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魔女狩り少年と光の魔女  作者: 揚げパン
第5章 陰謀
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第91話 露呈した裏切り者 その1


 鬼怒は閉じていた目をゆっくりと開ける。そして、立ち上がって周りを確認する。――どうやら、どこかのアジトに連れて込まれたようだ。部屋には扉が1つだけで、窓は無く圧迫感のある部屋だ。


 ガチャリ…


 扉が開いて、青塚が1人入ってきた。鬼怒はその顔を見て歯を食いしばる。


「青塚…!おまえだったか…!」


「そんな顔すんなよ鬼怒博士。冥界から帰ってきた気分はどうだ?あんたの居場所は本来ここのはずだろ?」


 睨む鬼怒に対し、青塚は近付きながらへらへらとにやけて見せる。


「僕はもう研究者ではない…!きさまら魔女狩りに協力する気などこれっぽっちもない!」


「博士。抗うのは最も建設的じゃないぜ?誰も得しないからなぁ。俺はもちろん、あんたとその周りの人間もな」


 青塚はそう告げて冷酷な視線を浴びせかける。鬼怒はタラッと冷や汗を垂らした。…もし、自分が協力しなければ、亮司や志乃達を手にかけるのではないかと。

 青塚は不敵な笑みを浮かべ、さらに鬼怒に近付く。


「俺はね、博士を有能な人間だと思っている。だから、自殺したって聞いたときはえらくショックを受けたんだぜ?貴重な人材を失ったってな。組織で何が一番大事かって言えば、人材だからな。人材は金より重い」


「おまえからそんな言葉を聞くとは…思わなかった」


 鬼怒はフッと鼻で笑って見せる。この人間は平気で嘘をつき、信頼を踏みにじる男だ。そんな奴が人材が大事だとはちゃんちゃらおかしい。


「博士…、俺だってそんなに嫌な奴じゃないんだぜ?あんたにとびきりの待遇をやろう。幸せに感じるはずだ。どうだ?」


 青塚は優しい言葉で鬼怒を誘い込む。しかし、鬼怒は嫌悪感を強め、後退して青塚から距離を置いた。


「幸せだと?ふざけるな!きさまらに協力して幸せを感じるはずがない!」


 頑なに拒む鬼怒に、青塚は困り顔になってため息をつく。


「確かに、心の底から幸せを感じられるかは保証できない。…しかしだ。あんたは息子を亡くしている。これ以上、息子と同じような子供を亡くすのは耐えられないだろう?それに比べれば幸せなはずだ」


 鬼怒は冷や汗をタラタラと流し、目を見開いて青塚を見た。


「…亮司たちに手を出すな」


「おいおい。言っとくが、あいつは組織を裏切った時点で殺害される運命にあるんだよ。それを敢えて先延ばしにしてやってるだけなんだ。あと、仲間の魔女が何人かいたな。そいつらもまとめて殺害する。…ま!あんたが断ればの話だ」


 青塚の放つ威圧に鬼怒は押し潰されそうになる。この男は冗談を言っていない。殺すと言えば、例え子供だろうと躊躇なく手にかけるだろう。…そんなことは絶対にダメだ。亮司や志乃は自分にとって息子や娘のような存在だ。…もう二度とあんな悲劇を起こしてはならない。

