アリハハとヤマカ
「おっす!ご苦労様でっす!アリハハさん!!」
「おはようございます。ヤマカさん。今日も早いですね」
皆さんどうもです!盗賊団ラミアーの団員ヤマカです!朝の稽古を終えたらアリハハさんが朝餉の準備をしていました!!
「おっす!今日も日の出とともに走り込んできました!!」
「いつもすごいですね。ヤマカさんは」
「おっす!お褒めにあずかり光栄でっす!!」
アリハハさんはいつも物腰柔らかく丁寧です!故にラミアーの団員の皆さんも慕っている人が多いです!!
「そうだ。頑張ってるご褒美にお菓子なんてどうですか?確か戸棚にクッキーの残りが」
「いいえ!!褒美を受け取るために修行しているわけではありませんので!!」
「そうですか。欲しくなったら言ってくださいね」
「おっす!!」
アリハハさんは盗賊団であるはずのあたしたちにも優しいです!ラミアーに連れてこられる前は結構高い地位に居たそうですが、だから礼儀や所作から品が漂っているのでしょう!!
・・・そうだ!
「アリハハさん!恐縮ですが褒美なら他の物をいただきたいです!!」
「何ですか?僕にあげられるものなら何でもどうぞ」
「アリハハさん!!師匠としてあたしに稽古をつけてください!!」
先日、あたしはアリハハさんに弟子入りしました!!でも未だ稽古をつけて下さらないのでこの機会に要求させていただきました。
「・・・・・その話まだ続いてたんですね」
アリハハさんすごく困り顔で笑ってました!!!
「でもホントに僕、全然強くないんですよ」
「そんなことはないです!!強くなきゃあのエキドナさんたちがあんなに心を許すわけないです!!」
「参ったなぁ・・・」
アリハハ師匠は相も変わらず困り顔でポリポリ頭を掻いてました!!能ある鷹は爪を隠す!ホントに強い者は日頃はその強さを見せないといいますがホントだったようです!!
「ちょっとかじってる拳法を教えたところで神様にこの世の真理を説くようなものだし・・・・・」
アリハハ師匠はどうやら拳法も嗜んでいらっしゃるようです!あたしの拳法とどちらがうえか、早く勝負したいです!!
「う~ん、そうだな~・・・」
アリハハ師匠がすごく真剣に悩んでいらっしゃいます!!あたしのためにここまで考えてくださるなんて流石師匠です!!
「あー、じゃあ・・・」
どうやら案が出たようです!!どんな修業が来るか楽しみでっす!!!
「朝ごはんの準備、手伝ってもらえます?」
「ごめんなさい、体よく使っちゃったみたいで」
「いいえ!師匠のお手伝いをするのも弟子の大事な仕事です!!」
どんな過酷な修行が来るかと思いきや頼まれたのは朝餉の準備でした!なるほど!まずは日常生活を共にしろということですか!!
「僕が提案できる修行っぽい事なんてこれくらいしかなくて」
「いいえ!暮らしの中に修行あり、とかつての拳法家もおっしゃっていました!!」
どの拳法家が言ったかは忘れましたがとにかくそんな人がいたことは知ってます!
「ふふ、ありがとうございます。じゃあまずお米を研いでもらえますか?」
「おっす。了解です!」
そう言ってあたしは水を張ったお米が入ってる桶の目の前に立ちました!!これを研げばいいんですね!!
「40人分あるんで、意外と力仕事できると思いますよ」
研ぐ・・・!研ぐ・・・・・!!お米を研ぐ・・・・・・・!!!
研ぐってどうやるんでしょう!!!
「じゃあ僕はその間に仕込んでたスープを完成させてきますね」
「おっす!お任せください!!」
研ぐ!剣や刃物は研ぐものと知っていましたがお米も研ぐものだったとは初耳でっす!!
とりあえず台所から砥石は見つけました!!これで研いでいきましょう!!!
「うおおおおおおおっっっ!!!修行修行修行修行修行修行!!!!!」
お米と砥石がすり合わさりジョリジョリいってます!!!意外と量もあってこれは鍛えられそうです!!!!!
「面目ないです・・・」
うう・・・まさか砥石は使わないとは・・・・・。
「ごめんなさい。僕もちゃんと確認すればよかったですね」
アリハハ師匠は怒るそぶりすら見せず優しく微笑みかけてくれます・・・。師匠に気を使わせてしまい申し訳ないです・・・。
「あっ、じゃあ刃物は使えますか?」
「はい・・・。基本的なことならなんとか・・・・・」
「じゃあ野菜を切ってもらえますか?サラダにしようと思うので」
「・・・!はい!お任せくださいっす!!」
斬るんならあたしにもできます!基本は拳のみで戦いますが場合によってはシャムシールなんかも使うので刃物の扱いは一通り慣れてます!!
