05
カタカナの名前や名称を考えるのが凄く苦手なので、出来ればあまり付けずに書き進めたかったのですが、「やっぱり固有名詞とか名前とか必要だな…」と思って国や学園の名前が急に明らかになってます。今更かよ。
それから、国王の一人称を「私」から「余」へ変更しました。こっちの方が何か王様っぽい!気がする!
王宮には何度も足を踏み入れた事はあるものの、いつ来ても緊張する。
ピンと伸ばした背筋が更に一段と伸びる心地になりながら、カインはいつでも優雅な足取りのアレックスの半歩後ろを静かに歩いた。
「ただいま帰りました、父上。…あ、兄上もいらっしゃったんですね」
第一王子にして王太子のフェリックスは、父譲りの榛色の髪を綺麗に撫で付けて、意志の強そうな眼差しは今日も深く澄んでいる。
「あぁ。妹に関する事だからな」
「僕も妹の事ですので、見届け人として在室しても構わないでしょうか?」
「好きにすると良い。どうせそのつもりで、わざわざここに足を運んだんだろう」
「兄上は僕の事などお見通しですね。…イザベラは居ないんですか?」
「今、呼びに出させている。今日の午後、学園からそのままカインを連行して執り行うと前以って知らせてあるから、支度は済んでいるだろう。すぐ来るはずだ」
連行、という身も蓋もない表現に、カインは廊下でこっそり苦笑する。
フェリックスの声は深い森のようだ。艶のある低音は同性でも心臓に悪そうな声なのに、適度な重厚さと適度な閑けさを内包しているせいか、穏やかな心地で聴ける。
御年二十三歳のフェリックスは、一昨年他国から妻を迎えたのもあり、男としてより一層魅力的になったようだ。
自分が細くて白い上に軟派な顔立ちなせいか、男らしさを常日頃から羨むカインにとって、フェリックスの彫りの深い男性的な顔立ちと硬派な性情は憧れである。
「失礼します。カイン=アルベスト、ウィギストリ王国第三王女イザベラ姫との婚約を白紙になさる手続きの為、馳せ参じました」
「よく来たな、カイン。こちらへ」
「はい」
王の執務室に入るのは、これで二度目だ。
一度目は六歳だったので、実はあまりハッキリと覚えていない。
校長室みたいだ、と思いながら、重厚な威圧感を持つ部屋に一歩踏み出した。
ウィギストリ王国国王のオーギュスト、王太子のフェリックス、第二王子のアレックス、宰相のキース=バロウズ侯爵、そしてカインの父である、財務大臣のカイル=アルベスト公爵。見事に男だらけである。イザベラはまだ来ていないらしい。
「父上…、此度の件、申し訳ありません」
「私と陛下が決めた婚約だ。白紙にするならば、私も見届ける義務がある。……そしてカイン。お前は確かに私を失望させた。…お前の恋は、叶う見込みなど無に等しいぞ。それでもお前は、オリヴィア姫を望むのか」
「はい。…ずっと、オリヴィア様をお慕いしていましたから」
オリヴィアの父兄達も居るこの場でそれを冷静に口にするのは少しだけ勇気がいったし照れもあったし恐れ多さも湧いたが、真実を恥じらう方が無礼だと、カインは繊細な初恋を改めて父に明言した。
オリヴィアを溺愛していると有名なフェリックスの青い瞳が一段と鋭さを増したように感じられ、背筋に冷や汗が浮いたのをやせ我慢で堪える。
「宰相。書類を。……あぁ、来たか、イザベラ」
「イザベラです。失礼致しますわ」
謹慎中という事実を、イザベラはちゃんと自覚しているらしい。イザベラにしては珍しく、装飾の控えめな地味な紺色のドレスを着ていた。
彼女は愛くるしい上に大抵の強い色にも負けない美貌を持つ為か、ドレスに限らず明るく鮮やかな色を好む。十年以上婚約者だったカインだが、「イザベラ様って、ちゃんとシンプルで大人しい色のドレスも持ってたんだな」と意外なところに驚いた。
裾を摘み、優雅に一礼して入室したイザベラは、凛とした眼差しでカインを見据えた。……この一本筋の通ったような表情は、今の状況ではどう捉えれば良いのだろう。
「イザベラ様、お久しぶりです」
