13頁目 朝の町並みと王都ギルド:前編
前回のあらすじ。
謁見。
フラグを立てたらすぐに回収しないと忘れてしまうから、立てた瞬間に回収したら逮捕された前々回。
思い付きで物語が進むとはいえ、何故作者は、わざわざ面倒くさい方向へ話の舵を切るのか、これは本人をもってしても解決し得ない永遠の謎です。
ちなみに、フラグは回収しても伏線は回収しない模様。どういうことなの?
今話は長かったので前後編に分割しました。
今後も長いと思ったら、あまり変にならない程度に分割していきます。無理だと思ったら長いまま投稿します。
つまり、次回投稿する分と合わせて一話分だったということです。うん、長すぎwww
ちなみに後編は明日投稿します。お待ち下さい。
翌朝、日が昇る前に目覚めた私は宿を出て、軽く運動がてら町内を散歩する。
昨日は色々とバタバタしていたことで、ジックリと町並みを見ることが適わなかった為しっかりと町の造りを見ていく。
主要な道路だけでなく裏道などもしっかりと石畳で整備されており、建物も材質や造りこそはルックカの町とそう大きく変わらないが、その規模と高さが圧倒的に違った。
また、ルックカでは、建物の主な材料と言えばルキユの森やキダチの森から採れる木であったが、ここ王都レガリヴェリアでは石やレンガを主な建材として用いられており、非常に大きな建物がいくつも建っていた。
ドワーフとの交易で、そこそこ経済が安定しているルックカでもそれなりに大きい町だと思っていたが、それとは文字通り桁違いである。町の規模も、建物の数も大きさも、そして人口も全てだ。
建材として木材が使われていないという訳ではないが、外観で目立つのはやはりキレイに四角に加工された石が積み上げられている様子であった。となると、この近くには採石場があるはずだ。そして、それを加工する工場、積み上げる大工、レンガ造りや石焼きの職人もいるだろう。彼らは恐らく一カ所に、それも採石場に近い場所に拠点を構えているはずと予想する。材料を仕入れたら、すぐに仕事に取り掛かれるようにする為だ。
石魔法や土魔法を用いる職人は、主にこういった仕事で生かされる。
特に石魔法使いは、彫刻などの装飾に長けた人も多く、ジスト城や貴族の豪邸などの像やレリーフなどは、彼らが造り上げた物が多い。
もちろん魔法を使用せず、全てを手作業で削り出す職人もいる。魔法ではどうしても粗が出てくる所をその職人が細部の調整をしたり、もしくは一から掘り出したりする程のこだわりを持った人もいると聞く。
散歩をしていたら、偶々ドワーフの男性が道端のベンチでお酒を飲んで寛いでいたので話を聞いていたのだ。
どうやら昨日の夜から飲んでいたようで、閉店時間になったのでここでまったりしていたのだとか。ちなみに今日は、祈曜日なのでこのドワーフの男性が務める工場は休みだそうだ。
酔っ払ってはいるが、せっかく本職の人に出会えたのだからと採石場などの話を聞こうと思った時には既に寝息を立てていた。
「どうしよ……」
このまま置いていくのもどうかと思うが、かといって無理矢理起こすのも面倒だ。
酔った勢いで寝落ちした人がちょっとやそっとでは起きないのは、今世での経験からだ。前世はどうだったかは覚えていない。飲み会とかに参加していたのだろうか。記憶にないので分からない。
ということで、これ以上関わることは止めることにする。暑季とはいえ外で寝ることで風邪を引かないようにと、軽く祈りつつその場を離れて再び散策へと移る。
まだ早朝だからか、それとも今日が祈曜日だからか閉まっている店のショーウィンドウに飾られたガラス工芸の細工の細かさには感嘆の溜め息が出る。
