38頁目 盗賊団と矛盾竜
前回のあらすじ。
未熟な若い冒険者へ先輩からのアドバイス。
次回の投稿は明後日になります。
しばらく平和が続いていたのでテコ入れ。
そろそろ出番をあげないと、本当にただの飾りになってしまいますから。
ということで投稿開始して38話にしてようやく登場です。
ジスト王国とエメリナ王国の国境。シジスセ草原に流れる川の跡がそのまま境となっている。雨季になると水が流れて川になるが、今はカレンダー上では乾季だ。まだその兆しは見られないが、直にこの暑さもなりを潜めるようになるだろう。
私達のいる隊からでは、その国境を確認することは出来ないが、先頭集団が止まったことで国境が近いことが窺える。
まだ太陽は空にあるが、それももう後半刻もあれば沈み、辺りは暗闇に包まれるだろう。その為、今の内に野営の準備をしなければならない。
「よーし、お前さん達支度するぞ。荷を下ろせ」
「「「「「はい!」」」」」
スパスさんが指示を出し、それを受けて若い冒険者達が商人の手伝いをしたりして準備を行っていく。
パーティの副リーダーである狐型獣人のセカンさんは、薪を手に火起こしを行っている。
これだけの大移動だ。暗くなったとしてもその存在は目立つ。故に焚き火を多く焚いて、灯り取りと警戒しているというサインを周囲に示す。
「どう?」
私は左腰に下げた鞘に収まっている魔剣ノトスに問い掛ける。
皆が下で作業している時、私は一人見張りとして馬車の幌の上に残って辺りを見渡している。
目視での確認がもうすぐ出来なくなるので、見える範囲だけでも事前に地形を把握して頭に入れておく必要がある。もし襲撃があり撤退などになった時に、より有利な場所に逃げられるようにする為だ。
ノトスは退屈と言うように、私の周りの風を若干乱す。
芸術祭などが重なり、ほとんど剣を使う依頼をこなしていなかったのが不満らしい。
「何もないのが一番なんだよ」
呆れて柄を撫でつつも笑顔が零れる。
幌の上に座り、馬車の中に置いてあった自身の荷物の中身のチェックを行う。特に魔法薬類は大事なので、状態に問題がないか目で見ておくのが大事なのだ。
そして布に包まれた一本の筒を手に取る。
父の形見の一つである狙撃銃。ボルトアクション方式の若干古臭い見た目。それはそうだ。何せ一〇〇年以上、下手したら一五〇年以上かもしれない骨董品だ。その為、手入れは常に念入りに行っている。油差しや木組みの交換、サビ止めなど出来るだけ自身で行っている。銃本体の整備が終わったら次は弾だ。セットされているマガジンだけでなく、予備の弾薬の一本一本を見、磨いて元に戻していく。
いつもの作業。毎日やる訳でも決まった間隔がある訳でもないが、出来るだけ間が空かないように注意して整えている。いざ出番となった時に暴発となったら目も当てられない。
整備を終えたら再び布で包んでおく。武器というよりお守りなので、使うことがないことが一番である。
どうにか日が沈むまでには全てを終えることが出来た。その頃には、各地から良い匂いが漂ってくる。夕食の時間だ。
「フレンシア、お前さんはどうする?」
幌の上でぼんやりと過ごしていると、下からスパスさんが声を掛けてくれた。
「私は食べませんので皆さんでどうぞ。それと私はこのまま見張りを続けます。夕食が終わりましたら、銅ランクの方を順番に私の所へ来るように組んで下さい。夜間の見張りの指導を行います」
「助かる。わたしもセカンも口では教えているが、実践となると中々難しくてな。特に一晩中就いている訳にもいかないし」
「仕方ないですよ。それに、せっかくの合同任務ですのでこの機会をしっかり生かして下さい」
「分かった。こちらで順番は決めておくが、希望はあるか?」
「特にないです」
「よし、それじゃあ今から早速一人送るが良いか?」
「良いですよ」
そうしてやって来たのは、最後尾の馬車に乗っているドワーフ族の青年マイバーだ。
「よろしくお願いします」
「はい、それじゃあ一刻の間、頑張りましょう」
「はい!」
それから二刻経ち、今は前世時間で一〇時前後だろうか。空は雲少なく星が綺麗に見えるおかげで時間の把握が行いやすい。
見張り練習のローテーションは二度目の交代を行い、昼間一緒に見張りをしたジョスへと回ってきた。