「えぇ。五日もカインと顔を合わせない事なんて、私が学園に入学してからは一度もなかったものね。…たった五日なのに、何だか新鮮だわ」
イザベラはカインと同齢の十七歳。
カインにとっては学園に入学した年からイザベラと顔を合わせない日は長くてもせいぜい三日だった。それまでは一月会わない事だってざらだったのに、慣れとはつくづく感覚を麻痺させる。
十二まではそれぞれ自分の家で親が雇った家庭教師からマンツーマンで勉学に励み、十三になる年で学園に入学して十八になる年で卒業する。それがこの国の上流階級に生きる子息子女の通例だ。王族も通うような王都随一の学園なので、当然財力か家格、どちらも最低限備えていないと入学出来ない。
「カイン。この間の夜会では、言い過ぎてしまってゴメンなさい…。言い訳がましいけれど、あの時は当然のように思っていたから何も不思議ではなかったのだけど、五日間色々考えたり思い出したりしてる内に、段々あの夜の私達がおかしい気がして……だけど私にも、何故あんなに一方的にカインを罵ってしまったのか、今でもよく判らないのよ。何だか無性にカインを詰ってしまいたかったの。ゴメンなさい」
「…いいえ。イザベラ様は少々ご気性の荒いところがおありですから、少し虫の居所が悪かったのだと思っていますので」
「まぁ! なぁに、その言い方。私、そんなに気が強いかしら。じゃじゃ馬みたいに言わないでちょうだい」
「申し訳ありません、つい本音がポロッと」
「もう、カイン!」
本当はまだ納得出来ないが、カサンドラの様子も明らかにおかしかったし、イザベラは意味のない嘘を告げるような娘ではない。だからきっと、判らないなりに本当の事を話しているのだろう。
カインはそう信じ、イザベラから一方的に身に覚えのない罪で詰られた事をあえて軽口叩いて水に流す事にした。何せこの世界は元々ゲームの設定である。
自分含めこの世界に生きる全ての命は普通に生を享けて生きてきた生身の人間であると思いたいが、自分達がプログラムだなんて思いたくもないが、しかしカインの前世はこの人間達をキャラクターとして、ゲームとして知っているのだ。
ゲームなら、何らかの強制的なプログラムが発動して、普段とは結び付かない言動を取った可能性もある。そう考えると、イザベラの言い訳にも一応納得出来るから。
しかし、そう考えると、実は恐ろしい結論に達してしまうのだが。――エリック=スウィングラーの正体に。
カインは記憶が甦っても、こんな三次元から二次元の世界へ生まれ変わるなどあまりにも特殊過ぎる転生な為、そんな転生をしたのは自分だけだと思っていた。
しかし、ここがゲームの世界だと知っていれば。特に魅力が感じられないように見えた男が四人の美少女を虜にするくらい、造作もないのでは。だって選択肢を知っていれば、どんな言動を取れば良いのか、ゲームだと知っていればそう振舞うだけで好感度が上がるのだから。
エリックが転生者でないなどと、誰が言える。
この恐ろしい可能性に思い至るや否や、カインはエリックの目的が何なのか、一度探る必要があるな、と眉間に薄っすらしわを寄せた。
「――イザベラ。今この時より、そなたとカイン=アルベストの婚約を白紙にする手続きを取るが、異論はあるか」
「…………。いいえ。ありません、お父様」
少し間を置きつつも、迷いのない口調でイザベラはキッパリ父親に告げた。
それはつまり、婚約破棄を撤回する意思がないという事。
カインとしては有難いが、イザベラの様子にはヤケクソとか投げやりとか、そういう捨て鉢な感じが見受けられない。
五日という時間は彼女の頭を少なからず冷やしてくれたようだが、一国の王女として冷静に考えて、この婚約破棄をする事で互いの信頼関係や結婚する為に年月を掛けて準備してきたたくさんのものや仕事が無駄になる事を承知の上で発言しているのか、改めて問い質しくなる。
花嫁衣装一つ取っても、たった一着が作られるまでに莫大な時間と人材と労苦と金額を費やしているはずだ。それら全て水泡に帰す事がどれだけ国庫に損害を与えるか、国民が捧げてくれた税金を水に流す事になるのか、ちゃんと判っているのだろうか。
