36頁目 護衛依頼とシジスセ草原:前編
前回のあらすじ。
前夜祭の出し物で演奏会を行った。
前編になります。後編はまた明日です。
何か書くことがあった気がするのですが、忘れてしまったので本編です↓
「護衛依頼。エメリナまで。人数は後少なくとも銀以上含めて五人だけど、すぐ集まると思うので待っててね」
「分かったわ」
早朝に宿を出た私はその足で王都ギルドへ向かい、芸術祭の為に来ていたエメリナの商隊の帰りの護衛依頼を受注していた。
コールラ達のように往復で依頼を受けるところも多いが、冒険者の中には片道だけ護衛してそのまま到着地で拠点を築く場合もあるので、私はそれで護衛のない商隊からの依頼を探してギルドに来ていたのだ。
ルックカから王都へ来た時のようにのんびり歩いて行くのも良いが、護衛ならば稼ぎになる上に馬車に乗せてもらえるから歩かなくて良いし、また国境を越える際の手続きも商隊が一手に引き受けてくれるので楽なのだ。あくまで雇い主は商人になるので、彼等が責任を持って私達の身元の保証をすることとなっている。
同じような目的の冒険者は他にも多く、あっという間に王都を出て行く商隊の護衛依頼は次から次へと枠が埋まっていく。
私の受けた依頼も残り五人待ちであったが、暇潰しにギルドの隅の掲示板に貼られた手配書を見ていたら、枠が埋まったとミリーが伝えに来てくれた。
「よろしくお願いします」
挨拶を交わし、その顔ぶれを見る。
銀二人銅五人の男女混合パーティで、皆エメリナ王国出身所属の冒険者とのことであった。
「あぁよろしく頼むよ。早速で悪いが、自己紹介も兼ねて早急に予定を組み立てよう」
「分かりました」
私以外は知った顔とのことなので、主に私の為にそれぞれ自己紹介していく。
エメリナ王国所属である銅ランクが、何故ジスト王国で依頼を受けられたのか。そこにはランク制限の穴がある。
銅ランク冒険者は数こそ多いが、かといって依頼も潤沢にある訳ではなく、少なからず取り合いとなって一日一回はトラブルになることもある。そこで、そんな冒険者に少しでも依頼が回せるようにと取られた措置が、国境越え護衛依頼である。
自国を出発地として手続きすれば、一応形の上では自国内での依頼受注という形になる。逆に他国での活動は制限され、依頼も自国へ向かう護衛依頼しか認可されないが、国を超えて商売をする商人は少なくないので依頼数もそこそこあって人気である。
これは依頼をする側にも旨味がある。通常商隊の護衛人数は銀以上の冒険者が少なくとも二人を含む六人以上となっているが、この制度がなければ全員が金か銀ランクで固めなければならない。すると人数に限りがあるので商人も満足に護衛を雇うことが出来ず、他国まで商売をしに行くことが出来ないことになる。
もちろん、この制度があるからと全員が全員、依頼受注が出来る訳ではない。
パーティの監督役である銀ランク以上の冒険者の内少なくとも一人は、活動対象国でも銀以上のランクを取得していること。そして出身国を証明するタグとは別の証明札を発行し、常に見える位置に身に付けることが条件となっている。そして、もう一つ重要な点として、友好国同士でなければこの制度は適用出来ないと条約で定められている。
一方、ソル帝国とは貿易自体は行われているが、護衛が出来るのは国境までとなっており、線より先は、また別の冒険者が護衛を引き受けるという形になっている。あまりその連携は上手くいっていないが、大きく問題となったこともないので特に対策などは取られていない。
また、飛び地で友好を結んでいる国同士の場合は、間に挟まれたのが友好国でなければ通行許可が下りないので、実質仲の良い隣国同士の契約である。
「それにしても、あの『迅雷』と一緒の依頼を受けられるとはな。運が良いというか、それとも何かに巻き込まれる前兆か」
銀ランクの一人、年配の人間族の女性冒険者がそんなことを言う。もしかして私のトラブルメーカー具合って結構広まっていたりするのだろうか。というか隣とはいえ他国にまで知られているとか黒歴史過ぎる。
一応そのことを確認すると、最近の噂は王都レガリヴェリアに来てから知ったとのこと。主にミリー発信で流布されているようで……というかミリーが言っているならそれはもう噂ではないと思う。
「問題ないだろ。それに実力はこの中で誰よりもあるんだ。頼りにさせてもらうぜ?」
もう一人の銀ランクの冒険者、狐型獣人の中年手前くらいと思われる男性が大きく口を開けて笑う。
それに同意するように他の銅ランクの男女も好意的に頷いてくれた。
ギルドから出た私達はそのままの足で集合場所へ向けて歩く。その道中も噂の真相だったり、どんな魔法が使えるのかだったりと好奇心旺盛な若い女性冒険者から矢継ぎ早に聞かれ、たじたじになっていたところに、パーティリーダーの年配女性冒険者が溜め息を吐きながら首根っこを掴んで引っ張っていった。
周りを見ると呆れたような笑いが出ていることから、このやり取りは通常運行のようだ。
