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魔女狩り少年と光の魔女  作者: 揚げパン
第5章 陰謀
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第96話 悪魔の微笑み その3


 月音は激変した志乃の表情を見て驚愕する。彼女の目つきは……以前、亮司と離反して魔女同盟にいた時のものと同じだった。

 しかし、まだ状況の整理がつかない。志乃の人格を変えられるのは静歌だけのはず。静歌が青い光を発し、志乃がそれを見ることで人格が変わるはずだ。…なのに、元康が志乃の肩に触れただけで変わってしまった。


「アハハ!まさかこのタイミングで出てこれるなんて!嬉しいなぁ~~。久しぶりだね。月音ちゃん」


 志乃は不敵な笑みを浮かべ、月音の方に目を向けた。普段の志乃なら絶対にしない表情に、月音は冷や汗を垂らして唾を飲み込む。

 再会したのに、嬉しがるどころか緊迫している月音に、志乃は不思議そうに小首を傾げた。


「あれれ?あんまり嬉しくないの?月音ちゃんひどいよー」


 そう言うものの、口調はひどく淡白で、表情も冷たい笑みを浮かべていた。以前の月音ならなんてことなかったのだが、志乃や亮司に感化されて月音も変わってきた。だから、今の志乃には抵抗がある。

 志乃は戸惑う月音から目を逸らし、元康に視点を合わせた。


「お兄さんには感謝しないとねー。私ずっと待ち焦がれてたんだー」


「そうか。それならおれに協力してもらおうか」


 元康はそう告げて手を伸ばしていく―――が


 パシッ


 志乃がそれを手で弾いた。弾かれた元康は面白くなさそうに志乃を睨む。


「…何をする」


 元康が尋ねると、志乃は顔に影を落としてフッとにやけて見せた。


「あんたはお姉ちゃんを狙ってるんでしょ?鉄槌を下すとか正義のためだとか中二臭いこと言ってたけどさ、私のお姉ちゃんに手出ししないでくれる?ムカつくから」


 志乃はゴミを見るような目で元康を見下し、吐き捨てるように言い放った。今の志乃は明らかに静歌を擁護している。静歌の悪行を今の人格が知っているのかどうかわからないが、伝えたとしても、今の志乃なら姉の味方になるだろう――月音はそんな気がした。


「…なるほど。君に2つの人格があったのは良いとして、もう1つの人格には問題があったようだ」


 元康は今の志乃の人格を理解すると、対抗するように冷徹な目つきで志乃を見下す。


「問題があるやつに言われてもねー。ちっとも説得力ないっての」


 志乃は呆れたようにやれやれと肩をすくめる。そして、元康に気付かれないように、後方の上空に数本の光の矢を発現させた。


「ばいばい」

「!!」


 志乃はボソッとそれだけ告げると、光の矢を一斉に発射した。元康は攻撃に気付いて後ろに目を向けるが、矢は既に目前に迫っていた。

 しかし、元康は焦りを見せず、余裕の構えだった。なぜなら志乃の攻撃は一切効かないからだ。元康の能力はただ単に触れた人物の記憶や情報を読み取るものではない。その人物のすべてを把握することだ。だから魔女であれば、その魔女の魔術は"すべて"把握してしまう。把握されたものは元康には効かないのだ。


 ドオオォン!!


 光の矢は落下して元康の体に当たって消滅……せずに、彼の体を吹っ飛ばした。


「効いてる…!?」


 月音はその様子に目を見張った。志乃の攻撃によって元康がダメージを負ったのだ。さっき攻撃したときは一切効かなかったのに、今はなぜ効いたのだろうか。

 元康は地面に倒れ込んだ。志乃はすかさず光弾を彼の足めがけて放つ。


「うがっ…!」


 光弾が元康の足に着弾し、彼は足を満足に動かすことができなくなってしまった。予想通りの状況に志乃は面白そうににやけた。


「あっちの志乃は把握できても、私のことはまだだったでしょ?」


「…なるほど。おれも十分に理解していなかった。2つ人格があれば、同じ魔術でも別物というわけか…」


 今の志乃には触れる前だったので、魔術が有効というわけだ。しかしそれなら、今の志乃にも触れてしまえばいいだけのこと。


「おれはこんなところで油を売っているわけにはいかない…。早く如月静歌を懲らしめなくてはならない」


 元康は強い使命感を心に打ち込み、奮起して立ち上がろうとする。その諦めの悪さに志乃は困り顔でため息をついた。


「しょっぱい能力者のあんたがお姉ちゃんに喧嘩売るなんておめでた~い。あんたはここで…私の魔術によって消し炭になるんだから」


 志乃はそう告げると、掌をかざして光を凝縮させていく。

 ―――その時、月音が志乃の手を降ろさせた。


「志乃やめて!今の志乃には殺意がある!殺意を持って魔術を使っちゃだめ!」


 攻撃すること自体を咎めようとは思っていない。この男は野放しにしていたら何をするかわからないから尚更だ。…しかし、月音は志乃の明確な殺意を不安視した。このまま放っておけば、志乃は元康を殺害してしまうかもしれない。そうすれば、彼女の心は黒く染め上がってしまう。それだけは避けなくてはならない。