「貴方の言いたい事、ちゃんと判っているわ、カイン。私もこの五日間、私なりによく考えたのよ。……その上で、私の我が儘を貫きたいの」
我が儘。エリックへの恋が、彼女の貫きたい我が儘だと言うのなら。
同じように、オリヴィアへの恋が我が儘である自分には、否を唱えられない。
「私とカインの婚約は、王家とアルベスト家のより良い関係を築く為の政略的なものです。それに不満を持った事はありませんし、今でも不満などないのです。……でも、」
恋をしてしまった。恋を知ってしまった。
「カインはとても優しいわ。私を妹のように可愛がってくれて…私もカインをもう一人の兄のように思っていた。今もそう。カインは私にとって兄のような人…。勿論、親愛感情も立派な愛情の一つです。お互い嫌悪感もなく夫婦になれると思うし、穏やかに愛を育んでいけると思ってましたし、今も思っています」
「では、何故?」
穏やかでありながらも嘘や誤魔化しを一切許さないと言わんばかりの、静かで重みのある声。フェリックスの声質は間違いなく王の遺伝だろう。
「…カインと居る時はひたすら穏やかで、楽です。でも、エリックと居る時みたいに、心臓がそわそわしたり弾んだりもしません。……私はエリックに出会って、恋というものを知ってしまった…。カインに恋が出来なくて、恋をしていないカインと結婚して、それでも恋を知ってしまった私が今まで通りカインと過ごせるのか、いずれ夫婦として過ごせるのか、考えたら…………無理だったのです」
カインも同じようなものだ。それでも最初からオリヴィアへの想いは叶わないと諦めていたから、イザベラと結婚する事に迷いはなかった。
けれど、イザベラは違う。エリックへの恋が上手い具合に進んでしまった。
失敗すれば諦めもつくが、中途半端に手応えを感じれば、後に引くのが惜しくなる。恋を叶えたくなる。――今はまだ、四人の中の一人という女友達のような立ち位置でも。出し抜くチャンスがあれば本命の座を射止められるかもしれない。
「勿論、エリックが私以外の女性とも親しいのは知っていますわ。それこそ、カインの姉のキャシーとか」
チラリ、とアルベスト父子を流し見たイザベラの言う「キャシー」とは、カサンドラの愛称だ。弟のカイン含め、カサンドラと親しい者は普段彼女をそう呼ぶし、カサンドラもそう呼ばれたがる。本名より響きが可愛いから、という理由らしい。
だからこそ、エリックが姉を愛称ではなく「カサンドラ」と呼んでいたのが、少々意外でもあった。
「それでも、まだ私にも望みがあるのなら。一生に一度の恋と決めて、とことん頑張ってみたいのです。エリックがしがない男爵令息で、王家にとても釣り合わない家柄の子息とは重々承知しております。ですがエリックには、私が言うのもアレですけれど、私含め、キャシー、シャーリー、セシルと言った、名だたる優麗な令嬢をも虜にしただけの魅力と器があると思っています。エリック本人の資質も考慮して、どうか私の婚約者候補としてお認め下さい」
「……そなたの言い分は判った。だが、肝心のエリック=スウィングラーを余はあの夜会で初めて見ただけで何とも言えないが、高く買い過ぎではないか? ――カイン。そなたはあのエリックという若者を、どう見る」
「…正直、私にも不思議でなりません。私の姉もエリック殿に心を寄せているように見えました。シャーロット嬢や、セシル嬢も同様に。イザベラ様の仰る通り、複数の女性を僅か半年足らずで虜にするだけの、男性として確かな魅力が備わっているのは間違いないと思いたいのですが……私はエリック殿とはクラスが違うのもあって、あまり親しくはないのです。ですので、エリック殿がどういった人物なのか、と問われますと即答は致しかねます。…ただ、私の目から見て、エリック殿はまだ我々青き血の階級には馴染んでおられないかと」
夜会のエリックを思い出すと、失礼ながら彼にそこまでの魅力があるようには思えなかった。……これは振られた男の負け惜しみとかではない、断じて。
