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平くんと偏ちゃん

作者: 大橋宗桂

放課後の図書室に学校一頭のいい編さんがいると聞きつけ、六限目の終わりを告げるチャイムを聞くや否や急いでやってきた。

部屋の一番奥の席で勉強をしている黒い長髪の女性がいた。

「あのーお忙しいところ申し訳ありません。」

「なんでしょう。」

素早い反応でこちらに顔を向けてきた。

「僕学校一頭の悪い平と申すものなのですが、ぜひ主席の偏殿に勉強を教えていただきたくここに参った次第でありま」

「ごめんなさい、今忙しいの。またの機会にお願いするわ。」

そう言うと机に向き直りペンを動かし始めた。

言い終わる前に断られるなんて、、、。

せっかく恥を忍んでお願いしに来たのに、ここで引き下がるわけにはいかない。

「もしかして教えられない問題があるから断っているんですか?」

こんな軽い挑発乗るわけがないと思ったが、僕の頭では他に言葉が思いつかなかった。

しかし意外なことに、

「何言ってるの?私に解けない問題なんてないし、教えられない問題もないわ。」

とムキになって返答してきた。どこぞの金持ちの子だからか煽り耐性がついていないのだろうか。

「本当にそうですか?どんな問題でも解けるなんてこ」

「少なくとも『ドベ』のあなたが出す問題には何でも答えられるわよ。」

その言葉が癪に障った僕はあることを思いついた。

「なるほど、ではこうしましょう。僕が問題を出します。それに答えることができれば僕はこの場から潔く立ち去りましょう。もし答えることができなければ僕に勉強を教えてくださる、というのはどうでしょう。」

偏さんは警戒を含んだ顔で僕をみた。

「そんなに怖そうな顔しなくても、『僕の体重は今いくつでしょう?』とか知らないとわからないような問題は出しませんよ。」

「それなら受けて立ったあげるわ。」

なんで物言いがずっと上からなんだ、と思いながら、

「では出題いたします。その前に予備知識として、【数列】なるものをご存じですか?」

「もちろん知っているわよ。ある法則に従って並んでいる数のことでしょう。簡単な例として、

                   1、2、3、4、

のように一つ前の数に+1した数を並べたものなどが挙げられるわ。」

「例まで出してご高説いただけるとは有り難い限りですね。では僕がこれから『ある一つの決められた法則』を守っている数列を唱えますので、その次に来る数字をお答えしていただきましょう。」