この野菜たちが今回の獲物ですね!!ズンバラリンと斬り裂けばお仕事完了です!!!
「うりゃああああっ!!!!!」
思い切り刃物を野菜たちに叩きつけました!!バラバラになった野菜たちが宙を舞います!!!もう奴らのお袋さんでも見分けは付かないでしょう!!!ワハハハハハ!!!!!
「面目次第もございません・・・・・」
「大丈夫ですよ。初めてならしょうがないです」
人を斬るときと同じ要領で斬っていましたがそれではいけなかったようです・・・。またアリハハ師匠に迷惑をかけてしまいました・・・・・。
まさかあたしがこんなにも無能だったとは・・・・・。
「本当に面目ないです・・・・・」
「泣かないでください。やり方を教えなかった僕にも責任はあります」
アリハハ師匠は相も変わらず怒りもせずフォローを入れてきて下さります・・・。それが逆にキツイです・・・・・。
こんなあたしなんか・・・。
「ヤマカさん?」
こんなあたしなんか・・・・・!
「あたしは生ゴミにならなきゃいけないですーーーーーっっっ!!!」
ボカボカボカボカボカボカボカボカボカボカボカボカッッッッッ
「いきなり何やってるんですかヤマカさん!!?」
「最底辺な自分なんてこの世にいりませーん!!!」
自分を戒めるため自分を自らの拳で殴ります!!!今の私には当然の報いです!!!!!
「ヤマカさんやめてください。そんなことして何の得にもなりませんよ」
「損得の問題ではないです!!心の戒めの問題です!!!」
アリハハ師匠の静止も気に留めず殴り続けます!!!今の私には必要なことです!!!
バシャァッ
何かをかけられ体がひんやりしてきました。どうやら冷たい水をかけられたようです。
「やめてくださーい!!」
アリハハ師匠が声を張り上げていました。こんな必死なアリハハさん見たことなかったです。
「どうですか。落ち着きました?」
「はい・・・すいませんでした・・・・・」
「落ち着いたのならいいんですよ」
アリハハさんは少しもあたしを責めもせず、それどころか作り終わったスープを差し出してくれました。温かくてホッとします。
「・・・アリハハ師匠はやっぱりすごいです」
「えっ、そうですか?」
「あれだけ難しい作業を一人で、それも40人分こなすんですから・・・。エキドナさんたちが一目置くのも納得です」
このスープも40人分作るとなったら大変な労力です。それもアリハハ師匠は毎日こなしています。並の人間ができることではありません・・・。
「それに比べてあたしは・・・。何のために今まで修行してきたのでしょう・・・・・」
どんなに修行を重ねても、役に立たなければ意味がありません・・・。この拳は一体何のために・・・。
「・・・・・ふぅ~」
師匠も呆れ果ててます。無理もありません・・・。
「ヤマカさん」
アリハハ師匠はあたしの顔をまっすぐ見てきました。
「作りたい料理があるので手伝ってもらえます?」
「今日作るのは大きなオムレツです。ひとつで8人分の量を賄うので結構大きいですよ」
師匠はいきなり何を言い出すのでしょう。野菜を斬るのすら無理だったあたしにオムレツなんて作れるわけないです・・・。
「あたしには無理じゃ・・・」
「大丈夫。僕も手伝いますから」
「でも・・・」
「ほら、師匠からの修行ですよ。いつも通り取り組んでください」
そう言われたら断れないです。不安に思いながらもあたしはやることにしました。
「まずはタマゴを割ってかき混ぜてください」
「・・・・・・・・」
パカッ
「あっ、卵の殻の破片が・・・・・」
「大丈夫ですよ。誰でもよくあることです」
うぅ、卵一つ割れないとは・・・・・。
「前に食べに行ったレストランでもオムレツに卵の殻が入っていたことがありましたよ」
「えぇ!?でも料理人さんが作ったものですよね!?」
「そうですよ。でも料理人が卵の殻を割り入れないなんて神様でも定めてませんから」
こっそり伝えたらそこの料理無料になったのでラッキーでしたけど、とアリハハさんは笑いながら言います。
「時間はたっぷりありますから。修行はゆっくりやりましょう」
「・・・・・はい!」
「次は温めた鉄鍋に溶いた卵を流し込んでください。全部流し込まずに少し残しておくといいですよ」
「はい」
ジョワァ~
卵の液が熱い鉄鍋に流れ込んで音を立ててます。
「あっ、ちょっとこぼれた!」
「大丈夫」
うぅ・・・卵を流し込むことすらまともにできないあたしなんて・・・。
「ヤマカさんって相手と戦う時、全部の拳を相手に当てなきゃと思ってるんですか?」
「えっ、いいえ。外したら即座に次を打つ体制に入ります」
「それと同じ感覚でいいんですよ」