「エリック殿が妾腹の子で、男児の居なかったスウィングラー男爵に引き取られた理由も、男であるが故でしょう。エリック殿と接点などほぼない私も知っているくらいですので、その辺りの事情は公然の秘密のようですね。本人にはどうしようもない部分を攻撃する為に一々口に出して揶揄する輩の方が見苦しいですが…。その生い立ちを、彼自身が吹聴して同情や関心を買っているのなら、あまり上品な手口とは言えませんね」
「カイン! エリックはそんな人じゃないわ」
「失礼しました、イザベラ様。ただ、そういう気の引き方もこの世にはある、という事です。エリック殿は私達が通うリーリル学園に中途入学で編入しています。元が私生児で庶民の暮らしであったなら、貴族としての考え方、生き方、礼儀作法などはまだまだ引き取られたばかりで未熟でも、成績に関しては間違いなく優秀かと思います。他の学校ではどうだか知りませんが、少なくとも王都リーリル学園では例え王族が相手でもコネや賄賂といった裏口入学は一切受け付けておりませんからね。リーリルの中途入学の試験は、入学試験以上に厳しいと噂されていますから、それを実力でパス出来たという事は、エリック殿の頭脳は相当素晴らしいと思います」
「そうだな。余もそなた達の歳の頃に通っていたから、リーリルの試験及び普段の授業がどれだけ厳しかったかは、今でも覚えている」
オーギュストのしみじみした言い方に、思わず目をパチクリして国王を見てしまった。
言われてみれば、自分の父やそこに居る宰相だって、かつてはリーリル学園に通っていたのだ。今は国王であるこのお方も、十代の頃に通っていて当然だった。
――という事は!
(今気付いたけど、当時のアルバムとか……あるんじゃないか!? 図書館とかに…)
カイルは身内なので若い頃の肖像など屋敷にあるので見ようと思えば見られるが、オーギュストやキースの若かりし頃の肖像も、学園のそれらしき場所を探せば見付かるのでは。
この世界にはまだカメラや写真といったものがないようで、肖像と言ったら専ら肖像画だが。アルバムも小さな肖像画を綴ったものを「アルバム」と呼んでいる。
(明日、早速探してみよう! 陛下やバロウズ侯爵の若い頃なんて、きっと絶対とんでもないイケメンに違いないぞ。早く見てみたいなぁ)
今だって、どちらも結婚適齢期の子を持つ父親として違和感のない小さなしわを刻む顔をしているものの、年月がもたらした落ち着きと貫録がダンディーな色気を醸し出している美中年なのだ。自分の父親もそうだけど。
「優秀な頭脳、ですか。…それにしては、あの夜会で拝見する限り、その頭脳に見合わぬ浅慮な少年にしか見えませんでしたな」
年齢より老成した口調が特徴的なキースが淡々とエリックをそう評した。
その少年に自分の娘も寄り添って醜聞を曝したというのに、キースはシャーロットに関しては一言も口にしない。
不肖の娘として口に出すのも憚られるのか、それとも今は宰相としてこの場に居る為、娘の事は切り離して考えているだけなのか。
職業柄か、キースはテッド以上に皮肉屋で合理主義者な気がする。表情も滅多に動かないし、冷た過ぎて乾いている。ギャルゲーではツンデレ枠だったシャーロットはその設定に忠実でツンケンしたところがある分、感情すら読めないこの父親よりはずっと人間味があるように見え、可愛げも感じられる。
「バロウズ様の仰る通り、あの夜会のエリック殿を見たら、本当に学園の編入試験をパス出来た生徒なのかと疑問が浮かんでしまいます。なので、私にもエリック殿という人物が今ひとつ推し量れないのです…。私は以前、一度ならずともエリック殿に忠告は致しましたが、それを聞き入れたならイザベラ様や姉から距離を置いてくれたはずです。イザベラ様は私の婚約者でしたし、姉にもラムゼイ伯爵の子息で、現在騎士見習いとして士官学校に在籍している婚約者が居るので。…婚約者が居る事を知らなかったなら、一度目の忠告ですぐに遠慮して距離を置くのが正しい男性の行動だと思います」
「それがなかったのか。その、エリックという男は」
