39頁目 商業の町グリビと魔石灯:前編
前回のあらすじ。
盗賊団と戦った。
前編です。後編は明日の投稿となります。
作者は田舎者ですので、カプセルホテルなるものを利用したことがありません。
ネカフェや漫喫も同様です。
そもそも休みの日はほとんど家から出ないので、そういったものを利用する機会がないだけです。
遠出もしないですし、出掛けても近所のスーパーで買い物くらい。
せっかくの愛車が泣いていますが気にしません。
エメリナ王国に入り、護衛の目的地である町、グリビに到着した。あれから若干計画を早めて日の出前に出発。無事夕方に正式な入国手続きを行うことが出来た。
交易の町グリビ。ジスト王国の王都レガリヴェリアとエメリナ王国の王都リギアを結ぶ交易の中継点。双方から人や物資が大量に行き来し、それのほぼ全てが一旦この地に集められることから、王都リギアに並ぶ大都市となっている。
人口もレガリヴェリアに迫る勢いで増加しており、ジスト王国にしても周辺地域の中で最も大きな顧客である。
「さて……」
ギルドへ赴き、依頼達成の手続きを行っていたのだが、いかんせん商隊の数が膨大で、当然その分冒険者パーティの数も多い為に審査一つ取っても時間が掛かることは必至であるのだ。そしてつい先程、ようやく順番が回ってきて無事に収入を得ることが出来た。
「お疲れ様でした。また機会がありましたら是非一緒に依頼をしましょう」
「あぁ助かったよ。むしろこのままウチのパーティに加入しないかい?」
スパスさんが年季の入った手を差し出してきた。しかし、その手を取ることは出来ない。
「申し訳ありませんが、私は私の旅がありますので」
「まぁそうだろうね。いや気にしないでくれ。あわよくばってね」
そう言ってあっさりと手を引いた彼女は、変わらず笑顔を向けてくれた。
「それじゃあ、気を付けるんだよ? お前さんの方が年上というのは理解しているが、いかんせんその見た目じゃあねぇ」
「いえ、ありがとうございます」
何故か年下に心配されることが多い。
日頃の行いのせいだとは思うのだが、それでもこちらの方が一応年上なのだ。それなりに敬意を払ってもらっても罰は当たらないとはずだが……おそらく無理だろう。
彼女達のパーティとはここでお別れだ。スパスさん達は皆、ここグリビ出身でグリビギルド所属なので拠点となる家があるのだそうだ。
「それでは、お元気で」
「そちらもね」
七人はまだギルドでやることがあるということで、私だけ一足先にギルドを出る。
「まずは宿探しね」
夕方で、一度にこの数の商人や冒険者が雪崩れ込んできたのだ。少しでも良い宿はどこも争奪戦であろう。彼等の半数以上がエメリナの人間だとしても、全員が全員ここに家がある訳ではないのだ。大きな商会などなら自前で拠点を持っていてもおかしくないだろうが、それも一部だろう。
ということで、私は少し出遅れて宿探しとついでに夕焼けに照らされる町並みの散策と洒落込むとしよう。
それから、段々と日が地平線の向こう側へ隠れていく頃、ようやく宿を見つけた私は背負い袋と布で包まれた狙撃銃を部屋に下ろした。
「やれやれ」
狭いながらもどうにか個室を借りることが出来たことに、ホッと溜め息が出る。
肉体的疲労はないが、精神が気付かない間に疲れがあったのだろう。自覚はなかったが、こうして椅子に座ることで一息吐くことが出来て安心している自分がいた。
魔剣ノトスの収まっている鞘、弓と矢筒も取り外し、ベルトも抜く。それからは鉄火竜のジャケットと民族衣装、ブーツと手袋、そして首にずっと巻いている防塵用のスカーフとゴーグルも全て、髪を束ねていた紐すらも解いてインナー姿となってベッドへ寝転がる。
眠気はない。
ついに知らない土地へ来たのだと思うと、何でかすごいと思って興奮してしまうのだ。
「外国に来たっていう実感は沸かないけどね」
陸続きでただひたすら馬車に揺られてきただけだ。確かに国境線は越えたし、その目で線となる川の跡も見たが、今一ピンとこない。
しばらくボーッとしたところで「よしっ」と上体を起こし、武器や防具の手入れを始める。特に狙撃銃は念入りに。何せ発砲自体が数年ぶりだったのだ。一応日々整備を欠かしていないとはいえ、ちゃんと弾が発射されるか心配だった。
あの時は矛盾竜の正面装甲を破るにはノトスか鉄砲しかなく、弓矢では火力不足だし魔法だって周りの冒険者に当たったらと思うと無闇に使えない。そもそも一瞬で意識を刈り取るか殺すしかないのに、私の雷魔法では行動を制限させるだけで精々だ。時間を掛ければ鉄火竜の皮膚すらも貫通する魔法を使うことが出来るが、あの場ではそんな悠長なことしていられないということで、ライフルを手に取ったのだ。
「威力もあるし応用も利きやすく万能だけど、微妙に難しいのよね……これが器用貧乏って奴かしら」
今使える雷魔法の種類としては、攻撃、索敵、防御、拘束、加速、付与がある。既に魔法図鑑に載っている魔法よりも遙か倍以上の雷魔法を習得している私だが、そのどれもが中途半端だ。
