西暦二一八〇年~衛星ガニメデ上空にて
SFもファンタジーも好きで読んでましたけど、書いてみると読むのと違って全くうまくかけません。それでも、読んでくださると嬉しいです。
西暦二一八〇年一月の終わり、今から約十一年前。一隻の大型輸送艦が木星の衛星ガニメデ上空に停泊していた。停泊しているのは当時最新鋭だった信濃型輸送艦。それは『人類最強の小惑星破砕用核融合弾の直撃ですら、かすり傷一つ付けることができない』と謳われ、船に備わる最新鋭のAIと幾重にも張り巡らされた遮蔽防壁は人類が作り上げた究極の『盾』であり、それに疑問を抱く者は誰一人いなかった。
しかし、その盾に守られ数日前まで丁寧に研磨された水晶のように美しかったその船体も、ある部分は剥げ落ち、またある部分は内壁を曝け出し、既に今は見る影も無い。そしてその艦内は赤く点滅を繰り返す非常灯と耳を切り裂く警報音によって、置かれた状況が望ましいものではないことを告げていた。
時折響く爆発音の中、白衣を纏った三十代の女性が就学前の幼い少年の肩を掴み必死に話しかけている。
「叶多、もう脱出艇も残っていないし操舵士も居ないの。でも、この脱出ポッドなら何もしなくても安全にステーションまで連れて行ってくれるわ」
少年もすがるようにその女性を見つめ返しながら、必死に訴えかける。
「お母さんは?」
「お母さんなら大丈夫。だって、この船の艦長はお父さんだもの。だから、叶多は安心して、この中に入って」
「ほんとに?絶対だよ?」
女性は一つ頷くと、真っ直ぐに少年を見返す。すると、女性の連絡端末に男性の立体映像が映し出された。
『幸か?叶多はどうだ?』
男性の声からも緊迫した状況が感じ取れる。女性は少年がポッドに乗り込むのを手伝いながら返事をする。
「もうすぐ、発艦できるわ」
「お父さんも!きっとだよ!」
『あぁ、分かってる。第二ステーションで会おう。幸、叶多を送り出したら、すまないが、もう一度、連絡を頼む』
「分かったわ。じゃあ、一旦、切るわね」
女性は男性との通信を切断すると、ポッドに乗り込んだ少年にシートベルトを付けてあげながら再び話しかける。
「お父さんもお母さんも絶対に大丈夫だから!叶多も心配しないで」
「無茶しちゃだめだよ!絶対だよ!待ってるから!ほんとに待ってるから!」
「分かってるわ、叶多が待ってるんだもの、絶対に大丈夫よ。さあ、急がないと危ないわ。じゃあハッチを閉じるわね。あとは何もしなくていいから」
優しい目線に見守られながら、徐々に閉じていくハッチ。少年の視界から女性の姿が少しずつ消えていく。
「お母さん!絶対だからね!」
その言葉も轟く爆音にかき消される。
(まだ、船は大丈夫。きっと、大丈夫……)
そう思った矢先、ポッド外から爆発に起因すると思われる大きな振動が伝わった、その時!
「お母さん!」
ベッドの上、少年——おそらく中学生であろう——が飛び起きるように目を覚ました。下着代わりにしているTシャツが肌に張り付くほどの寝汗をかいている。時計の針は午前六時を指していた。
『叶多様、大丈夫ですか?』
少年の声に礼儀正しく反応したのは、可愛らしい少女の声だった。
「ありがとうアルテア、大丈夫。水を一杯ちょうだい」
アルテアと呼ばれた可愛らしい声の持ち主は可愛らしい少女――ではなく直方体の体に関節の付いた簡単な足と蛇腹な手が付いた――ブリキのおもちゃを大型化したようなロボットだ。
「それにしても、またこの夢か。寝付きが悪いと、いっつもこの夢だな。きっと、おじさんから、こんなものを貰ったせいかもな」
彼が手にしているのは、ちょうど手のひらに収まるくらいで厚さが一ミリ程度――いわゆる『カードサイズ』の物体で表面には「渉」と手書きされている。
「約束の午前十時までは、まだだいぶあるし、最初のトラックだけでも再生しようかな」
少年はロボットが差し出した水をお礼を言って受け取った後、一気に飲み干す。そして、パジャマの下に着ている汗ばんだTシャツだけ着替えた。サラリとしたコットンの肌触りが心地良さそうだ。
「よし!」
少年は少しだけ気合を入れて、ベッドの横に置かれたカードより一回り大きい白い台の上にカードを乗せると、カードがほんのりと青く光った。
彼はそれを確認するとベッドに寝転がり、眼鏡を一回り大きくしたようなヘッドセットを装着した後、小声で命令した。
「アルテア、映像カードの最初のトラックを再生して」
『かしこまりました』
ロボットが返事をすると、カードの微かな光が青から緑に変わる。こうしてトラック一の再生が始まった。
読んでくださって、ありがとうございました。