと思いますけど」

 「そんな軽く済ませていいのか・・・?」

 「確かに・・・。叔父さん大丈夫かな・・・。一週間体がもてばいいんだけど」

 ちょっと待ってほしい。情報が全く入ってこねえ。

 「ど、ど、ど、どういうこと?」

 「えーっと、アラヴィナイト家のお仕事って結構ハードなんで、生半可な人がお仕事すると体しっちゃかめっちゃかに壊れちゃうんですよ。だからそこだけ心配で」

 「「「・・・・・・・・・・・」」」

 あたしたちはいっせいに体の力が抜け、その場にへたり込んだ。

 「み、皆さん大丈夫ですか!?どうしたんです!?」

 「疲れた・・・・・・・」

 「早よ言えよ・・・・・」

 「良かったぁ・・・。良かったぁ・・・」

 ヒュロラに至っては涙を流していた。

 まあ、これで取り合えず問題解決と言ったところか。

 なんか無駄に体力使ったような気もするけど、気にしないでおこう・・・。

 

 

 

 「アラヴィナイト家の新当主、極度の疲労から体中の穴と言う穴から血を垂れ流したため引退だって」

 「貴族社会怖い・・・・・」

 


・千夜戦士アランジーナ

ランプの魔人ジンと契約したアラジンが変身して千夜戦士アランジーナとなり、闇の魔人たちと戦うという内容の演劇。主な対象は子供だが、大人にも根強いファンがいる。

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