「わかったわ」

「ではいきますよ。

                   2、4、6、8、

さて次に来る数はなんでしょう。」

「10ね。簡単すぎるわ。一つ前の数に+2した数を並べているんでしょう。」

「正解です!では続いて」

「一問だけじゃなかったのね。まあこんな簡単な問題ならいくらでも解いてあげるわ。」

「・・・続いては、

                   1、2、4、8、16、

さて」

「32ね。」

「あの偏さん、人の話は最後まで聞き」

「前の数の2倍を並べているのね。この程度ならだれでも解けるわ。馬鹿にしているの?」

「・・・はぁ。正解です。では次行きますよ。

                   1、4、9、16、にじゅう

「36ね。」

「・・・」

「平方数を羅列したのね。1×1、2×2、3×3、4×4、5×5、次に来るのは6×6の36よ。」

「・・・正解です。つぎいきまーーす。」

「骨のある問題を期待しているわ。」

「                  3、4、6、8、12、14、

ここで偏さんが固まった。

「そろそろフィボナッチ数列あたりが来ると思っていたけれど、そうではないようね。」

「ふぃぼなっち?」

「                  1、1、2、3、5、8、

次に来る数字はわかるわよね?。」

「?????」

「わかるわよね?」

「も、も、もちろん。そ、それより僕が出した問題を先に解いてほしいですねー。」

偏さんは右手を顎につけ考え始めた。

「今までの問題のように特定の数を足したり掛けたりしたものではなさそうね。フィボナッチ数列と同じで何か特殊な法則でもあるのかしら。」

ぶつぶつ言いながら考えこんでいる。

このままギブアップしてくれても助かるが。

「分かったわ。答えは18よ。」

「正解です。」

「素数に+1したものを並べていたのね。素数とは1とその数以外に約数を持たないもの。小さい順に      

                   2、3、5、7、11、13、17

素数の並びには規則性がないから気づくまでに時間がかかったわ。」

少し嬉しそうな表情をしていた。

「では次が最後の問題です。」

「いいかげん飽きてきたところだったからちょうどいいわ」

「                  2、2、3、6、

さて次に来る数は何でしょうか?」

図書室には僕と偏さんしかおらず、二人が黙ると図書室は静けさに包まれた。

やや間があり、残念そうな声で

「0、ね。」

という声が聞こえた。

「5の平方根を一の位から並べたものね。さっきの問題と似た系統。最後にしては簡単な問題だったわね」

「0でよろしいんですね?」

「ええ、そうよ」

僕はにっこり笑った。

「不正解です!」

彼女は面食らった顔で

「何を言っているの?答えは0でしょう?」

「違います」

「ルート5の語呂合わせ『富士山麓オウム鳴く』のとおり、2.2360679...の通りに並べたのではないの?」

「ふふふふふ、やっぱり引っ掛かりましたね。」

「何がよ?」

「偏さん、僕が最初に言ったことを覚えていますか」

僕は両手を腰に当て偉そうに構えた。

「ええ覚えてるわ。『僕学校一卑屈でのろまで頭の悪い平と申すのですが、』」

「そこまで自分のこと卑下してない!てかそこじゃない。」

「じゃあ、『わたくしのようにゴミのような人間が高貴な偏様のようなお方の時間を』」

「そこでもない。てかあなたの脳内で僕は一体どういう差別をうけているんだ!まったくもう。」

「あらごめんなさいね。でもそれはあなたにも問題があるのでしょう。」

この女は人をいじるときほどにこやかな表情をみせる。

「ほら、僕がこれからある数列を唱えるとか言ってた時があったでしょう。」

「『例まで出してご高説いただけるとは流石ですね。では僕がこれから[ある一つの決められた法則]を守っている数列を唱えますので、』」

「そうですそこ。てか記憶力いいですね。」

「あなたに褒められてもうれしくないわね」

「・・・偏さん、僕は四問目まであなたの答えに対してだけ『正解』と行ってきました。」

「ええそうね」

「ですが、あなたの解説した法則については合っているとも何とも言っていません。」

「どういう意味かしら?」

「実は僕が出した問題すべて『ある一つの決められた法則』を守っている数列だったのです。その『ある一つの決められた法則』とは」

じっくり間を置いた。

「『前の数より大きいまたは等しい』、です」

「・・・は?」

こいつは何を言ってるんだという顔をして僕を見てきた。

「偏さんはまるで僕が適当に並べた数をあたかも難しい法則性があるかのように考えていましたが、ぼくはただ単に『前の数より大きいまたは等しい』という法則に従って数を並べていただけなんです。」

僕はここぞとばかりまくしたてた。

「だから最初の問題も答えは10じゃなくて20でも30でも8より大きければ何でも良かったし、偏さんが悩んでた四問目も、1億とか答えれば何も悩む必要なかったんですよ。」

偏さんは黙ったまますこし俯いた。

しばらくして

「確証バイアスね」

とつぶやいた。

「かくしょうばいあす?」

「ええそうよ。何かの仮説や考えを検証するとき、それに都合のよい情報ばかりを集め、否定するような情報を無視または集めようとしない心理傾向のことよ。」

一字一句はっきりと聞こえる声で言った。

「今回の場合、私があなたの唱えた数列の法則を考えたとき、+2だとか×2だとかその数列の並びにぴったり合っているようにみえる情報しか考えず、あなたのいったような『前の数より大きいまたは等しい』という単純な法則を全く無視して考えていた。」

「それがかくしょうばいあす、であると。ほうほう。」

ふー、と偏さんはため息をついた。

少し背伸びをして

「まさか最初の四問が五問目のためのお飾りみたいなものだったなんてね。全く考えてなかったわ。完敗ね」

「それじゃあ」

「ええ、約束通り勉強教えてあげる。」

「ありがとうございます!」

「でも、急に5の平方根の数列を出すなんて冷静に考えてみると無理やり感があるわね。もう少しましなのはなかったの?」

「とっさに他に思いつかなくて」

「まあいいわ、それで何を教えてほしいの?」

この後僕は何時間もかけてスパルタ教育を受けることになるのだがそれはまた別のお話。

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