48頁目 海と魚人
前回のあらすじ。
昔の仲間に出会った。
次回の投稿は明後日になります。
海の描写は全て妄想です! きっとこんな感じだろうなと土器をムネムネさせながら書いています。それと作者は陶芸家ではありませんので土器は作れません。
エメリナ王国王都リギアに到着してから二週間が経過した。町に着いたばかりの頃は、まだかろうじて暑季の空気が若干残っていたが、今はもう七月も下旬。すっかり暦通り乾季である。
結局、エスキュードの願いは他のパーティメンバーの反対によって終わりを告げた。メンバーの中には、私と同じパーティを組んだ経験のある人もいて、当時の恐怖を知らない仲間に流布することで反対多数により解決したとのこと。というか恐怖って……疲れているなら来なくて良いって言ったのに無理矢理着いてくるからだよ。
その後、人柄は良いのだけどという、何とも微妙なフォローをされてしまった。
あれから私はいくつか依頼をこなし、ある程度の旅費を稼いだところで当初の目的を果たすことにする。
それは……
「海だーーーー!」
海である。
広い。大きい。綺麗。キラキラしている。これが潮の香りという物だろうか、町中でも漂っているので嗅ぎ慣れているが、いざ目の前に立つとその海という空気、圧力、何かこう大きな何かを感じて感動してしまう。
海側は崖になっており、城壁が階段のように崖下まで伸びている。
港は漁港にも軍港にもなっているようで、大小様々な帆船があちこちに停泊していた。
「何百隻あるんだろ……」
遠くまで続く港は圧巻である。途中途中で崖をくり抜いた巨大な穴があり、そこが船の製作や整備などを行う造船所兼ドックとなっているようだ。崖は北東へかけて大きくカーブするようにそそり立っており、港も地形に合わせて同じように三日月型に形成されていた。
この世界の船乗りは風魔法が使えることが多い。風を動力で進む帆船は、自然の力に左右されがちだが、それを風魔法で制御することで安定した動力を生み出すことが出来るのだ。しかし、船一隻一隻に風魔法使いがいる訳ではなく、主に軍属で軍艦一隻に最低でも一人か二人、旗艦や大型艦なら最低五人は確保しているとのこと。
一方漁船の場合は、中には代々風魔法が使える家系がいるにはいるが、全体で見れば半数未満だそうだ。それでも季節風に乗れば速度を稼げることから、帆船の需要はまだまだあるとのこと。
産業革命が起こったら風魔法使いは廃業だろうか。いや、軍艦に乗る人達は軍人だから、その能力も高いはず。戦力として残るだろう。
港から少し離れた南の方はリゾート地を兼ねているのか白い砂浜があり、海の青と対照的でしかしどちらも太陽の光を反射して眩しいくらいに輝いていた。
今は乾季であり、前世では秋に相当する季節であるので流石に海水浴をしている人はいないが、それでも海岸線を散歩している姿がちらほらと見受けられる。
私はブーツを脱ぎ去り、裸足となって打ち寄せる細波に足を浸ける。
「おお、ひんやり」
寒暖などに鈍感なエルフであるが何も感じないという訳ではなく、ただ暑さ寒さに強いだけ。よって、この海水も冷たいとは思うが別に耐えられないこともない。
「水が透き通っていて綺麗……」
もう少し水の中を進み、膝下まで水に浸かる。一歩一歩足を踏み出す度に白い砂が巻き上げられて一時的に足の周りにまとわり付くが、それも波に流されて再び底へ沈んでいく。
波打ち際だと足下の砂が攫われる感覚が気持ち良いが、数歩深みへ行くだけで感覚が全く違う。
海とは、砂浜のある海岸とはこういうものだったのかと感動を覚えている。
遠くを見れば空の青が海面に反射して、そして時折波によってはじき出された水滴が太陽光に照らされ宝石のようにキラキラと輝く。しかしふと足下へ視線を下ろすと、自身の足がハッキリと見えるくらいの透明度の水。
こんなに良いものなら、青春時代に一度は経験しておけば良かったと思う。覚えてないだけで経験していたのかもしれないが……
