61頁目 古代の文字と娘の寝顔
前回のあらすじ。
遺跡発見! 飛行機発見! 古代文字発見!
次回の投稿は明後日の予定です。
40話の後書きでチラッと名前だけ出ていたライヒ王国について言及します。皆さん覚えていますかね? というか後書きまで読んでいるんですかね?w
一応この物語、フレンシアが旅をしてその手記を残す話ですので、厳密に言えば後書きが本編です。本文はおまけです。
「それは何ですの?」
アネモネからの質問に、少し考えて答える。
「多分、古代エルフ文字だと思う。といっても私がそう呼んでいるだけで、実際に別の名称があるのかもしれないけどね。この服の模様を見てもらって良い?」
「わぁ、美しいですわね! アレ? これ、この石に掘られている形に似ていますわ」
「そう。この服の文字と思われる記号はね、私達の種族に代々伝わるものなの。とはいえ誰も読むことが出来ない失われた言語なんだけどね」
「誰も読めないんですの?」
「分からないわね。少なくとも私の故郷の人は誰も読めなかった」
あらゆる言語を操る言語魔法の持ち主ならば、もしかしたら解読出来る手立てがあるのかもしれない。しかし、現代では古代言語の解読に言語魔法が使われたという話は聞かないので、出来ないのか試す機会がないのかは分からない。
現代の主な使い方としては、リンちゃんの父親が外交官みたいな役職で他国と交渉する際に言語魔法を用いることくらいか。
用途が狭く、また他の魔法と違ってしっかりと勉強すれば魔法を使わなくても会話や読み書きが出来るようになるので、そこまで重要視されている訳ではない。翻訳機に頼るか自力で身に付けるかの違いだろう。
ちなみに、私はこの世界に生まれ落ちてから、少なくとも自我というものを持ったと認識した頃から既にこの世界の言語、少なくとも共通リトシ語を理解することが出来ていた。転生特典なのか、それとも元々そういうものなのかは未だに判断が出来ない。これを実証するには、共通リトシ語圏外へ行く必要がある。少なくともジスト王国、エメリナ王国、ソル帝国、後はベベリー王国の一部は共通リトシ語を使うことが分かっているので、その他の国となると……
「ライヒ王国かな」
「? どこですの?」
「この山の向こう側よ。私達がいた国との間にこの山がずっと壁のように続いているから、隣の国ではあるんだけど交流がほとんどなくてね。主に北西の隣国であるベベリー王国経由で情報を得るくらいよ」
「んーよく分かりませんわ」
「まぁ、そういった地理などに関してはゆっくりと覚えると良いわ」
「はいですわ!」
うん、素直でよろしい。
せっかくこのウェル山脈を降りれば反対側の国、ライヒ王国へ行けるのだから次の目的はそこにしようと決める。ただ、降りると簡単に言うものの、一枚の壁のようにある訳でもなく、いくつもの山々な連々と連なっているので、越えるべき山はまだまだある。よって、下の状況は全く分からない。
「今年中の下山は無理そうね」
「飛べばすぐですわよ!」
「いや、私飛べないし」
「そうでしたわ!」
本当に私の娘は規格外である。
しかし、ライヒ王国へ行って仮に言語魔法を使わずとも会話が成り立った場合、私は知らずの内に言語魔法を習得していたことになり、最大でも二つの魔法が原則のこの世界に於いて三つの魔法を持つ異端児となるかもしれない。
転生特典であらかじめ言語習得とかあったのかもしれない。世界を旅する目的なのだから、会話がスムーズに進むのは悪くないしむしろ良いことなのだが、どのように誤魔化すかということになる。
他国での活動中は回復魔法を使用しないようにするべきか。何だかまた面倒だが、自分がやりたいと決めたことなので妥協する。
会話が出来るならそれで良いが、次の問題は文字に関してはどうなのだろうかということ。こちらは、この世界に生まれてから父に教わりながら文字を覚えたので、恐らく共通リトシ語しか読み書きが出来ないと思われる。
言語魔法の持ち主は、会話だけでなく読み書きのスキルも魔法発動と同時に得られるはずなので、会話は出来るのに文字が読み書き出来ないというのは不自然だろう。ここはエルフ族特有の、習得まで時間が掛かるという言い訳を用意しておくことにする。
エルフ族は文字が書けないが定説であるので、多分それで通ると思う。
しかし、もしも私が言語魔法を使えたとしたら、この文字を読むことが出来たのだろうか。それとも魔法を使っても解読出来ない代物なのか。謎は多いが、自身のルーツに関わるものなので、機会があれば是非とも調査したい所存である。
「とりあえず記入しておくわ。これが文字なのかただの記号なのかは分からないけど、どちらにせよ正確に模写する必要があるから時間が掛かりそうね。アネモネは好きに過ごしていて良いわよ? あ、でもあんまり遺跡壊さないようにね。それと、何か気になることがあったらまた呼んで?」
「はいですわ!」
そう元気に返事をして、彼女はフヨフヨと浮かびながら遺跡の周りを浮遊していた。だからワンピースの中の下着が見えるから自重しなさい。
溜め息を吐いて、白紙の本のページと石壁に掘られた文字とを視線を何度も行き来させながら、ゆっくりと時間を掛けて記入していく。
