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これはゾンビではない


物理的な側面を持ち伝承再現的な怪物として主に夜の墓場を模したようなダンジョンに出て来るゾンビやグールはダンジョンのエネルギーによって生み出された虚像であり決して人間ではない、だが目の前にいるこれらは明らかにそういう類のものではなかった。


生気の無い皮膚、覚束ない足、そのどれもが相手が正気でないのを表している。だが生命力のカケラも感じられないような群衆はどれも熱に浮かされたような何かに熱狂している様な…悍ましさすら感じるような爛々と輝く目をしていた。



「殺すなよ、いや、殺しても問題ないかもしれないが…」

「わかってる!」

「ええ、一般人も紛れてるのです。上に出て即お縄なんて笑えないですから」


武器を使って武器を弾き体術や盾で殴打し気絶させる。どんな作用で彼らが操られているのか知らないが気を失わせればとりあえず動かなくなるようだ。だがここで永遠と戦って居てもどうしようもないジリジリと後退しつつ…


「いいか、死なずに一層へ行くのだけ考えろ」

「たった三人なんだから穴をカバーし合うだけで問題ないのですよ!」


そういうこと言うと想定以上のものが襲いかかってきたりしてやばい目に合うんだよなぁ…俺は持ってきて居た予備の火種を使って松明を作り外套に持たせる。その準備が終わると闇が蠢いた。


やはり来たか…


「避けろよ!」

「わかってる!」

「っちぃ!」


死体の様でありながらきちんと生命活動をしている人型を跳ね飛ばしながら黒の塊がやって来る。全然関わり合いになりたくはないがソレは明らかに俺たちを狙って高速移動してきている。駄目元で虐殺者を起動するが殺すための手順は見えない、ソレはそうだろう。なにせ今のアレは俺程度には殺せない属性が一致し強化された霊体の類はリッチやら死霊の王など物々しい名前の表す通りの凶悪さを誇っている。しかも現状アレが闇に属する霊体であると言うことと俺の中で決まっていることだが風間家、若しくはその周辺が生み出した碌でもない何かであるという事以外何もわかって居ない、何故そうと判るかだって?


…そりゃあ判るだろう。だってあんなにも、あんなにも風間という物を魔眼使いという存在を殺したがっているのだから!


「あ、ああああ…あがががああああ!!?」

「辞めてくれよ、俺とおんなじ目で俺を見るんじゃねえ」


俺は松明で闇の末端を焼く。ゴールは遠いが対処になれれば問題なく撤退できる。戦線が決壊すれば全員死ぬ。俺たちは互いに目配せをした。




「ころずぅぅぅぅぅ!」

「…」


闇が吼える。


多かれ少なかれそういう気持ちを持っている俺もわかってしまうし共鳴してしまうのだ。そして彼らは俺よりも運悪くその命、存在すらも奴らに利用されたのだ。

継ぎ接ぎにされ植えつけられ混ぜ合わされ焼き付けられて何の因果か忌むべき風間の血肉を使って顕現させられた。怒りと憎悪と殺意と熱意で満たされたソレらは怨みつらみを果たさんと思わされ利用されているだけだろう。なにせ彼らの感情は循環している。同じ記憶同じ感情同じ怨み同じ殺意、忘れたくても忘れられない様なソレらを何度も何度も見せられる様に、そしてソレ以外の記憶を削られ自分と他人を繋ぎ合わされてもそれが分からないほどに憎しみに満たされている。


多くの霊体系と呼ばれる非物理存在はその強度を魂に依存している。魂とは感情である。感情を強く発現させれば強固な魂になる。ダンジョンの怪物は揃いも揃って悪意や殺意や憎悪に燃えているが、それはダンジョンがそうあれかしと造ったためだ。他者によって固定された感情を植えつけられた彼らはそれを核として存在している。一般的にそういう学説があるというのを聞いたのはいつだったか、まさかそれを応用してこんなバケモンを作るどうしようもない屑が居たとは驚きだ。


「行けるか?」

「あと3秒です」

「あああぁ!まどろっこしぃいよー!」


闇は弓使いが焼き大斧使いがゾンビもどきを気絶させる。俺は両方のカバーをしながら感情の先触れを読み切り外套で防御する。

外套による防御は精神的な疲労を伴うし、最近気が付いたことだが破損した外套を直すにもなにがしかのリソースを使っている様で非常に疲れる。闇は何かに衝突した時点で勢いを失いそこを松明で焼くことで対処しているが、衝突するまでは物理的に不可能な速度で飛んでくるため外套に穴が開く。いずれ再生速度が追いつかなくなるだろうが、人間もどきの相手をするのも効率化している。後退しきるまでは保つだろう。もし保たなければ水薬をキメるしかないだろうが…物資は無限ではないし今回は撤退戦あの怪物を仕留め切れるのは昼しかないだろう。戦力はそこへ注ぐべきだ。



30分ほどだろうか乱戦地帯の敵はあらかた片付き大斧使いはすこし乱れた息を整えて居た。未だに信用ならない短剣使いという賞金首だがその腕は確かだ。防御面ではこの中でトップ何より備えている知識量ゆえに対応をほぼ間違わない、そういう点だけは信用に足る様になって居た。

だが、油断した。

そう一瞬のことだし目の前の敵を殲滅し終えたあとだったしなによりも30分という長時間の戦闘が彼女の集中力を蝕んだ。


「馬鹿がっ!」

「っ!?」


闇が蠢き、血肉が飛び散った。


「っはー!早く!走るぞ!」

「…わかってる!」


それは自分のものではなく姉の物でもないそれはこの場で最も自分をかばう可能性の低い人物のもので、戦略的に意味があってもまさか本当に実行するとは思わなかったから少し固まってしまった。


転移門に魔魂を捧げ転移する。私が私の代わりに傷ついた彼のためにできるのは現状それくらいだった。

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