#1
「……ハッ」
目が覚めると横たわっていた。さっと体を起こして辺り見渡すと、あたりの建物はぼろほろになっていて、焼かれたような匂いが漂っていた。
「ここは俺が滅ぼした村か。ふふふ、帰ってきた、帰ってきたぞ!やってみるもんだな、あのクソ天使め、完全に消そうとしやがって。まぁいい、帰ってくれたんだ。とりあえず大魔王様のところに……」
独り言をしゃあしゃあと呟いているとあることに気付く。自分の声が響き渡るような恐怖の声ではなく、細く、透き通るような甘ったるい声。
「あれ、あれ?」
自分の体をぺたぺたと触るとこれまでにない感触。圧倒的な邪悪に満ちたエネルギーではなく、柔らかな感触。視線を下ろすと両足があることにも驚く。
「おい、おいおいおい」
あたりを見渡し、近くの建物の窓へと走っていく。そこに映っていたのは背が低く、ぺったんこ、青いショートヘア、色なき瞳。
「俺、人間になってないかぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
甘ったるい声が響き渡る。
叫んだ直後、奥の方がどたどたと足音が聞こえる。
「おい、今叫び声が聞こえたぞ!」
「まだ生存者がいるんじゃないか?」
ぞろぞろと騎士達が現れる。まだ小さい子じゃないか、魔王の奴め許せないな、といった罵声が飛び交うのに内心複雑なアークア。
「君、名前は?」
「えっ」
「君の名前だよ」
「え、えっと……アークア」
「おいおい、それは魔王の名前だろ?」
俺は魔王だよと叫びたいアークア。
「ちゃんと答えて。名前は?」
言葉に詰まる。アークアは考える、必死に考える。
「……セア」
「セアちゃんか、……他に生存者はいなさそうだし、一旦城へ戻るぞ」
おかしなことになった、アークア改めセアちゃんは考える。