集合地点には既に馬車が縦に三台並んで待機していた。
冒険者六人編成なら各車に二人ずつ割り当て、先頭と最後尾に銀以上を配置するのだが、今回は金が一人、銀が二人、銅五人である。そこで商隊と話し合って、パーティリーダーが先頭車、狐獣人の男性が最後尾、私が真ん中となり、銅を前から二、一、二と振り分けた。
私が真ん中の理由は、弓矢に雷魔法と後方支援が出来ることから。一応狙撃銃も持っているが、このことは明かしていないので数に入れない。
同乗している銅ランクの冒険者も、クロスボウを持っているので後方支援としてこの車両だ。チャロンの持っていた得物よりも二回り程小さい。というかチャロンのが大きすぎるだけだと思うのだが……そういえば、あの四人の中でチャロンは腕相撲ではセプンの次に強かった。あれだけ大きな武器を振り回すのだから当然なのだが、普段のオドオドとした雰囲気でついつい騙されてしまう。
そんなことを考えていたからか、編成の最終調整に入っているところで「教官?」と声を掛けられた。
「チャロン?」
「はい!」
噂をすれば影どころではない。むしろ予知か予言の域だ。見れば少し離れた所に他の三人もおり、私達とは別の馬車の積み荷の確認を行ったり打ち合わせを行っていた。
「あなた達も今日出発?」
「はい、ルックカへ戻ります」
「そう、気を付けてね」
「ありがとうございます。あの、教官もあまり無茶し過ぎないように気を付けて下さい」
「あーうん、善処するわ」
こればかりは私の運に左右されるのでどうしようもない。
そう答えると彼女は怒ったように頬を膨らませるが全く迫力がない。それから仲間に呼ばれたことで私に軽くお辞儀をし、青みのかかった黒髪のボブカットを揺らしながら走り去った。チャロンが向かった先には同じパーティの三人と、同じ依頼を受けた別のパーティと思われる冒険者の姿が見えた。
お互いに出発の時間だ。もう声を掛け合うことは出来ないので、私は軽く手を振ると元教え子達は、それぞれ手を振り替えしてくれた。
「元気で」
その呟きは相手に届くことはなかったが、想いだけは届いていて欲しいと願う。
巡り合わせが良ければまたいつか会えるだろうが、果たして何年後、何十年後になることやら。もし会えたら、旅の土産話をしても良いだろう。もちろん私が無茶したことを省いてだが。いや、別に今からもう無茶する宣言をしている訳ではない。そんなことしたらミリーに殺される。
おかしいな、死なない為に無茶すると殺されるとか……
「うん、深く考えないようにしよう」
冷や汗が頬を伝っていくが、気にしないことにする。
お互いの馬車は、出発地点こそ同じであったが、そこからすぐに別々の門へ向かって方向を変えて離れていく。
馬車の幌の上に座って遠ざかっていく馬車を見つめるが、別れの言葉は口にしない。
「よぉーし! 出発するぞぉー!」
「「「おー!」」」
東門でチェックを終えて通過。
西のタルタ荒野と違い、王都の東側は割と自然豊かなシジスセ草原が広がっている。
そもそも王都はタルタ荒野とシジスセ草原との丁度境目にある。これは、建国した際に隣国のエメリナから出来るだけ遠い場所に国に主要機関である王都を置きたいが、タルタ荒野は危険地帯なので不可能と判断。ギリギリの場所である、現在の位置に納まったらしい。当時は建国したばかりでエメリナ王国との関係も悪かったので、しょっちゅう衝突があったそうだが、今では友好国として気軽に行き来が出来るまでになった。
それ以上に一〇〇年程前に武力で独立し、現在でも差別的思想の強い、南部のソル帝国へ牽制の為にお互いに連携する必要があると両者が一致している。そのおかげか、一応ソル帝国とも表面上だけであるだろうが友好を結ぶことが出来、貿易を行っている。
ジスト王国南部の地方都市ガルチャの役目は、万が一帝国と衝突した際の拠点、防波堤、要塞である。それ故にジスト王国の中でも南部にはガルチャだけでなく、小さな集落にも少人数ながらも兵士を常駐させ、戦力を固めたり連絡を密にさせたりして対策しているようだ。
前世の地球でも戦争は完全になくなっていない。戦争の仕方は変わっているだろうが、武力にお金がつぎ込まれ、それで民は税を絞り上げられ、時には血を流すことに変わりはない。それが、まだ武力によって独立、統一といった群雄割拠のこの世界では、至る所で戦争が起こっている。
今でこそジスト王国は平和だが、それが他でもそうとは限らないし、またジスト王国もまたいつ戦火の中へ身を投じるとも分からないのが今の時代だ。
のんきに旅をしている私が言うのもなんだが、極力戦争にはならないように努力してもらいたいものであると、流れる景色をぼんやりと眺めながら思いに耽っていた。
いよいよ生まれて初めての外国。楽しみで落ち着かないので、とりあえず馬車の幌の上に載って景色を楽しむことで気を紛らわすことにする。
フレンシアの手記より抜粋。




