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プロローグ~西暦二一八〇年

 この物語における西暦二一八〇年時点での宇宙開発の状況説明です。単なる説明だけなので、特に読む必要はありません。

 木星系を襲った大災害の一ヶ月前、西暦は二一八〇年を迎えていた。この時代、新たに開拓された数学を武器に物理学は少しずつ修正されながら、人類は確実に知識の版図を広げつつあった。


 ある科学者は言った。

「我々人類は今、確実に宇宙の真理に迫りつつある」

 それはおそらく正しい。そして、否定し得ない真実に思えた。


 その一方で宇宙について知れば知るほど、既知に倍する未知が湧き上がっていた。

 

 別の科学者は言った。

「我々人類が今、宇宙について知り得たことなど無いに等しい」

 おそらくそれも正しい。そして、両者は矛盾なく並立している。この時代を生きる人々にとっても、宇宙はあまりに広大かつ深淵であったのである。


 緩歩とも思える学術的分野での進展を他所に、太陽系開拓において二十二世紀に入ってからの人類の歩みは加速度的で、ついには五年前『カルダシェフスケールが一を超えた』と些かセンセーショナルに報道されるに至った。カルダシェフスケール、それは二十世紀中盤、ソ連の天文学者ニコライ・カルダシェフが提唱した概念をアメリカの天文学者カール・セーガンがエネルギー消費量を元に数式で定義したものだ。

 カルダシェフスケールが一を超えることは人類の使用するエネルギーが地球が受ける全エネルギー——一京ワットとされる——を上回ったことを意味する。即ち、時はまさに人類が惑星文明を卒業し恒星系文明へと脱皮しようという途上にあることが、街を歩く一般の人にさえ知るところとなったのである。


 人類は五十年前に発見された第九番惑星「ミネベア」以外の全て、すなわち海王星までに存在する六つの外惑星については既に有人探査を終え、月や火星に加えその外側に存在する多くの小惑星をも生存環境として手中に収めていた。事実、多くの民間人が地上から宇宙へと生活の場を移している。

 有人観測基地の最前線は土星の衛星エンケラドスにまで達しており、そこには科学者や技術者を中心に五百名以上が常駐している。


 太陽系最大の惑星である木星系にはイオを除く三つのガリレオ衛星、エウロパ、ガニメデ、カリストの各衛星それぞれには複数の有人基地が存在し、太陽系最大の衛星であるガニメデには五つの地上基地と二つの宇宙ステーションがその雄姿を誇っていた。常駐する人々も科学者の他、医療関係者、保守作業員、その他生活インフラに必要な人達なども合わせ、実に一万人以上にも及ぶ。更に外側を周回するカリストと共に新たな人類の新天地として認知されるのも時間の問題であった。

 ただし、最近の数ヶ月は木星系も普段とは異なる顔を見せていた。二十世紀末のシューメーカー・レヴィ第九彗星以降、約二百年ぶりの木星への彗星の衝突を約半年後に控え、有名無名を問わず夥しい数の科学者とその家族たちが木星系に集結しつつあったからだ。彗星の名前はブラッドリー・ルイス・サイトウ彗星。大手メディアが、この彗星の名前と共に、その木星衝突を『世紀の天体ショー』としてセンセーショナルに伝えた。すると、我先にと好事家やアマチュア天文家、そして好奇心旺盛な富豪達が観光目的に集まるようになる。人が集まるようになると、その人たちを目当てに更に人が集まり、木星系の人口は文字通り雪だるま式に増加している途上にあった。特にガニメデとカリストの発展はめざましく、両衛星は競うように人口を増やしていた。


 この二衛星を比べると常駐可能な基地の数も宇宙ステーションの数もカリストの方が多いが、居住可能最大人口はガニメデの方が遥かに多い。その理由はガニメデ第二ステーションにある。ステーションは一般的に簡易型、小型、中型、大型、超大型の5つに分類され、それぞれ、小さい方からそれぞれ百人規模、千人規模と十倍ずつ増え、最大の超大型で百万人規模のステーションとなる。また、木星系には存在しないが、簡易型より小さな十人規模のステーションは実験型と呼ばれた。

 ガニメデ第二ステーションの容姿はシリンダー型と呼ばれる円柱状で、外周五キロメートル、長辺三十キロメートルにも及ぶ大きさを誇り、大型つまり約十万人が居住可能とされる。宇宙ステーションとスペースコロニーの明確な定義は存在しないが、少なくとも第二ステーションは宇宙ステーションというより将来的な移住も睨んだスペースコロニーと呼んだ方がふさわしい佇まいであった。その巨大なシリンダーの自転により地球表面の重力とほぼ同等の遠心力を発生させており、その回転する姿は二十二世紀を暮らす人々にとっても『圧巻』の一言に尽きるだろう。

 因みに木星に存在する他のステーションは全て研究目的で、一般人が居住の目的で使用可能なものは、これ以外にはカリストに中型が一つあるだけだ。そのため、巨大な木星を背景に映し出されるガニメデ第二ステーションの威風堂々とした佇まいはひときわ目を引き、人類文明の到達点を誇っているようにすら見えるのだった。

軌道基地・宇宙ステーション・スペースコロニーの厳密な定義は存在しないという設定です。ただし、規模と形状については分類が存在します。

●規模(最大居住可能人口)

○実験型:十人程度

○簡易型:百人程度

○小型:千人程度

○中型:一万人程度

○大型:十万人程度

○超大型:百万人程度

●形状

○トーラス型:コマのような形(通常は中型以下で使用される)

○シリンダー型:円柱状(通常は大型以上で使用される)


お読みくださり、ありがとうございました。

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