79頁目 秘密の暴露と骨董銃
前回のあらすじ。
ちょっと今後のことを考えた。
次回の投稿は明後日の予定です。
「ギンゼルさんに相談があります」
翌日、ギルドの帰りに再び工房に寄った私とアネモネ。彼女は早速おもちゃ作り遊びに取り掛かった。私は、丁度休憩に入ったばかりで水筒から水をコップに移していたギンゼルさんに話しをする。唐突な切り出しに、水を飲もうとしていた彼の手が止まる。驚いた様子であったが、すぐに真剣な表情となる。
「どうしたいきなり?」
「ギルドから、近い内に私の討伐依頼受注禁止令が解除されると報告がありました。それで、今後のことについて相談したいことがあります」
「俺に出来ることと言えば、装備の整備点検くらいだが?」
「それもですが、私達二人を、この工房に住まわせて欲しいのです」
「はぁっ? ゴホッゴホッ、突然、何言い出すんだ」
聞きようによっては、同棲か同居のお願いだ。私としてはどちらでもなく居候のお願いなのだが、同じ屋根の下で暮らすというのであれば、違いはほとんどないだろう。
「突然と言いますが、これは以前あなたの方から提案したことと記憶していますが?」
「まぁ言ったな。空き部屋あるから使ってくれって」
「はい。そのお言葉に甘えようと思いまして」
「だが、そん時に、あんたらには明かせない秘密があるって言ってたから断っただろ?」
「そうですね。ですから……その秘密を明かすことで、その問題を解決にします」
「はぁ?」
「元々、あなたにはアネモネの異常性は知られています。しかし、そのことは誰にも吹聴していないようですし、この一ヶ月程の交流で、あなたの為人も見させていただきました。信用出来ると思いますので、秘密を話そうと思います」
「そう思ってくれるのは嬉しいが、良いのか?」
「はい。むしろ、協力者がいてくれた方が、今後都合が良いのです」
「そうか、分かった。どうせ裏切ったらどうなるか分からんしな。ここに更に秘密の一つや二つ増えたところで、これ以上悪いことにはならないだろう」
そこもちゃんと覚えていたようで。しかし、これで話しやすくなった。と、そこでギンゼルさんがコップを作業台の上に置いて入り口まで向かう。
「込み入った話になるなら他の人が来ない方が良いだろ? 店仕舞いしてくるからちょっと待ってろ」
「お気遣い感謝します」
私も彼の指示の下で片付けの手伝いをする。その最中に「何だ。もう店仕舞いか」と冒険者のお客さんがいらっしゃったが、ギンゼルさんが「悪いな野暮用だ」と言って追い返してしまった。
「良いのですか?」
「最近飛び込みが多くてね。それでいて注文内容が鬼畜ときた。だから良いんだよ」
「でもさっき、お客さんが増えて良かったって……」
「あー忘れた忘れた。ほらさっさとやっちまうぞ」
色々と雑だが、その雑な中でも確かな優しさが見えて嬉しいと同時に可笑しいと感じてしまう。
作業は間もなく終わり、店の奥の作業場へと場所を移す。
「アネモネ」
「はいですわ」
頃合いを見て、私はアネモネを呼んで横に立ってもらった。
「じゃあアネモネ、お願いね?」
「分かりましたわ」
そう言った彼女は、次の瞬間、柔らかい風が吹いたと思ったら彼女の姿が消えていた。
「は?」
開いた口が塞がらないギンゼルさん。
「これが、私達の秘密なんです」
「姿が消えた……?」
「正確には違います。元の姿に戻っただけです」
「元の……?」
「はい。こちらが、アネモネの本来の姿です」
そう言って銀楼竜の鞘に収まった一本の短剣を突き出す。
「剣?」
「魔剣です」
「ま……けん……だと? 本当に存在していたのか」
「そうですね。私もそこそこ長く生きていましたが、この目で見たのはこの子含めて三本だけですね。内一本は剣の形ではなく別の武器でしたが」
「そうなのか。で、さっきの嬢ちゃんとその魔剣とどう関係が?」
「ですから、アネモネは元々魔剣だったのです。それが実体化して風の精霊として独立した生命として存在しているのです」
「はぁ?」
