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魔女狩り少年と光の魔女  作者: 揚げパン
第5章 陰謀
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第95話 悪魔の微笑み その2


 空白の時間が過ぎていく―――。心の底からやばいと思った時、人は考えることを止めてしまう。

 亮司もまた、今置かれている状況を飲み込めないでいた。鬼怒がさらわれたという事実―――亮司はこれを予想などしていなかった。


「わたら…せ」


 志乃は恐る恐る亮司に歩み寄っていく。しかし、亮司は呆然としたまま微動だにしない。

 ―――自分のせいだ。自分が後先考えずに明日莉に話してしまったせいだ。鬼怒は亮司のおかげで平穏な生活を送っていた。それは、親友を亡くしてしまった亮司にとってとても大事なことだった。それを―――自分が台無しにした。


「ごめんなさい!!私のせいだよ!!ごめんなさい!!」


 志乃は勢いよく頭を下げて一心に謝った。目には涙が浮かんでいた。大きな罪悪感に見舞われて、自分で自分を痛めつけてやりたい気分になる。対して、亮司は目を向けずに静かに口を開いた。


「もういいやめろ。おまえは悪くない。俺の注意が甘かったのが原因だ」


 亮司はあくまで自分の責任だと言い切る。亮司の脳裏に、鬼怒の家の近くですれ違った蝶が過ぎる。…あの蝶は鬼怒の家を探していたのだ。何故あそこで疑おうとしなかったのか。過去の自分を咎めたい気分に襲われる。…しかし、そんなことを思ってもどうしようもない。


「おまえらは先に戻れ。俺はもう少しここにいる」


 亮司は2人に背を向けたまま帰るように告げた。しかし、罪悪感を抱いたままの志乃はここで素直に帰る気になれない。償いのために少しでも役に立ちたいと思い、彼女は一歩前へ踏み出した。


「私も…!」

「同じことを二度言わせるな」


 亮司は志乃に目を向けて、威圧的な口調で告げた。目が合った志乃はビクッとして一歩引き下がってしまった。


「早く戻れ。まだ敵が近くにいるかも知れない。安全なところに行くんだ」


 亮司はそれだけ告げると、家の奥へと姿を消した。


「あっ…!待って…!」


 志乃は手を伸ばして呼び止めるものの、足を踏み出すことができなかった。そして、彼女は力無く頭を垂らし、涙を零した。


「志乃…」


 月音は励ます言葉を思いつくことができず、ただじっと、志乃のことを見ているしかなかった。すると、志乃が顔を上げ、月音の方を向いて笑みを浮かべた。…しかし、その笑みは明らかに無理をしている。


「さっ!月音ちゃん戻ろう!」


「…うん」


 志乃の空元気を見ても、月音はぎこちなく首を縦に振ることしかできない。…そして、2人は亮司を残して鬼怒の家を後にした。

 魔女同盟の館に戻る道中、月音はチラッチラッと何度か志乃に目を向けるが、彼女はずっと暗い表情でうなだれていた。いたわりの声もかけられない自分がもどかしくなる。…月音も心のどこかで亮司の役に立ちたいという気持ちがあった。その気持ちに従ってここまで来たが、事情を深く知らない自分がとやかく言うのはおかしいし、亮司の顔を見て、自分に何ができるのかわからなくなってしまった。

 このままおとなしく館に戻り、亮司の帰りを待つことしかできないのだろうか。…自分は魔女同盟のリーダーとして、魔女のみんなを引っ張っていかなければならないのに、こんなのでいいのか。

 心の中で葛藤を繰り返すうち、月音は決心したような目になり、立ち止まって志乃に顔を向けた。


「志乃!やっぱり引き返そう!」


「え…?でも…」


 志乃は顔を上げるも、すぐに視線を落とす。亮司から言われた言葉が心を重くする。


「渡良瀬に怒られるかもしれないけど、あいつを1人にしていい理由なんてない!私達があいつを助けないと!特に志乃は、渡良瀬の大事な人だから!あいつのそばにいてあげないと!」


 月音は志乃に迫り、彼女の心に訴えかけるように話す。月音の声が心に響き、重くのしかかっていたものがだんだんと取れていく。


「私は…あいつのことをまだ全然知らないから…、邪魔になるだけかもしれないけど…、志乃は違う!志乃ならあいつのためになれる…!」


 月音は拳を強く握りしめ、思いを吐き出すように言った。志乃は視線を上げ、月音の顔をじっと見つめる。


「月音ちゃん…!そんなことない。月音ちゃんも必要だよ。一緒に行こう!」


 志乃は明るさを取り戻すと、踵を返し、月音の手を取って元来た方へ向かおうとした―――その時


「見つけたぞ。如月志乃」


「!?」


 突如聞こえた男の声に、2人はハッとして顔を後方に振り向ける。2人の視界に1人の男が映る。志乃には見知らぬ人物だったが、月音はその人物を見て目を見開いた。


「おまえは…!中禅寺元康…!」


 その男…中禅寺元康は、2人を見てフッと口角を上げた。




 鬼怒の家に残っていた亮司は、ピストルの銃弾を再び手に取って見ていた。


『やはり乾いた土だ。土槍の泥が付いて乾いたものだろう…。他に何も形跡がないということは、ここで土槍によって地中に引きずり込まれたに違いない』


 亮司は銃弾に付着している土、他の場所にはそれらしき形跡がないことから、土槍のしわざだと推測する。地中を自在に移動できる奴の能力ならば、厳重なセキュリティーで守られているこの家に侵入することも容易たやすい。そして、この家を特定した蝶はもちろん静歌によるものだ。

 土槍、静歌とくれば、この誘拐を企てたのが青塚であることは明確だ。鬼怒は元研究者だ。今でもその高い技術力は衰えていない。青塚は恐らく鬼怒に"何か"を作らせるつもりだろう。

