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対世界悪特殊組織に入った僕は約束を果たす  作者: 火皿木
1章  ビレバール第十七駐屯地 殲滅作戦
4/8

1 魔境の魔京

本編開始です

 炎天下、陽炎揺らめく首都は人口密度の高さも相まってか、宮人には魔境のように見えた。

 魔境・・・魔京とでも呼ぶべきか。

 我ながら、上手いことを考えたなと俯きながら苦笑した。


 故郷である地方は一面畑に爺さん婆さんしかいなかった。

 に比べてこの魔京ときたら何処をどう見渡しても若者の姿しか映らず、地方では輝いていた爺さん婆さんが隅の方で水切りしたりしている。


 「・・・それ、にしても。何だこの人混みは・・・祭りでもやってるのか?」


 真夏と表現しても差異はない月日と暑さ。

 だが、それは上記に並べた2つだけの原因ではないと思う。

 

 人の多さ。

 体温の散熱、つまり人為的要因によるものも含まれているであろう。

 恐るべし都会。


 宮人は次第に額を濡らし始めた汗を強引に拭いながら日光による反射で見えづらくなった地図を覆いかぶさるようにして影を作り目的地までの進路を穴が開くように何度も目で追った。

 

 田舎民だということに少々の気恥ずかしさを心に持つ宮人はなるだけ第三者から視られても不自然ないように心掛けているのだが、どうにも今の体勢こそが田舎出丸出しだということに気づいていないようだ。

 事実、彼の露骨な姿にかなり注目を浴びている。

 苦笑付きで。


 

 と、まあ何だかんだありながらもようやく目的地ー小さな喫茶店に辿り着いた。

 ここが何区なのかも正直分かりもしていないが並び立つ高層ビルの端にちょこんと建つ不思議な感覚を覚える店と言うのが第一印象だ。

 不思議と感じるのは景観の違いが原因だろう。

 

 果てもなく伸びる人工物の数々にほんの彩りを加えたようなこの喫茶店は、植物が建物と一体化するように生え、まるでそれだけが別次元空間を形成しているような雰囲気。

 

 「こんなとこもあるんだな・・・」


 半ば感心して木彫り洒落たドアを開く。

 ふわあ、とコーヒーの香りが鼻腔を燻ぶらせた。

 宮人が店内を直接視界に映すより早くその鼻が働いたのだ。

 

 「いらっしゃいませ、お客さま」

 

 外観と変わらない木造をメインとしたどこか安心する素朴な造り。

 内観も自然で溢れていてちょっとした空間に植木鉢が花を咲かせ飾られている。

 程よく効いた冷房が居心地を一段引き上げる要因になっていて、不意に耳に届いた声には優しさを感じた。

 声の方を向けば店員らしい男性がこちらに軽く礼をしてきた。

 営業服のような身なりはしておらず、ユニクロのシャツに薄い長ズボンと如何にも私服。

 

 一瞬疑問を覚えたが彼の手元に気づくなりすぐに理解に至る。

 

 「どうも」

 

 宮人もペコリと返した。

 どうやら本当に店員らしい。

 そして、彼の持っていたそれはコーヒーの入ったポッドだ。

 透き通った茶色い液体は丁寧に抽出されているようで普段飲んでいるインスタントとは比べ物にならないくらいの上質さを伺わせる。

 加えて、店内に漂う香り。

 

 これが常知の喫茶店なるものなのだが、この時の宮人には飛びっきりの名店の一つとして認識された。


 一向に動かない客に訝しげに店員の男は口を開いた。

 

 「お客さん、もしかしてここへは初めてかい?」

 

 「え、ええ。ここである人と待ち合わせしているのですが・・・あの、他のお客さんは何処にいるのですか?」


 「ああ、そういうことですか・・・申し訳ありません、初めての方とは思いませんでした。

 それで、お客さまでしたらおそらく奥の立ち飲みゾーンにおられると思います。」


 「立ち飲みゾーン、ですか?」

 

 宮人は店の奥の方の木々によって遮られている場所を見た。

 

 「はい、本店のうりは"自然との一体化"ですからね。

 座席の方もご用意さえていただいてもおりますが、どうやらお客さまがお気に召されたのは自由に歩きながらゆっくりとすることみたいで」


 「なるほど、確かに自分もその方が自由にできて何度も来たくなると思います。

 それに斬新で素敵ですね」


 「ありがとうございます。

 ではご理解いただけたことで、ご注文は何になさりますか?」

 

 ニコっと微笑んで壁の少し高くに掛けられているメニュー欄へ手を向けた。

 案内も親切で当たりだなと満足し頷いた。

 

 「それ、じゃあ・・・すいません、あなたが持っているポッドのをいただけませんか?」


 「あ、はい。

 本店特製コーヒーですね、かしこまりました」


 快く頷いて、カウンターへ歩いて行った。

 綺麗に並べられたコーヒー豆袋やコーヒーミル、そして。

 取り出したのはカップだ。

 オーソドックスな白カップで近くのテーブルに置き、手に持つポッドを傾ける。

 

 静かな空間の中でたまに聴こえてくる液体が滴る音。

 洗練された一粒一粒が宙を滑り落ち注がれる様。

 ポッドという籠から解放された自由の鳥はその在り方を香りという形で伝えてくる。 

 ー時間にして十数秒。

 

 「どうぞ・・・ごゆっくり」

 

 早くも、いや、ようやくカップが宮人の手に渡る。

 

 「ありがとうございます」


 同じく渡った白のコースターを片手にカップをもう片手に持ち危なげなく店の奥へ行く。

 ゆっくりゆっくり一歩一歩、振動で震え横へ横へ揺れるコーヒーに緊張しながら。

 

 ついに辿り着いた店の奥。

 そこは四角に象られた空間で植物園と例えるのが最も適した場所だ。

 まるで箱庭版アマゾンといった感じで、勿論虫はいないが。


 店員の言葉通り立ち飲み限定で、客の姿が幾つかあった。

 宮人は窓際の両端に架けて設置されているテーブルに取り敢えずとコーヒーを置き一息吐く。

 

 「・・・はぁ、疲れたぁ」


 と何か思い出したのか、地図の入っているポケットを弄り始めた。

 ゴソゴソと手を動かし感触を掴んだのかそれを握って取り出す。

 

 ≪高峰宮人君へ≫

 そう宛名に記載された手紙だった。

 ポケットに入っていたのもこの手紙自体小さかったからである。

 封を開き、入っていた上品紙を開く。


 まず、簡単な挨拶が書かれていた。

 次に書かれていたのは場所の指定。

 目的を記さなかったのは紙の大きさによるものだ。

 既知前提の考えのもとなだけであるとも取れる。


 そして、最後には恐らく手紙を書いた主。


 「寺川浩二さん」


 そう小さく呟く。


 

 「・・・呼んだかね?少年」


 「え?」


 宮人の背後に大柄な男が立っていた。

 

 「いや、高峰宮人君」


 

 


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