微妙に威力が足りないか、下準備が必要だったり発動まで時間が掛かったり、もしくは使用後に何らかの制限が掛かると中々にピーキーである。
攻撃面はノトス、弓矢、狙撃銃があるので問題ない。
防御面もある程度は防具で何とかなる。耐物理なら鉄火竜のジャケットがあり、耐魔法でもエルフ伝統の民族衣装がある。まぁ四肢はむき出しなので、そこを攻撃されたら困るが、私には回復魔法もあり、たとえ腕が千切れたところで治すことが出来る。そもそもエルフ族であるので、そこそこの魔法耐性はあるのだ。自身の魔法で自爆していることが多いのは、耐性を超える程の威力があるからだろう。制御も不十分と追加しておこう。
索敵はこれ以上の発展は見込めないと思う。これよりも上に行くとなると、もっと明確なイメージが必要なのだが、私はそこのところが貧弱なのか、現状のなんちゃってセンサーに頼るしかない。今後の旅の中でヒントが得られることに期待する。
付与は問題ない。あるとすれば、ノトスに軒並み魔力を吸い取られて魔法酔いしてしまうことだろうか。魔剣の性能にリミッターを掛ければ一応の解決は見えるが、それではノトスが可哀想だ。ここは私自身が努力して克服するしかない。
問題は、拘束と加速。拘束は魔法陣と投げナイフなどの道具を使用しなければ安定した拘束力は発揮されないし、加速も自身の肉体を物理的に引き千切りながら無理矢理動かしていることになるので、色々と非効率的だ。
「うーん、上手く想像が出来ない……」
一応オリジナルで呪文を書き出しては、何度も読み直しているのだが、何かがズレているようでモヤモヤする。当然、魔法も発動しないか失敗に終わる。
こういう考え事をする時は、大抵魔法薬用の薬草を薬研でひたすらすり潰すなど何かしながらぼんやりと考えるのだが、道具類を出すのは面倒だし、そもそもそれ程作業スペースもない。
個室というだけで宿を取ったのだが、ベッドとちょっとした荷物を置く場所がある程度。
前世のカプセルホテルよりは広さ的にはマシとはいえ、あちらは冷暖房完備でインターネットに繋げることが出来たり、テレビが観られたり、中にはドリンクバーやシャワー付きなど割と至れり尽くせりなので、どちらが良いかといったら比べるまでもないだろう。
武具の整備点検も終わったし、魔法薬作りも出来ない。本を読もうにも燃料を買っていないのでランプの明かりがない。薬草をすり潰す作業だけなら数十年ひたすら繰り返してきたから、見えなくても触感や匂いで分かる。
魔石灯を買うべきだろうか。大きな町のギルドなどの大型施設なら割と行き届いているし、鉱石の産出地であるジスト王国は特に王都で街灯でも一部では魔石灯が使われているのだが、いかんせん値段が高い。どれくらい高いかは魔石の純度にもよるが、一般のランプの光量と同じだけの明るさを求めるとなると、一〇倍以上の値段がする。
魔力が続く限り点灯時間は持続し、魔力が切れてもまた魔力を注げば再点灯も可能とかなりエコで、何より燃料となる油を買う必要がないので長い目で見ればお得だ。
「うーん……」
明日、町の散策のついでに探してみるか。
長く滞在するつもりはないが、何故か毎度それで足止めがあり、結局何ヶ月も居座ることになってしまっている。
たとえ、フラグだったとしても、今度こそはちゃんと早めに町を出て王都リギアに向かいたい。
「海……」
そう、海が見たいのが理由である。
この世界で生を受けてから、一度も国を出たことがなく、内陸の王国であるジストでの生活の中で海を見る機会などあるはずもなく、そもそも絵はあっても写真や映像もない時代だ。なので間接的に楽しむことも出来ない。
前世でも恐らくぼっち社畜であったであろうと予想される私は、多分だがリア充が多くいる海というのは憧れと同時に畏怖の念を抱く場所なので、きっと行ったことがないかその数も非常に少ないと考えられる。
もちろん見たいのは漁港ではなく、リゾートのような砂浜の海岸。漁港も魚の水揚げの場面など、文化的価値として見るべき所は多くあるが、まずはこの数少ない女子力を少しでも発揮すべく、白い砂浜の海を見るべく王都へ向かうことを決意する。
そうと決まれば、やることもないので寝ることにする。もうとっぷりと深夜なので、そう何刻も寝られないだろうが、一刻、二刻でも私は問題ない。ただずっとボーッとして無駄に時間が過ぎるのを待つのが嫌なので、寝るという行為で暇潰しをすることにした。
「おやすみなさい」
ベッドで横になり、誰に向けるでもない挨拶を虚空に吐き出して目を閉じた。
とりあえず、国境を越えて無事に町に辿り着いたことで一息吐くことが出来る。
まさか、盗賊団の襲撃に遭うとは……そのことで、パーティの隊長に笑われてしまった。
私に何か良くないものが憑いていなければ良いのだが……
フレンシアの手記より抜粋