どういった用途で使われるのか分からないグラスがいくつも並べられているが、感覚が庶民だと思っている私の感想は、飾るのは良いけど、飲みにくそうというものだった。もしかしたら、本当にインテリア用のグラスなのかもしれない。
「キレイだけど、高そうね」
通りを歩いて行くと、目の前に東門から王城へと繋がる幹線道路が見えてきた。幅がとても広く、馬車が通りやすいように石畳の凹凸や段差などが極力ないように丁寧に舗装されている。
ここから東へ何日か歩けば、隣国のエメリナ王国へと行くことが出来る。
国境を越えるだけなら一日ちょっとあれば良いだろうが、そこから一番近い町までとなると、更に一日か二日掛かる。
大通りへと出た所で、ふと通りに面した場所にある掲示板に目が留まる。掲示板には、いくつかの紙がお知らせとして貼り付けられていた。
「えぇと、ヨウラン・カラカジミェル・ユク・クランマイ・ジスト女王陛下からのお触れ? というか、本名長いなぁ……」
このジスト王国では、平民でも苗字を名乗ることが出来る。他国ではどうだったかは覚えていないが、この国では、王族、貴族、平民、人間族、獣人族関係なく苗字がある。
私達亜人は例外であるが、これは別に名乗ることが出来ないという訳ではなく名乗る必要がないなどの理由がある。もちろん獣人も亜人であるが、昔から人間と密接な関係だったことから、人間に近い生活をしており価値観も近いのかもしれない。
ジスト王国の平民が苗字を名乗るに至った経緯だが、ルックカでの歴史書の立ち読みで得た知識によれば古来は平民が苗字を名乗ることはなかったらしい。
しかしそこに、下級貴族が平民へと堕ちても家名を名乗り続けていたり、度重なる戦争による徴兵などで、活躍を認められて家名を与えられた平民がいたり、もしくはその流れから自身の家族の長の名前をそのまま家名として名乗り、それが苗字として定着した平民が現れたりした。
二つ目に関しては、国から与えられた物である為、公的に名乗ることが出来るのは理解出来るが、一つ目と三つ目は、それぞれの勝手で名乗っているだけだ。しかしそれを国は見咎めることなく、むしろ公に認める声明を出した。その大きな理由としては、戦乱の時代、他国との力関係のバランスを取る為に、当時貴族や王族のみが家名を名乗るというのが世界で一般であったところに、家名、つまり苗字を名乗ることを認め、擬似的な貴族としたことで、無用な衝突を避ける意味が含まれていたとされている。
貴族が多いから戦争にならないとなるのかは分からないが、当時は戦争によって疲弊した国が少しでも力を誇示する為に様々な手を使っており、その一つとして家名を名乗ることが含まれているのかもしれない。
それが数百年続いた結果、このジスト王国では平民であっても苗字があるということに繋がる。私自身は別に不便ないので、ただのフレンシアのままで良い。
「うーん、特に重要な情報とかはないか」
掲示板を一通り眺めた後、軽く通り沿いの建物を眺めていく。そろそろ町が目を覚ます頃だろう。私も朝食を摂るべく宿屋へと戻った。
「お帰りなさい。朝食はいかがですか?」
宿に戻ると、隣接した大衆食堂から、眼鏡を掛けた無精髭が目立つ痩せたおじさんが顔を覗かせた。
「頂きます。それよりも店主はこちらでいつも朝食を食べられているのですか?」
その男性は隣の宿屋の店主で、昨日、急な宿泊にも関わらず快く部屋を貸してくれた人だ。食堂でのんびりと食事をされているようだが、朝の忙しい時間、隣とはいえ宿を空にして良いのだろうか?