「…何すんの」


 月音の思いもむなしく、志乃は冷酷な目を向けてきた。邪魔をされてイライラを募らせていた。志乃は月音の手をブンッと払いのけ、再び攻撃しようとする。

 しかし、再度月音が志乃の手を掴んできた。


「ちょっとちょっと!どういうこと月音ちゃん?前に一緒だった時はそんな腑抜けじゃなかったじゃん。まさかあの渡良瀬に感化されちゃったわけ?あはは!ばっかじゃないの!」


 志乃は蔑むように笑い飛ばすが、月音の目は依然として真剣だった。


「渡良瀬だけじゃない。志乃の明るさと優しさがあったから私は変われた。だからお願い。殺意を持つのはやめて」


 次の瞬間、志乃は月音を思いきり蹴り飛ばした。月音は無抵抗のまま倒れ込んでしまう。


「うっせーなぁ!ごちゃごちゃごちゃ!リーダーだからって意気がってんなよ!って言うか、今のあんたはリーダーにふさわしくないなぁ~。やっぱり、リーダーはお姉ちゃんが良いよね!」


 志乃の口から発せられる暴言に、月音は大きなショックを受けた。もう天真爛漫だった志乃の面影はない。志乃の心は再び黒く塗りつぶされてしまった。

 しかし、志乃の意識は月音に向き過ぎていた。その隙が、元康の手が肩に触れるという行為を達成させてしまった。


「なっ…!?」


 気づいたときには遅かった。元康の手は既に志乃の肩に置かれていた。ダメージを負って体は満足に動かないが、元康は勝ち誇ったようににやけて見せた。


「おまえのことを"把握"したぞ!これでもう魔術は効かない!そして…、おぉ!さらに情報が増えていく…!今のおまえは如月静歌の位置がわかるのか…!人格を変えたかいがあった!」


 元康は志乃の情報を読み取り、大きく前進できたことで1人満足そうに声を上げる。


「キモ……。キモキモキモ!勝手に肩に触って変態行為した挙句、私とお姉ちゃんのプライバシーの侵害!?マジサイテー!」


 志乃は元康の行為に生理的な嫌悪感を抱く。対して、元康は喜びから一転、静かな態度になって志乃を睨み付けた。


「おまえも邪悪な魔女だったな…。この場で消してやらなければ、おれの正義感が満たされない…」


 志乃はフンッと鼻を鳴らし、バカにしたように元康を見てにやける。


「ま~た出た正義感って言葉~。ほんと脳内お花畑じゃん。うざいから死んで」


 志乃は冷たく言い放ち、ゴミを消したい一心で掌をかざす。


「忘れたのか?もうおまえの魔術は効かない。そして親切にも教えてやろう。おれの攻撃は至って簡単だ。…おまえの体にもう一度触れる――これだけだ。これだけで、おまえは再起不能になる」


 元康は掌をかざされても余裕な態度を示して見せる。今度こそ志乃の魔術は一切通用しない。それに対し、元康は単に彼女の体に触れるだけだ。もう元康は志乃のすべてを手中に収めているのだ。


「やってみればぁ?」


「それならありがたくやらせてもらう…!」


 志乃の挑発を受け、元康は手を伸ばした。―――その時


 ヒュンヒュンヒュン!!


 元康の後方の上空から無数の光の矢が降り注いだ。元康は攻撃に気付き、一旦手を止めて顔を振り向かせるが、余裕の態度は決して崩れない。


「攻撃は効かないと言っただろう!」


 光の矢は元康に当たって消滅……せず、傍の地面を勢いよく打ち砕いた。

 砕かれた無数のアスファルトの破片が銃撃のように元康に襲い掛かった。


「うくっ…!」


 元康は咄嗟に腕で顔を護るが、破片の嵐に体の至る所に傷を負ってしまった。

 確かに魔術は効かなくなったが、魔術を媒介にした攻撃なら効くはずだ―――志乃の予想は見事的中した。


「なぁんだ。意外と大したことないじゃん。魔術を直接当てなきゃいいだけでしょ?かーんたん」


 あれほどかっこつけて魔術は効かないと豪語していたのに、なんとあっけないのか。もう少し楽しませてくれないものか…と、志乃は物足りなそうに元康を見下す。


「これくらい…大したことはない…。正義の前には…おまえの威厳など無力だ」


 元康は尚も腕を伸ばしてくる。すべては彼の正義感を満たすために…。


 カッ!!


 瞬間、元康の目の前が太陽の様に眩しく照り輝いた。あまりに突然だったので、反射的に目を瞑ったものの、目に大きなダメージを受けて頭がフラフラになっていく。


「目くらましは有効みたいだねー。あとは…」


 元康がひるんでいる間に、志乃は地面に転がっている破片の中から鋭利な形状のものを拾い上げる。そしてそれを宙に放り投げた。

 破片が落ちてくる前に、志乃は掌をかざして光弾を生成する。――そして、破片が光弾の高さまで落ちてきたタイミングで、光弾を発射した。鋭利な先端を持つ破片が光弾と共に猛スピードで元康に迫っていき、勢いよく彼の体を貫いた。


「ば、ばかな…!」


 元康は驚愕した表情のまま、血を吐いて倒れ込んでしまった。


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