 結局、鬼怒に与えられた選択肢は一つだけ…。青塚の言いなりになること…それだけだ。

 鬼怒は観念したような表情になり、力無く口を開いた。


「…わかった。協力しよう」


「いい返事だ」


 青塚は不敵な笑みを浮かべて見せた。




 魔女同盟の館にて。瑞葉と月音は2人で庭園の水やりをしていた。瑞葉はジョウロ片手に、月音をチラッと見て話しかける。


「ねぇ月音。訊きたいことって言うか、頼みがあるんだけど…」


「ん?何?」


 月音は水やりしながら耳を傾ける。


「月音は魔女同盟のリーダーになったんだから、その気になれば、掟も変えられるのよね?」


「まぁ…その気になれば」


 月音がそう答えると、瑞葉は水やりを止めてジョウロを地面に置いた。


「あれ…魔女が能力者に恋しちゃいけないっていうの…やめない?」


 瑞葉が頬を赤らめ、やや恥ずかしそうにそう言うと、月音はピタッと水やりを止めてジッと瑞葉を見つめた。


「…光磨君とキスしたの?」

「なんでそんなに飛躍すんのよ!!したわけないでしょ!!」


 瑞葉は顔を真っ赤にして狼のごとく月音に吠え付いた。その勢いに、さすがの月音もたじろいだ。

 すると、瑞葉は一転していじわるそうににやけ顔になった。


「月音だってさ~、早くしないと志乃に取られちゃうかもよ~?」

「…!!」


 途端、月音も顔を赤く染め上げてしまう。良い仕返しができたと、瑞葉は面白くて仕方がない。


「まっ、私はあんなバカ男のどこが良いのかちっともわからないけどね」


 瑞葉は困り顔でやれやれと肩をすくめる。それでも、月音の赤ら顔は変わらない。これは相当やられているなと瑞葉は察した。


「月音はあいつの良いところに惹かれたんでしょ?応援するわよ」


 月音はハッとして瑞葉を見る。と、瑞葉はニコッと笑みを浮かべた。


「まぁでも、月音をひいきするつもりはないからね。志乃の味方でもあるし、傍観して楽しんでようかしら」


 面白そうにする瑞葉に、月音は悔しそうな表情を浮かべる。せっかく瑞葉をいじくることができると思ったのに、今度は自分がいじくられることになってしまったのだから。口がうまい瑞葉に一杯喰らわせるのは難しい。