「またお願いします」
「大丈夫ですか? 眠くないですか?」
「大丈夫です。仮眠しましたので」
「無理しないように」
「フレンシアさんがそれ言いますか?」
確かに私は一晩の間、番をしている予定だ。眠らなくても平気だというのが、エルフ族の特徴だと分かっていても心配になるのだろう。
「ふふっそれじゃあ始めましょうか」
「はい」
相変わらず幌の上で星を眺めながら過ごす。
夜は視界が利かないので、聴覚などの別の感覚を研ぎ澄ます必要がある。私は聴力には自信がある上、索敵範囲は狭いながらも電流網で生物の範囲内侵入くらいは察知出来る。かといって油断している訳ではない。風向きによっては音が流れにくくなっていたり、電流網も範囲制限のせいで全ての野営地をカバー出来なかったりと万能ではない。
索敵専門の魔法などがあれば便利だが、そういった人材に限って国お抱えで自由に動けなかったりする。
軽くアドバイスをして実践させてはいるが、やはり何もしない時間の方が多いので、必然雑談が増える。しかし馬車の中で寝ている人達もいるので小声で行う。
それから半刻程経った頃、残り半分で交代というところで、今一度確認でジョスに索敵をやってもらう。それに合わせて私も一緒に行い、ミスがないかチェックする。
基本に則って行っているようで、問題ないみたいだ。
「うん?」
しかし違和感がある。
音での察知でも電流網への引っ掛かりでもない。勘というか第六感に近いが、何か変という感じがした。
単眼鏡を取り出して見える範囲の焚き火を確かめていく。
「どうしたんですか?」
「静かに」
「?」
何が何だか分からない様子のジョスを黙らせ、全神経を尖らせて感覚を頼りに周囲に気を配る。
これは、遠くから何かが移動している。
「あれは……シカ?」
「え、シカ……ですか?」
彼女には申し訳ないが、無視して状況を見ていく。私達の隊より少し離れた場所、おそらく先頭集団に近い位置に向かってシカが一頭走って……いや、一頭ではない。
「あの速さ、そして火を焚いているのに接近してくるということは……」
何かに追われている。そして横に逃げない辺り逃げ道が塞がれている。
「戦闘準備!」
思いっ切り叫んだ。
その声と同時に、夜間の最低限の見張りしかいなかった馬車の集団へシカの群れが突っ込み驚きなどの叫び声が上がる。
「どうした!」
「姿は見えないですが敵です! 全員起こして下さい!」
「分かった!」
真っ先に馬車から飛び出して来たのはリーダーのスパスさん、続けてセカンさんだ。
「お前さん達起きろ!」
「ひゃ、ひゃい!」
「うげ、何ですか……」
私達の隊だけでなく、私の声を聞いたり異変を感じたりした周囲の商隊の護衛が武器を手に警戒する。流石に鍛えられているだけあって、その動きは素早く周囲を見渡していた。
そして、すぐにそれは来た。先程シカの群れが突っ込んだ先頭集団に。
「狼鳥竜! 複数体! 数は不明! 先頭集団に襲い掛かっています!」
「本当か! 彼等も付いていないな」
「いえ、運は関係ないと思います」
「どういうことだ?」
「統率が取れすぎています。シカの群れをあえてここに誘導して、混乱したところに更に狼鳥竜が襲って先頭を抑える」
ここまで説明したところで、スパスさん達の顔色が変わる。
「まさか調教魔法か!」
「可能性の話です」
「となると盗賊団が近くにいる。お前さん達周囲の警戒を厳としろ!」
「「「「「はい!」」」」」
「ジョスさんはここに残って索敵、私も残ります」
「はい」
商隊の列の前方では相変わらず戦闘は続いているが、彼等も一流の冒険者だ。体勢を立て直してしっかりと応戦しているようだ。
「これは……」
最初に気付いたのは狐型獣人のセカンさんだ。地面に耳を押し付け、何かを探っている。
「気のせいじゃない。こっちにも近付いているぞ! しかも大きい! 数も複数!」
それを聞いて私達に緊張が走る。すぐに私の耳にも音が届いた。それは地鳴りを起こしながら接近している。これも十中八九調教されている怪物だろう。
私はライフルに掛けられた布を落とし、来るであろう方向に向けて構える。
「フレンシアさん、それ」
「あん? おぉ、こりゃ珍しいもんを」
周りの声を遮断して銃に取り付けられている照準器を覗き込む。レンズは入っていないのでズーム機能はないが、狙いを付けるだけなので問題ない。
