1 朝の光
はいどうも火皿木です。
近未来を舞台に書きます。
よろしくお願いします!
ーもう一度、君とあの空を。
遥か遠く遠く、果てしなく、一生手など届くことも敵わない程。
世界を割る白線、飛行機雲。
それが君との別れ、むさ苦しいまでの暑さによる汗か悲しく苦しい涙か僕は瞳から流れ出る雫はそんな空を歪めていた。
止まらない、だけど止めたくない。
何処か離れていく君を忘れない為に。
涙を拭うことで目を閉じないように、腕で隠さないように。
「だから、もう一度・・・もう一度君に!」
これまでの様々な思いが想いが離れて行かないように・・・不意に腕を伸ばした。
届かないと理解しているはずなのに無意味なのに。
「待ってるよ!君の手が私に届くまで」
少女は腕を伸ばさなかった。
待ってると告げて。
最期は笑っていたのだろうか。
笑えていただろうか。
僕と君はその日、死んだ。
西暦2044年 7月26日 AM6時
航空自衛隊新田原基地。
普段と変わらぬラッパが騒々しく朝を告げた。
鳥の囀りのように心地の良い優雅なものではなく、慣れてきたからこそ感じる鬱陶しさに隊員達は嘆息を隠しえない。
奏者を殴り飛ばしてしまいたいほどけたましく耳に鼓膜に残存する音色に「朝か・・・」とベッドを抜け出した。
夏場真っ盛りな今日はこんな陽が昇って間もないという時間でさえも微かに暑さの前兆のような空気を感じ取りながら、点呼の為、外へと走る。
新人一同は未だに馴染めないのかそもそも朝に弱いのか眠気眼を擦り、欠伸を噛み殺している。
「おい!遅いぞ!!何を寝ぼけておるんだ!さっさと走らんかっ!」
「「・・・は、はいっ!」」
パンパンと両頬を叩き無理やり意識の覚醒を計る者もいるようで・・・俺はそんな姿を微笑ましくどこか懐かしく眺めていた。
俺ー高峰圭はつい先日、ある事件をきっかけに転属を命され、一昨日この新田原基地に配属となった。
懐かしく思ったのは、前基地の隊員の平均年齢によるものだろう。
「若いっていいなぁ」
俺は人間的理、歳を取った現実を改めて実感した。
それに思い至ると同時に何故か寂しさに苛まれる。
俺ももう30代後半に差し掛かり身体も勘も衰えを覚え始め、今若い隊員達に勝ることと言えば経験と溜めこんだ知識ぐらいだろう。
後もう一つ。
「ほらほら未来のパイロット諸君!走った走った!」
長年の努力の成果。
・・・権力だ。
整列を終え挨拶、敬礼。
「本日は晴天なり・・・」
朝礼も終わり放送が天候を告げる。
実はマイクテスト時にも使用する言葉であるからこの放送がマイクテストであるのか天候を告げるものであるのかは正直もうどうでもいい。
【1】
ここ新田原基地は宮崎県に所在し、隊員数は2600名と今時の基地内隊員数と比べると最多基地の半分程度の数である。
西日本の空の守りであり東太平洋、東シナ海、そして日本海上空に睨みを利かせる戦闘部隊、第5航空団が主であり、2034年より登場したF-44を多く配備している。
F-44は戦闘機の最新型であり、近年世界的にあらゆる用途として普及され戦争の要を担っていた「ステルス」を特殊レーダーにより視覚化が可能になりその保有国は圧倒的軍力を持つようになった。
視覚一体化技術「リンク」もパイロットに義務的に施され戦闘は新たな次元へと突入していった。
このような技術的躍進は急速的に進み、この十数年で2,3世代も進化を遂げたとされる。
「高峰さん、ブリーフィングの時間ですよ。急ぎ、第6会議室へ」
倉庫が解放されていく中、戦闘機パイロットの面々は会議室へと向かった。
どうやら明日から実施される大規模実習についての説明が行われるようだ。
俺は付近の基地内用移動自転車に跨り、まだ涼しい風を受けながらこいだ。
同刻 管制室
航空機の侵入を監視し着陸離陸の指示を出す重要な部署であるここ。
飛行場、つまり滑走路の車両等の移動も指示し、着陸誘導までもこの管制塔が担っている。
そんな管制室、ターミナル・レーダーがある航空機を映した。
「・・・未確認機、か」
「またですかぁ」
「最近多いな・・・」
「侵犯ですか?」
「ああ、国籍と飛行目的について識別を行う・・・不明」
「不明?・・・いつもの国じゃあないってことか?」
「・・・侵犯であることが判明、・・・こちら管制RADAR、国籍不明の機体が接近中、スクランブルを要請する」
スクランブル要請を命じた管制塔の声、ものの数秒で応答が入った。
「了解、5分機で発進する」
「了解、明確な位置、指示についてはリンクでの確認を」
「・・・はいよ」
「勤務中だぞ込田」
「固いなぁ君も」
日常茶飯事である領空侵犯に慣れ切った姿勢を見せる。
だが、これが世界を破滅へと導く始まりの、全ての序章であることなど今はまだ知る由もなかった。