人間族達からすれば暑季も過ぎて乾季真っ只中の海で水に足を浸けて遊んでいるのが変なのか、それとも普段から見慣れた海ではしゃぐ人の姿がただ珍しいのか、いずれにしても妙な視線を集めているのに気付いた私は、途端に恥ずかしくなって海から出る。
濡れた足のままブーツを履く訳にはいかないので、しばらく砂浜に足を投げ出して座る。涼しい風が吹いているが、海沿いとはいえ乾燥しているのでその内乾くだろう。
このまま海岸線沿いに数日掛けて南下していけば、隣国のソル帝国へと通じている。
「そういえば、あの島って魚人島って話していたっけ」
海を隔てて水平線沿いにわずかに見える所に一つの大きな島が見える。
マルンド島とか名付けられていたはず。人間というのは、本当に何でも名前を付けるのが好きなのだなと思う。
あの島には魚人族が住んでおり、人間のような魚のような種族らしい。男性は全身が魚と融合した感じのまさに魚人という風貌だとのことだが、女性は上半身が人間族に非常に近く下半身が魚という典型的な人魚であると聞く。しかしこちらの世界では人魚という呼称はなく、全てが魚人と統合されている模様である。獣人族に対して魚人族ということか。
姿形は同じでも、この世界には人魚も人魚も人魚もいないということになる。残念だ。
「まぁ呼び方が違うだけで、普通にいるみたいだし」
どんな種族か見てみたいかな。
というか海の種族なのに島に住んでいるのか。どのような陸上生活を営んでいるのか、興味がある。しかし、魚人島への立ち入りは魚人族の長の許可を得ないと無理らしい。一応、島民が気に入った同性であればそこまで厳しい罰はないそうだ。
「同性……」
変な想像をしてしまうが、別にそういうことではない。
町の人に話を聞くに過去数百年前、魚人族が男女問わずに気に入った異性の人間族や獣人族を攫ってしまう事件が多発したとかで、人間族だけでなく魚人族側もこのことを重く受け止め、同性であればそこまで事件化には発展しないだろうとのことで、そう取り決めされたそうだ。
関係を断つのはお互いに良くないとのことで、こんな不思議な決まりが出来上がった。なので、外部の者が島に上陸するのに島長の許可が必要な理由というのは、別に余所者を排除しようという動きからではなく、自分から首を突っ込むのだから事件になっても文句言わないでね。ということから来ている。特に人間族の男性には注意喚起されているようだ。
まだ会ったことないけど、物語に出てくる人魚……魚人族の女性はエルフ族同様に美人が多いとのことで、その美貌で誘われたらホイホイとついて行ってしまうのかもしれない。特に漁師は男所帯だし、万一漂流してしまった時に助けられたら惚れてしまうこと必至だろう。
「どんなに良い王様でも、色と酒に溺れて国崩壊とかあるからねー」
長い歴史の中でもそれは変わらない。
誘惑は女性だけでなく男性でもあるのだ。女王だからと油断していたら、国が傾くことも十分あり得る。
一方で、軍属はそういった心配は少ないようだ。軍規もあるだろうが、そもそも兵士には冒険者上がりの者も非常に多く女性の数も多い。
冒険者は色々と夢があるが、収入は安定しないので途中で兵士に転職する例も多くある。メトヌタが良い例だろう。ある程度の活躍があれば兵士として雇ってもらいやすいし、国によっては身分よりも実力ということで平民出身でも出世が見込める為、冒険者を引退した後の軍は理想の職業なのだろう。
そんなことをぼんやりと考えつつ沖合を眺めていたら、海面で何かが飛び跳ねる影が見えた。
「魚?」
もっとしっかり見たいが、単眼鏡は宿のリュックサックの中だ。私は目をこらして水中へ消えた影の行方を追う。
「また出てこないかな……」
その呟きが届いたのかどうかは分からない。しかし、その声を発したタイミングで、再び遠く、しかし先程よりも近い距離で何かが水面を飛び出した。
大きい。魚ではないのだろうか?
そう思った矢先に、その後ろからとんでもなく大きな何かが飛び出して来た。
「は?」
絶句するしかない。何なのだあの大きな……魚? 竜? もしかして怪物か?
