25頁目 タルタ荒野と魔剣ノトス:前編
前回のあらすじ。
若い女性三人のパーティと共同依頼を受けることになった。
前編になります。後編はまた明日。
分割投稿が多いです。
以前にもお話しましたが、一話が長いので読みやすいように前後編に分けています。
ただぶった切るのではなく、分けた際に多少加筆修正しております。
まだまだ分割投稿は続きます。どれもこれも長いです。誰だ書いたのは!
村長含め、村民からの聞き取りを終えた私達は、鎌足虫の最終目撃箇所へ向けて移動を開始した。ここからは、いつどこで遭遇するとも限らないので徒歩となる。
先頭はカトラさん、間に左はニャギーヤさんで右はエスピルネさんを配置し、最後尾は私。各人それぞれ二ファルトから三ファルト程の間隔を空けて慎重に行動する。
会話はほとんどない。お互いにそれぞれ警戒する方角を重点的に観察しつつ、周囲の様子のチェックも怠らない。
広く見通しの良いタルタ荒野であり、中型種である鎌足虫が移動していたらすぐに見つけられるだろうが、私達が警戒しているのはむしろ待ち伏せしている怪物の方である。
鎌足虫は暑季の頃は巣からあまり動かず、巣に近付いてきた獲物を狙って素早く飛び掛かってくる。巣といっても小飛竜のように分かりやすい物ではなく、地面や山、丘などに自然に出来た穴に潜んでいるのだ。中型種が入る程のサイズなのでもちろん大きいのだが、自身が隠れた上に土や砂を被せてカムフラージュしているので厄介だ。
また同じように穴を巣とし、待ち伏せする怪物で蔓鞭植という植物種の大型怪物がいる。こちらは根を張っているので移動することはなく、植物の蔓を蜘蛛の巣のように張り巡らして、それに掛かった生物を捕食する。
どちらも危険な怪物であるが、巣の位置はある程度決められている。どちらも自身で穴を掘る能力はない上、片方は繁殖期にならないと巣から出ず、また片方は地面に根を張っているのでそもそも移動することがない。よって、穴の位置さえ把握していれば、そこを避けるルート通ることで遭遇率を減らすことが出来る。そしてそのルートを街道として、商隊や冒険者などが行き来するのだ。
しかし、今回情報に上がったのは、街道から外れた場所を移動する鎌足虫で、移動方向から見ても街道から離れているのは予測出来る。つまり、私達はどこに潜むとも分からない怪物のいる、いわゆる地雷原の中を歩いているようなものである。
「本当に銅ランクを連れて来て良かったのかな」
前を歩く獣人二人に聞こえない声量で声に出す。
ジスト王国出身の冒険者で銀ランク以上ともなれば、必然、タルタ荒野での任務も多くこなしていることになるので、調査のみであれば一人でも問題ない。しかし、カトラさんは今回、その依頼に銅ランクの、しかも新米卒業したばかりの新米銅ランク二人の同行を具申した。流石に銅ランクでは荷が重い為に、新たに私を加えることを条件に、承認されたということだ。
この陣形は、漏れなく周囲を警戒出来る形であると同時に、銅ランクの二人を守る為の形である。
先頭を歩くカトラさんが手を挙げたことで、私達は立ち止まる。地面に何か痕跡を見つけたようだが、お互いに会話はない。余計な物音は周囲に隠れる怪物を呼び込む要因となる為、事前に打ち合わせした通り、アイコンタクトとハンドサインで情報の交換を行う。
どうやら、鎌足虫らしき足跡のような物があったらしい。
「移動痕か」
軽く周りを見るが、痕跡の犯人らしき生物の姿はない。
進行方向は予測と変わらないようだ。今度はその足跡に沿って移動を始める。足跡が続くということは、少なくともそのルートは安全であるということだ。繁殖期でなければ同種食いすら行う鎌足虫だ。むやみに縄張りへ足を踏み入れることもないだろうし、仮に誤って食べられたとしても、調査結果は対象が捕食されたことで未達成。討伐依頼に関しては、いないものは仕方ない。
達成とするか、以前の翡翠鳥騒動のように未達成するかの判断はギルドに任せよう。
足跡に沿って移動をしつつ、私も痕跡を目視で確認するが、対象は周囲を警戒しているのか、ゆっくりとしたペースで移動しているようだ。ペース配分の予測に間違いがなければ、そう時間も掛からずに接敵出来るだろう。
村を出てどれくらい経ったか。太陽の傾きから考えるに一刻程、前世時間で二時間前後と思われる。この暑さにこの緊張感だ。二人の疲労度は半端ないだろうが、無闇に休憩を挟むことも出来ない。
「はぁ」
溜め息が漏れる。
会話が出来れば、励ましたりして気を紛らわせることが出来るのだろうが、まだしばらくはこの息が詰まりそうな空間の中を漂う必要がありそうだ。