「えぇ。私の忠告も、決してキツい物言いはしなかったと記憶しています。――「初めまして、エリック殿。少しお時間宜しいだろうか? 俺はカイン=アルベストという者だけれど、君は最近、イザベラ王女やカサンドラ=アルベストと仲が良いと聞く。しかしこの二人にはそれぞれ婚約者が居るから、あまりその二人の女性と親密になるのはやめて頂きたい。イザベラ王女は俺の婚約者で、俺の姉カサンドラも既に婚約が決まっているから」……と。確かこんな感じの言い方をしました。声も荒げた覚えはありません。それがどうやら曲解されて、「嫌がらせ」とか「悪口」に取られてしまったようですが」
「え…? そんな、嘘…。エリックはもっと酷い言葉で、罵るように一方的な宣言をカインにされたと言っていたわ。……カインの顔が意地悪そうだから、ちょっと大袈裟に捉えてしまったのかしら」
付き合いの長いイザベラの口から「意地悪そう」という他意なき一言が出てきたので、油断していたカインの胸にザクッと突き刺さった。
カインは色っぽいというだけではなく、高慢で酷薄そうでもある為、この顔立ちのせいで今よりもっと幼い頃は中々同性の友人が出来なくて寂しい思いをした。実は今も男友達は少ない。国内有数の大貴族であるアルベスト家の恩恵にあやかろうとハイエナのように群がってくる媚売りの取り巻きだけは多いが。
イザベラに悪気がないのは判っているが、良くも悪くも根が素直な娘な為、美しい容姿をしていながら彼女が政略の駒として国外に嫁ぐのではなく国内の貴族に嫁がせる方針を取られたのも、納得出来てしまうというか何というか。
「あ、ゴメンなさい。カインは自分の顔、あまり好きじゃないのよね」
「…いえ、良いです。慣れてますので……意地悪そうな顔は元からなので…」
「ゴメンってば」
イザベラは顔に難のある姉を持つが故に、顔立ちにコンプレックスを持つ人に対して顔の事を口にしないよう殊更気を遣う面があるのだが、カインには気安さが勝るのか、ごく稀にポロッと失言してしまう。
それもこれも、カインに対する一種の甘えなのだろうけれど。それと、カインが自分の顔に文句を言ったら「ふざけんな!」と石を投げられそうなくらいに整っているのもあって、「それだけ綺麗な顔をしながら、オリヴィア姉様の前でも「この顔嫌いなんです」とか贅沢言えるのかしら?」な心境なのだろう、イザベラ的には。
カイン自身、自分がコンプレックスを抱いているだけで、他人から見た自分の顔立ちがどれだけ羨まれるレベルなのか、ちゃんと自覚している。
こうなったら一刻も早く男らしい顔になれるよう、付け髭でも試してみるか、などと思うカインだったが、垂れ目がちの目元に繊細で色っぽく歳相応の若々しい顔立ちは美麗過ぎて、髭など付けたところで違和感あり過ぎて、似合うとか似合わないとかいう次元を超えてしまう事に気付いていない。
「……ふむ。エリック=スウィングラーに関しては、まだ何かと未知数、或いは探る余地があるという見解で良いな。そしてイザベラ、そなたの意思は判った。それが我々にとってとても迎合出来ぬ事と理解した上で、その発言をしたのだな?」
「…はい。そうです、お父様。愚かな私の我が儘を、どうか一生に一度の我が儘を、許して下さいませ…。もしエリックにキッパリ振られたら、その後誰の元へ嫁がされる事になろうとも、このイザベラ、決して逆らいません。相手がどんな殿方であろうと、この国の為になるならば、潔く嫁ぎますわ。……だから、どうか、」
「もう良い」
為政者にしか出せない厳正な声。ビクリ、とイザベラの華奢な肩が跳ねる。
「そなたがそこまで覚悟を決めているのなら、父として一度だけ目を瞑ろう。――ただし、その誓言、違う事は王として許さぬ」
「…っお父様!」
何だかんだでこの厳しい王もまた、人の親なのだ。
自分で書いておいて何ですが、「この国はこんなんで大丈夫なのか」と不安になってきました(えっ)。
貴族とか王族とか、一般庶民な楸にはロイヤルなお家柄の事情なんて雲の上過ぎて想像力が追い付きません…。