周囲の人々も海の異変に気付いたのか、口々に騒いでいるのが聞こえる。
その中の単語に、引っ掛かるものがあった。
「海蛇竜……? って、リヴァイアサン! それともシーサーペント!」
一角獣に続き、この短期間で立て続けに前世で有名な幻獣をこの目で見ることが出来るだなんて、すごくラッキーだ。いや、まだどちらとも決まった訳ではないし、どちらにも該当しない何の関係もない怪物かもしれないが、あの姿を見たら普通どっちかだろうと思う。
周囲の人々は恐れて逃げ出している者もいるが、私はもうあの海で暴れている巨竜の姿に釘付けだ。
海で遊ぶことが目的だった為、濡れるのを避けるべく本を持ってこなかったのが残念だ。この光景を目に焼き付けて、しっかり記録に残したいと思う。
それにしても、何かを追い掛けている様子だが一体何なのだろうか。
周りから人がいなくなってからも砂浜に座って海の様子を眺めていたら「あれ?」と思わず疑問が零れる。
「もしかして、段々近付いてきてる?」
海蛇竜に追い掛けられている何かの影が見えてきた。
「あれは、人影……? いや、魚……もしかして魚人?」
しかも上半身が人型、下半身が魚というまさに人魚。ということは女性か。
大変だなーと他人事のように見ていたら、次の瞬間、ものすごい勢いで空中を飛んでこちらへ突っ込んできた。
「へぇあっ?」
「うわああああああああああああああああ!」
女性が出して良い声ではないが、そんなの気にしている場合ではない。というかあの魚人も何か叫んでいるが無視だ。慌てて腰を上げて退避したところで、今まで私がいた場所に何かが叩き付けられ砂が勢い良く飛散した。
顔面から砂浜に突っ込んでいるが、生きてはいるようで、時折ピクピクと動き両肩も上下していることから呼吸も出来ているようだ。
浜に俯せで打ち上げられている状態だから顔は見えないが、上半身は人間の肌のように、いやあまり日差しに当たっていないのかそれとも体温が低いのか色白い。服装は水着のような物ではなく、白いワンピースっぽい。肌の色と相まってすごく清楚に見えるが、先程の叫びを聞くに期待は出来ない。
下半身に目を移すと、ワンピースを着ているのにパレオのような腰巻きっぽい布が巻かれていた。こちらはワンピースの無地の白一色なのに対し、青や橙、白や黄色といった様々な色が複雑な模様で彩られた物になっている。アロハとかこんな感じのデザインじゃなかっただろうか。
髪は薄い桃色のセミロング。下半身の魚の部分も髪の色と同じように桃色をしていた。顔は見えないが、人間の耳に当たる部分は耳ではなくヒレのような物があり、私達エルフ族のように長い。
「あの……大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないわよ! 何で避けるのよ!」
「いや、避けるでしょ普通」
危ないもん。
というか、顔を見るとやはり可愛い。目の色は透き通る海のような青色。とはいえ、美人というよりまだ幼さが残る可愛い系。しかし怒りからか元からか、目は釣り上がり頬を膨らませている。
魚人族を見るのも話すのも初めてなので、是非とも交流を持ちたいが、その前に何故アレに追い掛けられていたのか。そして海蛇竜とは何かを知ることを優先させる。
獲物? が浅瀬へと逃げたことで追うことが出来ず悔しそうに沖合で暴れている巨大な怪物を指差して、隣で怒っている魚人の女性へ話し掛ける。
「あれは何ですか?」
「はぁ? あんたシーサーペント見たことないの?」
「シーサーペント!」
「な、何よ。突然叫ばないで」
あれがシーサーペントか。なるほど。大きいなぁ……先程エメリナの軍艦を見た時にその大きさに圧倒されたが、あれはそれを優に超えるであろう大きさだ。
「私、内陸出身でずっと海を見たことがなかったので、感動です」
「感動する訳ないでしょ! アッチ食べられそうになったのよ!」
「そうでした。何で襲われていたんですか?」
怪物は、特に肉食系になると気性は荒い個体が多い為、無闇に近付くことはしてはいけない。となると、彼女が誤って縄張りに近付いてしまったのだろうか。しかしあれだけの巨体だ。おそらくこの辺りの海域全てが縄張りと予想すると、逃げ場がない。運が悪かっただけか。
そう一人で結論を出したが、魚人の少女から告げられた言葉に私の思考は停止してしまう。
「えぇと、その、シーサーペントのご飯を横取りしたから……」
「……はい?」
