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全知全能。


よく、主なる神を形容する時に使われる言葉だ。


そして思う。ならば、神は単純なる善ではなく…悪すらも、内包している筈だ、と。

昔、街の神父にそう質問したことがある。

その時は、困ったような笑顔で、はぐらかされてしまったが。


父さんは、

「小さい子が難しい事を言うから、驚かれたんだよ」

と言った。

でも、きっとちがう。

神父は、知っていたのだ。

神は悪も内包するどころではなく、文字通り全て神の発露であるのだと。

試練も祝福も、何もかも。

花壇の花も、家の机も、地下の土くれも。

皆全てこそ神であり、この世とは神で、この世の外側なぞあろう筈もなし。

幼子にそれを伝える労苦を想って、あの笑みを浮かべたのだろう。

……それがわかったから、生きる事はあまり怖く無くなった。

友達は少ないし、口下手な自覚もある。けれど、生きるのは怖くない。この世界は神の発露で、この身が神を想い、すべてに神を見出せる事そのものが、神の奇跡なのだと思えば、怖くなかった。

家柄と生まれつき靭い力で、珍妙な秘密騎士団に入っても、そこで化け物扱いされても。


しかして、その思いは簡単に崩れ去った。


騎士団に入って。俺は見てしまった。

冒涜的なものどもを。

神の意図を感じない、神が創るはずのないものを。


わからなくなった。

神はいる。ここにすら。

でも。けれど。


……この星の外には、いないのだろうか?

神は全知全能なれど、聖書のどこにも、神は宇宙の化物も統べるなんて書いていない。



あぁ、誰に問う事が出来るのだろうか。



全知全能、我らを愛してくださる神なんて、本当はいなくて。

この宇宙のちっぽけな青を包むちいさな神が、いるだけだったのではないかと。


恐ろしかった。

どんな力を振るおうが、虞と狂気の異邦者達との戦いは、いつだって絶望的だ。

もっと強い神が欲しい、とすら思った。

全く、グノーシスまっしぐら。

そんな時だった。




ある日俺は、友人を探して夜道を歩いていた。

泊まりに来ていたはずなのに、ふらりと居なくなった友人を。



あぁ、探さないで待っていればよかった。

   あいにいってよかった


そうすれば、あんなもの見なかった。

      すてきなものがみれた



足跡を追って、林の奥深くまで踏み入った。

冷光の漏れるそこに、吸い込まれるように踏み入った。

酷く静かなそこに、………神が、いた。


銀色の鍵に指を滑らせ、虚無に繋がる門から現れる、よく知った姿の者を。

蒼い燐光を纏って、宙に舞う如き彼。

驚愕の表情をこちらに向ける彼。

己が身を喰らう蛇の主、まことの神威。

黒糸と銀糸を揺らめかせ、真紅の玉石を二つあしらった、今まで見たなによりも美しくて、絶対的で、静謐で、恐ろしくて、冒涜的で、普遍的で、客観的で、神秘的で相対的で主観的で巨きくて寛くて靭く主よ我が神よお許しください我が裏切りをお許しくださいお守りください凡ゆる冒涜から凡ゆる不条理から我々をお守りくださいすべてを愛して私を愛し虚無と狂気の果てまで我らに愛を主よ