ここで、微かにだが何かの音を私の耳が拾った。獣人の二人は聞こえただろうかと前方を見るも、気が付いていない様子である。一度、立ち止まらせるか逡巡するも、次に私の耳に届いた音を聞いて無視することにする。
遠くで足蹴鳥と思われる生物が、恐らく蔓鞭植の罠に掛かって食べられた音だった。
「ふぅ」
静かに息を吐く。
緊張しているのは私も同じだ。並の怪物相手なら負けるつもりはないが、それは一対一の場合で、誰かを守って戦う場合は、相手にもよるがどうなるか分からない。もちろん彼女達が守らないといけない程弱いとは思わないが、もしものことがあるので油断出来ない。
生物から発せられる微弱な電気信号を捉える私のオリジナル索敵魔法も、索敵範囲が狭い上に地面の下などに隠れている相手には効果は薄く、思うような探知が出来ない。とはいえ全く効果がないこともないので、奇襲を避ける為に網を広げながら歩いている。
「?」
すると、また何かの音を拾った。これは地上ではなく空中だろうか。
無風であり、辺り一面も開けていて音らしい音もしないことからよく聞こえる。
音の方向を見ると小さく影が見えた。おそらく小飛竜。目的は私じゃなくただの縄張りの巡回か餌探しだろうが、ここが縄張りの範囲内だとするといずれ発見され襲われる。
私が気付いたのとほぼ同時に前を歩く獣人の二人が察知して立ち止まる。
先頭のカトラさんは振り返り、目で「どうする?」と聞いてきたので、私はハンドサインで「パーティを分ける。私が残る」と伝えると、三人は驚いた表情をするが、リーダーだけ頷き、二人を引き連れて先へ進んでいった。
「良し」
意思がちゃんと伝わったことに安堵する。
三人は歩く速度を若干早めつつも極力無駄な音を消して、周囲に隠れているであろう他の鎌足虫や蔓鞭植に気付かれないように離れていく。
しかし、小飛竜との接敵はもう間もなくだ。せっかく囮となる為に残ったのに、気付かずに先行する三人を襲いに行ったら意味がない。
「ということで……」
私は、矢を取り出して先端に特性の爆薬を装着し、指と指の間に電気を発生させて導火線に火を付けて素早く弓を構える。少々強引だが、これで小飛竜だけでなく、周囲に隠れているであろう怪物も丸ごとあぶり出せる。ただ、パーティでの行動だと皆を巻き込む恐れがある為出来ないが、私一人ならば問題ない。無事に生き残ってみせる。
小飛竜の影が段々と大きくなってくるのが分かる。まだ矢の射程に入らないが、元より当てるつもりはない。
私は導火線の残りの長さを確認し、タイミングを合わせて射出した。
その矢の行方を目で追うことはせず、目をそらして両手で耳を塞いだ。
するとすぐに視界の端が白く輝いたと同時に、塞いだ手の上にも爆音によって生み出された振動が叩き付けられる。
前方を歩く三人が跳び上がった様子がちらりと見えたが、意識の外に置く。
先程の小飛竜は閃光と爆音に驚いて墜落してしまい、運悪く蔓鞭植の真上に落下してしまったようで、遠くで元気に蔓を鞭のように振り回している姿が見える。
その他にも光や音に反応した鎌足虫が、複数穴から飛び出してくる様子を視認した。
「試しに買ってみたけど、凄まじい威力ね」
前世では、視界と聴力と判断力を奪い、目標の制圧する目的で主に軍などで用いられているスタングレネードがある。今発射した爆薬もそれに近い物である。
冒険用のちょっとした武器や雑貨が並ぶ店を訪れた時に、偶々出来上がったが用途が分からないので、店の隅に置いてあった物を私が格安で買ったのだ。私自身も使う機会が訪れるとは思ってもみなかった。
「さぁて、当初の目的とは違うけど、鎌足虫を相手にすることには変わりはないし、ちょっと付き合ってもらうよ」
弓をしまい、左腰の銀楼竜の鞘から翡翠鳥の素材で作られた片手剣の形をした魔剣ノトスを抜いた。すると、喜びからか、剣を中心に風が巻き起こり、それは次第に私を囲むように吹き荒れる。
さぁ、魔剣ノトスとの初陣だ。
蔓鞭植はその生態から討伐の対象となることが非常に少なく、私も討伐依頼を見かけたことはない。
街道から外れている穴の底で根を下ろしているので、移動もなく街道を通る限り危険はないからだ。しかし、稀に地殻変動やそれに連動しての陥没などで穴が出来ることもあるので、この時は討伐というより種が飛んでこない内に、穴を埋める依頼が出されるとのこと。
穴さえなければ育たないらしい。これは詳しく調べてみるべきだろうか。
フレンシアの手記より抜粋