聞き返してしまった私は悪くないと思う。
「何故、どういった経緯で、海蛇竜のご飯を横取りする自体に発展するのですか?」
「あー、あのね、仲間の中で誰が一番勇気あるかって勝負になってね。それでアッチがシーサーペントに悪戯するって言って……」
「本当にやってしまったと」
「だって、出来なかったら勇気ないって言われるし!」
「はぁ」
それは怪物でなくても怒る。横取りをしたのは海蛇竜が食べようとしていたダイマオウイカだそうだ。大王じゃなくて大魔王なのか。
話を聞くに、この世界特有の魔法が使える超巨大なイカらしい。魔法が使えるダイオウイカということか。ということは、その生息地って……
「アレって深海に住んでいるんですか?」
「そうよ。真っ暗な海の中で、いかに怖がらずに自分の勇気を示せるかって遊びよ」
季節外れの肝試しですか。しかも命賭けているとか、馬鹿じゃないだろうか。むしろ、そういったハラハラドキドキするスリルを味わう娯楽のない世界だから、必然怪物にちょっかいを掛けるようになったのかもしれない。
うん、やはり馬鹿としか言いようがない。ただし彼女達は真剣に遊んでいるのだから、たちが悪い。
というか深海にいたのに、そんなに急激に海面に飛び出て減圧とか大丈夫なのだろうか。魔力に守られているのか、水生生物だからか、他に理由があるのか。少なくとも目の前にいる彼女も、沖合で暴れている巨大生物にも影響はないようだ。
話を聞いている間に、海上では動きがあったようだ。
目を向けると、数隻の軍艦が出航して巨大な海蛇が暴れる海域へ向かっていた。これだけの近海であれだけの巨体が動き回っていたら危険なのはそうなのだが、元はと言えばここにいる少女が原因だ。
捕獲は無理だろうし、追い払ったとしても戻ってくる可能性が大きいだろう。そうなると倒すしかないのだが……アレを倒すのか。犠牲者が出ないことを祈るばかりだ。
しかし、そのつもりがなかったとしても結果的に他人に迷惑を掛けることとなったのだから、彼女には反省してもらう必要がある。
「私はフレンシアです。あなたの名前は何ですか?」
こういう人は、名前を聞くとまず名乗れというのが定石だ。相手の揚げ足を取って会話の主導権を握ろうとする。相手にそのつもりがあろうとなかろうと関係ない。まずはその出鼻を挫く。
「アッチ? アッチはシェリシュよ」
アッチは名前じゃなかったのか。私などの一人称を差す言葉で良いのだろうか。彼女に限らないが、この世界の住人は一人称が独特な人が多い気がする。種族か育った環境かは分からないが、一々気にしていても仕方ないので横に置いておく。
とりあえず、前世の頃の自身の一人称が変わる切っ掛けとなるのは、アニメや漫画の人が一定数いると思う。一時期でも拙者とか某とか言っていた人は絶対に、二次元が原因だと思っている。そして痛さに気付いて、私や俺、僕などに矯正されるのだ。
「分かりました。では、シェリシュちゃん。あなたにそのつもりがあったかどうかはこの際どちらでも良いです。考えなしの行動の結果がどうなったのか、それを自身の目でしっかり見て下さい」
そう言って私は軍艦数隻と海蛇竜が対峙している様子を指差した。
艦隊からは弓矢や弩弓といった飛び道具に各種攻撃魔法と思われる物が発射され、それを受けた海の暴れん坊は海上で身を捻らせながらのたうち回りながらも、口から水弾や水線を出して応戦するなど、必死に抵抗を見せる。
しかし、怪物の強力な攻撃も複数人による防御魔法によって相殺されているのがこの距離からでも分かる。かなり腕の良い術士が、それも何人もいるようだ。
「あ、あ……」
私が指差した先を見て初めて気付いたのか、戸惑ったような泣き出しそうな表情をする。罪悪感があるだけまだ良いか。
戦闘の方は、このままエメリナ艦隊が制圧して終わるだろうが、解決すれば問題ないという訳ではない。
今回一人の、いや集団での肝試しが原因ではあるのだが、犯行声明を出したのも実際に実行に移したのも一人なので、彼女の責任になるのだが、見た感じ未成年だ。となると……
「親に言って、各方面に謝るしかないですね」
「ふぇ!」
怯えた顔をするが、まぁ悪戯をしてそれが親にバレて怒られるというのは、誰しもが経験した嫌な思い出だろう。
この世界では父は私がエルフの年齢ではまだ幼い頃に他界してしまったし、母のアリンはあぁであるし、何より前世の記憶と人格を既に持っていた私にとって良い子でいることはさほど難しいことではなかったので、今世ではまだ経験はない。まだというか、これからもするつもりはないが。前世は覚えていないので知らない。