この話を始めてから驚いてばかりである。まぁ私もいきなりこのような話をされても、急に信じることは出来ないかもしれない。ただ、前世と違い、魔法も亜人も怪物もいる世界だ。もしかしたらあるかもしれないと、半分以上は信じてしまうかもしれない。
「銘、この場合はこの子の真名ですが、こちらは残念ながら明かせません。こればかりは死ぬまで誰にも。それこそ家族にも話さないつもりですので」
「そ、そうか……いや、しかし、驚いたな」
「私も最初見た時は驚きました」
「経緯を聞いても?」
「話せる範囲であれば……」
それからはいくつか話をしたが、魔剣の素材は話すことが出来たが、その他、どのようにして実体化したのか、精霊とは何か、何故その姿なのかなどの質問に答えることは出来なかった。私も知らないこともあるし、アネモネ本人も分かっていないこともあるようなので仕方ないことである。
「ということで、宿屋暮らしでは、いつか露見する可能性がありましたので、せっかくですから以前のお誘いに乗ろうと思いまして、こうして相談した次第です」
「つうか、俺に拒否権ないだろこれ。秘密を知ってしまった以上は受け入れないと、どうなるか分からんのだろ?」
「ふふっまぁそういうことにしておいて下さい。私としては都合の良い隠れ家が欲しい。あなたはそんな私に脅されただけ。それで良いんじゃないですか?」
「エルフ族っていうのは、皆がそんなにおっかない存在なのか?」
「私の知る同胞は皆良い人達ですよ。私は、まぁ色々ありましたからね。それで多少ねじ曲がっていますが」
「多少か?」
「何か?」
「いえ、何でもない」
「そういうことですので、よろしくお願いしますね」
「分かった。で、具体的にはどうすれば良い?」
「部屋だけ貸して下さればそれで良いです。ようは、私とこの子は一心同体ですが、この子の見た目はまだまだ幼い子供。当然冒険者登録は出来ませんので、私が依頼に出る時には、一応宿に置いてくる体を取る必要があるのですが、それも手間ですし、もし部屋を覗かれたりでもしたら大変ですからね」
「つまり、俺は仕事でずっと工房にいるから、俺があんたの代わりに嬢ちゃんの面倒を見ている体にしてコッソリ依頼に連れて行くってことか」
「そういうことです」
「分かった。じゃあ部屋の案内するから来てくれ」
「ありがとうございます」
それからは、エルフ族の母子がギンゼルの工房で寝泊まりしていると一時話題になったらしい。というかギルドから、大丈夫なのかと聞かれたからだ。しかし私は宿泊費をケチる為に、ダンビの森で知り合ったギンゼルさんの工房にしばらく住むことにしたと言ったら、それからは特に何も言われなくなった。後でコッソリ例の受付の男性から聞いた話では、歴戦の戦鐸鬼を単独討伐出来る人が、普通の鍛冶師であるギンゼルさんにどうこうされることもないだろうとのことであった。周囲の私に対しての評価一体どうなっているんですかね?
「ここだ。他にも空いている部屋はあるが、一応ここが一番広い。まぁ好きに使ってくれ」
「ありがとうございます。それと、工房の機材をお借りしても良いですか?」
「ん? まぁ、お嬢ちゃんがずっと使っているから今更だな。いいぞ」
ウチの娘がすみません。
再び一階へと降りて奥の作業場へと進む。そこで私はずっと携行していた狙撃銃を下ろして巻いていた布を取り払い、台の上に載せる。
「これは驚いた。それ銃だったのかよ」
「珍しいですか?」
「まぁな。俺もこの仕事していて色々な武器を見てきたが、銃を扱う冒険者なんて過去に二回くらいしか見たことがないな」
これは銃自体の数が少ないことが原因なのだが、その理由として挙げられるのが生産性の低さである。複雑な機構を持つ銃の生産は部品の一つ一つの加工が面倒で、それを手順通りに組み上げないと引き金を引いた瞬間に暴発などの事故になりかねない。
遠距離攻撃といえば武器ならば弓矢が定番で、他には弩弓を使用する場合が多い。武器以外となると、それは勿論魔法である。魔法が当たり前に存在するこの世界では、製作にも整備にも費用も手間も掛かる銃の重要性、必要性は低く、お金のある貴族階級で攻撃魔法を持たず、弓矢などの遠距離武器のセンスがない場合という限定された条件の場合に銃という選択肢が出てくるくらいに珍しい。当然、使用率が低ければ弾の補充も容易に行うことが出来ない。