 ――月音がそう思いつつ、水やりを再開しようとジョウロを手に取ると、ふと、敷地の入り口のところに1人の男が立っているのが見えた。


「…誰だろう」


 月音は怪訝そうな表情で男をじっと見る。その様子に瑞葉も気づいて同様に男の方を向いた。


「さぁ…?」


 瑞葉は首を傾げる。すると、月音は門の方へ向かっていった。


「あっ!月音!」


 瑞葉も慌ててジョウロを置いて後を追った。

 2人は門の前に着き、月音が門を開けると、20代くらいの青年が1人立っていた。


「何か用ですか?」


 月音が青年に用件を尋ねる。すると、青年は何の前触れもなく月音の肩を触った。


「!?な、何を…!」


 月音はハッとして後ろに引き下がり、青年を睨み付ける。まさか…魔女狩りだろうか。


「ちょっとあんた!何の断りもなくレディに触るなんて無礼極まりないわよ!」


 代わりに瑞葉が前に出て食って掛かる。しかし、青年は気持ち悪いくらいに無反応だ。…その異様さに、瑞葉は食いつくのをやめて冷や汗を垂らした。


「ちょっと…何か言いなさいよ」


 何も言わない青年に瑞葉は発言を求める。…と、青年は月音の方を向いて口を開いた。


「君は緋崎月音。魔女同盟の新しいリーダーのようだな。そんな君に訊きたいことがある。如月静歌についてだ」

「…!」


 月音はハッとする。この男…いつその情報を知ったのだろうか。


「ちょっと!一方的に話進めないでよ!まずは勝手に触ったこと謝りなさいよ!」


 瑞葉が青年を睨み付けて月音に謝るように咎める。青年は今度は瑞葉の方に顔を向けた。


「君は親友の久地瑞葉。14歳で9歳の時から魔女同盟に入っている。水の魔術を操るのか」


「…!?な、なんなのよあんた…!」


 瑞葉はビクッとして足を一歩引き下げる。まったく知らないこの青年がなぜそこまで詳しく知っているのか。誰かから聞いたのだろうか。


「おれは中禅寺元康。如月静歌のことを探っている」


 青年…元康は名前と目的を告げる。途端、月音と瑞葉は警戒態勢に入った。


「魔女狩りか」


 月音は元康を威嚇するように睨み付けながら問いかける。…と、元康は困り顔でため息をついた。


「二度目の質問とは参るな…。魔女はそれほど魔女狩りを恐れているということか」


「いいから答えなさいよ!魔女狩りなの!?魔女狩りなら今ここであんたを倒すわ!」


 瑞葉が掌をかざし、いつでも攻撃できる状態にする。しかし、元康は怖気ずく様子も見せず、平然と答えた。


「おれは魔女狩りじゃない。君らを攻撃しようとも思っていない。さっき肩に触れたことなら謝ろう。すまなかった。…こうでもしないと、おれの能力を活用できないんだ」


 月音はハッとする。この男は能力者で…その能力は、どうやら触れた相手のことを詳しく探ることができるというもののようだ。


「…静歌様のことを知って、どうするつもりだ?」


 月音はじっと元康の様子を窺いながら尋ねる。


「さきほど…と言っても2時間ほど前だが、道端に1人の魔女が倒れていた。その魔女は他の魔女に魔力を奪われて気を失ったんだ。その犯人が如月静歌じゃないかと疑っている」


 月音と瑞葉は驚愕する。静歌はまたもや、自分の都合で他人を傷つけたのだ。まだ断定はできないが、彼女なら十分にやる可能性はあるだろう。そう考えると、この元康という男は悪い奴ではないようだが…、まだ油断はできない。


「緋崎月音。君は以前、如月静歌と交戦しているようだ。かつては彼女を慕って従順な部下として働いていたが、彼女が次第に魔女の事よりも自分のことを優先し、平気で人を傷つけるようになって共感できなくなり、今は袂を分かっている。…なるほど、如月静歌は今、青塚と土槍という能力者と共にいるのか」


 月音はただただ驚いていた。さっき一瞬触っただけでここまで把握したというのか。何も喋らずとも、この男は静歌の現状を把握してしまった。


「これで如月静歌のことはだいぶわかった。礼を言おう」


 元康はそう告げると、2人に背を向けてその場から去っていった。


「あっ…!ちょっと!」


 瑞葉が引き止めようと手を伸ばすが、それを月音が差し止めた。そして、小さな声で瑞葉に耳打ちする。


「深追いはやめた方がいい。まずは志乃達に連絡しよう」


 月音の意見に瑞葉は手を戻し、コクリと頷いた。

 一方、元康は十字路に差し掛かろうとしていた―――次の瞬間


 ドカッ!!


 塀の死角から勢いよく飛び出してきた女性とぶつかってしまう。女性の方はその衝撃で地面に倒れ込んでしまう。


「いったー…!すいません…」


「こちらこそすまなかった。けがはないか?…!?」


 元康は倒れた女性に詫びて、手を差し伸べたが、突如一転して険しい表情になった。

 門のところにいた2人はそれに気づいて目を向けると、瑞葉が眉を寄せた。


「あれ…?あそこにいるの…明日莉じゃないの。何よ…、最近よく来るわね…。ったく」


 瑞葉は呆れた顔でため息をつく。昨日来たばかりなのに、また相手をしなければならないのは面倒で仕方がない。

 そんな呑気な悩みを抱く瑞葉に対し、月音は明日莉と元康の様子を見て怪訝な顔を浮かべた。


「待って瑞葉…。何か様子がおかしい」


 明日莉は上半身を起こして元康を見上げる…と、彼は険しい表情で明日莉を睨んでいた。明日莉は訳が分からず、ただポカンとしていた。


「どういうことだ。君は魔女同盟の一員なのに、青塚と内通しているのか」

「「「!?」」」


 瞬間、明日莉を含む3人は驚愕の色を示した。


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