「はぁ、私も一緒に行って謝ってあげますから行きましょう?」
「え、えーと……」
「まずシェリシュちゃんの親に報告し、それから族長さんですね。それと、エメリナ艦隊の……出来れば指揮官程度の身分の人に謝れれば良いですが、そこはこちらに戻ってから考えましょう」
「うぅ……はい」
随分としおらしくなってしまった。
今回、私がこの役目を自ら買って出たのには当然理由がある。それは、魚人島に行ってみたい。ただそれだけだ。しかし、私個人では海を渡ることが出来ない。仮に手段があったところで、あんな巨大な海洋生物がいる中を進もうとは思わない。そこで文字通り水先案内人として、この魚人の少女に連れて行ってもらおうという考えだ。
本来なら面倒だからと頼まれても断るものだが、彼女達の生態が知りたいという興味は私を駆り立て、自ら進んで面倒事を無理矢理奪い取って行おうとしている。
人として完全にクズである。こんな幼気な少女を脅して家へと踏み込もうというのだから、世界が世界なら逮捕されるだろう。幸いなことにこちらには大義名分があるし、この程度なら法には触れない。
客観的に見て、魚人と関わって一緒に島に行くのに人間側の法律では裁くことが出来ないのだ。まさか魚人を脅して島に行こうなんていう人が現れるなんて、夢にも思わないことだろう。
「分かったわ。うん、覚悟を決めた。いいわ、好きにしなさい」
「何で謝る側が偉そうなんですかね……」
相変わらずの様子だが、反省はしているようで目尻に涙がポチッと付いているのが見えた。まぁ、こんな幼子……幼子というには成長しているから少女か。少女を脅したことに何も思わない訳ではない。親に言い付けると言っただけだが。だが、私は悪魔ではないのでちゃんと謝れたら何かご褒美でも挙げようと思う。
島への移動は、私が小舟に乗って、それをシェリシュちゃんが引っ張るのだそうだ。小舟の大きさは精々が二人分程度の本当に小さな船であるので、重いことはないだろうが、引っ張るのが彼女一人というのが不安だ。しかし、そのことを告げると一瞬キョトンとした顔をするも、すぐに笑って大丈夫だと自信満々に言った。
「だって、アッチ、アイツのダイマオウイカ盗んだのよ? それくらいの力はあるわ!」
なるほど力は十分あるらしい。ただし彼女がしたことは威張るようなことではなく、またそのせいで今から謝りに行くことを、ちゃんと分かっているのだろうか。
魚人島に行けるのであれば何でも良いが。
ちなみに、この小舟は、シェリシュちゃんの了承を得た後に港へ戻った時に借りた物だ。ただ港で働く人達に魚人島へ向かうことを話すと、一様に心配の声が上がったことに戸惑ってしまったが、何度も大丈夫だと答えると「襲われそうになったら逃げるんだぞ」と忠告された上で貸してくれたのだ。というか本当に魚人達、過去に何してきたのさ?
それから船を引っ張ってもらいながら、のんびりと半刻程の船旅を楽しんだ。
途中、大方事件を解決したエメリナ艦隊が撤収していくのを見て、船に備え付けの武装が弩弓のみだったなと思い出す。
この世界では、まだ大砲の実用化に難儀しているようで、火薬を用いた武装といえば投石機といった迫撃砲スタイルで使われることが多いと以前見聞きした。そして、その投石機も量産体制に入っているのは近隣諸国ではソル帝国のみであるらしい。
まぁ他国の武力に関しては首を突っ込むべきではないので、あまり深く考えないことにする。
そうこう考える内に、島に到着した。
上陸の際、シェリシュちゃんの下半身が人間の足へと変化し、裸足のままスタスタと歩いて行く。彼女がパレオのような物を巻いている理由が分かった。ワンピースだけだと下半身、不安だもんね。人間の姿になった時に下着がないので、局部を見せないように巻いているのだろう。
ちなみに、先程、砂浜に打ち上げられた時はそれどころじゃなくて忘れていたとのこと。自身の魔法で切り替えているのか。興味深い。
私は、シェリシュちゃん案内の元、魚人島へと足を踏み入れた。彼等が一体どんな生活を営んでいるのか、今からワクワクが止まらないのであった。
生まれて初めて海を見た。感動した。
エメリナ艦隊を見た。感動した。
海蛇竜を見た。感動した。
魚人に会った。感動……した?
フレンシアの手記より抜粋