「相席でも良ければどうぞ座って下さい。私も追加で注文しますので」
宿屋の出入り口に最も近い位置に設けられた席に着く店主に誘われ、中を覗いてみる。
木のテーブルの上に広げられた食器を見ると、随分と食べられているようだが、まだその細身の身体には入る余地があるのだろうか。それともそれだけ美味しいのだろう。それは楽しみだと入店を決め、給仕案内の元いそいそと店主の対面となる席へ腰を下ろす。
「失礼します。すみません、オススメとかありますか? 私は種族柄、たくさん食べることが出来ませんので、名物などがあれば是非口にしたいです」
メニューを見てもどういった物が良いのか分からない私は、常連である店主に聞くことにする。以前の私ならば、とりあえず安い定食を頼むところだが、それでは勿体ない。
「そうですね……日替わり定食はもちろん美味しいですが、せっかくですので、魚なんてどうですか? しかも海の魚です」
「魚があるんですか。もしかしてエメリナからのですか?」
「はい。干物じゃなく、凍結魔法で保存されて運ばれた物ですからちょっとお高いですが、ステーキがオススメです」
「なるほど、ちなみに、魚は何ですか?」
「今の時期ですと、サバですね」
はて、今の季節は暑季に入ったばかり。そして、サバの旬は乾季の終わりから寒季初頭に掛けてだったはずだが違うのだろうか。そのことを伝えて詳しく話を聞くと、どうやらサバはサバでもツノサバという種類とのこと。
ツノサバは、前世の世界には存在しなかったサバの亜種のような物で、額にツノというよりコブのような出っ張りがあることからツノサバと呼ばれている。
味はサバの仲間であるからほぼ同じだが、脂は少なく、サッパリとした味わいらしい。暖季から暑季に掛けてエメリナ王国沖に、餌を求めてやってくるところを捕まえるとのことだ。
他にもこの時期に旬な魚と言えば、スズキ、カワハギ、アジ、スピアマグロ、カツオ、カンパチ、イワシなどがある。
スピアマグロとは、いわゆるカジキマグロのことである。槍のように長い上アゴをしていることと、味がマグロに近いことから名付けられたらしい。槍というより剣の方が近い気がするのは気のせいだろうか。
ちなみに、前世で存在したカジキマグロだが、マグロと名前に付いているもののマグロとは別種である。また、同じく前世の世界にはスピアフィッシュの名を持つカジキがおり、日本名はフウライカジキと呼ばれていたが、こちらは上アゴがすごく短い。こちらの世界のスピアマグロは、メカジキに近い生き物のようだが、まだ直接この目で見たことも食べたこともない。
宿屋の店主から話を聞いて、そのツノサバのステーキを食べたくなった私は、側を通った給仕を捕まえて注文した。その時に店主も一緒に注文をしていたが、まだ食べるのだろうか。
しかし冷凍保存して運搬された物とはいえ運ぶのに数日かかるので、流石に生では食べられないようだ。
鉄火竜の刺身でトロの味は堪能したはずだが、ここは本物の魚の刺身を食べてみたい。ということで、次の目的地はエメリナ王国ということに決めた。まだ行ったことのない国である……というより、ジスト王国から出たことない。陸続きで歩けばすぐとはいえ、外国という響きだけで既に楽しみだ。
しかし、まだ数日か、もしかしたら月単位かもしれないが、しばらくはここレガリヴェリアを離れる予定はない。まずはギルドに寄って適当な依頼をこなしながら旅費を稼ぎつつ、この町の文化や風習、技術や産業などを見て回りたい。特に石やガラスなどの加工業をじっくり見学したいと考えている。ルックカでの細工職人も良い腕であった。しかしそこは流石王都、昨日の王城もそうだが先程軽くウィンドウショッピングしただけで、精巧な造りの細工物がいくつも目に付いた。魔法で削るのかな。それとも型にはめるのかな。それとも一度粉砕して……はコンクリートかな?
今日以降の予定を脳内で組み立てていると「お待たせしました」の声と一緒に、目の前のテーブルに料理を載せた丸い皿が並べられていく。
「これがツノサバのステーキ……」
思わず口に出てしまう程にそれはとても良い香りを放ち、また焼き立てであることを示す皮と油が弾ける音がますます食欲をそそる。冷凍保存の前の新鮮な内に、あらかじめ内臓などの処理を終えているのだろう。変な臭みなどは感じない。
思わず手が伸びそうになったところでハタと気付き、軽く咳払いをして食前のカラマ神への感謝の祈りを捧げる。
誰に見咎められる訳ではないが、食欲に目が眩み、信仰する神への挨拶を忘れるとはエルフの風上にもおけない。自重せねばと心の中で決意をし、改めてテーブルに置かれた料理へと目を移す。
この匂いは香草とバターと……ニンニク……だろうか。主張しないあくまでそっと添える程度の香り付けである為、すぐには気付くことが出来なかった。香草も、あくまで青魚特有の匂いを打ち消す為の物でキツい臭いということもない。
別の小皿には、ソースと思われるとろみのある赤い液体が入っている。ティースプーンで少しすくって口に運ぶ。
トマトの酸味と甘み、それと……これは何だろう?
