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トラック一(二)~二人の博士

 少年が再生中の映像データの続きです。舞台は前回と同じ、食堂「カリストリア」の中。二人で食事中のところ、一人の男性が現れました。


●今までの登場人物

星崎(ほしざき)(わたる)

日本人・三十九歳・身長一七五センチ・童顔

輸送艦『信濃(しなの)』の艦長


朝霧(あさぎり)雪緒(ゆきお)

日本人・三十九歳・身長一七六センチ・筋肉質

星崎渉の幼なじみ

輸送艦『信濃(しなの)』の主席機関士


 歩いてきた男は白人で金髪碧眼、決して小柄ではない二人を更に上回る高身長。ラフに着崩したYシャツにスラックスと言ったスタイルだが、本来ならいかにも高級なスーツが似合いそうな出で立ちだ。

 雪緒は小声で渉に話しかける。

「おい、こっちに歩いてくる人、うちの船の乗客で有名人だったよな?教えてくれ」

 渉も小声で質問に答える。

「ああ、彼はスターク博士。重力子の人工生成による遠心力によらない人工重力生成で物理学会に旋風を巻き起こした、言わば時代の寵児だ」

「サンキュ、わざわざ我々に挨拶とは恐れ入るな」


 男は注文用ロボットにカレーライスを注文した後、起立している二人に恐縮しつつ話しかける。

「どうぞ、座ったままで。私は物理学者のエドガー・スタークと言います。食事、ご一緒してもよろしいかな?」

 渉は緊張のためか少し震える声で応じる。

「も、もちろんです、スターク博士。星崎渉と申します。輸送艦「信濃」の艦長をしています。お会いできて光栄です」

「俺は朝霧雪緒。こいつの船の機関士をやってます。よろしければ帰りも我々の船で。なんせ、うちの船はサービス満点ですからね」

 逆に物怖じすることを知らない雪緒は、ウインクしながら少し冗談めいた口調で話しかける。

「ええ、ぜひとも。かの有名な信濃の艦長と機関士とご一緒とは、こちらこそ光栄です」


 スターク博士が渉の隣に座ると、有名人を横に置いて少し気後れしている渉を余所に、雪緒が会話を続ける。

「ん?それにしても、うちの船ってそんなに有名ですかね?」

「有名ですとも。全乗組員が最高ランク(チタニアム)なんて、信濃しか聞いたことが無いですから」

「そうなのか?」と雪緒は渉に尋ねる。

「まぁ、そうだな。全乗組員が最高ランク査定を持っている艦船は太陽系広しと言えど信濃以外には存在しないぞ」

 雪緒は他人事のように感心したあと、今度は博士に尋ねる。

「ところで博士も例の彗星ですか?」

「いや、だと良かったんですけど、今回は大型(ラージ)重量子(グラビトン)生成機(ジェネレータ)のテストなんです。テストが終わったら地球に戻るので、少し木星観光でもして、ゆっくりしたいんですけどね」

 苦笑いしながら残念そうに答えていると、配膳用ロボットが話しかけてきた。

『カレーライスをお持ちしました』

「あぁ、私だ」

 有名人との出会いに緊張しつつも、友好的な接触に成功した二人は胸をなでおろすと、スタークは続ける。

「私はカレーが大好きでね。妻には『子供みたい』と言われてしまうが」

「それを言ったら、我々もラーメンとハンバーグですからね」


 友好的な遭遇を果たした後、食後の(アフター)飲み物(ドリンク)を飲みながら会話は弾み、三人とも笑顔だ。すると入り口の方から片手を上げて親しげに話しかけてくる一人の男性がいる。

 フィットネススタジオから出てきた直後のような上半身タンクトップに下半身スウェット、雪緒と同じくらい太い腕は彼と異なり毛むくじゃらで、まるでヒグマのような巨躯だが、ニコニコと笑う笑顔はぬいぐるみのようで逆に愛らしさすら感じる。

「おいおい、置いてきぼりとはひどいじゃないか、エドガー」

 スターク博士の顔見知りのようだ。キョトンとする雪緒をよそに、人物の正体に気付いた渉は、驚いたように話す。

「スターク博士!いらしてたんですか!」

 一方、エドガーは右手でこめかみを挟んで頭痛そうな表情で語る。

「来たのか、ヴィクター……それにしても、いくらこの店にドレスコードが無いからって、ラフすぎるだろ」

「そうか?」

 一人、状況をつかめない雪緒は、キョロキョロとしながら、ヴィクターと呼ばれた男とエドガーを見比べる。

「えっ、スターク博士?どういうことだ?」

 渉はヴィクターと呼ばれた男が雪緒の隣に座るのを横目に見ながら、雪緒の方を向いて説明を始める。

「そうだな、信濃の乗客じゃないから物理学に興味が無いなら知らなくても無理はないよ。彼はヴィクター・スターク博士。今、まさにホットな真空研究の第一人者だ。スターク博士の兄さんでもある」

「本当か!兄弟で物理学者、しかも超一流の!すごいな」

 エドガーが悲しそうに否定する。

「それは正解ですが誤りです。私とヴィクターとは兄弟は兄弟でも、義理の兄弟なんです。つまり、ヴィクターは昔からの友人ではありますが、私の妻リリーの実の兄というわけです。よく間違えられるんですけど」

 渉が首を傾げながら二人に問いかける。

「でも、二人とも姓はスタークですよね?しかも、エドガー・スターク博士はご結婚の前からスターク博士だったと思いますが……」

 ヴィクターが笑いながら答える。

「あはは、それも間違えられる原因なんだけど、単なる偶然でね。その通り、妹とエドガーが知り合う前から二人とも姓はスタークさ。それにエドガーはイギリス、私はアメリカ、生まれも異なるんです。ただまぁ、親友ではあるんだけど……な?」

「……親友?悪友じゃなくて?でも、ヴィクターの言う通り二人とも生まれた時から姓はスタークで、血縁はないんだ」

 渉が感心しながらうなずいている間に、ヴィクターに注文のホットサンドとホットミルクが届く。彼は美味しそうに頬張り始めると、エドガーが、やれやれといった表情でヴィクターを見遣った。


●登場人物

○エドガー=スターク

イギリス人・三十歳・身長一八三センチ・重力子研究の第一人者。世界的に有名な物理学者。


○ヴィクター=スターク

アメリカ人・二十八歳・身長百八十五センチ・巨漢・真空研究の第一人者。新進気鋭の物理学者。エドガーの義兄(妹がエドガーの妻)


●乗組員の査定(ランキング)

AIが乗組員の技能を査定し、結果により熟練度が評価される。

下から、ブロンズ→シルバー→ゴールド→プラチナ→チタニアムの五段階。


お読みくださり、ありがとうございました。


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