 あとは青塚達がいる場所だが、前にいたB-3アジトにいる可能性は低いだろう。青塚は元幹部なだけに、亮司が知らないアジトも多く知っている。何も手がかり無しで探るのは至難の業だ。もしくはあちらから接触して来るのを待つか…。幸か不幸か、静歌は志乃に会いたがっている。その機会を逆に狙うのも有効だ。

 状況の整理がついた亮司は部屋を後にし、玄関へと足を向けた。




 月音は得体の知れない元康に警戒心を抱く。この男は明日莉を追って青塚達がいるアジトに向かったはずだが…、ここに来たということは、見つからなかったのだろうか。


「アジトは見つからなかったのか?」


 月音は試しに尋ねてみる。すると、元康は月音に目を向けて答えた。


「あぁ。やつらは既に場所を変えたようだ。烏谷明日莉の姿も見失った。しかし、おれは邪悪な魔女を野放しにはできない」


 元康は続いて、志乃に目を向ける。志乃は元康の冷たい視線に物怖じした。


「君は如月静歌の妹だね?」


「は、はい…」


 志乃が頷くと、元康は何の前触れもなく彼女の肩に触れた。


「なっ…!」


 志乃はビクッとして、反射的に退いて距離を置いた。しかし、既に元康の能力は発動していた。


「…いまいちだ。君は妹だというのに、如月静歌のことをあまり知らないようだ。君の記憶にあるのは、他の関係ないことばかり…」


「ちょ、ちょっと…!いきなりなんなんですか!?」


 さっき館で話し合った時に元康のことを聞かされていたが、それでも急に触られた後、唐突に自分の記憶をペラペラと話されるのは気味が悪い。

 しかし、元康は2人が警戒心むき出しで様子を窺っているのもお構いなしに、自分の世界に浸るように話を続けた。


「おまけに姉との記憶がつい最近まで存在していない。まるで生き別れた家族のようだ…」


「あの…勝手にペラペラ喋らないでください。あなたは相手に触れることで、その人の記憶や情報を読み取れる能力者なんですよね?」


 自分のペースで話す元康に釘を刺し、志乃は元康の能力を確認の意味で尋ねる。


「そうだ。おれは如月静歌という邪悪な魔女に鉄槌を下すため、より詳しい情報を探っている。身内の君ならばと思ったが、期待外れだったようだ」


 元康はそう言って落胆の表情を浮かべる。姉をどうこうするかはともかく、勝手に人の記憶を読み取っておいて、そんな言い方ないだろうと、志乃は不服そうに顔をしかめた。

 ―――すると、元康は何か気付いたのか、一転して驚いた表情になる。


「なんと…!君は二重人格者なのか?もう1つの人格があるようだ。そっちの人格なら、さらに詳しく探れるかもしれないな…!」


 元康は興味深そうに志乃に歩み寄る。それに合わせるように志乃は後ずさる。元康の得体の知れなさに恐怖心を露にした。

 そこに、危険を感じた月音が志乃を庇うように腕を横に出して前に出た。


「これ以上の詮索はやめろ」


 月音はけん制するように強く睨みつける。しかし、元康の関心は衰えるどころかますます強くなっていく。


「君たちが何と言おうと、正義のためならやるべきことだ。如月志乃、君のもう1つの人格を出してもらおうか…」


 元康はそう告げて、再び手を差し出してきた。


「志乃!下がって!」


 ゴォォォオ!!


 月音は志乃を後方に下がらせ、元康に向かって手から炎を放った。元康は避けようとせず、炎が顔に直撃した。

 志乃と月音は冷や汗を垂らし、緊迫した表情で様子を窺う。普通ならこれだけで大火傷を負ったはずだ。

 ―――しかし、炎が消えた瞬間、2人は驚愕する。


「「なっ!?」」


 元康は無傷だった。確かに彼は炎を浴びた。ガードするそぶりも見せていなかった。彼の能力は触れた相手の記憶や情報を読み取るというもの…。攻撃や防御に関しては一般人に等しい…はずだ。


「君たちはおれの能力のすべてを知らない。ここでバラしてもいいが……その前に」


 元康は月音に構わず、立ち尽くしている志乃に一歩二歩と近づいていく。


 ジュッ!!


 ある箇所に足を置いた瞬間、地面から煙が上がった。月音が大量の熱を送り込んだのだ。月音はじっと元康の動向を窺う――――

 が、元康は平然と足を進めたのだ。


『効いてない…!?』


 月音は目を見張った。元康に攻撃が効いていないのだ。明らかに効いていない。


「それなら…!」


 志乃は元康をキッと睨み、彼の足元に光のロープを発現させた。


「効かないぞ」

「!?」


 志乃は驚愕した。光のロープが勝手に消滅してしまったのだ。


「なんで!?一体…!?」


 魔術が効かないという恐るべき事態に志乃が動揺している間にも、元康が目の前に辿り着いた。


「正義のために協力してもらおう」


 元康はそう言って、志乃の肩に手を置いた。


「もう1つの人格…表に出るのだ」

「!!」


 瞬間、志乃は目を見開いたかと思うと、すぐに目を閉じて、気を失ったかのように顔を下に垂らした。


「志乃…!?きさま!!志乃に何をした!?」


 めまぐるしい事態に月音は動揺を見せつつ、元康を強く睨みつけた。しかし、元康は無視して志乃の様子を窺っていた。

 すると、志乃が不意に顔を上げて目を開けた――――が、その表情は今までと明らかに違った。


「久しぶりのシャバの空気だぁ~」


 志乃は緊迫とかけ離れた声を出すと、不敵な笑みを浮かべるのだった。


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