表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/127

卒業後の進路

●登場人物

星崎(ほしざき)叶多(かなた)

主人公。中学三年生、身長一六五センチ。両親は共に亡くなっており、残してくれた家にアルテアと一緒に暮らす。


朝霧(あさぎり)冬華(ふゆか)

十三歳。中学一年生。星崎(ほしざき)叶多(かなた)の幼なじみ兼彼女。朝霧(あさぎり)雪緒(ゆきお)の娘。趣味は家庭菜園。


●物語

 2191年1月16日です。

 幼なじみである冬華(ふゆか)の家に遊びに行って、部屋に通された後の話になります。

 冬華の部屋は全体的にパステル調、棚は季節の生花で飾られている。ぬいぐるみや小物も僕の目から見ても可愛らしく配置されていて、「可愛い女の子の部屋のお手本みたいだ」と思う。

 転がってる雑誌の表紙が大根を右手に掲げたおじいさんなのが、お手本とは異なるところか。


(ほんと、土いじり大好きだな)


 冬華は二人分の暖かいココアを台所から持ってくると、ローテーブルの向かいに座るように促した。

「それで、今日はどうしたの?叶多君」

 僕は勧められるままにテーブルサイドのクッションに座ると、話を切り出す。

「さてと……改まってだと少し言い出しにくいんだけど……」

「なに、叶多君」

 冬華はそう言いながら、僕の向かいに座ると、なんだかキラキラした眼をして僕のことを見返してくる。そんな冬華を不思議に思いながら、話を続ける。

「実は、今後のことなんだ。もうすぐ、僕も中学卒業だろ?その後のこと」

「うん、それで?」

 胸の前で両手を組んで続きを促す。

「宇宙大学ってあるだろ?そこに進学しようと思って」

「なーんだ」

 ガックリと肩を落として、わざとらしい溜息を一つついた後、つぶやく。

「一応、年頃の乙女としては『星崎冬華になってください』とでも言ってたら良かったんだけど……まぁ、仕方ないか……叶多君だしね」

「失礼なやつめ。そもそも冬華は、まだ中一じゃないか!」

「だって、結婚できるまであと五年もあるんだよ?長すぎるよ!」


 国際宇宙科大学、通称宇宙大学。八年前に創設された宇宙飛行士や宇宙船の操縦者や技術者の育成に特化した単科大学。各国の政府機関からも完全に独立していて、宇宙開発から生み出される莫大な利益の一部で運営されている。大学という名前が付いている通り、卒業生は大学卒業者ということになるが高等専門学校や大学院のような部分も併せ持っているので、普通の大学と異なる点も多い。


「それにしたって、なにも中学卒業してすぐに入ることもないんじゃない?割と珍しいんでしょ?」

 冬華の言う通り、中学卒業以下で入学する者の割合は約一割と最も少なく、通称『精鋭(エリート)』と呼ばれる。ただし、実際は順番が前後するものの宇宙での経験を生かし再び上級学校へ舞い戻る者たちも多く、必ずしも皆が皆、若くして宇宙を舞台に働く訳ではない。特に日本人で精鋭(エリート)として進学した後でも、再び高校や大学へ戻る人の方が多い。飛び級の無い日本では『中学卒業時点で宇宙大学の入試に合格できる学力を持っている』ことは分かりやすいアピールになり、推薦入学や奨学金でも有利に働く。



 宇宙大学の学生総数は約二千名で、入学前の経歴は概ね四対三対二対一とされる。


 最も多い四割を占めるのは大学や大学院の卒業者だ。在学時に宇宙系の専門学科を履修していれば宇宙大学でも受講免除となるので早い卒業が見込める。宇宙で働きたい者はもちろん、花形の宇宙産業への就職先を考えている人や各国の宇宙関連の官僚を目指している者も少なからずおり、必ずしも宇宙に活躍の場を求めている人ばかりではない。


 次に多いのは三割を占める高校や宇宙系の専門学校の卒業者だ。ここで言う専門学校というのは宇宙大学へ進学するための専門学校で、宇宙系の短期大学なども含まれる。大学卒業者と異なり現場で働くエンジニアや宇宙飛行士など、本当に宇宙で働きたい人が多い。


 最後に残った二割は社会人を経てからの入学者で、大半は企業から派遣された会社員か退職中に就職先の幅を広げる目的で受験する失業者である。しかし、宇宙産業で一攫千金を狙う起業家、地上での危険に飽き究極の目的地として宇宙を目指す冒険者、自家用宇宙船を自分自身の手で操船したくなった富裕者等々、非常に多様性に富むのも特徴だ。



「確かに他の仕事も考えるなら高校や大学を卒業してからの方がいいんだけど、僕自身は将来の仕事として宇宙以外に考えてないから、それなら早くから経験を積んだ方がいいと思って」

「そっかぁ、偉いね。私は未だ将来のことなんて何にも決めてないや。叶多君のお嫁さんでいいんだけど……でも将来二人の間に子供ができてさ、叶多君が事故で死んじゃったらさ、私ミボージンだもんね。何かテニショクを付けとかないと駄目だよね」

「気が早いというか、縁起でもないな。そういうセリフは、せめて『未亡人』が漢字で書けるようになってから言ってくれ」

「ん?」

 冬華は手のひらで漢字を書いてみる。

「書けるもん!」

 そう言うと、右手脇に置いてあった予備のクッションを僕に投げつけた。


 お読みくださり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