「それはトマトと赤ワインを煮詰めたソースですね。その他の詳しい調味料などは分かりませんが、このステーキには合うと思いますよ」
答えは店主が出した。彼は既に並べられた料理の半分を既に胃に入れ、話しながらも口へとフォークを運ぶという器用なことをしていた。
私もソースをステーキに掛けて、頂くことにする。
「美味しい……」
思わず零れた言葉に、対面の店主がニヤリと笑った気がしたが気にしないで次を口に運ぶ。
暑季の魚であるから、脂が少ないとは聞いていたが、逆にそのおかげで臭みが少なく、しっかりと風味を感じることが出来ている。食感や味は確かにサバだ。古い古い記憶の奥に、サバ缶を食べた時の物がある気がするが……多分こんな感じだったと思う。
一〇〇年以上も昔の、それも前世のことなので曖昧になってしまうのは仕方ない。しかし、前世の記憶から今世との類似点と見出そうとするのは私の癖なのだろう。
悪いことではないと思う。この思考のおかげで、魔法の成長に役立てたり、様々な生きる術を身に付けたりする助けになったのだ。
だが、このような粗探しのようなことをしていて良いのだろうかとふと思う時がある。こういうことは今に始まったことではない。この世界に来て長いこと生きていると、何度も考えることだ。しかし答えは決まって一つに集約される。
別に良いか。
元々行き当たりばったりな性格だからか、考えはしても考えすぎることはない。疲れるだけだ。大方、前世と今世とのギャップを埋める為に必要な、脳の整理作業なのだろうと思っているが実はどうでも良い。仮に違ったとしても、こういった思考のおかげで今を楽しめているのも事実だ。であるなら、今後もこのままで良いということだ。
これで良いのだ。
「うん、美味しい」
それに、今は食事の時間だ。せっかく美味しい物を食べているのに、そんな面倒な思考で味わうのを放棄してしまうのは勿体ない。この瞬間を目一杯楽しまなければ損である。
とっくに食べ終わった店主は、私がステーキを食べるのをただ眺めてニヤニヤしていた。嫌な視線ではない。ただ、微笑ましいというか娘か息子を見るような目の為、落ち着かない。私の方がずっと年上なのに、何故年下の、しかも子供を見るような目で見てくるのだろうか。
「あの、何か?」
分からなければ聞いてみる。
「あぁ、いえ失礼。その、頬にソースが付いていますよ」
「え?」
店主は自身の頬を指で突いて教えてくれた。私は彼と同じ場所を指で撫でる。指先を見ると赤い液体が付いていた。恥ずかしい。これでは年下に見られても仕方ないではないか。
「以後、気を付けます」
「ははは、いえいえ、夢中で食べられる姿を見られて嬉しいですよ。もちろん私が作った物ではありませんが、こうして美味しそうに食べている姿というのは見る人も笑顔にしますね」
「……なるほど」
恥ずかしさから顔を背けてしまうが、それでも食べる手は止めない。
「頂きました」
ステーキと、それとセットのパン、サラダ、スープを平らげ、お腹いっぱいになった私は給仕を呼んで支払いを済ませる。
一方、宿屋の店主は「これと、これを下さい」とメニューを指差してデザートを注文していた。まだ食べるのかと呆れてしまうと同時に、それだけ食べてお金は大丈夫なのだろうかと、他人事ながら心配してしまう。
「行ってらっしゃい」
笑顔で見送られた私はその心配を胸にしまって食堂を出、そのまま隣の宿へと戻る。自室に入ると早速、装備を調えてギルドへ向かう準備をするのであった。
サバステーキ美味しかった。また機会があれば食べたいものだ。
フレンシアの手記より抜粋