それが暗闇から姿を見せた瞬間に引き金を引く。すると「ダーンッ!」と大きな爆音を立てて弾が回転しながら発射された。
「補正を」
そう私が呟く前、弾が筒から飛び出す瞬間に、ノトスが自己判断して弾に風魔法をまとわせて弾道修正、威力を上乗せさせて目標に向かって疾走する。
正直助かる。
前世の現代の軍が使用している狙撃銃ならともかく、二次大戦かもしくはそれ以前に使われていただろう形の狙撃銃。しかも今から少なくとも百数十年以上昔から使われている骨董品。撃ってももまともに狙い通りに飛ばないので、ノトスの補正はありがたい。
的となった相手は、非常に硬い頭蓋骨すらも貫かれて意識を飛ばされて転倒。そのまま絶命したと思うが検分は後だ。
「矛盾竜!」
誰が叫んだのかは分からないが、私達に襲い掛かったのは矛盾竜の群れのようだ。
矛盾竜ケラビスピランス、草食の大型怪物だ。頭胴長二〇ファルト前後、尻尾の長さ一ファルト程。見た目は恐竜のトリケラトプスのようで、頭から生えた二本の鋭く大きなツノが矛、そして顔周りを板のような分厚い皮膚が覆っているのが盾から矛盾竜と呼ばれている。鼻の先にもツノのような出っ張りがあるが、メインは頭の二本のツノだろう。
普段は温厚で、数頭から十数頭の群れで生活しており、こちらから手出しをしない限りは襲ってこないのだが、仲間が襲われたら一変して集団で犯人へと襲い掛かる。しかもとにかくしつこく、延々と追いかけ回されるので、素材欲しさに下手にちょっかいを掛けると、手痛いしっぺ返しを食らうことになる。
その見た目からも分かる通り、頭部周りが非常に頑丈。足も意外と速く、体力もあるので中々振り切れない。
攻防一体の形となった頭部とその突撃力、また群れという数の暴力。これらが合わさったことで、あの覇王竜でさえも無闇に襲わないとされている。その為、覇王竜と遭遇した時の対処法の一つとして、矛盾竜の群れの中に逃げ込むというものがある。矛盾竜は危害さえ加えなければ、周りの様子には無頓着なので、体の良いシェルターとなるのだ。
「次っ!」
私が倒した一体の背中に人が乗っていたのか、矛盾竜が転倒したことに合わせて前に投げ出され、そのまま下敷きとなった。
トリケラトプスの重さは五トンから八トン程とされている。こちらの世界の単位にすると、約一一五〇〇ツィルから一八四〇〇ツィルとなるが、矛盾竜はトリケラトプスの倍以上の大きさだ。そして重量もそれよりも三倍近くあると思うが、あいにくとこちらの世界では一〇〇〇ツィル以上、つまり約四〇〇キログラム以上の重さを量る測定器はない。その為、一〇〇〇や一〇〇〇〇といった巨大な数字に対応した単位もなく、トンなどで数字を簡略化することが出来ない。
ともかく、それだけの重量に押し潰されたのだ。落下した盗賊は生きてはいないだろう。
それを横目にすかさずボルトを引くと空薬莢が飛び出し、弾が装填される。
敵は近い上、真っ直ぐに突っ込んでくるので狙うのは簡単。二発目を発射して二体目も仕留める。しかし数は一〇体近くと多く、迎撃が間に合わない。二体目へ弾を放ったところで前衛が接敵した。
正面からぶつかったのでは命が足りない。だが、手に持つ武器だけが彼等の全てではない。全員が生まれながらにしてなんらかの魔法を使える。それによって、拘束したり進行を妨げたり、転倒させたりして前衛で食い止める。
しかし、矛盾竜による突撃が半ば失敗に終わると、今度は背中に乗っている盗賊から弓矢や魔法が飛んできた。これは後衛組の仕事だ。魔法などで防御しつつ、同じように弓矢やクロスボウといった遠距離武器、魔法で盗賊を狙っていく。
「おいおい、いくら盗賊団だからって、ちょっとこの規模は普通じゃないぞ」
「確かに盗賊の存在自体は確認されていたが、調教魔法だと? 前情報と全然違うじゃねぇか」
セカンさんの愚痴に合わせるように、他の隊の冒険者も言葉を零す。
「セカン! 文句は後だ。それに情報違いなんて珍しくもない」
「だがよスパス、狼鳥竜だけじゃなく矛盾竜まで、しかもこの数だ。調教魔法ったって、ここまで使役出来るもんなのか?」
「お前ら喋るなら無駄話じゃなくて呪文唱えろよ。そこのおばさんも頑張れよ」
「あぁ! 誰がクソババァだごらー!」
