1日目の終わり
短剣ごと目玉に手を突っ込み脳漿をぶちまけさせ、それでも再生する神話の世界においても幻想種最強と謳われるその心臓に丸太を突き込み、戦闘は終了した。
消えゆくその光の一部が俺に取り込まれひさびさに手の甲を見ると49の文字があった。今までの敵はどんな怪物であれ1魔魂だったので外套に取り込まれて終わりだったので久しぶりの魔魂に少し喜んだ。
ドロップはなし、俺は空間にぽっかりと空いた穴を見てそこにさっさと入ろうと思ったが…少し考えた後に外に転がしておいた暗殺者がまだ気絶しているので簀巻きにして担ぎ、そのまま十階層へ降りた。
今更だがいきなり十階層も降りても大丈夫なのか?という疑問があると思う。なにせ俺が元いた場所は十階層が最終層だったのだ。そのような疑問がある事に不思議はない、結論から言って仕舞えば問題はない、むしろ取得できる魔魂は増えるのにあのダンジョンのような一層一層下に行くごとに強力なる怪物共に悩まされることはない、そのかわりと言ってはなんだが出てくる怪物の割りにボスが強くなっている。
実はこのような法則性はほぼ全てのダンジョンにあり、短く小さなダンジョンは一層が重く、長く大きなダンジョンは一層は軽いがボスが重くなる。階梯の上げやすさは断然後者だが、若いうちに経験しておくべきなのは前者のような凶悪なダンジョンだ。また、前者と後者ではボスに挑める人数が違う。前者ならばその階層にいる全員でタコ殴りなんてこともできるが、後者は6〜2人までしかボスのいる領域へ踏み込めない、また小さなダンジョンは怪物の絶対量が少ないのに対し大きなダンジョンは数にすり潰される危険もある。まあ、要するに楽なダンジョンなどない、一長一短なのである。
「それで、私はなぜここに連れてこられたのだ?」
「言っとくがわざわざ殺したり、襲ったりなんてことはしねぇから安心しとけ」
暗くなった空を見上げつつ、相変わらず鬱蒼としているが少し緊張感の漂うようになった森の中で火を焚く。拳で粉砕しても丸太になってくれるダンジョン産木材くんのおかげでキャンプファイヤー気味だが、これはこれでいい、動物も寄ってこないし明るいからな!
俺がぼんやりとそこら辺で狩って来た鹿を丸焼きにしていると先ほどまで空を見ていた無感情な瞳が此方を見上げていた。
「…何が知りたい」
「なんだなんだ物分かりがいいじゃねえか?」
「私も暗殺者として生きていた。武器を壊され完璧に拘束されたならば情報を吐くか死ぬしかない、もしくは両方…だがな?」
さて、さてさて、まずは…
「お前を雇ったのは風間の一族か?」
「ああ」
「金は?」
「…前金は無し、成功で2000万、生かして連れて来いと言われた。」
へぇ…多分魔眼を抉って直接手に入れたいのかなぁ?というか探索者向けに賞金かけるのに暗殺者やとってんのかと思ったらほぼ他の探索者とか賞金稼ぎと同条件じゃねえか…
「ほかの雇われは?」
「暗殺者として雇われたのは自分だけだろう。他は…知らん、が、少なくとも好んで怪物ではない賞金首を狙う探索者は奇異なものだろう。調べればわかるのではないかな?」
「人相書きや標的の情報としてどんなものをもらった?」
「…人相書きと外套や使用武器などの情報、戦力評価は目にさえ注意しておけばどうとでもなる。と言った程度のものだ。とんだ詐欺だったがな」
「ふーん?」
なんだろうなぁ、一応前のやつと同じような答えだけどやっぱり絶妙に意味がわかんないな、いや、当て馬を量産して消耗させるのと戦力評価をより正確にするのが目的か?いや、だがそれなら使う能力くらい教えても…いや?
「そうか、奪うつもりだから教えられないのか」
「…」
俺は鹿肉をムシャムシャと食べながら暗殺者の口に肉をねじ込む。
「っむぐぅ!?」
「明日、この階層にある町に行く。そこで買い物をして来てもらおう。」
俺はこのダンジョンに来てからようやく付けた眼帯をズラし、眼に力を入れ至近距離で暗殺者を見る。無感情な顔は怯えを出さないが体に触れられることで拒絶や嫌悪、不快感に恐怖といったさまざまな感情を俺の目に映し出させ、瞳は俺を直視できず、身体には震えが出ている。
…なんか普通に俺が悪役みたいだがこいつは俺を殺そうとして来たのだ。かける情けなどないし、俺はそんな大らかじゃない、顔を持ち上げさせ外套で近寄って来ていた狼の首を刎ねる。それに目を見開く暗殺者の顔をそちらに向け焼却を発動、黒い炎が燃え上がり塵も残らず消え去った。
「言っとくが俺の眼は特別製でね、色々とできるんだ。それだけは分かっとけ?情報を出したってことは、死にたくはねぇんだろ?」
俺は簀巻き状態の暗殺者に言う。その眼は今までん無感情のものではなく明確な怯えと死への恐怖で満たされた。魔眼による感情の読み取りでも同じ結果だ。ただ気掛かりなのは内面と外面があまりに乖離していること、相変わらず無表情だし震えなどの動きもない、演技かとも思ったがやはり内面は激しい感情に支配され正気ではない、はて?なぜだろう?
『それはそうだ。我が邪眼を至近で見てしまったのならばその力の根源たる我が視線にも気がつくだろう。貴様が知る通り我は罪を食らいそれを纏うもの、尋常ならざる精神を持っていたとしても発狂は免れん』
久し振りだなぁ!クソトカゲェ!
『ああ、久しいな、白痴でありながら鈍愚たる愚者よ…貴様に伝言だ。』
ああ?伝言だぁ?
『あぁ、剣聖からだ。「今、大樹市のダンジョン第一層の街にいる。傷はもう治って元気」だ、そうだ。無事再び合間見えれると良いなぁ?クハハハ!』
…いつからてめえは伝言サービスなんて始めたんだぁ?そう言う柄じゃねえだろ?
『我の精神性など貴様ごときに計れるものではないし、感情ひとつ取っても貴様をそれを見て取れるだけでその根源や、意味を判ってはいない、貴様はその程度の凡愚であるし、我はそれを嘲笑っているのみだ。せいぜい足掻くがいい…』
それだけ言うと彼奴は俺の中から去って行った。
一応眼帯をして暗殺者の顔をもう一度よく見ると瞳孔が開ききっておりしかも焦点があっていない、たしかに精神的な異常、発狂と同じ症状だった。…これ、改めて考えると俺の眼を見て発狂してるんだよな?
「…なんか、凹むわ」
ちなみに縄が緩んでいたのでもう一度締め直すついでに胸を触ってみたがまな板だったので男だろう。え?股の方が確実?…男だった時嫌だし、間違ってても別に構わないだろう。目立つ髪色と眼だがアルビノが珍しいだけでもっと珍しい髪色はいるし、買い物は問題ないだろう。
ちなみに金は昼間縛り上げた男2人組の懐から抜かせてもらった。