アリハハ師匠はあたしの肩にやさしく手をポンと置きました。
「多少失敗しても次でカバーすればいいんです。そうした方がお料理ってうまくいくんですよ」
なんだかあたしがいつもやってる修行みたいです。
「さあ次はオムレツの形を整えましょう」
「・・・はい!」
「どれもこれもグズグズの形になってしまいました・・・・・・・」
合計5個作りましたが、どれも綺麗なオムレツとはいい難いです・・・・・。やはりあたしの実力はこんなものです・・・・・。
「でも最初のと比べて5個目は綺麗になってますよ」
そう言われてオムレツを見ると、確かに5個目のオムレツの方がきもち形は整っています。でも不細工なのには変わりないです・・・。
「ふふふ」
師匠も笑ってます・・・・・。そりゃこんなオムレツ見たら誰だって笑います・・・・・。
「いや、ごめんなさい。僕が最初にオムレツ作った時とそっくりだなって」
「えっ・・・?」
「僕、5年前に父が亡くなっていきなり家のことを一人でやらなきゃいけなくなったんです」
アリハハ師匠が昔のことを語り出します。そう言えばアリハハ師匠の家はそうと聞いていました。
「それまでずっと使用人さんに任せっきりだったんでまさに右も左も分からなかったんですよ。自分ってこんなに何もできないんだって落ち込みました」
懐かしいなぁ~というように師匠は微笑みながら話を続けます。
「初めてオムレツ作った時なんてうまく包めなくて。そっくりって言いましたけどたぶんヤマカさんのより酷かったと思います」
アリハハ師匠はこちらに向き直ります。相も変わらず温かいまなざしです。
「でも何度も繰り返してやっと形になってきました。ヤマカさんの格闘術と同じですよ」
あたしも師匠が何が言いたいか分かってきました。
「どんなものでも失敗して上手になるんですよ。だから5個目のオムレツは綺麗です」
そうでした。
あたしは強くなるのに夢中で初心を忘れていました!!
「師匠!ありがとうございます!!」
「ふふっ。元気になって良かったです」
「やはりアリハハ師匠は凄いです!!エキドナさんやヒュロナさんが一目置くのも納得です!!!」
「そんな大したことはしてないですよ」
アリハハ師匠は謙遜するようにニヘラと笑ってまっす!!!でも謙遜することなんてないでっす!!!
「まずはあたしの未熟な心を鍛えさせるためにあたしに料理をさせたんですね!!!」
「う~ん。もうそういうことでいいかな」
師匠はすごい困り顔で笑ってました!!!さすが師匠!!!弟子に感情を悟らせないとは!!!!!
興奮冷めやらぬあたしでしたがここでひとつの問題が発生しました!!!!
ぐぅ~
「お腹減ったんですね」
「面目ないでっす!!!」
「朝食前ですけど戸棚のクッキー、ちょっと食べちゃいましょうか」
「おっす!!!ありがたくいただきまっす!!!!!」
その時食べたクッキーの味は忘れないです!!!!!
「なあアリハハ。今日のオムレツ、ちょっと形が崩れてないか?」
「!!!」
エキドナさんに指摘され、あたしに緊張が走りました!!!
「ああそれ、ヤマカさんと一緒に作ったんです」
「ふ~ん、ヤマカがね」
エキドナさんがこちらを見てきます!!!さらに緊張が走ります!!!!!
「ちょっと崩れてるけど味は結構いいですよ」
「まあ確かに食えないことはない」
「!!!!!」
エキドナさんに直々にご評価いただきました!!!心の鎖が解けたようでした!!!!!
「おっす!!!次はもっと美味しく作りまっす!!!」
「ん。期待してるよ」
エキドナさんにこんなにお声をかけていただけるとは!!!修行のモチベーションがどんどん上がってきましたよ!!!!!
「師匠!!次も手伝わせていただきます!!!!!」
「はい。よろしくお願いしますね」
明日も修行です!!!日々精進あるのみです!!!!!
「アリハハ。師匠って何のことだ?」
「ええ。ちょっと色々と」
「アリハハ。私も手伝う」
「ありがとうございます。ヒュロナさん」
名前:ヤマカ
性別:女
年齢:21
名前の由来:ヤマカガシ
戦闘スタイル:我流の拳法を使った格闘術
好きなもの:ささみ、最近はクッキー
エキドナからのコメント:力は標準だがそれを格闘術で補っている。小柄な体を生かして瞬時に相手の急所をつける戦闘スタイルはかなり評価できる。ただ真面目過ぎるあまりか色々と超特急すぎるからあとはメンタルの問題だな。
アリハハからのコメント:何事にもまっすぐな頑張り屋さんで見てるこっちも頑張る気がどんどん湧いてくるような人です。一つの物事に集中して取り組めるので伸びしろがたくさんあると思います。なのでもう少し自分に自信を持っていいと思うんですけど。