「そこまで言ってねぇよ!」
「こんなこと出来る奴が何人もいてたまるか。絶対に冒険者崩れだ。それも元高ランクのな」
まだ戦闘は継続しているし、いつ矛盾竜が前衛の防御を突破しないとも限らないので予断を許さない状況であるのは変わりないが、第一陣の狼鳥竜、そして第二陣の矛盾竜と押さえ込むのにある程度成功していることから余裕が出て来たのだろう。各地から焦りながらも会話の声が聞こえる。
その中で、一人の冒険者の話が頭に残る。
元冒険者の盗賊は珍しくない。しかしそのほとんどは銅で昇格が見込めなくて堕ちるパターンが多い。銀ランク以上となると、冒険者業務だけで問題なく食べていけるレベルなので、盗賊に堕ちるということは限りなく少ない。
「まさか」
ふと今朝出発前にギルドで見た手配書のことを思い出す。
「ジェルト・カズラン、元ジスト王国所属銀ランク冒険者。魔法は……調教」
調教魔法は主に怪物や動物といった野生生物を使役するのに用いられる。言語によるコミュニケーションが図れる知的生命体には効果がないが、一度に複数の怪物を操ることが出来るということで、軍隊でも戦力として扱われる存在だ。
しかし、調教出来る怪物、そしてその数は練度によって変わり、才能がなければ足蹴鳥一体を調教するだけで精一杯だろうが、金ランクともなれば鉄火竜や覇王竜すらも調教出来るらしい。
「フレンシアさん、それ本当ですか!」
私の呟きが聞こえたのか、隣で対処していたジョスが焦りの声を発する。
「えぇ、指名手配されたのが先月。南部のガルチャで、同じパーティの仲間と金銭問題で揉めて複数人を殺傷して逃走」
説明しながらも撃ち尽くしたマガジンを取り外してポケットにしまい、新しいマガジンをセットして構える。残り半数ちょっと。これ以上は弾が勿体ないので、防衛ラインを突破しようとしている個体がいないかだけ見張る。
「いや……」
私は身体を反転させ、襲われている反対側へと銃口を向ける。
「フレンシアさん?」
「これらは恐らく全部陽動です。本当の目的は、私達冒険者の注意を一方向へ引き付ける為。実際に襲ってきている怪物は多けれど、盗賊の数は非常に少ない。となれば本隊は裏から狙ってきている可能性があります」
すると闇の中で何かがうごめく気配がしたので、銃を幌の上に下ろして弓矢を取り出す。矢の先端にはとある爆薬を取り付ける。
以前タルタ荒野で使った試作閃光弾(仮)の改良型で、一時的に光と爆音を放つのと違い、こちらは照明弾の役割を持たせる為に、ある程度継続して光らせるようにしてあるらしい。こちらも道具屋の気まぐれで作られた物なので、効果は保証出来ないが、試作閃光弾(仮)の威力はすごかったので期待出来る。
矢を番え、出来るだけ相手側上空へ向けて弦を引き絞る。
そして、放った。
矢は、ほぼ真っ直ぐ、ゆっくり弧を描くように深夜の空へ消えていった。直後に小さな破裂音がしたと思えば、空に太陽が出ていた。そう錯覚するくらいに眩しく光を放っていた。
突然のことに、こちらに背を向けて矛盾竜に対応していた冒険者達も一様にこちらへ目を向けた。すると、光の下で大勢の人がこちらに向かって歩いている様子が見て取れた。格好からして盗賊団の一員で間違いない。
彼等も突然の光源の出現に驚いた様子で、動揺してその歩みに迷いが生じている。
「後方に敵出現! 手の空いている冒険者は対処を!」
私の掛け声に真っ先に我に返ったスパスさんが、周囲の冒険者へ指示を出す。
「ここはわたしがやる! セカン! お前さんはフィススとロトンコを連れて向かえ! ジョスはそのまま支援! マイバーとパルはここに残れ!」
「おう分かった! 聞いたなお前ら? 行くぞ!」
「「はい!」」
一つのパーティが動けば、すぐに他のパーティも同じように戦力を分けたり、もしくは他のパーティに任せて矛盾竜と相対するのに全力を注いだり、またはその逆で盗賊の討ち取りに全員で走り出すなどの行動を起こす。
ここからは、冒険者側の独壇場だ。
奇襲が失敗した第三陣である本隊は、私達冒険者集団相手に一方的に蹂躙されて生きている者も捕縛された。調教魔法の使用者である指名手配犯であるジェルトの姿は、間もなく遺体となって発見され、第一陣、第二陣も制圧されたことで此度の騒動の幕引きとなった。