おゆるしください










ロムリア国、某大聖堂内。

今日は、騎士団の会合がある。

此処ではいつも、俺は肩身の狭い思いをする。

明らかにおかしなことでも、年功序列の強いこの場では、俺みたいな若造は指摘すら許されない。

したい時は、それでもしてしまうが。

聖霊騎士団、その十三個の師団の中で、最年少の師団長。

それが俺だったりして、家柄もあったりして、貴族的世界に馴染めなかったので、

すっかり厄介払い団である。世知辛いわ。


十三の席と、三つの席に分けられた円卓。そのお誕生日席、大枢機卿様の真ん前が俺の席だ。

「聖霊騎士第十三師団長、

ガラハド・ジェノス=ジャネット・ベルモンド、

出頭いたしましたー」

いつも通り気怠そうに、俺の席に座る。

他の師団長も枢機卿も、嫌そうな顔で俺を見る。

大枢機卿様も微妙そうなお顔だ。

「ベルモンド卿。ここは厳粛な場であるのですから、少しはシャキッとですね…」

「ウィ」

別の団長からヤジが飛んでくるのなんて珍しい部類だ。今日は、機嫌が悪かったんだろう。


定例会とは得てして無意味になるもの、今日も今日とて何もなかった。あんまりにも暇だから、SwitchでBLAZB◯UEでもやろうかと思った。

思い止まった。凄い。


誰よりも早くこの窮屈な大聖堂を抜け出し、誰よりも早く帰って、古戦場を走らねばと思っていたところ、思わぬ人に声をかけられてしまった。

「ガラハド卿」

俺の事をファーストネームで呼ぶ人は、この場には一人しかいない。

大枢機卿、ランス・バン・ベルモンド。

聖霊騎士団の、(教皇を除いては)トップだ。

何故俺をファーストネームで呼ぶかというと、この人と俺はファミリーネームが一緒だからだ。

何故かと言うと父だからだ。

しかし、上司にファーストネームで呼ばれるのは、陰の者としてはキツいモノがある。

「…はい、なんですか?枢機卿」

いや〜な予感がする。この人が俺に話しかける優先度は、非常に低い。つまりクソ案件を投げられる可能性がある。失敗した。逃げたい。でも古戦場から逃げるな。

「あぁ、構えないでくれないか。任務の話だが、苦しい任務の話ではない。頼みたいのは、

使士協会との……ナガサ・クロイ氏との合同任務だ」

思わぬ名前に口を開けて驚く。

黒井永沙。通称クロナガ。

俺が母親の腹の中にいた頃からの、父さんの知り合いだ。

そして、俺の唯一の、マブダチでもある。

時にBLAZ◯LUEで対戦して、時にガチャ煽りで喧嘩して、スマ◯ラで二徹した仲だ。

母さんに頼まれて叙任式に来たし、卒業式も来たし、なんなら成人式も来た。

友達なのか、コレ?という仲かもしれないが、友達だ。


奴が所属するは使士協会、化け物退治の花形だ。

そう、同じ仕事でも縄張りが違う。どちらかというと、敵対まである。

宇宙人相手にしてる最中に?バカだなー。

と思うが、今回は違うらしい。


「君は騎士団の中でも、実力派使士とパイプを持つ稀有な人物だ。騎士団と協会の関係改善の初手には、うってつけだろう?我々としても、使士協会に覚えの良い騎士、というのは魅力的だ」


いや俺日陰モノですよとか、そもそも超個人的付き合いですよとか、無駄だと言いたい気持ちはあるが、クロナガとの仕事は魅力的だ。

一瞬悩んで…関係が改善しなくても、俺の所為じゃないし……で、引き受けてしまった。

無責任ムーヴ!社会不適合。悲しいなぁ。

「それは良かった。クロイ氏も君に会いたがっているそうだよ。

なんでも、新しい人型使い魔を迎えたとかで」

「えッ?」

なんでこのオッサンは簡単にそんな重要なことを言えるんだ。人型使い魔と言えばふつう家族同然の存在、養子と言える。

場合によっては、伴侶ということもッ……!

知らんうちに親なのか親戚的なものか親友かも怪しい奴が新しい家族迎えましたとか言われたらビビるだろ。早口だな俺。

「本当なんスか!?人型ッて!」

超上司に掴みかからんばかりの勢いで詰め寄る。まずい事だが、この時の俺にそんな理性は無かった。

だってアイツ、人型なんて責任持てないってあれ程言ってたのに!


かなり狼狽たような、何処か嬉しそうな顔で枢機卿が告げる。

「あ、あぁ。今、ちょうど別の任務で来ていてね。広間で待っているそうだ。会ってきたら……」

「ウッス!!ありがとうございます!!」

言い切る前に、走り出す。

どのくらいの速度が出ていたかはわからない。

風圧で人が飛ばない、物は飛ぶぐらいの速度だったかもしれない。しかしやはり、この時の俺は理性が無かった。

周りの迷惑を最低限のみ省みて爆速で広間にエントリー、前髪だけ黒、銀髪ボサ頭目掛けて突っ込む。

「ヴァッ!?ガラハドナンデ!?」

突然のエントリーに片言になるクロナガを他所に、襟を掴んで叫んでた。

「おおおおお前俺に何も言わないで結婚とかふふふふざけてんのかお前お前!!!式には流石に呼べよ後刺す!!!!!!!」

完全にトチっている。

そして何度も言うようだが此時俺無理性。

隣にいたグラマラスな女性の事も放って、先ずはクロナガに掴みかかる。一重に、先にリア充になられたのが悔しいからだ。やきもちとかじゃないぞ。

「いや落ち着けお前!結婚じゃねぇよ!

契約までしか行ってねぇし、

こいつ目覚めて日が浅いから人権も完全に認められてないんだよ!