ジストでならば、貴族階級でなくても数は非常に少ないが、一定数の使用者がいた為に弾を扱う工房もあったが、ジストは鉱石の採掘、加工で成り立っている国家なので出来る。エメリナでは銃を扱う工房そのものがなかったことで、弾薬の補充は叶わなかった。ジストからエメリナへ移動する道中に一つ分を使ってしまったので、出来れば補充したかったが、受注生産になってお高くなるということで断念した。
「整備もだが、やっぱり弾代だよな。どんな武器もそうだが、手にしていきなり使える訳がないから当然練習が必要だが、そうなると練習で大量に撃っちまったら大損だな」
「そうですね。私も、弾代を抑える為に、木片などを加工した模擬弾を使って練習していました」
「そんな方法があるのか。じゃあ馬鹿正直に実弾撃ってる奴らは可哀想だな」
雑談をしながら私は慣れた手付きでバラし作業に入る。取り外した部品は、いつも同じ場所に置いていき、ちゃんと揃っていることや傷がないかなどを細かくチェックしていく。
「俺は銃を作ったことがないし、整備の依頼も受けたことがないから初めて見るが、こんなにも複雑だったのか。いや、だが、この部分、こことかここは見たことも聞いたこともない作りだ。もしかしてこれ、骨董品か?」
骨董銃。古い時代に使用されていた銃で、現代生産されている銃はその骨董品を真似て、しかし構造が複雑で再現と量産に不向きということで、ある程度簡素化した造りになっているとか。量産といっても一挺一挺を手作業で仕上げるので、ほぼ受注生産のような感じだ。
現代銃は骨董銃と比べて生産性は高いものの、性能は低く、仮に同じ射程距離を実現出来たとしてもその命中精度と威力に差が生まれる。
国にもよるが、骨董銃は美術館や歴史資料館などで展示されていることが多く、使用している人はただでさえ少ない銃の使用者の中でもほんのごく僅かと言われている。
壊れても、自分で修理出来ないならただの長い棒だ。それに骨董銃はその希少性から高値で取引されることが多く、仮に故障や劣化などで弾が撃てない状態だったとしても、歴史的価値があるとかで売買されることがあるらしい。
「今の銃の形態になったのは、大体三〇、四〇年くらい前でしたか?」
「さぁな。国によっても違うだろうし。少なくともスクジャで見られるようになったのは、二〇年くらい前かな。それ以前は知らんが、やたらと簡単な形をした銃らしき武器自体はそれよりも昔からあるらしいぞ」
現代銃の歴史は浅いのは知っていたが、思ったよりも新しい武器らしい。となると、父が冒険者の時代は、銃の存在そのものが貴重な存在だったということか。本当に父、あなたは何者だったのですか。ただの人間族の冒険者が、骨董銃に不自然に容量のある背負い袋と、普通ではないですよ。
どのくらいの性能差があるのかは、現代銃を使ったことがないので分からないが、前世の時代で考えれば、私の銃が一次大戦や二次大戦で使用された銃であると仮定すると、現在出回っている現代銃は江戸末期から明治初期くらいの差はあると思われる。その差はざっと半世紀、五〇年以上はある。
少なくともハーフとはいえエルフ族の私からすると、五〇年はあっという間だ。しかし、それはあくまで必要に応じて技術発展が行われての五〇年であって、魔法が主流のこの世界では銃の必要性は低い。よって、実際は一〇〇年くらいの技術差があるのでないかと思われる。
まぁ、この銃は父の形見であることから、少なくとも一五〇年。下手したら二〇〇年以上昔の骨董品であることを考えると、一〇〇年どころの差ではないような気もする。
「ということで、弾が欲しいので作ってくれませんか?」
「……はぁ……分かった。形は良いが、素材は何だ?」
「後で教えますよ。文字はまだ少し不慣れですので、口頭になりますが」
「分かった。いくつだ?」
「この箱一つ分で良いです。ですので五発」
「あんたが一番鬼畜な気がしてきたよ」
失礼ですね。私はエルフですよ。決して鬼ではありません。