こちらの被害もゼロという訳にはいかず、幸い私達のパーティと商隊は無事であったが、他の隊では馬車やウマがやられたり、冒険者が十数名死傷したりと全体の被害から見れば軽微とはいえ、諸手を挙げて喜ぶことが出来ない状態であった。
盗賊団や指名手配犯はジスト王国の民であったことから、早馬を出して王都へ緊急要請を出す。兵が駆け付け、生け捕りにした盗賊の身柄引き渡しを行う為に何名か残ることになったが、これは一部メンバーの欠けた冒険者パーティが引き受けることとなった。
その代わりとして、いくつかパーティが抜けた穴を他のパーティが持ち回りで商隊の護衛に参加することで、埋める形とする。
生存していた盗賊からの聞き取りによれば、国境近くで襲ってきた理由は、大行列の最後尾が異変に気付いて王都へ報せを出しても、兵が来るまでに国境を越えれば追うことが出来ないこと。
冒険者が国境を越えて追ったり、エメリナ王国へ救援に向かわせたりしないように先頭を抑えたこと。
ジェルトが盗賊団に加入したのは今から一週間程前のことで、芸術祭に合わせて襲撃する案も彼から提案されたとのことだ。
真偽の程は分からないが、とりあえず現時点で聞き取れたのはここまでなので、後のことは尋問部隊にお任せすることにする。これからエメリナに向かう私達にとっては関係ない話になってしまうので、報告書作成は商人に丸投げし、私達冒険者はその代わりとして一層警備に力を入れることとなった。
「やっぱり、お前さんと一緒に行動すると問題発生するな」
カラカラと笑いながらスパスさんが背中を叩いてくる。
それと失礼だが、その言い方だとまるで私が疫病神みたいな扱いなのだが……この世界には疫病神という神様はいないので、口から出そうになるのをグッと堪えた。
私達は商隊の警護をしつつも、手の空いた人は、盗賊の死体から装備や金目の物を漁り、矛盾竜や狼鳥竜の素材の剥ぎ取りを行う作業をしている。
今は深夜も深夜。前世時間にして一時位なので、警備や剥ぎ取り作業、補修作業を行っている人を除いてやることのない人達は再び寝ることとする。日の出と共に出発なので、出来るだけ身体を休ませておく必要があるのだ。
私とスパスさんのところのパーティも、再び夜間の見張りのローテーションを組み直して任務に当たる。流石に疲労もあるので、予定よりも時間は短く設定してあるが、その分しっかりと教えるようにと彼女から打診されたので、快くその任を引き受けようと思う。
こうして、夜は更けていき、いよいよ明日は人生初の国境越え。非常に楽しみである。
【名前】
ケラビスピランス
【種族】
獣脚種(竜脚種)
【別名】
矛盾竜
【生息地】
開けた平地であればある程度の寒暖にも適応出来る
湿地、草原、荒野、雪原など
森林などは身動きが取りづらいので見かけない
【大きさ】
頭胴長二〇ファルト前後、尻尾の長さ一ファルト程
【生態・特徴】
大型の草食怪物
頭から生えた二本の鋭く大きなツノと、顔周りを板のような分厚い皮膚が覆っているのが特徴であり武器
鼻の先にもツノのような出っ張りがある
色は赤茶色に所々に黒い斑点がある
荒野ならともかく他の地域では目立つその体色は、肉食怪物などに警告を示す意味だと思われ、実際に草食動物を追っていた狼鳥竜が矛盾竜の集団の中に草食動物が逃げ込んだのを見て諦めたという目撃例がある
攻防一体の形となった頭部とその突撃力、また群れという数の暴力。これらが合わさったことで、あの覇王竜でさえも無闇に襲わないとされている。その為、覇王竜と遭遇した時の対処法の一つとして、矛盾竜の群れの中に逃げ込むというものがある
普段は温厚で、数頭から十数頭の群れで生活しており、こちらから手出しをしない限りは襲ってこないのだが、仲間が襲われたら一変して集団で犯人へと襲い掛かる。しかもとにかくしつこく、延々と追いかけ回されるので、素材欲しさに下手にちょっかいを掛けると、手痛いしっぺ返しを食らうことになる
頭部周りが非常に頑丈。足も意外と速く、体力もあるので中々振り切れない
【素材】
頭部周りが特に素材として優秀で、武器にしても防具にしても問題ない
骨も頑丈であるので、武具に限らず、建材や彫刻に用いられることもある
体表を覆う皮膚も防具の他にも、高級鞄などに加工される