結婚も養子もまだ無理だ!!だから落ち着け!」

「そうですよ!先輩はただの先輩なんです!」




二方向から揺さぶられ、叫ばれ、周りからやべーモンを見る目でみられ、俺はやっとのことで正気を取り戻した。

陰の者である俺は、胃を焼き切る程の居た堪れなさを感じて、聖堂の客室に二人を連れ入った。 

  



「で、こいつはその…俺が仲裁に入った争いで奪いあわれてたんだよ。魔術適性が高くてな。そこで、まぁ…厄介払い?漁夫の利?的な感じで」

クロナガから、使い魔の女性、レト・ソテイラとの出会いの経緯を説明される。

使い魔とは、一般的に古代遺跡等から見つかる機構、獣、人間が魔術・生物的に自律できるものを言う。

クロナガ曰く、レトはヘレネシス国で、コールドスリープのような状態で見つかったそうだ。

さまざまな分析、調査を行い、

問題なく有能な人間だと認められた。

あと数ヶ月問題なく"稼働"すれば、人権も認められる程度には。

ただ、肉体と精神に乖離があった。

心はロリ、体は大人。

で、魔術適性クソ高とあれば、間違いなく悪用される。

それを防ぐ為に、実力の割に無名な自分が保護役となった、とのことだった。

「いや全くのはやとちり……すまん、本当にすまん………」

地面に平伏し、ワ・ドゲザをかまし、必死に謝罪したおす。俺のクソ脆い理性、なんとかならねぇかな…。

「ん…いや、何も連絡を入れなかった俺も悪かったよ。レトが常識を身につけるまでの情報処理とは言え…お前には何か言えばよかった」

はにかみながら告げられる許しに、俺は一生分の感謝を捧げて、立ち上がった。持つべき物はRTAの出来る友達だな。俺はTAS勢だが。

「それで、おにーさんのお名前は?」

レトに聞かれ、混乱のあまり自己紹介もしていないことに気がついた。

いけない、いくら何でも名前ぐらいは言っておかねば。

陰の者以前の問題だ。

「あ、あぁ悪い悪い。

俺の名前は、

ガラハド・ジェノス=ジャネット・ベルモンド。

気軽に、ガラハドって呼ん…」

「ジャネットお兄さんですね!」

「一番辛いところで呼ぶね!」

よりによって何故付いているのかわからない、女性名の部分で呼ばれることになってしまった。

まぁそんなに気にすることでもない……ないもん。あとタメ口で頼む。

「はいはい、自己紹介の終わったところで、仕事の話な」

「おう…」

「はーい」

そうだ、そもそもそういう目的だったんだ。すっっかり忘れてたぜ、ダメだな俺…。

そんな俺を尻目に笑いながら、クロナガは何か書類を取り出して読み始める。

「今回の任務は、討伐任務だ。

場所はルルリアレ国。対象は炎の精」

炎の精。旧支配者クトゥグァに隷属する、その名の通りの炎の存在だ。

しかし、隷属する種である故に、クトゥグァに縁なくして現れる事はそうない。召喚者がいる可能性があるな、と作戦を詰めていく。

「しかし、今回は結構な遠出になるな。

懐が寒いぜ…」

「使士って 経費で落ちねぇの?」

「落ちませんよー。個人営業主なので!」

レトがはつらつと答え、クロナガは懐をさすりながら、遠いところを見つめる。

命懸けで宇宙生物を倒しているのに、移動費も経費で落ちないとは……恐れ入った。

「さて、任務は明々後日か。それまで二人はどうすんだ?久々に俺ん家でも泊まってく?」

「いいのか?じゃ、お言葉に甘えちまおうかね。」

「決まりだな!」

家柄だけは良いので、俺の家は馬鹿でかい。同居人と顔を合わせない生活も可能だ。

VRで彷徨いてマジで迷子になった事がある。

「ジャネ兄のお家ですか?楽しみです!」

「気を付けろよ〜。

こいつの家、特に自室は魔窟だからな…」

「魔窟?」

レトが首を傾げ、俺の方を向いてくる。

いやまてクロナガ、別に今それ関係ないだろ!

「そうだ、こいつのコレクショ…」

「今それ関係ないだろ!!そして推しは自由だ!つかおめーも大概!」

「あ!?ブラッドエッジを推すのは人類の摂理だぞ!?」

「うーん。何を言ってるのか全然わかんないですねこれは…」



これから宇宙の化物退治だってのに、この馬鹿馬鹿しさはなんだろう。

それぐらいやってないと、狂気になぞ立ち向かえないということなのだろうか。




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