そうやって次々と記入しては移動しを繰り返し、空中散歩に飽きたのか私の頭上で浮かびながら寝るという器用なことをする娘にまた呆れ、作業を続けていると日は沈み、辺りは暗闇に包まれていた。
暗いと思った時に、つい無意識に魔石灯を点灯させていたので気付くのが遅れてしまった。私はまだ寝ている彼女を起こす。
「アネモネ?」
「ふわぁ~あ、あぁ、お母様ぁ……」
「うん、可愛いけど、とりあえず夜になったから野営の準備しようか。丁度、遺跡の中なら雨風、いや雪風は防げそうだから中に入ろうと思うのだけど、危険はなさそう?」
「ん~大丈夫だと思いますわ。少なくともわたくしの魔力感知には何も引っ掛かりませんわ」
「ありがとう。私以上に頼りになるわね」
「そんな! わたくしはお母様あってのわたくしですわ! お母様がいらっしゃらなければ、わたくしなぞいる意味がございませんわ!」
「すごい慕われようね……」
「当然ですわ!」
「まぁいいわ。それじゃあ野営の支度するから手伝って?」
「はいですわ!」
まぁテントも調理道具も寝袋などもないので、ただ背負い袋から荷物をいくつか出す程度だが。それに今夜は寝ないで現時点で記入した文字の考察に入る予定だ。
淡い光を放つ魔石灯を横に置いて本を開く。そこには、今日一日見える範囲で書き込んだ古代エルフ文字と思われる記号がいくつも記入されていた。
「私の服のこの一文字とかこの文字? に似ているから、多分古代エルフ文字だけど……」
それの読み方や意味などはサッパリ分からない状態である。
前世でも聖刻文字や神官文字、民衆文字といった古代エジプト文字など古代言語は存在していたが、それが読める話せる人はいなかった。しかしその発展と思われるエジプト語などといった言語が現在にまで残っていたことで、ここはこういう意味ではないかと研究が出来ていた。
対してこの古代エルフ文字、私の知る限りでは、この文字を研究している人はいないと思われる。そもそも継承すべきエルフ族が、古代エルフ文字どころか文字そのものを損失するという退化を果たしたのだから研究するだけ無駄なのかもしれない。
私も何度も本に書き写した記号と、記憶にある共通リトシ語から共通点を見出そうとしても、全く繋がりが見当たらなくて、早々に投げ出したくなってしまった。
「うーん、分かんない!」
というか投げ出した。
「ん、お母様ぁ……」
「あ、ごめんね」
寝ていた我が子を起こしてしまいそうになった為、優しく頭を撫でてご機嫌を取っていると次第に安心したのか、また眠りに就いた。
アネモネはまだこの精霊としての身体を持って一日しか経っていない。にも関わらず、初日の夜は私が倒れてしまったことで看病してくれ、その翌日は岩人形の痕跡を一緒に探してくれて、それから戦闘訓練を行った後に、今度は山登りに結界の突破と、短い時間でその身体を酷使してしまった。
起きている時は元気が有り余っている様子であったが、見た目通りまだまだ幼いのだろう。幼い子供が公園で遊ぶ時に、まるで無尽蔵と思える程に走り回って親が疲れ果てるなんてのはよくある光景。そして、その後には突然電池が切れたかのように爆睡する。今の彼女はまさにそんな状態なのだろうと思われる。
「頭が良いから、つい無理させ過ぎちゃったわね」
普通の人間ならそうなのだろうが、この子は精霊。しかも私の魔力から生まれたからか、その身体の特徴にエルフに似た少し尖った耳がある。それによってエルフと同列に考えてしまい、魔力消費、睡眠の必要性などについて欠落してしまっていた。
「母親としてまだまだね」
そう、この子は魔剣として生まれたのは半年前、そして精霊の身体となったのもつい昨日のこと。幼くて当然なのだ。子供本人が気付かない信号をいち早く察知して、フォローをするのが親の役目だとするのなら、私はまだちゃんと親になりきれていない。
いや、別に親になったつもりはないのだけれど、こう何度もお母様と呼ばれれば、流石に意識はするし、あの無邪気な笑顔を見ると頑張ろうという気持ちになる。
「ん~お母様ぁ……」
こんな優しい寝顔な上で、寝言とはいえそんな甘えた声で呼ばれてしまえば、もう撃沈、轟沈間違いなしである。
ただ、普通の子供と違うことは……
「さっきもだけど、寝る時も浮くのね」
ずっと私の周りをプカプカと浮きながら寝ていることだろう。可愛いから問題ないと言えば問題ないのだが。
「浮いて寝るということは、俯せになっても苦しくないわね」
また、一部分への体圧の負荷から来る血流、酸素と栄養の滞りなどから起きる褥瘡、または床ずれと呼ばれる症状が発生することもない。完全無重力での睡眠が可能となれば、医療などに関わる業種にとっては非常に助かることだろう。
「さて」
古代エルフ文字が解読出来ないことからの、現実逃避というか夢物語に思いを馳せていたが、ちゃんと向き合うとしよう。アネモネの寝顔を見ていたら元気が出て来たので、もう少し頑張ろうと思う。
古代にエルフ族が使っていたと思われる文字と思しき記号を発見した。要調査。
フレンシアの手記より抜粋




